通し番号「25」

「光のなか」

はっぱ!


彼はもう一週間もこのユースにいるという。
門限やシャワーの時間などを教えてもらう。
「今日はどうするの?」と言うので「マティスの美術館に行く。」と応える。

二人で行くことにした。

名前を聞かれたので名字で応え、私も聞き返すと
「H...」と、名字ではなく名前を言った。
Hは一ヶ月ぐらいイタリアにいて、やっとニースまで来たそうだ。
ふつう日本では名前を尋ねられたら名字を言うと思うのだが、Hはもう一ヶ月以上もヨーロッパを旅しているからか、名前を名乗った。

マティスの美術館は真っ白で青い空によく映えていた。
入場料を払おうとすると“学生?”と聞かれて、
二人とも“ウィウィ(はいはい!)”と喜んで入る。
ところが、展示作品がシャガールばかり。
なんでだろう、と思っていると、
やっとマティスがあり、
大きなちょっと色褪せた荒い感じの絵があり「これはいいね。」などと言って楽しい。司教の服のデザイン画がたくさんある。【海】のタペストリーがあり、欲しいなぁ、と思った。また館内の電灯の傘なども欲しかったし、土産物コーナーのマティスアクセサリーなども、とてもほしかったけれど高すぎた。

バスで登ってきた坂道を降りていく。
並ぶ家々の垣根からたくさん生え出ている「マティスの葉っぱ!」。
うれしい。

バスがきたので乗ると、外の明るさを改めて感じる。
街まで行く。
スーパーマーケットなどがあるのに、どこか生活感が薄い。
太陽の光がうつる、この街が好きだ。

「クレジットカードがATMで読めないんだ。」
「それはカード会社に電話した方がいい」

カード会社のパリ支店に電話する。
事情を話すと、満足の薄い返事
「磁気異常でしょうから、銀行でパスポートと一緒にカードを提示していただければお金は借りられるはずです」
大変面倒....うーーーん。
テレフォンカードを見てHは「なにそれ?」とのんきに言う。

「自転車持参で旅行に来たけど自転車はつまらないので日本に送りたい
と思いながらニースまで来て、一週間も経ってるのにまだ送れないんだ」
とHはつらそうだ。
「それもカード会社に電話してみたら方法があるかもよ。」

「もうここには一週間もいるので街のことは大体分かった。
ちょっとお茶しよう。いい店がある」
喫茶店へ行った。
サンデー1つ頼んで二人で食べることにする。それでちょうどよい量なのだ。
Hはたとえば
「あー美味いフランス料理がたべたいなぁー、美味い店があるけど今日は閉まってるみたいだった、今日は月曜なのに何で閉まってる店ばかりなんだろ、自転車も送れないって言うし、なんでだろ」
のように、とりとめなく喋っている。<続く>

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