いつまでがっかりしていても仕方がない。こうなったら即エンパイヤ・ステート・ビルに行こう。取りあえず立ち上がる、私はがっかり、そしていらいらしていた。
「とにかく歩かして。」
と言って、何ブロック歩いたのか。大きな教会がある。Mはこの教会で音楽を聴いたという。美しかったそうだ。続いてロック・フェラー・センター。地面から地下1階までを吹き抜いた空間があり、底にしゃれたレストランのようなものがある。タキシードを着たバンドマンが演奏している。と思ったら、すぐ終わってしまった。どちらの場所でも写真を撮られたけれど、微笑んではいるがあまり晴れ晴れした表情ではない。Mは何も悪くないのに私は少し八つ当たり気味で、
「これで、えんぴつビルが閉まっていたら、最悪だ。とにかく急ごうよ。」
と、せかせた。
「それは大丈夫だと思うよ」
とMは私の後をついて来る。私は歩をゆるめない。すたすたすたすた歩いて、とうとうエンパイヤ・ステート・ビルに着いた。夜の7時半ごろか。入場券を買い、言われるままにエレベーターを乗り継いで86階へ来た。理由は分からないが102階へは上げてもらえなかった。
ともあれ、82階!ガラスの仕切りもない。風が抜ける。気持ちがいい。
東にハドソン川とペン駅、西にイースト川、南にワールド・トレード・センターと自由の女神、北にセントラル・パーク。建物は何となく赤っぽいものが多く、みんな縦に長い。82階から眺めているせいか、街全体は意外にすっきりとみえる。
気が晴れてきた。Mとぐるり一周して、下を見ると、きらきらしている。何だろうと思ったら、虫らしい。灯りを求めて こんな高い所まで登って来るのか。でも私達のところまでは及ばない。
夕暮れてきた。私は自由の女神めざしてシャッターを押した。そして日の沈む頃、西に向かってシャッターを押した。南向きの写真は「これが使い捨てカメラで!」と言われるほど好評なのだが、その腕をお見せするスキャナがないのは残念だ。もっと残念なのは、その生の美しさを伝える表現に欠けること。もともと赤を帯びた建物がさらに彩られていく。新しい白い建物は、桃色に染まっていく。煉瓦が、コンクリートが、ガラス窓が、夕日に照らされ光り輝く。川、海がきらめく。動いている。
ニューヨークは水に囲まれた大都会、突き抜けた街が受ける自然の恵みの美しさ....やがて日の光は電灯に移り変わっていく。人工の....イルミネーション。
ビルを降りた。もう闇の夜。おなかも空いたし、何か食べに行こう。
ニューヨークに住みたいMにとっては活気にあふれるスタイリッシュで頂点の街、
しかし私にとっては大きすぎ、少し忙しすぎるようだ、少し疲れた。MOMAを見ることが出来なかったのは残念だが、仕方の無いことだ。もう一度くることが出来るのか分からないけど、できた時には、はじめにMOMAに行ってスケジュールを確認しよう。そしてまたこの夕日を見よう。出来れば朝日も。<続く>
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