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撮影の流れの基礎

撮影するまでの流れを紹介

 写真表現を知らない人は、被写体を発見してからシャッターを押すまでの間に、どのようなことを考え、どのような作業を行うのか、まったく分からないでしょう。しかし、実際には、1枚の写真を撮影するのに、いろいろなことを考え、数段階の作業を行っています。人によって手順は少し異なりますが、基本的には多くの人が同じ作業を行います。それを整理して紹介しましょう。

 撮影時に何を考えるかの方はかなり難しいので、より上級で扱う内容です。ここでは、何を考えるかではなく、どのような作業を行うのかだけ取り上げます。これを知るだけでも、撮れる写真の幅が広がりますから。

素人から抜け出す基本パターン

 写真を始めたばかりの頃は、誰もが同じパターンの写真を撮ります。被写体は人物で、その顔が真ん中に位置する写真です。カメラのピント合わせ箇所が真ん中にあるため、そこに顔を合わせて、そのままシャッターを押すためです。出来上った写真は、顔の上部が空いています。これこそ、フレーミングをまったく気にしてない写真です。

 この手の写真が良くないと理解できたら、シャッターを押す前に構図を考えるようになります。また、縦構図(縦長の構図)を使うようにもなります。これが無意識にできるようになったとき、素人から初心者へ変わったと思ってよいでしょう。それ以降は一般的に、以下のような流れで成長していきます。

・画面の中心に被写体を置いてシャッターを押す
    ↓
    ↓(素人 → 初心者)
    ↓
・フレーミングしてからシャッターを押す(縦構図も含む)
    ↓
・レンズ、絞り、シャッター速度を狙いに合わせて選ぶ
    ↓
・露出補正で表現に最適な露出で写す

 構図を気にしたフレーミングの次は、レンズ、絞り、シャッター速度の選択です。被写体や狙いに合わせて、使用するレンズの焦点距離を決め、絞りまたはシャッター速度を意識的に選ぶようになります。その後は、手動による露出補正を覚えて、自動露出の苦手な被写体でも上手に撮れるようになります。こんな感じの流れで、少しずつ成長する人が多いようです。

シャッターを押すまでの基本手順

 では、中級者以上の人は、どのような手順で写真を撮るのでしょうか。人によって異なりますが、一般的には以下のような手順で進めます。

・表現に適した、レンズの焦点距離を選ぶ
    ↓
・レンズに合った撮影位置に移動する
    ↓
・表現上の適正露出を考え、露出補正を設定する
    ↓
・絞りとシャッター速度を選ぶ
    ↓
・ピントを合わせる
    ↓
・フレーミングを決める
    ↓
・シャッターを押す

 まず最初は、表現に適した焦点距離を選びます。広角系か、標準か、望遠系か。もし広角系なら、超広角か広角か。広角なら、(35mm版換算で)35mmか28mmか24mmか。という具合に、最適な焦点距離を絞り込んでいきます。当然ですが、焦点距離ごとの遠近感は頭の中に入っていて、どんな感じで写るのかイメージできます。

 大まかな焦点距離が決まったら、それに適した撮影位置に移動します。だいたいの位置は分かりますが、最終的にはファインダーを覗いて決めます。つまり、予想した位置に移動した後、ファインダーを覗きながら前後するわけです。

 次は、露出補正の決定です。人によっては、補正しないショットの方が多いでしょう。しかし、表現にこだわる人ほど、1枚ごとに補正を考えます。ここで考えるのは、教科書的な適正露出ではなく、表現意図に合った適正露出です。

 具体的な設定方法ですが、私の場合は、露出補正の機能ではなく、スポット測光を多用します。DiMAGE 7iには電子ビューファインダーがあり、露出補正が反映した形で映像が見えます。それを見ながら、いろいろな箇所をスポット測光して、露出を決めています。操作性を優先すると、これが一番使いやすい方法だからです。ただし、この方法が使えるデジカメは、今のところDiMAGE 5/7シリーズだけのようです。銀塩一眼レフやそれを流用したデジタル一眼レフでも無理ですね。

 露出補正を設定したら、絞りかシャッター速度を選びます。片方を決めると残りも決まるので、片方だけ選ぶことになります。絞りとシャッター速度のどちらを選ぶかは、被写体や表現意図で決まります。私の場合は、動きの少ない被写体が多く、映像表現を重視しているので、絞りを選ぶ方が圧倒的に多いです。

 続けて、被写体の中のどこにピントを合わせるのか決めます。被写界深度も考慮し、表現に適した箇所を選ぶわけです。箇所が決まったら、そこをファインダーの中央に持ってきて、ピントを合わせてからフォーカス・ロックします。

 最後に、構図などを考慮して、フレーミングを決めます。カメラの向きを少し動かしながら、撮影したい構図に合わせるわけです。後はシャッターを切って撮影が終了します。

 全体としては、以上のような流れです。こうした作業を、すべてのショットで行っているわけです。ただし、突発的なスナップのように速写が要求される場合には、一番良さそうな設定を事前に準備しておき、大まかな構図を整えてシャッターを押すだけとなります。

ズームレンズなら意識して足を使う

 最近では、ズームレンズの性能が向上したため、ズームレンズを使うのが一般的になりました。レンズ交換できないデジカメの高級機には、当たり前のようにズームレンズが付いています。

 ズームレンズでは、被写体が写る大きさをズーミングによって調整できます。その結果、被写体を見付けた場所ですぐカメラを向け、写したい大きさにズーミングで調整しがちになります。こうした方法は、焦点距離ごとの写り方の違いを意識しない撮り方です。より良い写真表現を目指すなら、お勧めできません。次のように改善しましょう。

 被写体を見付けたとき、どの焦点距離で撮影するか決めます。銀塩一眼レフの単焦点レンズの焦点距離から選ぶとよいでしょう。35mm版換算で、28、35、50,85,135、200、300mmといった焦点距離です。85mmと135mmの代わりに、100mmを用いても構いません。このどれで撮影するのか、最初に決めます。

 使用する焦点距離が決まったら、ズームレンズをその焦点距離に合わせます。続いて、選んだ焦点距離に合った撮影位置に移動します。移動した位置からファインダーを覗き、撮影位置が合っているかを確認します。大事なのは、撮影位置がずれていた場合です。ズーミングで直さず、必ず撮影位置を移動してください。ズーミングに頼るのは、撮影位置を自由に選べないときだけです。

 このように、撮影位置を移動する撮り方を、写真の世界では「足を使う」と表現します。ズームレンズで各焦点距離を使いこなすために必要な方法です。また、写真表現の点からも望ましいやり方です。

 以上のように撮影していると、代表的な焦点距離での写り方が頭の中に入ります。そうなったとき、いろいろな焦点距離のレンズを使いこなせるでしょう。慣れてきたら、上記で示した焦点距離の間も使えるようになるはずです。

撮影手順を体に覚え込ませる

 ここで紹介した撮影手順は、意識しなくても自然に行えなくてはなりません。つまり、手順を体に覚え込ませるわけです。

 できるだけ早く身に付けたいなら、撮影していないときに練習しましょう。部屋の中でカメラを触っているときなど、紹介した撮影手順を何度も繰り返します。部屋の中で被写体として何か選び、前述の撮影手順を行うのです。シャッターを押す必要はありません。押す直前までの作業を何度も繰り返すだけでよいのです。

 こうした練習を重ねると、実際に撮影するとき、意識しなくても自然にできるようになります。後は、焦点距離ごとの写り方や、状況ごとに適した露出補正など、細かなことの理解を深めればよいでしょう。

(作成:2003年5月29日)
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