山田くんを見た直後に書き飛ばした感想です。
いささか、過激でありすぎるところがありますが、編集長が「それでいいんです」というので、原稿を出します。
テーマは、適当、なんだそうだ。でも、生きろ、よりも、もっと分かりにくいです。
適当に生きればいいじゃん、というのは、それで済まされる幸福な人たちにしか通じないメッセージだし、それで済まされている人は、癒しも慰めも要りません。
結局のところ、問題を抱えているのは、完全な自分を肯定できず、さりとて自分をうまく社会に適応させることもできず悶々としているようなタイプの人達です。彼らは虐げられ意固地になった「もののけ姫」サンに感情移入したり、身体を張って母性的なリーダーシップを取るエボシ御前に憧れることはできるとしても、充分に幸福な家庭生活を送っている山田くん一家には感情移入できないでしょう。なぜなら、山田くん一家のように生きられるぐらいなら、彼らはこんなに問題を抱え込んだりしないからです。
途中で、2回、ひどく退屈な気分になりました。やれやれ。
物語のダレ場という意味ではありません。
普通の映画なら、ダレ場でも、心は作品に感情移入した状態が続くんですが、この場合は完全に劇場内に座っている自分に戻ってしまい、時計を見ながら、ああまだXX分も続くのか、と思う状態です。
高畑監督の考える家族像というのは、どうも、かなり偏っているように思えてなりません。ちゃぶ台を出して、現代の家族に共感を得られる映画になんか、なるわけないでしょ。
盛り上げるだけ盛り上げてオチがないエピソードがいくつもあります。
たとえば、息子に女の子から電話が掛かってきて、舞い上がる息子。ところが、ひたすら舞い上がって喜んだあと、その後のフォローが何もありません。それで終わり。つまり、オチがありません。
かといって、オチがあるエピソードもあります。
一貫性がありません。
オチがあるかと思って見ていると、たまに無かったりすることがあって、肩すかしを食らったような気がします。
時々俳句が入りますが、よく分かりません。高畑監督の独りよがりでしょう。少なくとも、この映画を見ると想定される一般的な家族の人たちが、俳句の味わいがよく分かるということはないでしょう。
ちびまるこちゃんの、トモゾウ心の俳句の方が、はるかに分かりやすくて、かつ、心に染み入ります。
ファンタジーじゃ駄目だ。現実の話を作る、というような高畑監督の言葉と裏腹に、内容はファンタジー色が非常に強いですね。結婚式で、新郎新婦がボブスレーで、ウェディングケーキを滑り降りるとか、家族の波乱を海の漂流に見立てたり。表現がファンタジーです。
いや、現実を、そういう映像で表現しているのだ、という意見があるかもしれませんけど、ファンタジー的な作品の多くは、現実を表現する手段としてファンタジー的な映像を使っているわけで、(エヴァンゲリオンしかり)、なんら違うところはないと思います。
まったくもって、何を批判するより前に、ごく基本的な部分で映画のシナリオとして失格でしょう。
『映画』を期待して、劇場に入った客が、こんなラストシーンで満足するでしょうかね。
これまでのジブリ作品だと、そういう問題を、鈴木プロデューサーが、しっかりフォローしていたはずです。
たとえば、おもいでぽろぽろなら、最後に主人公は愛する男のところにUターンさせ、映画的なハッピーエンド(つまり、観客を納得させる結末)を付けさせたりしているわけです。
なのに、今回に限っては、そういうことがありません。
これは、一般の観客から金を取る商業映画としては、失格でしょう。
子供が二人もいる夫婦のそのままの姿形で、結婚式のシーンをやってますが、あれは、がっかりしますね。
いくら何でも、結婚前は、新郎も新婦も、もっと若くて愛嬌があっていいと思います。ちびまるこちゃんでも、クレヨンしんちゃんでも、「ママは結婚する前は、こんなに可愛かったんだ」というエピソードがあるんですけどね。そういう意外性が見えてこないです。
少なくとも。あのでっぷりした母親を見ると、最初からあんな姿形なら結婚などするはずないよなぁ、という気がします^^;
いやほんと。たったこれだけの映画に、こんな大金注ぎ込む価値があったんでしょうかね? 目立たないところに金を注ぎ込むのは、伊達か酔狂でしょう。
線をきっちり引けば、動画は1枚で済むのに。それを、わざわざ3枚も使うことに、アニメーション手法の実験以外に何の意味があるんでしょうか?
少なくとも、一般観客が、新聞マンガそのままの線を劇場の大スクリーンで見たからといって、感動することは無いと思います。というより、凝っているという事実に気付くことが、そもそも無いのでは?
これが、もののけ姫なら、確かに金を使って画面の密度が高くなったというのが、普通の観客にも実感できるのですが。(もちろん、密度が高ければ客が入るってものでもありません)
ポップコーンと350ml入りの清涼飲料水を持ち込んだおかげで、エンディングまで耐えられました。ポップコーンの容器は、山田くんのイラストが印刷されたスペシャル版でした。きっと、これ、レアアイテムになるな、と思いました。なにせ、客が少ないですから。でも、私はコレクトする気は無いので、ゴミ箱に捨てて帰りました。レアだからと言って何でもかんでもコレクトしたら、部屋が溢れてしまいます。
ちなみに、劇場の座席の肘掛けに、丁度350ml入りのカンが入る穴があって、これは非常に具合が良かったです。
ポケモン映画の第1作はテレビで見ましたが、非常に良くできてます。映画的な完成度が高いです。特にシナリオがしっかりしているし、年に1回のお祭り的な華があります。どう考えても、家族連れの客は、まずポケモンに行くでしょう。みんな、なんだかんだと言いながら、ポケモンが好きですから、山田くんより、ポケモン行くでしょう。少なくとも山田くんは子供が見て楽しい映画ではないと思います。サザエさん等と違って、子供絡みのエピソードが少ないから。(学校の先生なんて、『適当』のエピソードにしか登場しないんじゃないかな?)
スターウォーズは、とりあえず映画マニア層には定番ですから。内容がどうであれ、とりあえず見に行くでしょう。
じゃ、家族連れも映画マニア層も来ない山田くんに、どんな客層が残されているのかというと……^^;