○コンテスト概要
模型雑誌 Scale Aviation (大日本絵画刊)の誌上にて、ファインモールド製のプラスチックモデルのサボイアS-21を作り倒すコンテスト「サボ・コン'99」が行われました。その結果が、Scale AviationのVolume9および10に掲載されています。もちろん、審査をしたのは、宮崎駿その人です。内容に関しては、実際に作品の写真を見ないことには何も伝わりません。興味のある人は、バックナンバーを探して、ぜひ入賞作品を鑑賞しましょう。
ただし、これを読む場合には、ただ単に映画「紅の豚」を見ているというだけでは資格不足かもしれません。模型の知識というよりも、歴史に対する教養が問われます。たとえば、改造ありのB部門の金賞である「サボイアS.21A(F)フィンランド空軍仕様水陸両用型」という作品の意味は分かるためには、フィンランドの地理的な状況と、20世紀前半のフィンランドの歴史についての歴史が不可欠です。それも、通り一遍の表面的な知識ではなく、より深く、いかにフィンランドはロシアから独立し、どのような戦力を整え、どのように再併合を迫るロシアの侵略に対抗したのか、特に空軍はどうだったのか、という歴史的知識が必用です。(これに関しては、北欧航空戦史という名著があります)
これらの知識を持ち、フィンランドが各国からあらゆる機種を買い込み、鹵獲した機種を整備し、あるいは改造して、1機や2機しか持っていない機種まで有効に使っていたという歴史が分かっていれば、サボイアの1機ぐらい買い込んで使っていたとしても不思議ではないと分かるわけです。それは、ただ単に好きな国のスタイルに色を塗るということとは違う説得力ということです。それは、いちいち親切に解説して解説できるものではなく、少なくとも、書籍数冊分の基礎教養があってはじめて分かることです。(つまり、この程度の文章量では、要約は伝わっても、ニュアンスが伝わりません)
ですから、宮崎駿監督作品を全部見たからと言って、それだけで、このコンテストの結果を楽しめるというようなことは無いと思います。実際、あの宮崎オジサンの懐は、とてつもなく深いものです。映画は、その表面的な、お上品な部分を見せているだけに過ぎません。映画を見るだけで、しょせん宮崎など、この程度のものさ、などと言う人も居ますが、それは的確な理解とは言えないものでしょう。それは映画に対する評価にはなり得ても、宮崎オジサンの評価にはなり得ません。
なお、ファインモールドは、カーチスも模型化するようで、カーチスによるコンテストもあり得そうです。
○宮崎さんのミリタリー趣味を知るための書籍
じょばんに編集長より、サボ・コン'99などを理解するための参考文献を挙げて欲しいとのリクエストを受けましたが、これは難題です。宮崎さんの知識水準は、アマチュア研究家レベルで、その宮崎さんを納得させる模型を作っている人たちも、かなりの知識量を持っています。それを分かるようにするための本を示す、というのは、パソコンのことを何も知らない人に、FreeBSDのソースを理解するための本を示す、というのと同じぐらい難しいことです。実際、FreeBSDのソースを理解するために、まずC言語の入門書を勧めるのと同じように、戦闘機の入門書を勧めることはできます。しかし、C言語の入門書を読んでもカーネルのソースが理解できないのと同じように、戦闘機の入門書を読んでも、それだけで宮崎さんの発言の機微が分かるとは言えません。
それでも、一応書こうかと思ったのですが……。
Internetのwww.books.or.jp等で検索したのですが、戦闘機の入門書というのは、見あたりませんでした。
こればかりは、どうにもならないですね。
唯一出てきたそれらしい本はこれだけです。
本屋で見かけた記憶はあるのですが、買っていません。ですので、中味は分かりません。
三野 正洋 /深川 孝行 著 新書 348頁 本体価格(税別):\1,200 新書判 兵器ハンドブック 戦闘機対戦闘機 セントウキタイセントウキ C-CODE 0231 1998年 ISBN 4-257-01062-2 朝日ソノラマ
目的が宮崎さんのセンスに接近することであれば、宮崎さんの推薦する本を読むのが早道でしょう。それに関しては、大日本絵画社の宣伝広告に宮崎さんが登場し、いくつかの本を推薦しています。
それから、別掲記事内で触れた北欧航空戦史は、朝日ソノラマの文庫本です。今手元にないので、ISBN番号などは不明です。
ティーガー戦車隊(上) ISBN 4-499-22645-7 ティーガー戦車隊(下) ISBN 4-499-22653-8 空対空爆撃戦隊 ISBN 4-499-20600-6 Dデイの惨劇 ISBN 4-499-22638-4 クロースドイッチュランド師団写真史 ISBN 4-499-22697-Xそれ以外に、ミリタリー関係を把握するために個人的にお勧めの本をいくつか紹介します。
以下の本は、どれぐらい日本のおける軍隊と戦争というものが、ろくでもないかが分かる読みやすい本です。ついでに、いかに日本人が先の戦争から学んでいないかも良く分かります。
以下の本は、雑想ノートにも登場するスペイン戦争についての解説が書かれています。日本人から見て、スペイン戦争は縁が薄い戦争ですが、第2次大戦が始まる以前に既に左翼理想主義が敗北していた事実を知ることは価値があるでしょう。
三野 正洋 著 4-6 280頁 本体価格(税別):\1,800 日本軍の小失敗の研究 ニホングンノショウシッパイノケンキュウ 現代に生かせる太平洋戦争の教訓 C-CODE 0095 1995年 ISBN 4-7698-0736-8 光人社と、リストを見ると、三野正洋氏の本が多いな(汗)。氏は冷静な視点で、ミリタリー関係の本を書ける希有な人材だと思います。日本人のライター、特に旧軍関係者は、事実関係の歪曲やら、美化が多いので、要注意です。ただし、撃墜王と呼ばれる坂井三郎氏は非常に率直に本を書いていますので、これはお勧めです。
三野 正洋 著 文庫 437頁 本体価格(税別):\922 文庫版新戦史シリーズ 96 スペイン戦争 スペインセンソウ C-CODE 1997年 ISBN 4-257-17316-5 朝日ソノラマ
坂井 三郎 著 文庫 398頁 本体価格(税別):\913 講談社+α文庫 G11-3 零戦の真実 ゼロセンノシンジツ C-CODE 0195 1996年 ISBN 4-06-256152-2 講談社