作者別花筵百首題 水垣久

     雑

多賀の()の   
すゑの やままつ
かみさびて   
このみちのおくに
果てし ひとはや

たかむらの   
うへを かぜゆく
おともなし   
こぼるるたまの 
ひかり 揺れつつ

みどり濃き   
もりの おほいは
こけむして   
いかなるかみか 
かうべ やすめし

いけのおもに  
あぎとふ真ごひ 
くるしげに   
さきの世や なれ
ひとに ありけむ

待ての間を   
堪ふる小いぬの 
きばの間ゆ   
こぼるるよだれ 
あさ日子に 照る

むさくろし   
むさし野そだち 
つねに見る   
ゆめの みづやま
名もしらぬ やま

くわうさ(黄砂)ふる  
のはてやまも 
見えわかず   
むしばまるるごと
はしづみ ゆく

ふむあとを   
さらに 降りしく
もみぢ葉の   
ふかまるあきの 
やまの かけはし

しらすなに   
ひとみちあさき 
みづながれ   
ちひさきかはよ 
うみに いたれる

こがらしの   
果ては おとなく
凪ぎわたる   
さがみのうみは 
ふゆぞ やさしき

かはぶねゆ   
めぐる たびゆき
あしわけて   
みづほのくにに 
たどる すゐえき(水駅)

名所

はなとほく   
さかりしものを 
よし野すぎ   
くらき 木の間に
しろきかげ ちる

いづみしきぶ  
にき(日記)に をとこを
あやめきと   
ねざめのゆめの 
あさの あやしさ

とほつひと   
かりなくみそら 
はなむけと   
あふがむきみに 
かぜを 手づから

ふるゆきに   
あかり うつして
さむきとしの  
いち路 あかるく
暮れゆくは をし

田園

いねそよぎ   
かりがねたかし 
つちと生くる  
ひとは てん()とも
ともに くらむ

あきかぜや   
四方の はやまに
こだまして   
まつりのかぐら 
さとを めぐれる

懐旧

いなかづら   
ささぐるをとめ 
そのかみも   
田の面にうつし 
三輪の かみやま

無常

これをしも   
とこしへなりと 
言へねども   
あかり まどより
あふぐ ほしの座

述懐

しきしまや   
まこと 千五百(ちいほ)
あきかぜに   
こころ なみだつ
やまと ことのは

     雑


公開日:平成22年9月23日
最終更新日:平成23年2月22日

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