朝が来て、4人で少しだけ話した。おはようとか、一人旅なのか、とか。
ところで電車は部屋と廊下で構成されている。私たちの部屋は6人用だった。国境で電車は停まった。
椅子の、背もたれの上には鏡があり、その上に荷台がある。
背もたれの上の部分は取り外せる。肘掛けは上げられ、椅子はずるっと、ソファーベッドのようにスライドできる。
寝るときは椅子をベッド状にし、背もたれの上をはずして枕として、体はゆったりと伸ばせて快適に眠れる。
ただし6人用の部屋とは座っている状態で6人、という風なので、眠る場合には3人ぐらいが適当なのだが、それぞれの部屋は6人ずつ寝ていたようだ。
パスポートのチェックなどを受けた覚えはない。地続き、線路も繋がっている国境。
空いている電車で一人、ぼーっと座っていた。
雨。
シャワーを浴びていないので気になる髪をお団子にまとめながら外を見る。
泊まるつもりだったモナコ。駅は雨だった。
ニースまで行こう。
ニースに近づいてくると晴れてきた。うれしい。
駅のi(=旅人の味方! 鉄道ニース駅[GARE NICE VILLE]のiの名は[OFFICE DU TOURISME ET DES CONGRES])は混んでいて、案内人は英語は話さないけれど親切で気持ちが安らいだ。
日本で調べてきたユースホステル(フランス語[Auberge de Jeunesse]以下ユース)の場所を尋ねると地図をくれ、説明してくれた。
駅の売店でテレフォンカード(France Telecom発行のTelecarte 50 unites)を買ってユースに電話した。英語が通じて、泊まれることになった。
駅の外は、空が青かった。各一車線の道の向こうが開けている。夏の服装。
私は白襟の半袖ブラウスに細かな白黒チェックの長ズボン、スニーカーを履いて、荷物は重い。旅行者だ。
バスに乗ってユースの近所まで行く。
運転手さんからバス1日券を買うのがなかなか大変だった。
いちおうフランス語の単語を言っているつもりだが私の発音ではどうしても通じない。結局文字を書くことになる−1 jour billet−。
バス停からユースまでの道を地図どおりに進んでいるはずだのにユースが見当たらず困っていると、おじいさんが“どこに行きたいの?”と(フランス語で)聞いてくれ、身振り手振りで場所を教えてくれた。
ユースに着くと受付に男性がいた。電話で話したのは女性だった。
彼は英語は話せないらしい。
ユースの決まりを私に教えるのに苦労しているが、とても優しい感じがする。
“マティスの美術館に行きたい”と言うと、お兄さんはバスを調べてくれたりして親切だが、情報はつかめず私たちは悩んでいた。困りながらも和む思いがする。
そこへ階段を降りてきた人があり、お兄さんに“僕が説明しますから大丈夫です”みたいなことを言って私に向き直った。人懐かしそうだ。<続く>
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