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歌舞音曲の町・青木町とは言え、昼日中の様子は他所の町と変わらない。おかみさんは洗濯と掃除をし、食事を作り、子供は駆け回っているし、その間をすり抜けるようにバイクと自転車が走って行く。車が殆ど居ないのは、基本的に道幅が狭い所為だ。 ポエットははぐれないようにスギの手につかまりながら、珍しそうに町を眺めている。 「どうかした?」 足を止めたポエットに、スギが話しかけた。慌てて追いつきながら、ポエットは頬を染める。 「ごめんなさい、人の町ははじめてなの」 言いながらも、ポエットの目は色々なものを追って動く。 「この町が静かなのは、朝早くの頃だけだよ」 夜の町と言う表舞台も、その舞台を支える為の日常も、この町は活気に溢れている。 「こんなにたくさんの人……。知らないものもたくさん……。町って、すごいんですね」 「まあ、ここは特に特別なんだ、って他所の人は皆言うけどねー」 言って、スギは歩き出す。 「調達屋!こないだ頼んだ仕事どうなってるー?」 「あぁ、DTO!届けに行こうと思ってたんだ。レオ、悪いちょっと先行ってて」 「ん」 スギは道の向かい側へ走って行って、男と話し始める。 「行こう」 レオはポエットに手を差し出した。おずおずとポエットがその手を握ると、レオは黙って歩き出す。ポエットを引きずらない程度に抑えた速度で、レオは歩いていく。 「あ、あの」 ポエットはレオの顔と遠くなるスギを交互に見た。 「大丈夫、あいつの足ならすぐ追いつくから」 レオは言いながらポエットの体を引き寄せた。すぐ横をバイクが走り抜けていく。 「それより、ちゃんと前見て歩きな。慣れてないと歩きにくいんだ」 「は、はい」 ポエットはそれでも時々町の様子に興味を引かれるようで、その度にレオを見上げ、困ったように結局黙る。怖がられているかも、とレオは僅か空を見上げる。かと言って、レオはスギ程口が回るタチではないし小さい子供と会う機会もそんなにない。正直言ってどう扱っていいのかがわからない。 こんな子供相手でも如才なく相手の出来る相棒は、自分よりMZDに近いんじゃないのか、なんてことも思ってしまう。 「何強張った顔して歩いてんのさ、レオ」 当の相棒がいつの間にか追いついてきてレオの頭をはたいた。 「レディのエスコートはちゃんとしてたんだろね?」 「うっさいよ!」 「もう着くからね、ポエットちゃん。そこ抜けて左だから」 スギはポエットの手を取り、にっこりと微笑みかける。笑顔で頷くポエットを見て、レオは少し傷付いた気分になった。 「さて、と」 着いた所でスギはドアに手を掛けた。 「あれ?」 MZDが留守ならば当然掛かっている筈の鍵が、開いている。しかしドアの隙間から覗き込んでみても店の中は暗く、明かりの気配もない。 「MZDー?」 呼んでみるスギの声に、応えは無い。 「どうする?」 レオの問いに、スギは考える間を取ってから答える。 「とりあえず入ってみようか。レオ、ポエットちゃんから離れちゃ駄目だよ」 レオは黙って頷き、ドアの中へ滑り込むスギの後ろへ従った。 「MZDー?いないの?お客さんだよー?」 スギは慣れた様子でバーカウンターの中へ潜り込み、スイッチを入れる。間接照明が柔らかく店内を照らすが、その中に本来いるべき男の姿は無い。 MZDの居場所を掴む手がかりは無いかと、スギがカウンターに目を走らせたその時だ。 電話が鳴り始めた。 カウンター越しにレオと目を合わせ、スギは躊躇いがちに電話を取る。 「ハロウ?」 「おう、その声はスギか」 「MZD?」 目を丸くしてスギは電話を耳に当て直す。 「どこで何してんのさ。あんたを訪ねて小さな女の子が来てるんだけど、彼女どこへ届けたらいいの」 「おー、ポエットが着いたか。そっかー、お前らんとこへ着いたんなら丁度いいやな」 「はぁ?」 妙にのんきなMZDの声に、スギは不審を覚えて聞き返す。カウンターの向こうでは、レオとカウンターからやっと顔が覗く位のポエットが首を伸ばして様子を伺っていた。 「俺から追加の仕事だぜ『調達屋』」 にぃっと意地の悪い笑みが見えるような声で、MZDは言った。 「ちょっと世界の危機を救ってくれ」 −−−−−−−−− BACK |