(71)日曜画家 


              

「日曜画家さ」イーゼルと作業ズボンを手にしたムッシュ・ドーテ。「これを使いなさい
  」「ありがとう」よく大佐の家の近くで会った。細い目鼻、瓜なり顔に口髭、ステッキを
  もった70代の老紳士。ステッキと靴の単調な音がいつも姿を現わす前に聞こえた。散歩
  のルートらしい。あまり会話をすることはなかった。「ボンジュー、ムッシュー」いつも
  一般的な挨拶、それ以上の親密さはなかった。絵の何たるかを探し求めていた私、「光の
  トンネル」は私を虜にする。後を向けばもう一つのモチーフ、「木陰に光輝くラストーの
  村」があった。そんな光の魔力にとりつかれて日参している場所だった。「いいんですか
  イーゼル」「とっとけよ」その後一度家を尋ねた事がある。友人のルシアン・グガニエや
ピカソのエッチングを持っていた。昔は自分でも水彩を描いたらしく丁寧な風景画が2、
3点壁に飾ってあった。フランス人にしては珍しい控えめな態度が余計私の印象に残った。

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(72)季節の香り