この作品は、大日本絵画発行のModel Graphix誌1999年7月号(Vol.176)に掲載された記事「宮崎映画の主役になり損ねた水爆」にヒントを得て作られた構想です。宮崎さんが作れなかった結末を作ろうと云う事を目的としています。
第1章.不時着の理由
Model Graphixの、「日本海軍最後の水上偵察機瑞雲 中島宏元海軍上等飛行兵曹インタビュー」を見ますと、当時の雰囲気が良く判ります。まァ、この方は若い方なのに見込まれて分隊長のペアをされていた方ですから、エリート中のエリート。長距離飛行の基本が出来ていなくて行方不明になった人たちとは同列には云えないかも知れませんが。
さて、「宮崎映画の主役になり損ねた水爆」ネタの方ですが、瑞雲の出撃パターンとしては、多くても4機で出撃するが、あとは各機任せで、単機行動のゲリラ戦みたいなものだったそうです。
で、何で不時着する羽目になったかですが、集団行動のグラマン機に狙われたら叶うはずもないので、中島兵曹のチームみたいに機外に脱出するしかないでしょう。となると、「断雲からよろめき出る」って事は、おそらく艦隊の対空砲火を浴びて被弾したものと考えられます。ま、ここまではストーリーの選択肢が無いんですが、問題なのは、偵察員の戦死によって、行くべきところ、帰るべき場所が失われてしまったかどうか…と云う事ですね。
冒頭の、「断雲からよろめき出る」シーンからの流れで観客は引き込まれる。「掴みはオッケー」(笑)。
さて、ここからが正念場となってくるワケで、派手なシーンが無いので「出会い」とか「戦友の埋葬」などのシーンで引きつけて行く事になるでしょう。
主人公のたどり着いた島をどこにするかと云うのは、結構大きな問題ですが、中島海軍上等飛行兵曹の例に倣って、フィリピン辺りの島としましょうか。
(^_^;)
さて、主人公パイロットの状況は、
修理後、基地に戻ろうと思っても、洋上航法に詳しい偵察員を失ってしまい「どうしよう」。取り敢えず、島伝いに移動して大きな島を見つけようなんて目論見だが、燃料が持つかどうか心配。いっその事、敵艦隊が近くを通過するのを待って、空襲をかけてやろうかなんても考えている。
島の位置は掴んでいるが、肝心の燃料を被弾で一部失い、どう見積もっても基地へは帰れない。連絡が取れない場合、結局、敵艦隊を見つけて突っ込むしかないか…と考え始めている。
うむうむ、どっちにしろ、退路は断たれてしまっている様ですね。(^_^;)
こう云うパターンもアリですが、これではドラマとして状況的に面白味に欠けますね。人間は極限状態で「シンカ」(「カレカノ」か…)するだろうと。それに見ている方からしても、感情移入しやすいと云えますし。よって、却下。
さて、ここで主人公は島の村長の娘と出会って、機体の修理の合間に少しずつ話す様になるワケです。
「出会い」ですが、これは最初から「村長の娘」ではなく、先ず、好奇心豊かな子供がやってきて、パイロットを村に連れて行く。で、そこは既に大日本帝国の手が伸びている場所なので、或る程度の日本語を使えるヤツもいると云う事にすれば、話が進み、観客もダレずに済むでしょう。言葉が全然通じないとなると、如何にコミュニケーションを取るかと云う方にのみ関心が行ってしまい、話が逸れてしまうでしょう。
そんでもって、村長はパイロットを客人としてもてなそうとするが、パイロットは「職務中」と云う事で断り、戦死した偵察員の埋葬を行い、更に機の修理に専念、機の側で寝泊まりする事にする。村長は、不憫に思い、食料のみを娘に運ばせる事とする。
うーむ、となると、ラストが色々と思い浮かんできましたね。(^_^;)再び攻撃に出ようとするパイロットを止める為、機を壊す娘ってのもアリか…。沖合を通過する敵大艦隊をバックに、丸太で「大破壊」される瑞雲…って構図はシュールでいいかも〜。映像表現で評価の高い「少女革命ウテナ」で多用された黒と赤のコントラストで描くと、もう最高〜かも。(^_^;)
第4章.「語り」
基本的には、互いの身の上話と云うより、村長の娘が、この島の起こりの伝説を語るってのが良いかなと思います。で、出来れば、ここで「シュナの旅」を使ってしまいたいと云う気持ちがあります。(笑)
シュナとテアの恋物語にして、なお且つ、冒険活劇。しかして、彼らの世界を支配する宇宙人?との関係は相変わらずと云う世界。これは、戦争と云う渦の中に有りながらも、自分たちの生き様を貫いている島の人々の生活と通じる物が有るのではないでしょうか。
それによって、戦争に支配された心を開くパイロット…と云うのが良いかなと思います。
「出会い」と「語り」の続きです。
前回、「語り」に関して「シュナの旅」を使おうと云う提案をしましたが、それじゃあ本編のストーリーが見えなくなってしまうと云う問題点が有りますので、ここでは、パイロットに七つの試練を与えて、その心を試すと云うのが良いかなと思います。
全ての障害を乗り越えて、敵艦隊を発見し、いざ出動と云う所で…。
ここでは、手慣れた作業を見せて、パイロットが並々ならぬ技量の持ち主である事を印象づけましょう。(笑)
足りない部品は、別の部品を取り外して加工するとかも「有り」ですね。
いずれにせよ、自給自足。
これは南海物だったら、定番中の定番ですね。(笑)
機体をせっかく直したのに、そんな時に限って超大型台風がやってくると云うのは、まるで洗車した後には雨が降るってジンクスそのまま。(^_^;)
で、海岸付近の洞穴にやっとの思いで運び込んだら、今度は高潮。でも、水没寸前で潮は引き、やれやれと云う感じです。
これも定番ですね。
台風から機体を守った時の疲労・心労からパイロットは熱病に倒れる。
夢で、空母に特攻するシーンが浮かぶ。更に、昔の訓練中に、失速して墜落爆発した友人のシーンも浮かぶ。次に、自分の機が錐もみ状態になった時のシーン。
物凄い発汗に苦しむパイロットを看病している村長の娘。その顔が幻の様に浮かんでは消える。
やがて、別人の様にやつれた姿で、パイロットは立ち上がり、愛機を撫でる。
パイロットは看病してもらったお礼を云い、何となく気安くなった二人だが、パイロットは自問してしまう。「自分はあの娘が好きだが、自分は死ぬ人間。彼女を不幸にしてはいけない」
彼は心を鬼にして、娘に冷たくする。
事情が判らない彼女は泣く。
村長の娘を想う若者多数有り。娘が泣いていたのを知った彼らは、パイロットを詰問、彼女が泣いた理由を云わないパイロットを、彼らはついに殴打する。
倒れても立ち上がり歯を食いしばっているパイロットを観て、彼らは怖じ気づき、去る。
その様子を終始物陰から観ていた娘は、パイロットの気持ちに気づき、去って行く。
そして、誰も居なくなった浜辺。ついに倒れるパイロット。肉体の苦痛、精神の痛みから、パイロットはふと故郷の父母を想う。逢いたい、死にたくない。
彼の根元的欲望が頭をもたげる。
「故郷を敵から守る為に自分たちは戦っているのだ。それを忘れるな」彼は、再び立ち上がる。
目玉をぎらぎらさせて、島で一番高い岬に居座るパイロット。側には島の果物を並べ、食らう。突然脱兎の如く茂みに入る。まもなく戻る。用便だ。そんな生活が何日も続く。島民はちょっと離れた所から、半ば呆れて、また半ば畏れながらその様子を観察している。
やがて、その日はやってきた。大型空母2、戦艦2を中核とした敵機動部隊が島の沖合を通過していた。
パイロットは、直ちに瑞雲に走った。しかし、それよりも早く瑞雲に走る者があった。村長の娘である。彼女は、斧で瑞雲の主翼といい、尾翼といい、所かまわず叩きつけ、ぶち壊していた。
(このシーンは背景が真っ赤で、娘、パイロット、瑞雲を黒のシルエットとし、インパクトの有る映像表現とすべき)
「何をするか!やめろ!」思わず、娘を殴りつけるパイロット。
「死ぬな!死んじゃいやだ!」泣きじゃくる娘、茫然自失のパイロット、形が崩れた瑞雲をシルエットとして、背景には粛々と進む敵艦隊の勇姿。