1←→3 元は河の中洲だったのだろう。四方を河に囲まれたこの町は、上から見ると殻を剥いたピーナツのような形をしている。島の左右にそれぞれ3本、計6本の橋で町の外に繋がっている。 大雑把にくくれば、西は都市だ。その職業に関わらず、住み暮らし、また勤めに行くところである。東は、沿岸部こそ多少街の風情があるが、東に行くに従って段々農村へと繋がって行く土地である。 その間にあるのがこの大きな河と、その上に浮かぶこの町だ。 この町は都市と農村のどちらにも属さない。歌舞音曲、そして酒と女(求めに応じて或は男)を供する町である。 特に権力の保護があって独占しているわけではないし、また独占できる商売ではない。それでもこの町が他地域の同業者と一線を画しているのは、その質の高さと全てを取り仕切る男の存在であろう。 それがこの青木町の要、MZD――自称・他称「神」という存在である。 「さ、汚くしてるけど入って」 スギはポエットを促した。スギとレオが2人が住むのは島の西側、西中之橋の近くである。正確に言うなれば「調達屋」の事務所兼住居兼倉庫、と言うことになる。 ポエットは興味深げに部屋の中を見渡した。応接セットの後ろにパーティションが置かれ、奥に階段と、倉庫に続くらしい扉が見える。階段は2階へ伸び、部屋の扉が3つこちらを向いていた。 「ゆっくりしてていいから少し、というか2時間程待ってもらえないかな。昨日寝てないんだ」 「あの、でも急ぐんです」 大人しくしていたポエットが、急に不安そうに2人を見上げる。スギは苦笑して彼女の頭を撫でた。 「ごめん、わかってるけど本当2時間だけね。」 「今寝ないと、働けない」 ぼそりと言い、レオはソファに横になる。 「まぁ、乱暴なようで働き者だからね、レオは。安心していいよ」 苦笑する目をその背に投げてから、スギは部屋の片隅にあるパソコンを指差した。 「2時間、待つの辛いかもしれないけど、あれ以外は何触ってもいいから」 「あの、スギさん」 ポエットは階段を上りかけるスギを呼び止めた。 「何かな?」 「……わがまま言いました、ごめんなさい」 「大丈夫、こっちも商売だからね」 じゃぁ2時間後に、とスギは笑ってポエットに手を振った。 2時間後。 スギは、喧しく鳴るアラームを止めて目を擦る。眠っていたいという欲求を頬ひとつ叩いて切り捨て、起き上がった。 「……超過勤務手当、MZDに払ってもらわないとね」 2時間、というのは長いようで短い時間である。夢を見ている暇も無い程に。スギは身支度を整え直してドアを開けた。 「おや、レオ」 ドアのすぐ横に座っていたレオは、自分の唇に指を当てて沈黙を促し、目で階下の一点を見るよう示す。 「?」 スギが目をやれば、戸口のところにポエットが座っている。何者かと話が弾んでいるようだった。 「あれ、けろさんと、けろよん?」 小声で聞けばレオは頷く。 けろさんとけろよんとは、2匹の小さな蛙である。飼っているという程ではない。戸口を出た所の草むらをテリトリーにしているから、名前をつける程度に愛着があるだけのことだ。 「……話、弾んでるね」 蛙と。スギが言うとレオは無言で頷き、言った。 「本物、か」 スギは苦笑する。 「『神』の棲む町だよ?ここは」 天使が出た位、何の不思議もない。 「知ってるけど、さ」 「10年住んでもまだ慣れないかい」 レオはこの町の生まれではない。河を西へ渡った街の生まれだ。 「悪かったね」 「悪くはないさ。まぁよかったじゃないか、本物で。行こう」 「飯どうする?」 レオの問いにスギは首を傾げて考えるそぶりを見せた。 「帰りにしようよ。姫様お待ちかねだ」 まずは何はともあれMZDの店へ。スギは朗らかに階下のポエットに手を振る。 「お待たせ、ポエットちゃん。行こうか」 −−−−−−−−− BACK |