核融合(フュージョン)とは
 

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核融合からフュージョンへ
2023年6月8日の記者会見で高市大臣は、「核融合エネルギー」の呼び方を「フュージョンエネルギー」に変更すると発表しました。
以下では、政府の方針に沿って、原則「フュージョン」と記載することにします。題名・会議名などは変更できませんので、そのままとします。


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「核融合は手が届くところにある」
「核融合のギモンにまとめて答えます」
「核融合の要素技術はほぼ確立している」
「核融合は政府2兆円投資で実現」


フュージョンエネルギーの簡単解説を連載中です。



核融合(フュージョン)エネルギーとは、21世紀半ばの実用化を目標に世界的に開発が進んでいる新しいエネルギーです。最近ナトリウム漏れを起して皮肉な形で有名になってしまった「高速増殖炉」と「フュージョン炉」を混同している方も時々いらっしゃるのですが、これらはまったく別のもの。太陽はもちろん、宇宙に輝くすべての天体は、水素、ヘリウムなどのフュージョンエネルギーで輝いています。核融合炉は、現在の原子炉のような高レベル核廃棄物を出さない人類究極のエネルギー源。フュージョン炉ができれば、核拡散問題からも、使用済み核燃料からの高レベル放射性廃棄物からも、開放されるでしょう。但し実用化にはまだまだ時間がかかります。しかし、「地上に太陽を!」という夢は、きっといつか実現するでしょう。

水素爆発についての誤解

福島県の原子力発電所で起こった「水素爆発」とは、フュージョン反応のことではありません。水素のガス爆発です。NHKのアナウンサーまでが「核融合(=フュージョン)」と発言しましたので、念のため記載します。 フュージョンというのは簡単には起こせません。だからこそ実用化が難しく、だからこそ、停止することが簡単、というか、何もしなければ必ず止まるから安全性が高いとされるのです。反応を止められなくなることなど、フュージョンならありえません。(2011年3月16日追記)


高速増殖炉は核分裂炉

 高速増殖炉は、今動いている原子力発電炉と同様、核分裂(英語ではフィッション)を使う原子炉で、プルトニウムが燃料。まもなく実用化されるレベルにあります。
フィッションでは、分裂後は色々な元素ができます。何が出来るか分からないところが欠点です。つまり、その中には強い放射性の元素もあります。ウランやプルトニウムに中性子が当たると超ウラン元素というものもできます。これも非常に強い放射性元素です。これらが使用済核燃料からの高レベル放射性廃棄物となり、長期(数万年)に渡る安全な管理が必要になります。

フィッションエネルギーは、もしフュージョン炉が実現しないなら、人類のエネルギー源として必要でしょう。しかし、フィッションを使えば、上記高レベル廃棄物が大量に発生し、その管理を将来世代に押し付けることになるは避けられません。この問題のブレークスルーとなりうるのがフュージョン炉なのです。



フュージョン炉の燃料は、ウランでもプルトニウムでもなく、水素です。反応そのものは太陽の中で熱を出している現象と同じなのです。
フィッションの時と異なり、フュージョンでできるものは決まっていて、安全なヘリウムです。風船に使われるあれです。中性子も出るので、炉心内部は放射化されますが、これは開発中の低放射化材料で解決するはずです。つまり、核分裂では反応そのものが高レベルの放射化物を作ってしまいますが、フュージョンはそうではありません。
発生する中性子の処理さえ工夫すれば、放射性廃棄物のレベルは大きく下げられるのです。通常のステンレスでフュージョン炉を作った場合にはかなり高いレベルの放射化物ができます。この点をフュージョンの致命的欠点かのように誇張して反対されることがあるのですが、それは不合理な見解です。初代の飛行機が木製だったのを取り上げて、耐久性がないことを致命的と指摘しているようなものといえます。材料の開発は時間がかかりますが、低放射化材料はすでに開発中で、照射試験を繰り返しています。フュージョン炉が実現するまでには必ずできるのです。そのようにスケジュールが組まれています。


 フュージョンの燃料、重水素(普通の水素の2倍の重さの水素)は海の中に無尽蔵です。初代のフュージョン炉は三重水素も使いますがこれはリチウムから核融合炉の中で自己生産します。携帯電話の電池でもお馴染みのあのリチウムです。リチウムは、当面はリチウム鉱として十分な量がありますし、海の中には無尽蔵です。だからフュージョン炉の燃料はすべて海にあるのです。資源に乏しく、海に囲まれた日本においてフュージョン炉が特に期待されるのはこのためです。
 海水から重水素を取り出すのに非常に大きなエネルギー(主に電気分解ということらしい)が必要であるとか、取り出すよい方法がない、などとおっしゃる方がいらっしゃいます。これは完全な誤りです。海水からの重水素製造はとうの昔に工業化されており、その分離にエネルギーはほとんど必要ないのです。もちろん水を電気分解などはしません。化学反応の反応速度の差を利用します。リチウムの回収に関してもすでに技術は存在しています。ただし、鉱山からのリチウムの2倍程度のコストがかかると思われるので、鉱山からのリチウムがなくなるまでは誰も今すぐ工業化しようとは思わないだけです。なお、フュージョンの燃料費は安く、運転費全体で大きな割合を占めないので、もしリチウムの価格が2倍になっても、発電コストにはほとんど関係ありません。


すなわち、フュージョン炉が完成すれば、プルトニウムの核拡散問題や、高レベル放射性廃棄物から開放されます。地球温暖化の原因となるCO2も発電中に発生しません。太陽光発電などの自然エネルギーはもちろん期待されますが、それだけでは天候などによる変動が大きすぎます。それらとフュージョンとの組み合わせで21世紀の電力を供給するのが理想の姿であろうと考えます。
フュージョンといえども核エネルギーなので嫌う方もいらっしゃいます。そんなものを使うより節電を考えよとも言われます。しかし、われわれが節電するのは当然としても、今後の発展途上国の高度化によりエネルギー消費が爆発的に増えることは絶対に避けられず、現状技術だけでは、エネルギー不足か、CO2による地球温暖化か、高レベル核廃棄物の大量蓄積か、のどれかがわれわれを襲ってくることからは逃げられないのです。未来に責任を持つためには、なにか新技術が必要なのではないでしょうか。われわれはなにかするべきです。


フュージョンは、もはや単なる夢ではありません。50万kWという中型火力発電所並みの熱出力をもつ実験炉ITER(イーター)を、世界的な協力体制で建設を開始しています。建設費と30年の運転費用を合わせて2兆円超の大プロジェクトです。日本、米国、EU、ロシアに加え、後から参加した中国、韓国とインドを加えて、国際交渉が行われ、建設地をフランス・カダラッシュに決定し、国際協力によって、2007年に建設を開始しました。完成は、コロナの影響もあってすこし遅れていますが、2020年台後半からの運用を予定しています。慎重に実験を進め、フュージョン反応で50万kWが発生するのは、2035年頃の予定です。
  ITER建設の最新状況は、ITER国際機構のホームページをご覧ください。



ITERの鳥瞰図(核融合学会誌Iより)


第一世代のフュージョン炉は、燃料に放射性物質であるトリチウムを使用するので、フィッション炉からの核廃棄物よりは遥かにましとはいうものの、完全なクリーンエネルギーとまでは言えません。また実験炉であるITERにおいては、低放射化材料の建設許認可に関連するデータがまだ不充分であることから、通常のステンレスが選択されました。したがって、ITERの放射性廃棄物は、通常の原子炉とあまり変わらぬほど出てしまうといわれます。これは事実なのですが、決してフュージョン炉の不可避な性質なのではないのです。次のデモ炉においては必ず低放射化材をつかうことになります。また、フュージョンは、その将来においては、燃料を変えていくことで完全に放射能と縁が切れ、真のクリーンエネルギーとなる可能性もあります。そして、その実現にはまず第一世代の炉を建設しなければなりません。それゆえ、実験炉ITERの建設と成功が今もっとも重要なのです。

なお、ここで述べた見解は、開発スケジュールなどの明らかな事実を除き、あくまで私個人の見解であることを申し添えておきます。また、フュージョン炉はまだ開発途上であり、フュージョンや太陽光発電があるからフィッション炉はもう必要がない、などと考えるのは現実的ではありません。しかし、未来にフュージョンという希望の光はあるということです。

 

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