(66)色彩の宴


              

燕の高く速い鳴き声が響く空。「今年は、天候不順で燕が一度アフリカへ帰ったの。それ
   から又戻って来たわ」マダム・シアスが通りかかる。手には庭から摘んで来た百日草の花
   。いつもの場所で制作。低い石塀の上には、箱型イーゼル、絵の具の付いた筆が、20本
   程並ぶ。早朝からの光のドラマを堪能している。村人や車が傍を通り過ぎる。石塀から下
   を覗くと、ため池にプロヴァンスの空が映る。その上をオタマジャクシがせわしく泳ぐ。
   「ちょつと筆を貸して見ろ」ムッシュ・ポワンが彼なりのジョークで近づいて来る。「あ
   そこのトラックターをまだ描いてないぞ」人とのふれあいが温もりを作る、現実に引き戻
   す。この光輝く空間をゆっくりと舞う私。ひまわりの黄色が陰に浮かぶ、歌う花、踊る枝
   葉。自然には、幾様にも音楽がある、歌がある。それを見ていると体は軽くなる。ここ数
  年で身に付いた新しい境地。キャンヴァスは見る間に色彩の宴に変わる。
 

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(67)軽く軽く、もっと軽く