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レンズの画角選びの基礎

レンズの画角選びに関わる基礎を紹介

 写真表現では、いろいろなレンズの利用が欠かせません。写真の写り方は、レンズの画角によって大きく変わるからです。いろいろな画角のレンズを用いることで、表現の幅を広げられます。ここでは、画角による写りの違い、とくに広角と望遠の違いを取り上げましょう。その後、それらの特長を生かした使い方を簡単に解説します。

 なお、広角レンズと望遠レンズを使う理由の中身ですが、本などには少ししか書いてありません。それだと不十分なので、私が分析して得た事柄をかなり加えました。

画角によるレンズの区分けが、広角と望遠

 レンズの分け方として、広角や望遠を知っていると思います。これらは、標準レンズを基準にした区分けで、標準レンズよりも画角の広いレンズが広角、画角の狭いレンズが望遠となります。では、画角とは何でしょうか。焦点距離とどう違うのでしょうか。レンズの区分けを理解するのに重要なので、最初に取り上げます。

 画角とは、そのレンズが写し込む対角線での角度です。35mmフィルムの標準レンズである焦点距離50mmのレンズだと、画角は45度です。この角度は、人間が肉眼で見たときに近い遠近感で写る画角なのです。そのため、標準レンズと呼ばれています。

 広角は、標準レンズよりも画角が広いレンズです。より広い範囲を写し込むことができます。広い範囲を写せるから「広角」と呼ぶのでしょう。逆に望遠は、標準レンズよりも画角が狭いレンズです。より狭い範囲しか写し込めませんが、その分だけ被写体を大きく写せます。被写体に近付かなくても大きく写せるレンズです。望遠鏡と同じように被写体を拡大できるので「望遠」と呼ぶのでしょう。

画角の代わりに、35mm版換算の焦点距離を使う

 では、画角が、焦点距離とどう関係するのでしょうか。それを理解するためには、フィルムやCCDの大きさを考慮しなければなりません。まず先に、標準レンズを考えてみます。35mmフィルムに撮影する場合は、標準レンズの焦点距離は50mmです。しかし、ブローニーフィルムの6×7になると、標準レンズは105mmに変わります。フィルム上の画像サイズが大きくなったので、同じ45度の画角を選るには、より長い焦点距離のレンズが必要なのです(フィルム上の画像サイズでの対角線の長さに比例して変わります)。同様に、フィルム上の画像サイズが小さくなると、標準レンズの焦点距離は短くなります。

 つまり、フィルムやCCDの大きさによって、標準レンズの焦点距離が変わるのです。多くのデジカメのCCDは、35mmフィルムよりも画像サイズが小さいので、標準レンズの焦点距離は50mmより小さくなります。標準レンズの焦点距離が違えば、広角や望遠の焦点距離も比例して変わります。結果として、焦点距離の値では、広角か望遠かを判断できないわけです。とくにデジカメでは、CCDのサイズが何種類もあり、焦点距離の値から画角が分かりません。

 焦点距離の値が使えないなら、レンズの特徴を示す値として、画角を使っているのでしょうか。残念ながら使われていません。銀塩カメラの時代にも、画角の値を使ってこなかったからです。その代わりとして、35mmフィルム用レンズの焦点距離に換算した値を用いています。35mmフィルムが世界で一番普及しているので、この値に多くの使用者が慣れているからです。

 35mmフィルム用レンズでは、焦点距離の50mmが標準となります。広角側は、焦点距離の35~24mmが広角で、21mm以下が超広角です(昔は、24mm以下が超広角でした)。望遠側は、85~200mmが望遠で、300mm以上が超望遠です(メーカーによっては400ミリ以上を超望遠としています。このような分類に厳密な定義はありません)。これらの焦点距離の値だと、35mm一眼レフを使い慣れた人にとって、写りがほぼ予想できます。だからこそ、この35mm版換算値が広く使われているわけです。

広角レンズの特徴

 いろいろなレンズを使えるようになるには、広角レンズと望遠レンズの特徴を知ることが欠かせません。まず先に、広角レンズの特徴を紹介しましょう。

 広角レンズでは、標準レンズよりも遠近感が強調される特徴があります。画角が広くなるほど(焦点距離が短くなるほど)その度合いが大きくなり、35mm版換算で24mmあたりから大きく目立ち始め、20mmに達すると極端に目立ちます。だからこそ、超広角と呼ぶわけです。

 広角レンズの共通した特徴は、以下のとおりです。画角が広くなるほど(焦点距離が短くなるほど)、広角の度合いが強く出ます。

広角の度合いが大きいほど、
・近くのものが大きく、遠くのものが小さく写る
・近くのものと遠くのものが離れているように写る
・室内などが、実際よりも広い空間のように写る
・背景として、より広い範囲が写る
・ピントの合う範囲が広くなり、前と後ろがぼけにくい
・被写体に近付かないと、大きく写せない
・見上げたり見下げたとき、被写体がゆがんだ感じに写る
・中央から離れるほど、被写体のゆがんだ感じが強くなる

 広角レンズを使ったことがあれば、これらの特徴を理解できるでしょう。そのため、細かな説明は省略します。

望遠レンズの特徴

 望遠レンズでは、広角レンズとは逆に、遠近感が圧縮される特徴があります。その度合いは、画角が狭くなるほど(焦点距離が長くなるほど)大きくなり、35mm版換算で200mmあたりから目立ち始め、400mm以上ではかなり目立ちます。

 望遠レンズの共通した特徴は、以下のとおりです。画角が狭くなるほど(焦点距離が長くなるほど)、望遠の度合いが強く出ます。

望遠の度合いが大きいほど、
・近くのものと遠くのものの大きさの差が小さくなる
・近くのものと遠くのものが近付いた感じで写る
・背景として、より狭い範囲が写る
・ピントの合う範囲が狭くなり、前と後ろがぼけやすい
・被写体を大きく写すために、より離れられる
・被写体からより離れないと、全体を写せない

 これらの特徴も、広角レンズの場合と同じで、実際に使ってみれば理解できるはずです。そのため、細かな説明は省略します。

 1つだけ補足があります。広角レンズと望遠レンズの特徴を挙げたので、ぜひ比べてみてください。あえて両方を比較することで、それぞれの特徴がより理解できるからです。

広角レンズを使う理由

 より良い写真表現を求めるなら、各レンズの特徴を生かして撮影します。広角レンズでも望遠レンズでも、それらの特長を生かす形で。まず広角レンズの場合は、次のような理由で使います。

・後ろに下がれないのに、広い範囲を写し込みたい
・実際よりも遠近感を強調したい
・遠近感の強調を利用し、立体感を出したい
・実際よりも広く感じるように写したい
・被写体が大きく広がっている感じで写したい
・主役を大きく、他を小さく写して主役を強調したい
・ゆがんだ感じを表現に利用したい(主役または背景)

 これらのどれもが、広角レンズならではの使い方です。この中で、表現の目的で一番使われるのは、「被写体が大きく広がっている感じで写したい」でしょう。大木が力強く広がっている様子は、かなりの広角レンズを使わないと写真で再現できません。

 広角レンズの使用で注意したいのは、被写体との距離です。使い慣れてないと、距離が離れすぎてしまい、周囲の余計なものが写り込みやすくなります。最初のうちは、これぐらいかなと思った位置よりも、1歩や2歩近付いて撮影してみましょう(もちろん、ファインダーで確認しながら)。そうすれば、広角レンズの特徴を生かした写真が撮りやすくなるはずです。慣れてくれば、意識しなくても適切な距離で撮影できるようになります。

 もう1つの注意点は、ゆがんだ感じの調節です。フィルムやCCDの面が、被写体と平行になっているほど、ゆがんだ感じが減ります。この法則を理解し、レンズの向き(実際には撮影アングル)を変えることで、ゆがんだ感じを強く出したり弱めたりできます。狙う表現意図に照らし合わせ、ゆがんだ感じが目立つ方がよいのか、目立たない方がよいのか考えます。その結果に合わせて、ゆがんだ感じを調節するわけです。ゆがんだ感じが一番強く出るのは四隅なので、四隅に近い部分を見て確認します。なお、被写体の形によっては目立たないこともあり、その場合は調節しません。

望遠レンズを使う理由

 望遠レンズの場合も、広角レンズと同様に、その特長を生かす形で使います。代表的な理由は、次のとおりです。

・近寄れない被写体を、大きく写し込みたい
・実際よりも遠近感を圧縮したい
・遠近感の圧縮を利用し、平面感を出したい
・すっきりした遠近感で人物を写したい(中望遠のみ)
・被写体の大きさの違いを、本来の比率に近づけたい
・背景として写る範囲をできるだけ減らしたい
・背景をぼかして、主役の被写体を浮き出させたい
・美しいぼけを表現に利用したい

 これらの中で、表現に一番多く使うのは、「背景をぼかして、主役の被写体を浮きだたせたい」でしょう。望遠レンズはぼけやすいので、絞りを開いて背景をぼかし、主役の被写体を浮き出せます。望遠ならではの使い方です。

 遠近感が圧縮される効果も、表現に使えます。人混みを少し上から超望遠レンズで写すと、人と人の間が圧縮され、人間もセンベイみたいに平たくなった感じになります。少し不思議な感じに仕上がるので、表現意図によっては面白く利用できます。

 200ミリ以上の望遠レンズでは、撮影時の手ぶれが心配です。高速シャッターが切れない状況では、三脚を使った方が安全です。もし手持ちで撮影する際には、両肘と顔の3点でしっかり支えるという、手ぶれが発生しにくい持ち方を習得します。どのシャッター速度までなら手ぶれしないのか、焦点距離ごとに実験して調べておき、本番の撮影に役立てましょう。

 超望遠レンズでの手ぶれの発生には、シャッターを押す指の動きも関係します。できるだけカメラが揺れないように注意しながら、ゆっくりとシャッターを押しましょう。また、シャッターを押した後は押したままにしておき、少し間を取ってから指を戻すようにします。こちらは、シャッター速度があまり速くない場合、手ぶれの減少に役立ちます。

 望遠レンズで被写界深度(ピントが合う範囲)を広げたい場合は、絞りを絞る必要から、高速なシャッター速度が使えません。この場合も、三脚が役立ちます。総合的に考えると、200ミリ以上の望遠レンズを使いこなすなら、三脚は必須といえます。

ズームレンズでも、焦点距離を強く意識する

 最近では、ズームレンズを使う人が多いと思います。私もズームレンズを好んで使っています。ズームレンズでも、広角や望遠に関する考え方は同じです。焦点距離ごとの特徴を理解して、それを生かすように撮影するのが、上手な使い方となります。

 使う際の意識としては、複数の単焦点レンズが合体したものと考えます。たとえば、35mm版換算で28~200mmのレンズなら、28、35、50、85、135、200mmの6本が合体したと考えます(別案として、28、35、50、100、200mmの5本でも構いません。通常は、レンズ筐体の表示に合わせて選びます)。

 撮影する際には、使用する焦点距離を強く意識します。上記のどの焦点距離で撮影するのか先に決めてから、ズーミングで合わせます。続けて、その焦点距離に適した撮影場所に移動し、そこで撮影します。移動した場所が間違っていたときも、ズーミングで修正せず、自分の体を前後に移動しながら撮影場所の方を調整します。このような撮影方法を繰り返すと、各焦点距離に適した表現術が身に付きます。

 焦点距離を意識した撮影とは、その焦点距離の特徴を生かして表現することです。広角か望遠か、広角ならどの程度の広角か、焦点距離ごとの特徴を知って、表現に利用することです。最初は何も知らないでしょうが、焦点距離を意識した撮影を繰り返すことで、各焦点距離の特徴が分かるようになります。そうなった段階から、表現に生かせるでしょう。だからこそ、早い段階から焦点距離を意識した撮影が大切なのです。

広角レンズこそが写真表現の醍醐味

 写真が趣味という人には、あえて大きく分けると2種類のタイプがあります。カメラやレンズ、現像技術、画像編集技術といった機材や技術が好きなタイプと、写真で何かを表現するのが好きなタイプです。

 正確に調べたわけではありませんが、私が感じる傾向として、写真表現が好きなタイプには、広角レンズが好きな人が多いようです。それも、かなり多いようです。私自身も広角レンズが大好きで、よく使うレンズの焦点距離を使用頻度順に並べると、35mm版換算で28mm、35mm、24mmがベスト3となります(現在の常用カメラはDiMAGE 7iなので、悲しいことに24mmを使えてませんが)。

 写真表現で広角レンズが好まれる理由を、私なりに考えてみました。おそらく、表現の幅が大きく広がるからでしょう。望遠レンズの場合は、被写体を拡大するだけなので、人間の目で見た結果とそれほど変わりません。しかし、広角レンズの場合は、広角の度合いが大きいほど、人間の目で見たのとは異なる形で写ります。こうした特長を生かすことで、面白い写真が撮影できます。

 広角レンズをあまり使っていない人は、ぜひ積極的に使ってみてください。表現の幅が大きく広がります。最初は28mmから始めて、使いこなせるように勉強します。28mmに慣れたら次は24mm、さらに20mmと試してみましょう。20mmまで使えるようになると、表現の道具が相当に増えたと感じるはずです。同時に、広角レンズでの撮影が非常に面白くなっているでしょう。

(作成:2003年6月1日)
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