地下都市政府の近くに、地球浄化教団の専用居住区が最近出来た。居住区とは名ばかりで、地上の軍隊の駐屯地と云うべき物であった。高度な気密・浄化装置を備えた格納庫の様な建物が林立していた。最高責任者は文民で、地下都市政府との交渉にあたっていた。名をアルバ博士と云った。一方、実質的な主力となる駐留軍の最高責任者はトロス中将で、精鋭である「天空の騎士団」を率いていた。彼らは特殊部隊であり、地下都市の制圧を目的に組織・訓練されてきた連中である。地上と地下の対立は、「エース」の登場でいよいよ緊迫の時を迎える事になった。「天空の騎士団」は取り敢えず過激派を敵としているが、その次は穏健派が標的となるだろう。
「トロス中将、キミに云っておきたい事があるのだ」
「博士、何でしょうか?」
「キミの部隊は街なかで派手にやり過ぎている様だ。もうちょっと自粛してもらいたい」
「抑止力と云って欲しいですね。我々の恐ろしさを見せつける事が、結果的に我々の利益となるのです。そうではありませんか、博士」
「キミの云う事も分かるが…」
「我々がここに来ているのは、奴らの安全を守る為では無いのですよ」
「しかし、物事には限度と云う物が有るのを知っているだろう」
「お言葉ですが、そのおかげで、過激派のアジトを絞り込む事が出来たのですよ」
「その代わり、拷問で500人潰した(拷問で殺す事)そうじゃないか」
「彼らは我々だけではなく、地下都市にとっても敵なのです。敵を殺す事に何をためらうのですか?」
「…どうも、キミと話していると付いて行けない。とにかく、人殺しは止める事だ。いいな」
「ご意見は拝聴しました」
「博士は何の用だったのですか?」
「いや、只の世間話だ。そんな事より、目標のビルの調査はどうなった」
「いま、ビルの情報システムに介入しています」
「敵に悟られるな。慎重に行け。情報によると例の少女もそこに居るそうだ」
「あの件はタイミングが悪かったですよね」
「全くだ。捕獲したサンプルを地下都市の障気で実験しようと連れてきた時に、襲撃されるとはな。どうだ、入れたか?」
「この程度のレベルで最新型だなんて、笑っちゃいますよ。20年は遅れているな」
「スーパーユーザーのIDを発行しました。マルチチャンネル接続でデータレートは最大。完了」
「よし。こっちは映像と音声のキャプチャーを実施中。二千カ所をオートスキャンする。画像認識と声紋解析を同時に掛けているから、ブラックリストに載った連中が居れは10分でチェック出来るぞ」
「部隊の出動準備は出来ているのか?」
「万全です。ご指示の有ったナパーム(NAPALM)弾頭も墓所から搬送中です」
「将軍、でも、大型燃焼兵器は…」
「ふん、『地下都市の大気を著しく汚染する為、その使用を禁ず』って云うんだろう」
「博士がそう云っていましたが」
「ははん、お前は博士の愛人なのか?」
「好きなんですよ」
「ぷ。顔が笑っているぞ」
と、そこにピーと云う警告音が鳴った。
「見つけましたよ、将軍。敵の首領、グルムです」
「ほんとか。でかしたぞ。やっぱりここだったのか。で、例の少女は?」
「まだです」
「急げ。きっと近くだぞ」
大和が呟いた。
「どうしたんだ?」
「俺達とは別な誰かが本部を盗聴している様だ。高速オートスキャン?スーパーユーザーレベルか?しかし、奴らは俺が全部コントロールしているはずなのに…」
「新しい奴が来たのか?」
「ああ、…そうだ。その通りだ。…奴らだ」
「どうだって?」
「ヤバいぞっ!教団に見つかったっ!」
「何だって?」
「スキャン中と云う事は、まだ発見していないと云う事か。間に合うっ!」
「どうするんだ?」
「よし、取り敢えず、オートスキャンのテーブルから彼女の部屋を削除だ。OK。次は時間稼ぎをしなくては…。マクロを作成。10分後に本部の外部インターフェイスを全て切断だっ!こっちの方がレベルが上だからな。OK、OKと。マクロ実行…完了。後は、直接本部に行って、俺達の花嫁を取り返すんだ。行くぞっ!飛鳥っ!」
「ど、どうなってんだ。何が何やら…」
「説明は後だ。とにかく本部まで走るぞっ!」
「は、走るう〜?」
「もうすぐ世間はパニックになるぞ」
「どうしたっ!?まだ見つからないか?」
「まだです」
「おかしい…。とっくに見つかっているはずなのに」
「例の少女はここに居ないのでは?」
「いや、グルムが来ているのは理由が有ってのはず。追いつめられた奴らの最優先事項と云ったら、例の少女しかない」
「システムを再チェックします。不審なタスクが有るかも知れません」
マクロ『外部インターフェイス全てシャットダウン』
「ああ、どうしたっ!」
「…吹っ飛んだ」
「回線が切れました。こっちも、こっちもか。そっちはどうだ?」
「全部ダメです。サブシステムも全く反応しません。インターフェイスが切断された様です」
「事故か?それとも…」
「エラーの兆候は無かったので、これは敵の反応でしょう」
「部隊に命令だ。直ちに出動せよ。ビルの見取り図は指揮官に転送しろ」
「了解っ!」
「ナパーム弾頭の到着、急げっ!絶対に逃がさんぞ…」