酒井人真 さかいのひとざね 生年未詳〜延喜十七(917)

仁和五年(889)、備前権大目。延喜十四年(914)、従五位下、土佐守。延喜十七年(917)、没。勅撰入集は古今集に一首のみ。大和物語百二段に土佐守時代の逸話・歌がある。

題しらず

大空は恋しき人のかたみかは物思ふごとにながめらるらむ(古今743)

【通釈】大空は恋人の忘れ形見だとでも言うのか。そんなはずもないのに、何となく恋しい思いがするたびに、ついつい仰ぎ見ては、眺め入ってしまうよ。

【語釈】◇かたみ 記念品、思い出のよすがとなる品物。恋人の間では、短期間の離別の際にも、身につけていた物などを形見として取り交わす風習があった。◇ながめ じっと一所を見ながら物思いに耽ること。

【主な派生歌】
目にみえてわかるる秋を惜しまめや大空のみぞながめらるらむ([陽成院歌合])
つれづれとながめのみするこのごろは空も人こそ恋しかるらし(*藤原定頼[風雅])
つれづれと空ぞ見らるる思ふ人天くだり来むものならなくに(*和泉式部[玉葉])
見ずもあらずみもせぬ人の形見かは五月の空の夕暮の雲(藤原家隆)

恋ひわびて我とながめし夕暮もなるれば人の形見がほなる(藤原定家)
かた見かはしるべにもあらず君恋ひてただつくづくとむかふ大空(藤原定家)
おほ空は暮れゆく秋のかたみかは惜しむ袂もうちしぐれつつ(後鳥羽院)
朝夕にむなしき空をながめてもたかく仰ぎし君を恋ひつつ(宗尊親王)
そなたともたがゆふ暮の空なれば恋しきたびに詠めやるらむ(宗良親王)
かたみかはそなたの空の峰の雲恋しきたびにうちながめつつ(後崇光院)
わぎもこは月の都へいらなくに暮るれば空のながめらるらむ(井上文雄)


最終更新日:平成16年01月29日