「躊躇がいけないんだ、何事もね」ねむの木の丸い葉が空に映って真っ黒だ。この坂道では、
これまで何度となく挑戦した。プロヴァンスが一望出来る。近景のムッシュ・ドーテの家、村
の小学校、ウヴェーズ川、ケガンヌ、アヴィニオンと続く奥行き。空の雲、飛ぶ小鳥ねむの木
に戻って来る。「サ・マクシュどお?」おかっぱ頭のカリンが通りかかる。ブルーの瞳、金髪
、彼女の風貌も東洋人の私には新鮮だ。30号のキャンヴァス、遅々として進まない筆。どこ
からともなく聞こえる小鳥のさえずり、時を告げる時計台の鐘、昼食の肉を焼く匂い、プロヴ
ァンスがいっぱいあるのに。機能しない肉体を感じるのも一つの試練か。「Too much
green」私の絵を見ての感想、アネッテの言葉を思い出す。「このわからずや!」怒っ
ては見たものの彼女は正しい。絵との格闘はずっと続くのか、こんな悶えは、私の流儀じゃな
い、もっと楽しめる陽気さを持っていると思うが。飛べない私、空はこんなに広がっているの
に。