作者別花筵百首題 水垣久

 夏    

首夏

さみどりを   
おしなべいよよ 
あをあらし   
あらあらしくも 
なつさりに けり

五月雨

うすれゆく   
みどりはあめに 
あさなあさな  
しろあぢさゐの 
おもわ ()りつつ

おもわ:面輪。顔、あるいは顔の輪郭。

紫陽花

あぢさゐの   
あゐも あかねも
かくれさり   
おにの子しろき 
ゆふぐれの もり ★海

夏夜

あまおとに   
をみな をとこの
ささやきの   
まじりて聞こゆ 
さつき やみかは(闇川)

おのづから   
ほたる もとめて
出逢ひたる   
ひとの かうべも
ほのみどり なる

夏花

梅雨はるる   
ゆふべのそらに 
ねむのはな   
くれなゐそよぐ 
つきは 来にけり ★う

夏草

ゆきちがふ   
つばめのはらに 
すゑなびき   
くさむらたかき 
野辺の なつかな

夏虫

おほみづあを  
みづかげあをき 
蛾なりけり   
つきに おどろく
なつの 夜のゆめ

水辺夏

みぎはまで   
はすの 立ち葉の
たまゆらに   
たま揺りおとし 
わたる ゆふかぜ ★う

時鳥

なつのあした  
鳴き立つせみの 
かげに聞く   
やまほととぎす 
もりの おくより

炎暑

陽ざかりに   
炎えつつさかる 
わすれぐさ   
ただけふといふ 
なつの ひと日を

夕立

しほ気たつ   
をとめのかみに 
ふりそそぎ   
うみよりすずし 
ゆふだちの あめ

わきかへる   
よもの はやまの
せみのこゑ   
そらへ ぬけつつ
くれて ゆくかな

納涼

祖父(ぢぢ)のかほも  
にはの はな()に 
照らされて   
ふと消えゆけば 
なつぞ ()にける

晩夏

ひさかたの   
あま間 すずしき
みなづきの   
そらに こゑして
ほととぎす 逝く

 夏    


公開日:平成22年9月23日
最終更新日:平成23年2月22日

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