122. 室戸岬の周辺

著者=近藤 純正
紀貫之が滞在した津呂港の記念碑や、空海の修行した不動巌などを見学した。(完成:2014年5月2日)

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旅のたより117でも述べたように、高知県の室戸岬へは、これまで何度も行ったことがある。今回は 室戸市観光協会からの次のような内容の依頼があり、数日間室戸に滞在することになった (2013年10月29日~11月1日)。

「室戸岬の測候所は標高185メートルの山上にあり、平地より気温が低く 出ているのではないか。それを観測によって確かめて欲しい」

お天気ニュースでは、室戸は足摺岬や高知よりいつも低い気温と報道され、住民の皆さんは納得して いない。室戸市は春の観光開きを県内で最も早い1月に行うなど、温暖な気候も売りの一つにして いる。2011年(平成23年)には「室戸ジオパーク」として世界のジオパークにも認定された 観光地である。

気温の観測装置を岬の海岸展望台と防災公園に設置したあと、国立室戸青少年自然の家の所長・石川昇 さんに案内していただき観光した。石川さんは今年の春、着任されてまだ半年しか経っていないのに、 地元の人たちより詳しいと思うほど勉強されている。

室戸岬港の海水面は岸壁からとても低くなっている(写真122.1)。旅のたより117にも書いた ように(「高知県の室戸」)、 私は高校生時代、自転車で室戸へ行ったとき、南海地震で隆起し港は漁船が入れないほど浅くなり、 浚渫していた。室戸一帯は何万年もかけて隆起を繰り返し、海岸段丘となっている。

室戸岬港
写真122.1 室戸岬港(2枚の写真を横に合成してある)。 

この写真は、港の最も奥にある古い部分である。近年の室戸岬港は沖へ沖へと増設されて、 今では三つの築港が連なって大きな港となっている。

紀貫之記念碑
写真122.2 紀貫之と野中兼山記念碑。

港の東岸壁に、紀貫之と野中兼山の記念碑がある(写真122.2)。その案内板には次のようにある。

室戸岬港(津呂港)
室戸は土佐の国司・紀貫之が任満ちて京都へ帰る時、天候悪く、十日ほど滞在したところである。 津呂港は風や浪を待つ港として野中兼山が寛永十三年(一六三六)試堀、寛文元年(一六六一)一月 着工し三月竣工させた。これに要した人夫は三十六万五千人、黄金千百九十両を要した難工事で あった。

それ以前にも小笠原一学(最蔵坊)が元和四年(一六一八)願い出て開削している。

この工事は海中に土のうで長い堤防を築き内部を池にして海水を汲み干したのち、ノミと鎚で岩を 砕いて開削する工法で完成した。港は、東西百十米、南北七十二米、深さは満潮時二米あった。 古くは室戸港といわれていた。(室戸市教育委員会)



室戸岬の山麓から始まる室戸スカイラインがあり、曲がりくねった坂道を登ると最御崎寺 (ほつみさきじ・第二四番札所)、その北方に室戸岬気象観測所(旧測候所)がある。さらに進むと、 景色のよいところにレストランの廃墟があった。奇抜なデザインである(写真122.3)。

廃墟
写真122.3 レストランの廃墟。

室戸スカイラインが開通したのは日本の高度経済成長期の1970年であり、当時は日本各地で大きな 土木建設事業があった。この時代、各地には多くの観光客を見込んで新しいホテルやレストランが 建築されたが、それらの多くは廃墟となっているだろう。時代は二〇~三〇年間で大きく変わって しまった。

室戸岬の西側に、地形が良く似た行当岬がある。私は高知から行く時、遠方に見える行当岬を室戸岬 だと間違えることがある。そこには、石川昇さんに案内されるまで知らなかったお不動さんがある (写真122.4)。

お不動さん
写真122.4 お不動さん。

案内板に次の説明がある。

「高さ四十米の不動巌があり、弘法大師(空海)の修行地で行(ぎょう)に当たられたので行当西寺 とも呼ばれる。波切り不動として信仰を集めた。

明治始めまで西寺(第二六番札所の金剛頂寺)は女人禁制で、女の人は入山できず、ここで納経した ので、女人堂としてにぎわった。ウバメガシ、ヒトツダシダに覆われ、大石を抱いたアコウ (別名たこの木)なども群生している。(室戸市教育委員会)」



写真122.4では見づらいが、大きな岩が根で包まれているのが凄い。

お不動さんの裏手の海側には、空海が岩上に座して修業したといわれる「修行御座石」がある (写真122.5)。空と海しか見えない岩上で、一睡でもしようものなら下の岩場に落ちてしまう、 死の行であった。

空海修行の地
写真122.5 空海修行の地、左は展望所、右の中程に修行御座石。

修行の地案内板
写真122.6 空海修行の地案内板。

私は、弘法大師が空海と呼ばれることに、やっと気づいた。見学後、道路に出ようとしたとき、 大きな案内板の絵があり、「これぞ まっこと 空海」とあった(写真122.6)。土佐の方言 「まっこと」は「ほんとう」「まこと」の意である。

行当岬の山の方も見学を終え、室戸市街地へ向かう途中、夕日の時刻となった(写真122.7)。 室戸では海からの日の出も、海へ沈む夕日も見える。いわゆる「だるま朝日」「だるま夕日」 が見えることで有名である。特に気温が海水温度より低温となる冬に見事、一種の蜃気楼である。

夕日
写真122.7 夕日。

だるま夕日・朝日は二つの太陽が接する形に見えることから呼ばれる。しかし、この日は顕著では なかった。

ちなみに室戸における平均気温と平均海水温度の差は、11月は9℃、12月は11℃、1月は 12℃、2月は10℃である。

この日(2013年10月29日)の日没17時47分前後、17時半~18時の室戸岬の海岸 展望台における平均気温は19.7℃、室戸沖の高知県漁海況ブイによる海水温度は24.2℃、 温度差は4.5℃で小さかった。

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