M69.室戸海岸の朝・冬は暖か、昼・夏は涼しい
著者:近藤純正
室戸は黒潮の影響を受けて気温の日変化・季節変化が小さい。海岸地域の代表地点としての室戸岬漁港
「とろむ」では、朝(冬)の冷え込みは小さく、昼(夏)の気温上昇も小さい。
2014年の春(4月1日~5月11日)の41日間の観測によれば、「とろむ」の日平均気温は高知市内に
比べて0.45℃ほど暖かいが、この気温差は厳冬期(1月23日~2月4日)における気温差(2.38℃)
よりは小さくなった。
「とろむ」の朝方は高知に比べて厳冬期は5.2℃も暖かであったが、春には差は2.7℃と小さくなった。
逆に昼の「とろむ」は高知に比べて厳冬期には0.9℃低温であったが春には1.8℃低温となった。
気温の日変化幅「日較差」については、高知の厳冬期9.2℃、春8.5℃に対して、「とろむ」の厳冬期
3.1℃、春4.0℃、高知の50%以下で「暑からず寒からず」の温和な気候である。
標高185mの室戸岬気象観測所(旧測候所)と比べると、「とろむ」は1.29℃の高温であり、前報で
得た1月23日~3月30日における違い(1.30℃)とほとんど同じである。(完成:2014年5月20日)
本ホームページに掲載の内容は著作物である。
内容(結果や方法、アイデアなど)の参考・利用に際し
ては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを明記のこと。
更新記録
2014年5月19日: 概要の作成
目次
69.1 はしがき
69.2 観測の方法
69.3 観測結果
69.4 まとめ
参考文献
観測協力者(敬称略)
島田信雄(室戸市観光協会)
室戸ドルフィンプロジェクト(理事長:升井俊六)
石川昇、松田公治、濱田竹央(国立室戸青少年自然の家)
69.1 はしがき
高知県東部の室戸の気温は、テレビなどでは室戸岬気象観測所(標高=185m:旧測候所、略して
岬観測所と呼ぶ)の最高気温で報道されることが多く、一般には「室戸は高知より寒い」と思っている
人々が多い。しかし、地元で暮す人々は「室戸は暖かい」と感じている。これを確かめるために海岸
地域の代表地点として室戸岬漁港「とろむ」において2014年1月23日から気温の連続観測を行なって
いる。
前報の「M68.冬の室戸海岸は高知市内より平均2℃ほど暖かい」では、
冬~初春として2014年1月23日から3月31日までの68日間のまとめを示した。
前回の報告のうち、厳冬期の代表として1月23日~2月4日までの12日間について「とろむ」と室戸岬
観測所と高知における気温日変化を図69.1に示した。
図によれば、12時~16時の時間帯では高知の気温は「とろむ」より0.5~1℃ほど高温であるが、
17時ころから逆転し、「とろむ」では夜半~翌朝10時には3℃以上、とくに朝の5時~8時は5℃以上も
高温である。日平均気温では「とろむ」が2.4℃も暖かい。

図69.1 厳冬期(1月23日~2月4日)の12日間の気温日変化の比較。
赤:とろむ
紫:高知
黒破線:室戸岬観測所
春~夏になると、この傾向がどのように変化していくか? 今回は春として2014年4月1日から5月11日
までの41日間の観測をまとめた。
期間と晴天日の定義:
厳冬期:1月23日~2月4日(12日間)
春: 4月1日~5月11日(41日間)
春の晴天日:室戸岬観測所と高知の日照時間がともに10時間以上の日(14日間)
備考:
2014年5月12日から標高270mの国立室戸青少年自然の家の駐車場でも気温の観測を開始したので、
5月11日までを「春」の期間とした。
69.2 観測の方法
海岸地域の代表地点「とろむ」の「ドルフィンセンター」の駐車場に通風式自記気温計を設置し、
10分間隔で記録した。
通風式自記温度計は、ヤング社製の通風装置(MODEL43502)が日射によって0.2℃高く観測されるので、
これを改造し4重の通風筒に直径2.3mmのPt1000オームのセンサーを取り付け、高精度観測を可能に
したものである(「研究の指針」の「K81.市販品を改造した高精度
の通風式温度計」)。
69.3 観測結果
図69.2は気温の日変化(上図)と日々の日平均気温(下図)である。厳冬期の図69.1と比べて、
相対的な関係をみると紫線(高知)が上にずれて赤線(とろむ)に近づいている。厳冬期の日平均気温
の「とろむ」と「高知」の差は2.38℃(とろむが高温)であったが、春(図69.2)には0.45℃(とろむが
高温)となっている。
昼過ぎと朝の気温差「気温日較差」は、
厳冬期・・・・・高知:14.9-5.7=9.2℃、 とろむ:14.0-10.9=3.1℃
春・・・・・・・高知:20.0-11.5=8.5℃、 とろむ:18.2-14.2=4.0℃
「とろむ」は気温の日変化幅が高知に比べて50%以下、「暑からず寒からず」の温和な気候である。

図69.2 気温の日変化(上図)と日々の日平均気温(下図)、2014年4月1日~5月11日の41日間。
赤:とろむ
紫:高知
黒破線:室戸岬観測所
次に、晴天日のみについて調べてみると、図69.3に示すように、昼の気温が高くなり夜の気温が低く
なる。したがって気温日較差は大きくなり次の値となる。
気温日較差
春の晴天日・・・・・・・・高知:21.9-10.3=11.6℃、とろむ:19.8-14.1=5.7℃
すなわち、気温日較差の「晴天日」対「全期間」の比は、高知では1.36(=11.6/8.5)、室戸では
1.43(=5.7/4.0)であり、両地点とも約1.4倍の変化幅になる。

図69.3 春の晴天日における気温の日変化(上図)と日々の日平均気温(下図)、2014年4月1日~
5月11日の晴天日14日分。
赤:とろむ
紫:高知
黒破線:室戸岬観測所
69.3 まとめ
室戸は沖合を流れる暖流「黒潮」の影響を大きく受け、やや内陸にある都市・高知に比べて朝・冬は
暖か、昼・夏は涼しい温和な気候である。
海上気温の日変化についての解説
海洋の影響が気温変化を小さくする理由を説明しておこう。太陽エネルギーが地表面(陸面や海面)に
注がれると、その熱は地中・海水中に伝わり地中温度・海水温度を暖める。暖められた陸面・海面から
放出される対流熱(顕熱)によって陸面上・海面上の大気の気温が上昇する。
この過程において、地中と海水中への熱の伝わり方が大きく異なる。地中の場合は、太陽光は陸面の
表面で一部は反射されるが他のほとんどは表面で吸収され、地中の深さ0.1m程度の厚さの温度を
数℃~30℃程度も上昇させる(土壌の乾湿に依存する)。ところが、海中の場合は、可視光線のかなり
の部分は水深10m、一部分は数十mの深さまで届き、数mほどの厚さの海水の温度を上昇させる。
水温変化の層が厚いため、水温は0.1~1℃程度(風速に依存する)しか昇温することができない。
それゆえ、陸風の影響が無い場合の海上気温の気温日変化の幅は1℃程度以下である
(「水環境の気象学」の図7.9、図7.12を参照)。
室戸岬のように周囲が海に面して海洋の影響を大きく受ける場所では、気温変化の幅は小さくなる。
備考:
海面温度の日変化が小さい理由として、「水の比熱が大きいから」として説明されることがあるが、
この説明は正しくない。
表69.1は、厳冬期と春の観測結果のまとめである。
表69.1 気温観測のまとめ
厳冬期:1月23~2月4日(14日間)
春:4月1日~5月11日(41日間)
春晴天日: 同上期間中の日照時間>10時間、室戸岬観測所と高知とも
昼の気温:正午過ぎの最高気温の起きる時間帯の気温
朝の気温:朝の6時前後の最低気温の起きる時間帯の気温
気温差:(とろむの気温)-(高知の気温)
気温日較差の比:(とろむの気温日較差)÷(高知の気温日較差)
岬:室戸岬観測所(標高185m)
平均気温(℃) 昼の気温(℃) 朝の気温(℃) 日較差(℃)
とろむ 岬 高知 とろむ 高知 とろむ 高知 とろむ 高知
厳冬期 12.27 11.12 9.89 14.0 14.9 10.9 5.7 3.9 9.2
春 16.44 15.15 15.99 18.2 20.0 14.2 11.5 4.0 8.5
春晴天日 17.26 16.29 16.78 19.8 21.9 14.1 10.3 5.7 11.6
気温差と気温日較差の比
平均気温の差 昼の気温差 朝の気温差 日較差の比
厳冬期 2.38℃ -0.9℃ 5.2℃ 42%
春 0.45℃ -1.8℃ 2.7℃ 47%
春晴天日 0.48℃ -2.1℃ 3.8℃ 49%
(1)春の室戸岬漁港「とろむ」の日平均気温は高知市内に比べて0.45℃ほど暖かく、厳冬期における
日平均気温の違い(気温差=2.38℃)よりは小さくなった。
(2)「とろむ」の朝方は高知に比べて厳冬期は5.2℃も暖かであったが春には差は2.7℃と小さく
なった。逆に昼の「とろむ」は高知に比べて厳冬期は0.9℃低温であったが春には1.8℃低温となった。
(3)気温の日変化幅「日較差」について、高知の厳冬期は9.2℃、春は8.5℃に対し、「とろむ」
の厳冬期は3.9℃、春は4.0℃であり、高知の50%以下で温和な気候と言える。
(4)標高185mの室戸岬気象観測所(旧測候所)と比べると、「とろむ」は1.29℃(=16.44-15.15)
高温であり、前回に得た冬~初春(1月23日~3月31日)における違い(1.30℃)とほとんど同じで
ある。この違いを気温の高度減率で表すと、100mにつき0.72℃となる。
参考文献
近藤純正(編著)、1994:水環境の気象学ー地表面の水収支・熱収支-.朝倉書店.pp.350.