フェラチオが一番うまい♀職は――世間知らずウィズ子たん飼育編

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 それはあたしが、ヒヨコに突っつかれて大の字に伸びてるときだった。
「だいじょうぶ?」
 青いお空をさえぎって、青い髪のお兄さんが顔を出した。青いジーンズと白いシャツ。胸をはだけたラフな格好なんだけど、乱暴っていう感じはしない。
 優しそうな眼鏡のせいかな。
 あたしはよっこらしょと起き上がって、ため息をついた。
「なんとか、だいじょぶです。死んだふりしてたから……」
「ピッキにやられてたね」
「はい。ナイフ、全然当たらなくて。……ぶきっちょなんです」
「これを使ってごらん」
 お兄さんが先の曲がったナイフを差し出した。あ、マインゴーシュだ。けっこういい短剣。ちょうどほしいと思ってたやつ。
「いいんですか?」
 どうぞ、というようにお兄さんは微笑んでる。あたしは近くにいたピッキに近づいて、おっかなびっくり短剣を突き出した。
「えいっ!」
 その途端にピッキがさっと跳んだから、外しちゃったと思った。――なのに、刃先が勝手にくいっと動いて、空中のピッキを捕まえた。
 ピイッ! と鳴いてピッキが落っこちる。
「えっ、あれれ?」
 あたしはびっくりして、ナイフとピッキを見比べた。そしたらお兄さんが後ろから、ほわほわした優しい声で言った。
「いいマインだからね。強いでしょ」
「は、はい!」
「しばらく使っていいよ。僕はここで露店出してるから」
「ありがとうございますっ!」
 いい人だぁ。助かっちゃうなあ。
 あたしはお兄さんから離れないように、砂漠のはしっこをうろちょろして、ピッキやコンドルをやっつけた。お兄さんは、ミルクや矢の露店を出したまま、ずーっとあたしを見ていた。
 三つぐらいレベルがあがったころ、友だちのイーナとの待ち合わせの時間になった。それに疲れて汗まみれになってきたから、あたしはお兄さんのそばに戻って、マインゴーシュを差し出した。
「これ、ありがとうございました。助かりました」
「いや、あげるよ。ノビさんしか使えないものだから、僕が持ってても使い道がないんだ」
「えーっ、そんなあ。悪いです」
 あたしがぶんぶん手を振ると、お兄さんはちらっとカートの中を見せてくれた。思わず、うわあー、って驚いちゃった。
 借りたのと同じマインの他にも、グラディウスとかスタナーとかクレイモアとか、高そうな武器がいーっぱい入ってたから。
「武器屋さんなんですか?」
「鍛冶屋だよ、ブラックスミス。そうか、君は本物の初心者なんだね」
「はい。今日、イーナといっしょにここへ来たんです。あっ、イーナっていうのはお友達で」
「そう、それじゃこれから大変だね。ようし、ちょっとついておいで」
 鍛冶屋のお兄さんは露店をしまって歩き出した。あたしはとことこついていった。
 ついたのは、砂漠の西にある泉だった。お兄さんは水辺のヤシの木陰で、カートから厚手の服を取り出した。
「ついでにこれもあげるよ。アドベンチャースーツ」
「そ、そんなのまで……?」
「気にしないで、売れ残りだから。それに、戦って砂だらけになっちゃったでしょ」
 にっこり笑って、お兄さんは服を差し出した。
 ……断るのも悪いよね。
「……ありがとうございます」
 あたしはおずおずとそれを受け取った。お兄さんはその場にしゃがみこんだ。
「さ、そこで体を洗って」
「え……ここでですか?」
「うん。冷たくて気持ちいいよ♪」
「で、でも……」
「遠慮しなくていいから」
 って言われても、あたし女の子なんですけど……
 でも、お兄さんのにこにこ顔を見ているうちに、恥ずかしがるのが逆に変なことに思えてきた。
 ベ、別にこの人、やらしいつもりじゃないんだよね。いい人なんだよね……?
 あたしは、ミトンを外して、コットンシャツを脱いだ。ちらっと水辺を見たけど、お兄さんはしゃがんだままで、襲ってきたりしない。
 思い切って、ズボンも脱いだ。薄い水色のぶらとぱんつだけになって、あたしは水に飛び込んだ。
「ひゃあっ!」
 お兄さんの言ったとおり、冷たくてとっても気持ちよかった。エメラルドの水の下に、白い砂が見えた。
 ひとまわり泳いで水辺に戻ると、お兄さんがタオルを持って待っていて、あたしの青いおかっぱの髪をふきふきしてくれた。そして、ぐっと顔をのぞきこんできた。
「ノビさん、名前は?」
「みゅー……ミュートです」
「ミューちゃんだね。僕はヘパイトスっていうんだ。よろしく」
「よろしく……おねがいします」
 あたしは赤くなってうつむいた。胸がどきどきした。

 その後でイーナに会って、しばらくいっしょに狩りをした。イーナはあたしのマインゴーシュが気になるみたいで、じろじろ見た。
「ミュートあんた、それどうしたの?」
「これ? 親切な人にもらったの」
「もらった? もらい物にしちゃよすぎるみたいだけど……」
 イーナは変な顔であたしを見て、気をつけなさいよ、と言った。
 なんのことか、あたしには全然わからなかった。

 あたしは魔法士になって、どんどん強くなった。レベルが上がるのが早くて、剣士になったイーナには会うたびに驚かれた。
 ほんとは種も仕掛けもあるんだけどね。あのお兄さんが付きっ切りで助けてくれたから。
「Intと一緒にVitもあげるんだよ。体力が増えるから」
「ほら、ミルク飲んで。ブドウジュースも。マジは滞在時間短いからね」
「もうちょっとでボルトの強さが上がるね。このサークレットをつけてごらん」
「今度フェンクリップ買ってあげるからね」
 街ではあたしの代わりに買い物をしてくれて、狩り場でもずっと付き添ってくれた。そのたびにあたしは悪い気がして、自分でやるって言ったけど、お兄さんはいいからいいからって笑うばっかりだった。
 サークレットをもらったときには、さすがにイーナにつっこまれちゃった。
「あんた、また新しい装備つけて……なんでそんなにお金あるの?」
「え、んと、これはね……」
 ごまかしきれなくて、あたしはお兄さんのことを話した。そしたら、イーナはあたしの肩をつかんで、怖い顔でにらんだ。
「それ、変だよ。なんで見ず知らずの他人にそんなによくしてくれるの?」
「他人じゃないよお、初めて会ってからもう二週間も」
「たった二週間じゃない! そいつ絶対何かたくらんでるよ! あんた食い物にされてるんじゃない? レアとかどうしてるの?」
「レアって……珍しいアイテムでしょ。渡してるけど、ちゃんとお金くれるよ?」
 あたしは、おとつい出たネコミミのことを話した。お兄さんに渡して、もらったお金が百万ゼニ。すごい大金。そう言ったらイーナは首をかしげた。
「それならぼったくってるわけじゃないか……ていうか、ほとんど全額じゃん。なら、何が目的なんだろ、そいつ……?」
「もう、イーナってば!」
 考え込んだイーナをあたしは押し返した。
「悪い人じゃないんだってば! お兄さんのおかげで、あたしはお魚も動物も蛾も古木も狩れるようになったし、体力だってたくさん増えたんだから!」
「お魚も動物も……って、あんたSSは? それになんで体力」
「Vitあげたのー。イーナにも負けないよ。SSってなに?」
 イーナはじーっとあたしを見てから、苦労するわよ、と首をふった。
 なんでそんなことばっかり言うんだろ? あたし、楽しいのに。

 イーナのいるフェイヨンで、ちょっとたぬきをやっつけたけど、毒キノコに叩かれてあたしはやられちゃった。やっぱりお兄さんがいないとだめみたい。
 首都に戻ると、ぼろぼろのあたしを見て、お兄さんが言った。
「やられちゃったね、ミューちゃん」
「はい……」
「それじゃ、一休みに行こうか」
 西門を出て、草原を歩く。ちょっと南に下ったところに、あまり人の来ない泉があるんだ。最近はいつも、狩りの後でここへ来る。
 泉に着くと、あたしは肩掛けと腰布を外して、お兄さんに渡した。魔法士の衣装って恥ずかしい。あとは水着みたいな上と下だけなんだもの。大体、あたしおっぱいちっさいし。
 人に見られたら大変だから、あたしはお兄さんに念を押す。
「ちゃんと見張っててくださいね?」
「うん、わかってるよ」
「誰か来たら早めに言ってくださいね! ぜったいですからね!」
「はいはい」
 お兄さんが何度もうなずいた。
 この人ならだいじょうぶ。最初の日からずっと、優しくあたしを見守るだけで、えっちなことひとつも言わない。だから、家族みたいに信頼してる。あたしは胸当てと下着も脱いだ。
 泉にしゃがみこんで、よーく洗う。たぬき森のポポリン、倒すとべとべとした液が飛び散るから。
 でも、念入りに洗ったつもりだったのに、やっぱり見落としがあったみたいだった。
「終わりましたあ」
 あたしがまわりを見回しながら岸にあがると、待っていたお兄さんがぐるっとあたしの体を見つめて、そっとお尻にさわった。
「ひゃん!」 
「ここ、まだついてるよ。足元でやっつけたね?」
「は、はいぃ……」
 きゅっきゅっ、とお兄さんが液を拭いてくれた。ごつごつした指が柔らかいお尻にくいこんで、ちょっとくすぐったい。
「足開いて……」
 言われるまま、あたしは両足を軽く開く。お兄さんはあたしのももの間をゆっくり見て、うん、きれいになった、とにっこり笑った。ほんとにこの人に会ってよかった、とあたしは思う。ほかの人がこんなにあたしの心配してくれるはずがない。
 あたしがきれいになると、お兄さんはシャツだけ脱いで、ざばざば泉に入った。浅い水の中に胸まで座り込んで、あたしを呼ぶ。
「じゃあ、次は僕の番だね。今日もたくさん武器を作ったから、汗かいちゃったんだ」
「はい、きれいにしてあげます!」
 あたしは泉に入って、タオルでお兄さんの肩や背中を拭いてあげた。
 たくましくてかっこいいな……と思ったら、ほっぺたが赤くなっちゃった。

 十八日目にイーナにまた会いに行ったら、ものすごくびっくりされた。
「転職? もう?」
「うん。あとジョブ一レベルでウィザードになれるんだよー」
「なんでそんなに早いの! まさか、ずっとあのBSに頼ってるの?」
「実はそうなんだけどね」
 あたしはぺろっと舌を出して言った。
「一人だとすぐやられちゃうんだけど、お兄さんがいると白ポーションたくさん飲めるから、ずっと狩りができるんだ。今日はグラストヘイムのお城まで行って来ちゃった」
「白ポ飲み放題って……それ、いくらかかってるのよ」
「いくらなの?」
「知らないの?」
 あたしはうなずいた。まさか……と言ったイーナが、いきなりあたしの装備を次々にひっぱがした。
「いたいいたい、何するの?」
「最初に見せてもらったのが、星三つ入りの+10マインなんてとんでもないやつだったから、おかしいとは思ってたのよ」
「……それすごいの?」
「すごいどころか、一本で剣士の店売りフル装備買える値段よ? 今の装備だって……なによなによ、これは!」
 地面に並べた装備を見てイーナが悲鳴みたいな声を上げた。
「フェンクリ、イヤリング、子デザフォーマル、エルダサクレ、タラフロガード、イミューンマフラー、それに骸骨の杖、しかも全部過剰精錬! 一千万はするんじゃないの? そいつ何者なのよ!」
「何者って……親切なお兄さん……」
「親切かなあ? これだけあるのにヒルクリがない。あんたソロどうしてるの?」
「ソロって一人だよね。一人はぜんぜんだめ、すぐやられちゃう」
「臨公で不思議がられない? どこで稼いだのかって」
「臨時公平パーティー、入ったことない……」
「あんた」
 イーナが真剣な顔であたしを見た。
「まずいよ、ぜったい。これ返して、今すぐ手を切りな」
「なんで? どうして? あんなにいい人なのに!」
「下心だよ! さもなきゃ、こんなメチャクチャ高い装備くれるわけないじゃん!」
「下心じゃないよ! お兄さん、あたしになんにもしないもん! ううん、されたっていいもん、あんなに優しい人なんだから!」
「何言ってるの? ミュート、あんた欲に目がくらんでない? このままだと大変なことになるわよ?」
「大変なことってなに! イーナこそねたんでるんでしょ、あたしが大事にしてもらってるから!」
「ばかっ!」
 パン! とイーナがあたしのほっぺたを叩いた。あたしはびっくりして泣きそうになった。
 叩いたイーナもはっと顔を引いて、小さな声で言った。
「ご、ごめん……でも、あんたが心配なのよ」
「心配なんか……心配なんか、いらないよっ!」
 あたしは装備をかき集めて、走り出した。ミュート、ミュート! ってイーナの声がいつまでも聞こえた。

 あとでイーナからwisが来た。来たくなったらいつでも私のギルドに来てって。イーナは、十人ぐらいの人がいるギルドで、わいわいやってるみたい。
 でもあたしは返事をしなかった。お兄さんのことを悪く言うなんて、いくらイーナでも許さない。お兄さんはいい人なんだ。そうに決まってる。
 だけど、イーナの忠告も気になった。あたし、臨時に入ったことがない。イーナはあたしのお姉ちゃんみたいな子だから、あたしが世間知らずなのを心配してる。
 だから、いっぺん臨時に入って、ちゃんとみんなとお付き合いできるって証明してやろうって思った。
 お兄さんにそう言ったら、いつもみたいににっこり笑って、いいよ♪ って許してくれた。
「ただし」
「え?」
「装備は、自分で買ったのを使ってね。自分の力を試したいんでしょ?」
「は、はい。そうですよね!」
 あたしはお兄さんにもらった装備を返して、お店で買ったのを身につけて、プロンテラ南の臨時広場に向かった。

 オークダンジョンの地下二階、剣士さんやアコさんといっしょのパーティー。
 グラストヘイムよりずっと簡単なダンジョンだ。仲間もいっぱいいるし、楽勝って思った。
 骨のオークたちが、たくさん押し寄せてくるまでは。
「ようし……やっつけちゃお」
 あたしは張り切って、剣士さんの前に飛び出した。魔法の詠唱を始める。ファイアボルトの八連発。一発でやっつけてやる。
 カタカタッ、と骨オークが斧をふりあげた。大丈夫、先にやられたって、こっちは攻撃力があるんだから――
「ああっ!?」
 ざっくり腕を切られて、すごい痛みが走った。詠唱が止まっちゃう。次の詠唱を始めようとしたけど、次から次へと切られて、痛みで声も出せない。なんで? いつもならこんなやつに負けたりしないのに。
 そうだ……フェンクリップ、ないんだ! だから集中力が途切れて!
「このっ、このぉ……」
 あたしは一生懸命、呪文を続けようとした。体力がどんどん減って、何度も回復する。ポーション飲んでないのに。
 はっと気づいた。後ろからアコさんが必死でヒールしてくれてる。あわてた声が飛んでくる。
「マジさん、下がって! あなた、妙にHP多いからヒールしきれないよ!」
「そうだ、前衛に任せろよ!」
 そう言って、剣士さんがあたしを引き戻した。前衛ってなに? どうして下がらないといけないの? いつもはあたしがお兄さんの前に出てるのに。
 あたしが混乱していると、真っ黒なお猿さんがウァウァいいながら走ってきて、足元の鉄鉱石を取ろうとした。あたしはとっさに、アークワンドでそいつを叩いた。
「だめーっ、それあたしのっ!」
 そしたらお猿さんがギロッとあたしをにらんで、鋭い爪で引っかいた。あたしはあわてて逃げ出す。
「いやっ、痛いっ、や、やめてーっ!」
「SSだ、SS撃って!」
「なにそれ!? そんなの持ってないよ、あうぅっ!」
 背中を引っかかれて、あたしは倒れた。そこへ、もっとたくさんの骨オークがカタカタカタカタ押し寄せてきた。
「だめだ、支えきれねえ!」「火力、火力が足りないよぉ!」
 剣士さんとアコさんの悲鳴を聞きながら、あたしは気を失った。

 プロンテラに戻って、精算することになった。精算って、あたしはよく知らないんだけど。
「結局、収集品が四、五千ゼニだけか……」
「ゼノC、ルートされなきゃよかったんだけどね」
「ゼノCって高いの?」
 あたしが聞くと、みんながちらりと振り向いた。剣士さんがため息をついて言う。
「ま、三百Kぐらいかな……」
「なあんだ、それぐらいいいじゃない」
 あたしのお金、その十倍ぐらいあるし。
 でも、みんなはそう思わなかったみたいだった。冷たい目であたしを見て、ひそひそ言った。
「なんなんだよこいつ、金銭感覚ないのか」
「態度も悪いよ、自分のせいで全滅したってわかってんのかな」
「わかってないんじゃないんですか。多分臨公初めてですよ。スキルもステも全然PT向けじゃないもの」
「厨だよ、厨」
 何を話してるんだろう。言葉が全然わからない。
 でも、よく思われてないってことはわかった。みんなの視線が、痛い。
 なんとかみんなに笑ってもらおうと思って、あたしは言った。
「あ、あのね。あたしジョブあがったの。転職できるんだよ」
「へー、そう」「そら俺たちが必死に狩ったからな」「よかったですねえ」
 喜んで、くれない……。
 お兄さんなら、あたしがこう言えばすごく喜んでくれるのに。
 あたしは胸が締め付けられるみたいに悲しくなって、その場から逃げ出した。

 お兄さんのところに戻ると、あたしが何か言うより早く、あ、ジョブ上がったんだねと気づいてくれた。
「ウィザードに転職しよう。ゲフェンに行こうね」
「はい……」
 あたしはお兄さんといっしょにゲフェンに飛んだ。
 転職クエストは、ほとんど上の空でやったから、内容なんか覚えてない。気がつくと、ゲフェン塔のてっぺんにある最後の宣誓の場所で、そばにお兄さんがいた。
 お兄さんは、眼鏡の奥の目をやさしく細めて笑う。
「やっとウィザードになれるね。おめでとう」
「……なって、いいんですか?」
「ん?」
「あたし、臨時全然だめでした。こんなあたしがウィザードになっても、いいんですか?」
「なってくれなきゃ困るよ。僕のために」
「お兄さんの……ため」
「そう。ミューは僕のために戦うんだ」
「お兄さん……あたしを……そのために?」
 あたしはお兄さんを見上げた。お兄さんは、春の雲みたいにふんわりした笑顔のままで、はっきりうなずいた。
「ミューは僕用のウィザードだ。君の火力が僕に経験値をくれる」
「それじゃあ……ずっと……」
 あたしは呆然としてつぶやいた。お兄さんが何度もうなずく。
「Vit上げさせたよね。それはGHや亀島のモンスの前で前衛をやってもらうため」
「でも……避けられません」
「避けなくていいんだよ。君は四色十段のボルトで、倒される前に倒せる」
「ボルト、時間がかかりすぎて……」
「そのためのフェンクリでしょ。ソウルストライクなんかいらない」
「そんなに食らってたら、すぐに体力が。プリさんがいても追いつきません」
「僕がいっぱい白ポをあげるよ」
「白ポがなかったら……」
「だいじょうぶ、僕のそばにいる限り、不自由はさせない」
「それってつまり!」
 あたしは叫んだ。
「あたし、お兄さんとしか狩れないってことですか!?」
「そういう風に育ててあげたんだよ」
 お兄さんは、羽根みたいに柔らかい笑顔で言う。
「僕といっしょなら、ミューは最高の力を発揮できるよ」
 お兄さんから離れれば、あたしは誰の役にも立てないごみなんだ。
 言葉もなく突っ立っているあたしに、魔術師ギルドの人が声をかけた。
「さあ、これ身につければあなたはウィザードですよ」
 ふわふわのフードのついた、象牙色の長いマント。上級魔術師の証。
 お兄さんが耳元でささやく。
「さ、受け取って。僕からもプレゼントがあるよ」
「プレゼント……?」
「まず、あれを着てからね」
 あたしは、でくのぼうみたいにのろのろとマントを受け取って、身に着けた。うれしそうに目を細めたお兄さんが、あたしの手を引いて、人のいないひとつ下の階に連れて行った。
 そこでお兄さんが取り出したものを見て、あたしは息を呑んだ。
 マーターの首輪。囚人の手錠。それに、重い鉄球のついた足枷。
 お兄さんが、花束みたいにそれを差し出して言った。
「似合うと思うよ」
 罠なんだ。
 あたし、この人の罠にかけられちゃったんだ。逃げようにも逃げられない。これはその証。
 それに、逃げる気力まで、あたしは奪われちゃってる。お兄さんの顔を見る。お兄さんはずっと素敵な笑顔のままだ。
 あたし、この顔を見られなくなるなんて、がまんできない。
 手を伸ばす。
「ありが……とう……ございま……す……」
 ガチャリ、と手錠がかけられた。
 パチッ、と首輪がはめられた。
 ジャラッ、と足枷がつけられた。
 身も心もお兄さんに捕まって、あたしは床にへたりこんだ。
 お兄さんは満足そうに見下ろすと、そばの石段に腰掛けて、ジーンズのファスナーを下ろした。あたしの目が、そこに釘付けになる。
 ファスナーが降りるにつれて、薄赤くてつやつやしたものが見え始めた。パンツはいてないんだ。一番下まで開くと、ズボンの前が左右に開いて、親指が二倍ぐらいおっきくなったようなものが出てきた。なんだろう、と思っちゃった。
 ちょっと遅れて、それがなんだかわかった。頭を、がん! と叩かれたような気がした。
 おちんちんだ。
 男の人のあれだ。あれが、こんなすごい形に。
 お兄さんが、嬉しくてたまらないって感じでささやいた。
「やっと見せられた。……ミュー、いつも君を見て、こんな風になっていたんだよ」
「う……そ……」
「嘘じゃないよ、君ってば本当に警戒心がないから。僕の前であそこまで見せるんだからね」
 かああっ、とほっぺたが熱くなった。そんな、そんな。お兄さんは平気だと思ってたのに、そんな目で見られてたなんて。そんな人に見せてたなんて。
 今までにしたことを思い出して、あたしは体が縮むぐらい恥ずかしくなった。おっぱいも見せたし、あそこも見せちゃった。おなかにも背中にもお尻にも足にもさわられた。誘ってるって思われても仕方ないことを、たくさんたくさんやった。
 ばか、あたしのばか。
 うつむいて涙をぽたぽた落とすあたしに、お兄さんが声をかける。
「本気でイヤなら、あんなことしなかったよね?」
「うう……」
「逃げる機会は、いくらでもあったよね?」
 ……そうだった。
 あたしが悪いんだ。恥ずかしいっていう気持ちはあったし、イーナにも忠告された。それなのに逃げなかったのは、自分がしたかったからなんだ。
 期待しちゃってたんだ。
「否定、しないよね。だったら……」
 お兄さんが両手を伸ばして、あたしの頭を持ち上げる。シャツのすそを持ち上げて大きくなってるあれに、顔をひきつけられた。
「ご奉仕、してほしいな♪」
「……はい」
 あたしは、こっくりとうなずいた。きれいに揃えた前髪があれの先っちょに当たって、さらっとこすれた。
 それから聞いた。
「ご奉仕って、なんですか?」
 えっちなことが、子供を造ることだってのは知ってる。でも、お兄さんがしろって言ってるのは、それじゃないような気がする。
「ああ、ごめん。ミューはそういうことも知らないんだよね」
 お兄さんが頭をかいて笑った。
「これをあそこに入れる代わりに、おくちですることだよ。僕がイクまでね」
「おくちっ……て、こ、これをあたしがなめるんですか!?」
「そうだよ」
「お、おしっこのとこじゃないですか! それを、そんなの……きたないっ!」
 あたしが涙目で首をふると、お兄さんは逆に楽しそうに言った。
「知ってるでしょ。セックスのときは男と女のここをつなげるんだよ」
「そ、それは、そういうところ同士だからいいんです! でも、おくちなんて……」
 背筋がぶるぶる震える。おぞましい。そうだ、これって「おぞましい」だ。口が、口が汚れちゃう。吐き気がする。
「でもね」
 真っ青になってるあたしに、お兄さんがささやく。
「『そういうところ同士』だと、ミューも気持ちよくなっちゃうでしょ。それじゃだめじゃない。君は僕の奴隷になったんだから。僕だけが気持ちよくならないと」
「どれい……」
「そ。さっき、はいって言ったでしょ」
 いやだなんて言えなかった。あたしは泣きながらうなずいた。
「さあ、始めて。一応さっき、洗ったから……」
 あたしはまた目を開いて、顔をそれに近づけた。
 近づくにつれて、汗の匂いがしてきた。お兄さんの汗の匂いは嫌いじゃない。これなら、これならまだ、なんとか……
 唇が、先っちょにさわった。
 おしっこのとこに。おしっこが口に。ぞくっ、と背中が寒くなって鳥肌が立った。き、きもちわるい!
「ほら……止めないで」
「んぶっ!?」
 お兄さんがあたしの頭に手を当てて、ぐっと押し下げた。半開きの唇の中に、ずるるっとあれが入ってきちゃった! 焼けそうな熱さが舌にさわった。つばに汗が溶け込んできてしょっぱい味がした。
 お兄さんの味が、あたしの口に広がっていく。やっ、いやっ! おくちがぁ!
「んっ、んむっ!」
 ぶんぶん首をふったけど、お兄さんはあたしのおかっぱの髪にしっかり指を差し込んで、強く押さえつけていた。頭が上がらなくて、ほっぺたの内側であれがもごもご動いた。そのたびにあれがぐいぐい硬くなって、嫌でも味が濃くなる。
 あたしの、おくちが、お兄さんの味だらけに……
「ひぅーっ、んぁーっ!」
 めちゃくちゃに頭を振っていると、お兄さんがうつむいてあたしの髪に顔を当てて、ささやいた。
「ふふ、いい匂い。ミューの髪、おひさまの匂い……」
「んぅっ!?」
「ミューも落ち着いて味わって。ほんとに、僕の味が嫌い?」
 がしっと頭を押さえられて、あたしは仕方なく動きを止めた。あれの周りの汗の味だけじゃなくて、先っちょからとろとろ出てくるおつゆまで、つばに混ざり始めてた。
 もう、いいや。
 おくちの中、もう汚れちゃった。今さらいやがったって、意味ないや……
 鬼ごっこと同じ。鬼にさわられるまでは他の人は大丈夫。でもさわられた途端にその人も鬼。
 あたしもそう。さわられるまではきれいだったかもしれない。でも、いったんさわられちゃったら、あたしのおくちもお兄さんのこれもいっしょのもの。
 あたしはあきらめて、汚れたおくちでお兄さんのあれを味わい始めた。
 落ち着いてさわってみると、それの造りがはっきり舌で感じられた。ずるずるの皮に包まれた硬い棒の先に、ちょっとくびれがあって、その上につるりと張り詰めた丸い先っちょがある。その部分はほんとになめらかで、汚いところとは思えないぐらい。
 ……ううん、もう汚いところじゃないかも。
 あたしが洗っちゃったから。あたしのつばで味が全部溶けて、なんの味もしなくなってきた。ただ熱さと、硬さと、とくっ、とくっ、ていうお兄さんの鼓動だけが伝わってくる。
 そうやってつるつるなめてたら、お兄さんの手がぶるぶる震えだした。
「いいよ……上手になってきたね……」
 顔を見上げたら、お兄さんは真っ赤な顔ではあはあ息をしてた。
 気持ちいいんだ。
 なんとなく、胸が切なくなった。世間知らずでお兄さんにおんぶに抱っこのあたしが、人を喜ばせてあげてるんだ。
 自分でも不思議だったけど、やる気が出てきた。お兄さんのそこを、つるつる、つるつるって、一生懸命、舌でくすぐった。
「ミュー……下も、棒のところもしこしこして……」
「ふぇ?」
 そう言われても。あたしの手、背中で手錠かけられてる。
 あたしは、重い足枷をずりずり引きずって前に出て、楽な姿勢になった。唇にまるく力をこめて、きゅっきゅっと締め付けてみる。
「こうれふか?」
「そう……それで、上下に……くふっ」
 頭を上下に動かす。ごりっごりっと硬い棒が唇をすべる。つばがたくさん出てきて、じゅぶっじゅぶっと唇から漏れた。べとべとになっちゃうけど、もう、しょうがない。
 お兄さんが細かく震えながら、あたしの背中を撫でる。
「いいよ、ミュー……すごく上手だ。口の中ぷにぷにして、先がのどにくぷくぷはまって……ほんとにあそこに入れてるみたいだ。そのまま、そのまま続けて……」
 そうか、お兄さん、あたしのあそこの代わりって言ってた。精子を出すつもりでさせてるんだ。
 精子を……って。
 まさか、あたしのおくちに、このまま精子を? それって飲めっていうこと? 中から出てきたものを?
 そんなの、そんなのやっぱり――
 その時、お兄さんがあたしのマントをたくし上げて、お尻に手を伸ばした。さわっと滑った手のひらが、お尻を回りこんで、その下の奥のほうをぎゅっとつついた。
 生まれて始めての電気が、ゾクゾクッと腰を震わせた。
「んひゅっ!?」
「ミュー、濡れてる……体はちゃんとわかってるんだよ」
「うふぉ……」
 信じたくなかったけど、でも本当だった。お兄さんの指があそこの谷間を押し込むたびに、ぞわっ、ぞわっ、と冷たい気持ちよさが広がった。お尻がもぞもぞ動く。奥からじわじわ出てきて、下着の股のところに染みちゃう。
「んんーう……」
「入れてほしいんだね……」
 言われなくてもわかった。あたしの体、ほんとにそうなってた。あそこがむずむずして仕方ない。おくちの中のものを、こっちにほしいよって言ってる。そうだろうな、そっちが本当の入り口なんだから。
 今まで指なら、くしゅくしゅさわって、ちゅぷちゅぷ入れたことが、ほんの二、三回だけどある。あれ、こういう意味だったんだ。これが本物なんだ。
 だけど、そんな切ないあたしの気持ちがわかってるみたいに、お兄さんは笑う。
「言ったでしょ、今日はだめだよ。おくちに出してあげるから、がまんしようね、ミュー」
 やっぱりだ。お兄さん、あたしのおくちに精子を出すつもりだ。
 どうしよう、やっときれいになったのに、またお兄さんの味が出てくる。
 っていっても、なにが出てくるのかわからない。おしっこみたいにシャーッて出るの? 傷から出る血みたいにじわじわだらだら出るの? 量は? 味は? 毒じゃないの?
 休みなしにじゅぷじゅぷ頭を動かしながら、あたしはほとんどパニックで考えた。動かせば動かすほどその時が近づいてくるのに、心の準備が全然できない。どうしよう、くさかったら、まずかったら、ううん、飲んだら赤ちゃんできちゃうかも!
「ミュー……そろそろ……」
 お兄さんがちゅぷちゅぷ指を動かしながら、片手でぎゅっとあたしの頭をつかんだ。き、気持ちいいんだけど苦しい! それに、今出てきたら逃げられない! もうわけがわかんない!
「で……出る……よ……」
 え、ええっ、そんな、待って、お兄さ、
 びゅーっ! とおくちの奥に何かがぶつかった。
「んぷっ!?」
 びくっ、びくっ、とすごく強くはね上がったあれが、尖ったものをびゅうびゅうおくちの中にまき散らす。おしっこどころじゃなくて、味もなにもわかんなくて、勢いだけが噴水みたいに強い。
 こ、これが精子ーっ!?
「みゅう、みゅう、みゅううぅぅっ!」
 思わず頭の動きを止めちゃうと、お兄さんはすかさず自分の手であれの根元をつかんで、ごしごししごいた。しぼり出された牛のおっぱいみたいに、何度も何度も精子が飛び出してくる。お兄さんの中のおつゆが、赤ちゃんのもとが。
 赤ちゃんの、もと。
 そおだ……毒なんかじゃないや。赤ちゃんのもとなんだから。大事な大事なものなんだ。
「みゅー……」
 最後にきゅっとしぼってあたしに流し込んでから、お兄さんはあたしの頭の上に体をかぶせた。はだけたシャツの中の胸が、はーっ、はーっと大きく上下してる。重くて頭が動かせない。
 だからあたしは、吐き出すこともできずに、おくちの中の精子を味わった。
 舌を動かすとねっとりとからみついた。あれと同じで、すごくあったかい。ほんの少し、しょっぱい味。鼻でくんくん息をしたら匂いが抜けてきた。思ってもいなかったけど、何かの花の香りだった。
 まずくもくさくもない。おしっこと同じところから、こんなのが出てくるなんて……男の人って不思議。
 お兄さんが体を起こして、あたしの頭を持ち上げた。つるりとあれが口から出ていって、精子がとろとろ垂れそうになった。あわてて唇を閉じたけど、困っちゃった。
 これ、どうしたらいいんだろう。
 あたしが拭くものを探してきょろきょろしていると、お兄さんがあたしの唇を手のひらで押さえて、ニコッと笑った。
「ミュー」
「んい?」
「飲んで♪」
 の……やっぱり。
 お兄さんはじっとあたしを見てる。断ったらどうなるんだろう。
 ……どうもならないか。飲むまで放してくれないんだろうな。
 あたしは決心して、こくりとのどを動かした。こくり、こくり。
 ねばねばの濃いおつゆが、口の中にからみながらのどに落ちていった。歯にも舌にもついてたから、つばをくちゅくちゅして、洗わなきゃいけなかった。
 しばらくがんばって、やっと口の中がきれいになった。ってことは、全部あたしのおなかに……体の中に入っちゃったんだ。
 あたしは口を開いた。
「お兄さん、あたし、赤ちゃんできちゃうんですか?」
 それを聞くとお兄さんは、あははっと面白そうに笑った。
「まさかあ、おくちで赤ちゃんはできないよ。安心して」
「そうですか……」
「こっちに出せば、できちゃうかもしれないけどね」
 そう言ってお兄さんは、あたしの体の前から、肌着の股に手を伸ばして、くちゅっとさわった。
「ひぅ……」
 ジン、としびれが広がった。足りない、と思っちゃった。あたしのそこ、すごく寂しがってる。おくちにはもらったのにこっちにくれないなんて、ずるいって言ってる。
 でもお兄さんは、すぐに手を離しちゃった。
「ミュー、がまんしてね。ここにあげるのは、君がもっと立派なウィザードになってからだよ」
「……」
 あたしは、どう答えていいか分からなくて、じっとお兄さんを見つめた。
「はい」? それだと、あそこに精子がほしいって言っちゃうことになる。
「いや」? それだと、立派になるまで待てないって言っちゃうことになる。
 お兄さんは、いつもと変わらず、すごく優しい顔であたしを見てる。

 プロンテラ西の泉にいるあたしに、イーナのwisが届く。
『ミュー、大丈夫?』
「ん、だいりょうる」
『……どうしたの、しゃべり方変だよ』
「なんれもないよ。あたひ、しあわへらよ」
『そう?』
「ふん」
『……つらくなったら、すぐ私のとこ来るのよ。ほんとに、いつでもいいのよ』
「わはった。ありあおー」
『……いったい何やってるの?』
 ひときわ強くのどに突っ込まれて、あたしは返事ができなかった。
 水辺に座ったお兄さんに、あたしは一生懸命おくちでご奉仕する。いつもみたいに、手錠・首輪・足枷、それに目隠し。感じられるのは味と熱さと硬さだけ。後ろ手にされて思うように身動きもできない、いもむしみたいな姿勢で、自分のあそこをお尻のほうから指でいじりながら、お兄さんの膝の上できゅぷきゅぷする。
 最近のお兄さんは、する前に洗ってくれない。鉄を打ったり武器を作ったりしていっぱい汗をかいたまま、あたしを泉につれてきて、きれいにしてねって言う。
 だから、味も匂いもすごくする。それでもいい、それがいい。あたし、もう汚れてるから。気にならない。ただ、ほしい。
 それも、おくちだけじゃ、もういやだ。あそこにほしい。いっぱいほしい。
 でも、迷う。
 あそこにしてもらっちゃったら、あたしもう、奴隷じゃなくなる。そんなあたしを、お兄さんは捨てないかな。
 それとも、いつか恋人にしてもらえるのかな……
「み、ミュー、あげるね♪」
 びしゃっ、とのどに精子がかかる。あたしも、布ごときつく指を食い込ませて、ぶるぶる震えながらイく。おなかの奥できゅうきゅう鳴いてるところに、指で我慢してっておねがいしながら。
 ううん、あたしだめかも。
 多分そのうち、捨てられてもいいから本当に犯してって頼んじゃうと思う……。


終わり

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このページの内容は製作者の妄想の産物です。本当にノビたんを育てようとか企まないように。