文屋有季 ふんやのありすえ 生没年未詳

伝不詳。貞観年間(859-877)頃の人。六歌仙の一人文屋康秀と同族で、ほぼ同時代の人だが、関係は不明。古今集に一首のみ。

貞観の御時、万葉集はいつばかり作れるぞと問はせたまひければ、よみてたてまつりける

神な月時雨ふりおけるならの葉の名におふ宮のふるごとぞこれ(古今997)

【通釈】神な月になると時雨が降って楢の葉を紅葉させます――その『なら』という名を持つ平城(なら)に都があった時代になされた、古い事蹟でございます。

【語釈】◇貞観(ぢやうぐわん)の御時 清和天皇の治世(858〜876)。◇ふるごと 昔のこと。また、古歌をも意味する。

【補記】清和天皇の「万葉集はいつ頃作られたのか」との問いに対し、「奈良に都があった時代のもの」と答えた。もちろん万葉集は飛鳥時代の歌も含むが、大雑把に奈良朝の事だと言ったのか、あるいは奈良朝において編纂されたとの伝承を言ったものか。「葉」を持ち出したのは、万集の名に引っ掛けてのことである。

【他出】新撰和歌、袋草紙、今鏡、定家八代抄、歌枕名寄

【主な派生歌】
さらにまたつもれる雪にうづもれぬ時雨ふりおけるならの枯葉も(俊成卿女)
はれくもり時雨ふりおける片岡のならの葉そよぎ冬は来にけり(西園寺公相[新拾遺])
ならの葉のもろくおつるを涙にて時雨ふりおける袖のうへかな(宗尊親王)
ならの葉の名におふ月も今宵とやしぐるる雲をはらふ秋風(後崇光院)
ならの葉のつもるはしらず朝夕に時雨ふりおける冬の雲かな(正広)


更新日:平成15年03月21日
最終更新日:平成18年11月05日