2000夏京都・7/30

●東山の残りを

今回のメインイベント、清水寺と安倍晴明ゆかりの地を巡ることは無事終わった。 山にこだわりのないツレの希望もあり、昨日の東山南部に続いて、北寄りに行くことにする。哲学の道から南禅寺周辺へ下り、その時刻で次の展開を臨機応変に考えよう、というプラン。何より私が土地勘があるので困らない。

●法然院から永観堂へ

三条京阪から銀閣寺方面へ向かうバスに乗り、手前の法然院道で降りる。もちろん目的は銀閣寺でなく、法然院。ここは京都でもっとも気に入っている場所の一つ。山門をくぐり、小さな境内を歩き、お堂の端にちょっと腰掛けるだけでいい。

ところが、この日はたまたま法事で、本堂の前には至れない。蔵で彫刻展があったので、それを鑑賞。山門近辺の空気を浴びたことでとりあえず満足して、外へ出る。哲学の道を下り、途切れたらさらに南下。じきに永観堂が見えてくる。

改修工事を進めている永観堂だが、ほぼ終わりに向かっているようだ。金ぴかと言っていいくらい。以前とあまりに印象が違う。もともと金箔の金閣寺と違い、割合地味な色合いの記憶があるだけに余計だ。見返り弥陀だけは変わらない。初めて見るツレには、あまりインパクトがなかったようだ。どうも出だしで見たいものを見損ねると、その後のリズムもつかみ損ねる。

そのまま歩き、門をくぐって南禅寺の寺域へ。

●昼食と南禅寺

山門や駐車場を脇に見つつ、昼食の話になる。南禅寺といえば豆腐。お勧めできるかどうかは別にして、まぁ食べておくのも悪くなかろうと「順正」に入る。昔、「鳥安」で食べたことはあり、その時はそうまずくなかったので、ここは一番有名な店に入っておくか、自分も入ったことがないし、と決めたのがまずかった(今回、こういうのが多い)。

有名な湯どうふの定食を頼んだのだが、どうにも味気ない豆腐に、作り置きのおかずなどがぱらぱら。ご飯もあり、お腹だけはとりあえず膨れるが、なんだか悲しい気分になってくる。京のおいしい豆腐は、別の旅館などで何度も経験している。地の利を得ているから相当に繁盛しているけど。

早々に店を出て、気を取り直して南禅寺へ。
ツレに勧めて山門を上る。有名な絶景もさることながら、ここは仏様がいいお顔。街を見下ろしても、振り向いてお堂を眺めても楽しい。京都の町並みが大きくて堅いビルだらけになったら、ここからの景色も変わるだろうと思った瞬間に、写真集で見た古い写真を思いだした。昭和30年代の写真と比べても、すでに著しくビルだけなのだ。それでも、まだ屋根瓦の波でなく、ビルの頭が波になって見える。これが京都ホテルオークラ並の巨大建築物だらけになれば、ガラスの壁が立ち並ぶ様に変わるのだろう。それはそれできれいと思う時も来るのだろうか。

続いて、本山の方丈へ。小堀遠州の枯山水、狩野派の障壁画の数々。ここは美術に見るものが多い上に、からっと明るい空気が漂い、楽な気持ちでゆったり見て回れる。ツレも本日、やっと納得いくものを見ることが出来たようだが、私の楽しみはむしろ、次の南禅院にある。疎水インクラインのローマ水道を見上げ、それをくぐって小さな受付から入る。

ここを訪れるのは久しぶり。南禅寺の発祥は亀山法皇の離宮であり、それはこの南禅院
東山の端とせめぎ合うように造園された庭は、植え込みより大きな緑の池が目立つ。その池に対峙して、おそろしく静かで簡素なお堂。やぶ蚊が蚊柱をたて、日が微妙に反射する様だけが動く。
東山は青い空気を連想させ、おそらく風水の「青竜」などと通じるものがあるのだろうが、それが少々こわい形で現れた場所。あまり人も来ない場所で、一組しかすれ違わない。法然院の静寂と清澄、青蓮院の優美とはまったく違う、このこわさもまた、東山の顔。

出ると、連れが疎水インクラインに興味を示し、上がってみる。水路には実際に水が流れている。それを追って、一番奥まで歩いていく。先程の南禅院のおそろしげな空気は消えて、木漏れ日と水音が散歩を誘う。終点まで歩くのは、実は私も初めてである。

水路が終わり、樹木のアーチの先へ出ると、小さな児童公園。見渡すかぎりただの住宅街。地図で確認しつつ、戻ろうか迷う。戻らずに南禅寺参道入口まで外側から歩けるはずだからと、先へ進むことにした。
住宅街を歩く途中まではまだよかったが、車道に出ると車の熱、排ガスに西日が直撃してくる。どんどん不快になっていく。もうすぐ南禅寺参道というところで、地下鉄東西線の入り口を発見。そういえば、東西線が開通していたんだった。ツレがあまりの不快さに、観光より休憩を言い出した。そろそろ夕方だし、結局これに乗って三条京阪に戻ることにした。

●夕方の街歩き

せっかくだからおいしいものをと思い、京阪電車でさらに四条へ乗ってから、祇園は鍵善良房へ。しかし、週末であることを忘れていた。あまりの混雑で入れない。昨日の長竹を思いだし、先斗町へ向かうも、同様の結果に。

先斗町から木屋町、河原町方向へ歩く途中で、Cafe Salutを見つけた。関西の情報誌Meets Originalなどでよく取り上げられている。席があったので入ってみる。1階、入ってすぐの席。
写真で見た記憶とだいぶ違う。しかも客が密集し、意外にうるさい。しかもなぜ、中途半端なジャズヴォーカルをかけるか。週末だからか。コーヒーとケーキのセットを頼むが、こちらはごく普通、まずくはないが、とりたててうまいというほどでもない。うーん・・・気に入ったかと言われれば、素直にそうとはいえない。
ただ、連れがトイレに立った際に、2階はけっこういいようであると発見。どうも「噂のあのカフェ、行ってみようよ」組が大量に席にいるらしい・・・って、我々も同じなんだが。ここはまた平日に来てみないとわからないな。

少し元気になったので、三条近辺で見つけたマッサージの店に行くが、予約待ちで取りやめに。ホテルへ一度戻り、ツレは部屋で休憩。

***

私は再び出発。街を一人でぷらぷらすることに。
木屋町で見慣れない店を眺めつつ、ゆっくり南下。御池と三条の間、高瀬川を望むケーキ屋がある。女性で満員。何事かと近づいたら、東京にもあるキルフェボンだった。

続いて河原町へ。Book 1stにゆっくり入ってみる。やはりここは本屋でなきゃということで、店も気合いは入っているようだ。店員が全体的に若くなり、熱心。
売り場構成はそう大きく変わっていないようだが、本棚が少々高めになった。より大量に陳列しようという意向と、ここを売りたいという本を際立たせる意向とをどうやって同時に見せるかで、むしろ工夫があるか。
ただ、どうもTower RecoredやHMVなどに入った印象と似通ってもいる。従来の日本の本屋の経営はどこでも難しくなってきたのだろうか。そういえば丸善もきれいになってから、ずいぶんと人が入っているようだし。

南下して四条に至ると、西に折れて、木屋町筋へ。ファッションヘルスのお兄さん達の攻撃を交わしても行こうという店は、名曲喫茶のフランソワ
ここも久しぶり。白壁、焦げ茶の柱と梁、古い絵やパリの地図、そしてクラシック音楽。東京では絶滅種と言える名曲喫茶が、ここを含めて周辺に3件もある。築地とフランソワは歴史も古いが、築地がウィーン調で、フランソワは独仏混交という感じか。もう1件、ミューズは高瀬川が見えて居心地もいいが、今回は長く来ていないフランソワを選んだ。タンゴばかりかかっていた夏があり、タンゴ喫茶に変更したのかを確認する意味もあった。バッハが鳴っていて、名曲喫茶健在を確認。ウィンナコーヒーを啜りつつ、一人でしばらく考え事に耽る。

既に夜になってきたが、その足で四条通のジュンク堂まで回る。そして、ホテルへと戻っていった。

●おいしいフレンチへ

連れと合流、今度は夕食へ。ホテルの店に入ろうかとメニューを見るが、今一つ納得できない。
外へ出て、二条を西へ歩いて見るが、結局その果てにあるブションで立ち止まることになる。勝手知ったる店、メニューを見て、もうここに決めてしまった。

スムーズに入ることができた。連れは鴨肉のオレンジソース、私は子羊のローストをメインに組み立てる。
ここは格別うまいというより、とにかく安価で外れがない。私の子羊は、皿からあふれ出さんばかりのフレンチフライ(実際にいくつかあふれた)が付け合わせ。塩加減がよく、まさにビストロ料理。ちょっと量が多すぎるくらいか。
デザートとエスプレッソで仕上げる。ここのエスプレッソは本物、食べ物がさらりと納まる感じがして、気持ちいい。街中で暑い1日を過ごし、また昨日はあっさりした夕食だっただけに、疲れもほぐせて、満足。

京都は時々、こういう店にあたる。最近は東京でも増えているけど、このブションは場所と店の空気がマッチしていて、大好きだ。気持ち良く、ホテルへ戻る。

 


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