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写真表現の技術と能力レベル

現時点での写真表現術の体系化を公開

 このサイトを作り始めてから、写真表現技術を何とか体系化しようと、常に考え続けてきました。最初は手探り状態だったものが、考え続けることによって、少しずつ整理できてきました。現時点の整理結果を、ここにまとめておきます。

 表現技術を整理するにあたっては、表現者である写真家の表現能力もレベル分けしてみました。数段階の能力レベルの形で。レベル分けがあることで、表現技術の位置付けもより明確に伝わると考えたからです。

 最初に明確化しておきたいことが、1つあります。写真機などの機材の使い方に関する知識や能力(使いこなし)と、写真表現に関する知識や能力とは、別々に扱わなければならない点です。機材については非常に詳しい人でも、写真表現については初心者とあまり違わない人もいるでしょう。ここでは当然、写真表現に関する能力だけを扱います。機材に関する知識や能力と混同しないでください。あくまで写真表現に関する知識や能力だけです。

レベル分けのために、教科書的な良い写真を定義する

 写真表現の能力をレベル分けするためには、何かの分割基準が必要です。その基準を説明するために、「教科書的な良い写真」というものを用意しました。まず先に、教科書的な良い写真とは何かを説明します。

 この種の中身を言葉で明確に表現するのは難しいのですが、それでもあえて定義すると、次のようになります。

教科書的な良い写真とは、
・1枚だけで表現が完結する単写真
・写真を趣味にしている人の多くが、良いと感じる写真
・大まかには、写真コンテストで良いとされる写真

 これには、少し補足が必要でしょう。とくに写真コンテストに関して。コンテストに入選する作品の中には、審査員によってはですが、少し変わった写真が含まれることもあります。そのため、入選した作品のすべてが、教科書的な良い写真ではありません。上記の定義は、あくまで全体的な傾向として捉えてください。

 余談になりますが、写真コンテストでは、どの作品が入選するかは、審査員によってかなり変わります。この件に関しては、あまり触れたがる人はいません。でも、実際にそうなのです。たとえば、カメラ雑誌などで、独自の写風を持つ写真家が審査員になると、その人が好きな感じの少し変わった写真がどうしても入選しやすくなります。別な審査員なら、おそらくは入選しない写真なのに。もちろん、審査員はそうならないように努力しているでしょう。でも、もともと判断基準があいまいですから、審査員の好き嫌いがどうしても出てしまうのです。良し悪しの問題ではなく、仕方のないことなのです。

 本題に戻りましょう。この教科書的な良い写真とは別に、「教科書的でない良い写真」もあります。もっと深い表現を目指し、クセが強くて強烈な写真などです。こうした写真は、より難しい表現として位置付けられます。こちらの良い写真は、より上位のレベル分けに必要です。

 ここまでの話は、写真の枚数にあえて触れませんでした。しかし、写真を用いた表現としては、1枚だけの単写真と、2枚以上の組写真に分けられます。組写真による表現は、単写真を上手に撮れるようになってから習得する、より上位の内容に分類できます。

定義した良い写真を用いて、写真表現の能力をレベル分け

 続いて、写真表現の能力を、レベル分けの形で整理してみましょう。繰り返しますが、このレベル分けは、カメラやレンズといった機材の知識や使い方に関するレベル分けではなく、あくまで写真表現に関してだけです。そのため、機材に関しては上級者なのに、写真表現に関しては初心者という人も存在します(これに該当する人は、かなり多いと思います)。

 教科書的な良い写真と、教科書的でない良い写真を用いて、写真表現の能力でレベル分けすると、次のようになります。かなり簡単な定義ですが、個々のレベルについては理解してもらえると思います。

・素人:カメラや写真表現について、何も知らない
・初心者:カメラは問題なく使えるが、表現については何も知らない
・初級者:教科書的な良い写真をたまに撮れるが、何となく撮っている
・中級者:教科書的な良い写真を安定して撮れ、計算して撮っている
・上級者:教科書的でない良い写真を安定して撮れる
・開拓者:教科書的でない良い写真で、独自の世界を最初に作り出す
     (誰かの真似でなく、自分で創り出した新しい表現)

 この初心者とは、カメラやレンズについて知識が多いものの、表現に関しては素人と同じレベルの人です。そのため、教科書的な良い写真は、偶然以外に撮れません。完全に真似て写すのを除いて(実際には、単に真似するだけだと、完成度の高い写真にはなりませんが)。

 初級者になると、教科書的な良い写真を、少しは撮れるようになります。ただし、計算して撮っているのではなくて、試行錯誤しながら何となく撮れているレベルです。連続して撮れることもありますが、長い間撮れなかったりもします。計算して撮ってないわけですから、撮れるかどうかは不確実です。

 中級者に達すると、教科書的な写真を計算して撮れるようになります。計算して撮れるのですから、表現可能な被写体に出会えさえすれば、確実に撮れます。その意味で、安定して撮れると記述しました。安定して撮れるようになると、教科書的な良い写真では満足できなくなります。次に目指すのは、教科書的でない良い写真です。

 上級者は、教科書的でない良い写真を安定して撮れるレベルです。単写真よりも組写真を好むようになり、自分独自の写真を求め続けます。終わりがない探求なので、写真を撮り続ける限り悩むことになります。当然ながら、新しい表現に成功するのは、そう簡単ではありません。

 開拓者は、自分独自の世界を最初に作り出した人です。判定基準を厳しくするか緩くするかで、該当する人数が変わります。もし厳しくするなら、今までに何人もいないでしょう。私の個人的判断ですが、日本人では、奈良原一高氏、森山大道氏などが該当します。

当サイトが提供する内容と、レベル分けとの関係

 以上のようなレベル分けで捉えたとき、アマチュアも含む世の中の写真家は、どのレベルに該当するのでしょうか、どれかのレベルに当てはまるわけではなく、2つのレベルの中間に位置すると捉えらるのが適切でしょう。たとえば、初級者から中級者へ移る途中とかです。そして、表現に関する努力を続けることで、より高いレベルへと少しずつ登っていきます。

 前述のレベル分けを基礎としたとき、表現能力の向上という面で、当サイトの内容がどのように支援できるのか、大まかに分けてみました。それぞれの能力レベルで、次のレベルに上がるための支援として整理してます。

能力レベルの各段階での向上と、当サイトの内容との関係
・初心者→初級者:全体像だけ軽く説明する
・初級者→中級者:本コーナーの前半部分で、もっとも重点的に説明する
・中級者→上級者:本コーナーの後半部分で、やや力を入れて説明する
        (ただし、概略的な方法しか教えられない)
・上級者→開拓者:これに関しては、誰も教えられない

 こうした整理は、当サイトが目指していることや、取り上げる内容の理解に役立つと思います。もっとも重視しているのが「初級者→中級者」で、「中級者→上級者」もある程度まで力を入れて説明します。

中級者になるための写真表現技術

 続いて、写真表現技術を取り上げましょう。前述のレベル分けと関係させながら。「初級者→中級者」と「中級者→上級者」のそれぞれで、どのような写真表現技術が必要なのか、一覧形式で整理してみました。まず「初級者→中級者」では次のようになります。

<< 中級者までに習得するもの >>
・写真表現普遍技術
  ・内容:どんな写真にも共通する、写真表現の普遍的な考え方
  ・要素:表現意図、主役、脇役、背景、構図の役割と扱い方
・教科書的な写真の表現技術
  ・プラス印象の表現技術
    ・内容:プラスのイメージを伝えるための表現術
    ・要素:被写体の整理、光の演出、空間の活用など
  ・マイナス印象の表現技術
    ・内容:マイナス側のイメージを伝えるための表現術
    ・要素:切り取り方、ローキー、雰囲気の演出など
  ・分野ごとの専門的な表現術
    ・内容:風景、ポートレート、マクロなど、専門ごとの表現術
    ・要素:専門ごとで異なる、注意点や切り取り方など

 最初の「写真表現普遍技術」は、どんな写真を撮る際にも当てはまる、写真表現の根本的な原理のようなものです。そのため「普遍技術」と名付けました。写真を構成する重要な要素(表現意図、主役、脇役、背景、構図)ごとに、どんな点を考えて撮るのか明らかにしたものです。

 続く「教科書的な写真の表現技術」は、教科書的な写真を撮れるようになるための表現技術です。本当なら2つに分けるのですが、ここではあえて3つに分けてみました。多くの人は「プラス印象の表現技術」しか習得せず、「マイナス印象の表現技術」が忘れられているからです。

 「プラス印象の表現技術」は、写真の印象を良くするために役立つ、いろいろな表現技術の集まりです。被写体を整理して分かりやすく見せたり、光を上手に使って演出したり、写真の中に空間を含めて主役を明確化したりする表現技術が含まれています。

 「マイナス印象の表現技術」は、写真の印象を悪くするために役立つ、いろいろな表現技術の集まりです。悪い感じに見える切り取り方をしたり、ローキーにして不気味な感じに仕上げたり、全体の雰囲気を怖い感じに演出したりする表現技術が含まれています。「プラス印象の表現技術」を習得した後で学ぶと、理解しやすいでしょう。

 「分野ごとの専門的な表現術」は、説明するまでもないでしょう。分野ごとに特化した表現術で、もっとも広く出回っている表現技術です。ここに該当する表現技術だけが、突出して多く出版されています。

上級者になるための表現技術

 続いて、「中級者→上級者」の表現技術ですが、そもそもこれは明確化しにくい内容です。それでもあえて整理してみると、次のようになりました。

<< 上級者になるために習得するもの >>
・組写真表現技術
  ・内容:組写真の表現方法で、表現意図の要素分解から見せ方まで
  ・要素:表現意図、要素分解、要素表現、組み方、見せ方
・変な写真の表現技術
  ・内容:いろいろな意味で変な写真に仕上げるための考え方
  ・要素:画質、撮り方、画像編集、見せ方などを、普通でなくする
  ・特徴:変にできる可能性の範囲を示すだけ。撮り方は教えられない

 「組写真表現技術」は、2枚以上の写真を用いて、特定のテーマを表現する技術です。残念なことに、この分野は深く掘り下げられていません。写真表現に含まれる分野の中で、研究がもっとも遅れている分野です。その意味で、写真表現の中の未開拓地といえます。

 「変な写真の表現技術」は、普通じゃない写真ながら、魅力的な写真に仕上げるための表現技術です。無理矢理にまとめたものでしかありません。もっとも重要なのは、可能性の範囲を示すだけであって、具体的な撮り方を含んでない点です。何もないよりはマシというレベルなので、大まかな指針として捉えるしかなく、出発点を提供するぐらいにしか役立たないでしょう。それでも、より上級レベルの写真を目指す人にとって、ほんの少しは役立つ内容だと思います。

 「組写真表現技術」も「変な写真の表現技術」も、奥が深いものです。習得に終わりはなく、永久に探求し続けるものだと理解すべきでしょう。これらを使えば、何か新しい写真表現を作り出すのに、少しだけ近付けると思います。そんな感じの表現技術です。

表現技術と能力レベルの整理が、上達への道筋となる

 以上が、現時点で整理できた内容です。写真表現の能力レベルと表現技術の両面から整理してあるため、上達への道筋として分かりやすくなっていると思います。自分がどのレベルにいるのか、どの表現技術が欠けているのか、という視点で見ると、今後習得すべき点が明らかになるからです。

 写真表現のような分野だと、細かく体系化するほど、異論を唱える人が出やすくなります。気に入らない人は、無視して構いません。信じられる点が何か見付かった人は、信じる度合いに応じて役立ててください。指針が何もないよりは、こうした形での道筋を示した方が、上達が明らかに早まるはずですから。

(作成:2004年9月27日)
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