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ウタカタカタカタ ニイ
「ねえねえ、P&Gってなんの略か知ってる」
「パンツがグンゼ」
「……それはそれでいい、かな」
「いいか?」
「ぷろくたーあんどぎゃんぶるふぁーいんすといんしゅあらんす、の略だって」
「千秋が処女かどうかってのと同じぐらいどうでもいい知識だな」
「どうでもいいの?」
「……すまん。気になる」
「なるな変態。つーかあたしら誰よ」
「なんだ急に」
「三十路猟師と十六歳祈祷師? おもくそ潰しの利かない取り合わせね」
「おいー、連載二回目でメタに走るかよ」
「連載なの?」
「知らん」
「いいよもうどうでも。要するにさあ、使い道のないネタの落としどころに使われてんのよあたしら」
「ふーん」
「ふーんって、気にならない?」
「別に。おれァ、このエセ日本めいた世界で毎日鉄砲が撃てて、ついでにおまえも撃てりゃあ文句はない」
「あたしも撃つデスカ?」
「マグナムで」
「げー最低。自分のマグナムとかいう男」
「下品か」
「下品とかじゃなくてオリジナリティーが」
「ねえよおれ馬鹿だから」
「いいからとっとと行ったら。仕事でしょ」
「ういーす」
「ただいま。うら獲物」
「あ、踊る宝石だ。ちょっと儲かったね」
「通貨単位どうなってんだろうな。ゴールドか」
「表の自販機は百二十円だったけど」
「よくわかんねえ世界だな。まあいいか。やらせろ」
「風呂か飯でしょ。帰って来たら」
「それともあたし? って言え」
「言うかヘボ。ああでも、セックスぐらいしかやることないんだよなあ」
「嫌いじゃないだろ」
「ない。でも、あたしのアイデンティティーにお情けで付与されてる女らしさが、悲鳴を上げて抵抗している」
「難しい言葉を使うな。つーか文長ェ」
「それも許されないほど薄いの、あたしらのキャラ……(泣)」
「それでも気持ちよかったあたしはダメですか」
「いいんじゃねえの。下手にトラウマとかしょって不感症になってるよりは」
「さくっとやってさくっといくお手軽娘です」
「結構結構。煙草」
「はい」
「ふはー…… ああ、な。だからよ」
「ん?」
「設定も世界観もコンセプトもなんにもない、だだ漏れの妄想だけで描かれるのがやだってんだろ」
「本業で出せない妄想出すためにサイト作ってさあ、さらにそこでも出せないカス妄想を処理するためにあたしら作られたんだよ。腹立つじゃん。殺意走るじゃん」
「馬鹿の仕業だな」
「別にちゃんとしたエッチしたいなんて言わないよ。でもさ、猟師とか祈祷師とか架空現代とか設定作ってんなら、それに沿ってドラマしたいのよ。せめて名前ぐらいつけろよ。中途半端過ぎんのよこのカスが」
「ほっとけって」
「やだ」
「やでも。いいんじゃねえかおれら生きてんだから」
「ミミズやオケラでも生きてるぞ」
「いったん作られて公開されちまった以上、抹殺されることだきゃあねえよ。そういうつもりらしいから。そのまま忘れ去られたって別にかまわねー。ストーリー動かされなきゃ暮らせねえ話でもないし。語られないところでおれは撃ったり撃ったりするよ」
「うおう、まともな意見」
「それなりに小奇麗にまとまってんじゃねえの、この世界」
「それは太鼓持ちだ」
「あー、長ェ台詞吐いたら疲れた。寝んぞもう。やるか? それともなんかシメあるか」
「千秋のバストいくつか知ってる?」
「……知らん」
「トップ七十四のアンダー六十七だって。差七センチよ。あんた好きでしょ」
「クイズでまとめる奴ァ物書きの風上にも置けねえっつーか、もうオチでもなんでもねェな野郎……」
「ふと思ったけど、あたしら何か。になれない?」
「なれたらいいかもな。四六時中ユーザーが見てなかったときの二人のセックスについて、延々と感想を述べあう」
「NHKとCMの話をする」
「その二つは矛盾しとるが」
「あたしがそういう設定だったらしい。CMが好きでNHKも好きな十六歳。それ成立しないって気付かないところがボケ」
「こういう文末の台詞は二行で終わらせるのがスマートって、今ごろ気付くボケ」
「つーか早くやめろボケ」
「終わらんなあ。やって寝るか」
「もう疲れたからそれでいいよ。エッチしよう」
「点けたままな」
「いいよいいよもう」
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