M44.温暖化の監視が危うい

著者:近藤純正
地球温暖化など気候変動の実態把握と将来予測のために、正しい気象を 観測しなければならない。しかし、測候所の無人化にともない、管理不十分と なり、気候変動の監視が危うくなってきている。住民の理解と協力により、観測 の環境を守っていかねばならない。
気象庁は、「観測所を無人化しても管理はできている」というのだが、これは 建前であり、実際に行ってみると、雨量計に茂った雑草が被さっていたり、 樹木の枝が伸び観測機器の邪魔になっている所がある。こうした状態に なっていても観測機器から送られてくるデータは何らかの数値を示している が、その数値は信じてよいのだろうか? (完成:2009年4月13日)

これは2009年4月18日~19日に東京代々木公園で開催される「アースデイ東京 2009」に展示する内容に詳細を加えたものであり、また、4月28日(火)の 名古屋大学地球環境学専攻における講演、29日(祭日)の中部大学における 市民講座、5月9日(土)の東京渋谷区で13:30~15:00に開催する講演会 「温暖化の監視が危うい、温暖化の原理、観測の重要性」、及びそれ以後の 各地で開催する講演内容である。

本ホームページに掲載の内容は著作物であるので、 引用・利用に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを 明記のこと

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   目次
	はじめに
	44.1 温暖化の監視と住民の協力
	  (a) 気候観測では、なぜ高精度のデータが必要か?
	    (b) 管理不十分になると、なぜ観測がだめになるか?
	    (c) 樹木の成長が樹高より上の風をなぜ弱めるか?
	    (d) 気候観測は、なぜ住民の協力が必要か?
	    (e) 観測所の環境悪化と対応の例(飯田、宮古、津山、深浦)

	44.2 地球の気候、温暖化とは?
	44.3 日本のバックグラウンド温暖化量
		(注意)気候統計表は複数種類あり
	44.4 都市化による気温上昇(熱汚染)
	要約

	あとがき
	  (1)アースデイでも訴える
	  (2)不正確な報道もある
	参考書


はじめに

地球温暖化など気候変化が生じており、その実態が各機関から公表されて いる。例えば気象庁では、気象台や測候所における100年余にわたる観測 データから、100年間当たりの気温上昇率は1.1℃~1.2℃/100y 程度として 公表している。

筆者は、この値に疑問をもったことが研究の始まりである。気象庁の温暖化 解析に用いている17地点のうち山形、水戸、長野、彦根、多度津、宮崎、 石垣島などは気温データに都市化の影響が含まれており、過大評価になって いると考えたのである。その都市化影響の具体的な数値については「研究の 指針」の「K41.都市の温暖化量、全国91 都市」の表41.2に示してある。

その他に、気象観測は時代によって観測機器・方法が 変更になってきているので、そのままのデータを並べても地球温暖化の正しい 実態は示さない。

さらに、観測所の無人化が進み、観測所の環境悪化により正しいデータが 得られ難くなってきていると考え、2004年以来、各地の観測所を見て回り、 昔からの環境変化も聞き取り調査などによって知ることができた。 その結果、気温を観測する露場の風通りの悪化による平均気温の上昇も 無視できないことがわかった。これを「日だまり効果」による昇温と名 づけた。

このようにして、都市化の影響や日だまり効果を含まない地球温暖化量 「バックグラウンド温暖化量」を求めてみると、100年間当たりの平均の 気温上昇率は、

平均の気温上昇率=0.67℃/100y・・・・・・・1881~2007年(127年間)

を得た。これは気象庁の公表値の60%の上昇率である。

これから将来に向けて、正しい地球温暖化量を監視していかねばならぬのに、 観測所の環境はますます悪化の傾向にあり、何とかして環境を 保全していかねばならぬと強く意識した。

それには、住民の理解と協力が必要で、温暖化(気候変化)の監視が危うく なってきた現状について訴えたい。

気候変動は気温、湿度、風速、降水量、日射量などが相互の関係をもって 変化することである。これらの要素のうち気温は他に比べて変動が少なく観測 精度も高く、長期のデータが蓄積されているので、ここでは気温を中心に説明 する。

44.1 温暖化の監視と住民の協力

(a)気候観測では、なぜ高精度のデータが必要か?
通常の天気予報では、気温は1℃程度の精度でよいが、地球温暖化など長期の 気候変動では、0.1℃の精度が必要である。

表1 高い精度の観測が必要なわけ
高い精度の観測が必要なわけ

○地球温暖化は100年につき、わずか0.7℃程度の温度上昇である。

→ そのため、温暖化など気候変動の観測では、精度の高い観測が要求 される。

○観測所の管理を十分に行い、周辺(特に100m以内)の環境を維持しなければ ならない!

(b)管理不十分になると、なぜ観測がだめになるか?
測候所が無人化しても、自動の観測機器は働くので、観測は十分な精度で 行われるように思われがちだが、気象は観測所のごく近傍、10m~100m程度 の範囲の環境に敏感に反応するので、無人となり露場周辺の管理が手薄に なれば、本来の正しいデータを表示しなくなる。 通常の気象観測では、観測所周辺の広範囲の気象を知ることが目的であり、 ごく近傍の環境変化に左右されてはならない。

表2 管理不十分になると、なぜ観測がだめになるか?
管理不十分になると、なぜ観測がだめになるか?

(0.2~1℃程度の誤差がでる→下記にその原因)

○都市化など土地利用変化の影響
観測所の100m~数km範囲の環境が変わり、0.5℃以上の誤差が生じると、 地球温暖化など広域気候の観測に不適となる
 → →地球温暖化と区別される ”都市気候を知るに必要な観測所” となる (これは多くの都市にある気象台などの観測所)

◎日だまり効果
周辺10m~100m程度の範囲に家が建ったり樹木が成長して風通りが悪くなり、 平均気温や地温が局所的に上がることをいう。
 → → ”風が弱い日は気温上昇が大きい” に類似(図44.2参照)

注1:気候観測所:田舎で、周囲100m以内の環境変化が少ない所
注2:観測方法の時代による変更によっても誤差が生じる

管理不十分になると
図44.1 観測所の管理が不十分になると観測の誤差が生じる説明図

管理が不十分になり、露場周辺の樹木・雑草が茂ると露場の風速が弱まり、 日だまり効果が生じ平均気温が局所的に上昇する。 その際、夜間の気温は下降するが、日中の気温がそれ以上に上昇するため、 平均気温は高くなるのである。

図44.2は日照時間が9時間以上の晴天日について調べた日平均風速と気温日較差 (=最高気温-最低気温)の関係である。気温日較差は、たとえば 風速6m/sの日は平均10℃であるが、3m/sの日は平均15℃である。 このように、風速が弱くなると地面で温められた高温空気が上空へ運ばれ 難くなって、地上付近にたまり地上気温が高くなるのである。

風速と気温日較差の関係
図44.2 前橋の4月の晴天日における風速と気温日較差(=最高気温ー最低気温) の関係(日照時間が9時間以上、1991~2008年の18年間)

次の図44.3は最高気温、日平均気温(毎時24回観測の平均)、最低気温と日平均 風速の関係である。これら3図に示された関係から、前の図44.2の気温日較差 の大きさは、おもに最高気温の上昇によって決まることがわかる。

風速と最高・低気温の関係
図44.3 前橋の4月の晴天日における風速と最高気温、平均気温、最低気温 の関係(日照時間が9時間以上、1991~2008年の18年間)

(c) 樹木の成長が樹高より上の風をなぜ弱めるか?
筆者は2004年から6年間にわたり、各地の気象台や測候所などを巡回し、 観測所周辺の環境変化が風速や気温にどのように影響するかを 調べてきた。

この巡回で筆者が驚いたことは、気象庁の職員の多くは「観測所の近くに 樹木があり、その樹高が風速計高度より低ければ風速に及ぼす影響はほとんど 無い」と考えていることであった。

その例として、後掲の図44.9(旧津山測候所の周りに植えられた桜並木の写真) で示すように、桜の樹高(=10m)が風速計高度(=11.7m)よりも低いに もかかわらず、桜の方から風が吹く時の風速が著しく減速される。これを データで示しても、気象台職員は理解してくれない。他の似たような 例について同様、他の気象台でも理解が難しい人が多い。

こうしたことでは気象観測所の管理は不可能になるので、気象庁内の 学識者に尋ねると、職員の多くは大気境界層の基礎的知識を学ぶ機会に 恵まれていないということである。

そこで、この節では実例により、地物と風速の強弱関係を示し、理解の助け に役立てよう。

次の図44.4は石廊崎測候所の航空写真である。この場所は地形が窪んでおり、 主な風はほとんどが左右(東西)方向である。左方(西)に無線塔があり 右方(東)に測風塔がある。無線塔は1966年に建てられ、2001年3月に撤去 された。

石廊崎における現象の(1):
無線塔・測風塔間の距離は23mあるが、無線塔のほうから風(西風) が吹く時、平均風速は無線塔が無い時に比べて約15%も減速する。

筆者は大気境界層の研究を1960年の頃から開始し、当初は気温や風速の 鉛直分布をいかに正確に測るか、測器の特性とともに、観測塔が 周辺に及ぼす影響を詳しく調べたことがある。塔が周辺の気流に どのように影響するかの1例が「身近な気象」の 「M16.海面バルク法物語」の図16.3に示されている。 その図の右図の右手側が風下であり、減速率0.6の弱風範囲が風下側の遠く まで及ぶことを示してある(ただし、円柱の半径の5倍=5m以上の範囲は 省略されている)。

石廊崎測候所1986年
図44.4 伊豆の石廊崎測候所(標高55m)、上が北、1986年撮影 (石廊崎測候所提供、「石廊崎の気象」より転載)。 (「写真の記録」の「62.石廊崎測候所 (現・特別地域気象観測所)の写真7;「身近な気象」の「M42.正しく 知ろう地球温暖化(講演)」の図42.7に同じ。)

石廊崎における現象の(2):
図44.4は1986年に撮影された航空写真であり、露場外の左(西)方には裸地も 見え、樹木の背丈は現在ほど伸びてはいない。日本の里山はどこでも同じよう に、20年程度のサイクルで樹木が伐採され家庭用の燃料として木炭や薪として 利用されてきた。

ところが1960年代のいわよる「燃料革命」により、家庭 用の燃料はしだいに灯油などに切り替えられることとなり、その後の樹木は 伐採されることなく自然のままに成長することとなった。その結果、現在では 庁舎の窓から東の海は見えなくなっている。

このようにして周辺の樹木の背丈が伸び繁茂することによって、年平均風速 は時代とともに弱まり2005年前後には1960年前後に比べて24%も減少 している。

石廊崎における現象の(3):
測風塔で観測される風速の弱まりは、気温を観測する露場の風通りも 悪くなることでもあり、日だまり効果によって平均気温は上昇する。

次に、気象学のごく基本的な「地上風速」が上空の風よりも弱くなることに ついて説明しておこう。

樹木などの地物の高さが風速計の高度以下であっても、観測風速が弱まる原理 を次の図44.5に示した。また、地表面の種類によって地上風速の弱まり方が 違うことを表3に掲げた。

風が弱まる原理
図44.5 風が弱まる原理を示す模式図

表3 地表面の種類による風速の変化
地表面の種類と風速の関係


参考: 風が弱まる原理の図44.5で説明しよう。風は空気の塊が左から 右に向って動いている。地面が滑らかな氷板ならば、スケーター と同様に勢いよく動くことができる。ところが地面に粗度物体が 敷かれていると、摩擦力が働きスケーターが早く滑れなくなるのと同様に 風は弱められる。物理学的に言えば、風は地面から進行方向と逆向きの摩擦 応力を受け、自身のもつ運動量(速度×空気密度)を地面に与えることに よって減速する。この減速作用は下層からしだいに上層へ及び、地上風速は 粗度の大きい地面上ほど弱くなる。

背丈のある樹木がある場合でも同様に、風は樹木の枝葉によって摩擦力を 受け、自身の運動量(風速)を失い勢いがなくなる。こうしてできた 弱風域は風下の遠くまで広がる。

以上の説明から、樹高が風速計高度より低くても風は弱くなる ことが理解できよう。
風についての詳細は「身近な気象」の「入門1: 境界層と風」、および「研究の指針」の 「基礎1:地表近くの風」に解説してあるので、気象台の方も勉強 してほしい。


表4は石廊崎の環境変化が気象に及ぼした影響のまとめである。

表4 伊豆半島の旧石廊崎測候所の環境変化、まとめ
伊豆半島の旧石廊崎測候所の環境 変化

(1)年平均風速が1966年に7%減少し、2001年に7%増加した。
 → →風が無線塔から測風塔方向へ吹く時
・・・・・風速は15%も弱く観測される・・・・・無線塔の影響

(2)1960年代から年平均風速はしだいに弱くなった。1970年頃は庁舎の 窓から海岸に設置した波高観測の標識が見えたが、現在は樹木が茂り海は 見えない。
 → →1960年前後:6.2 m/s
 → →2005年前後:4.7 m/s
・・・・・風速は24%も減少・・・・・樹木の成長による影響

(3)日だまり効果により、年平均気温が0.25℃上昇した。

注:風が弱くなると、特に日中の気温上昇が大きくなる(図44.3参照)。

なお、石廊崎観測所の周辺は原生林の状態に向かいつつあるので、樹木の 伐採等は行わないがよいと考える。ただし、露場のすぐ近傍は樹木の枝が 伸びてこないように管理しなければならない。

(d) 気候観測は、なぜ住民の協力が必要か?
現状においては、気象庁だけでは環境を保全した高精度の観測は不可能で あると判断される。そこで筆者は、住民の理解と協力を得て温暖化など の気候監視を続けていかねばならないという考えにいたった。それを 表5、表6にまとめた。

表5 気候監視は住民の協力で!
気候監視は住民の協力で!

気温の上昇傾向は今後ますます大きくなることが予想される。気候の現状 把握と、将来予測のためには正しい観測が不可欠である。正しい観測値を 得るには観測所の周辺環境が保たれなければならない。

しかし、観測所の周辺環境はますます悪化し、また敷地は切り売りされており、 気候監視が危うくなっている。

○住民の理解と協力により観測所の周辺環境を保全し、気候監視を続けて 行こう!

表6 気候監視は、なぜ住民の協力が必要か?
気候監視は、なぜ住民の協力が 必要か?

日本各地を巡回してみると、雨量計に生い茂った雑草が被さっていたり、樹木 の枝が伸び気象測器の邪魔になっている所などがある。

(例)露場周辺に成長した樹木があり、それを指摘すると
○「枝切り予算がない」という(地方気象台)
この現状を気象庁本庁に伝えると、「現地気象台には枝切りする程度の予算は ある」という。
○「住民が切らせてくれない」(地方気象台)という。
筆者が住民に気象・気候観測の重要性を説明すると、住民は理解して くれる。

●気象庁職員の多くは、気候研究・観測が仕事と思っていない(アンケート 調査による)。さらに、観測の基本が分かる専門家がほとんどいない。 そのためデータ異常に気づかず、気づいたとしても、その原因が何による のか検討する者はほとんどいない。

○国民は気象・気候の実態を知りたい。そのため住民は、観測所の環境悪化 とデータの品質低下について指摘し、また観測所敷地外の環境は自分たちで 守ろう!

(e) 観測所の環境悪化と対応の例
筆者が気候観測所として選んだ地点のうち、「重要な気候観測所」を 図44.6の地図に示した。このうち、寿都、宮古、室戸岬、屋久島、与那国島 は「日だまり効果」による平均気温の昇温がほとんど認められない5地点 である。 ”認められない” とは、ほかに、環境変化が無い理想に近い観測所 がないために、誤差の評価が難しく、0.1℃程度またはそれ未満と判断される ことを意味する。

その他の地点については「日だまり効果」(実際には都市化の影響も混ざって いる)による昇温量(誤差)を補正しなければならないが、地域による 気候変化の違いを求めたい場合には、必要な地点であり、 大事にしていきたい観測所である。

重要な気候観測所
図44.6 重要な気候観測所

以下では、環境悪化の現状について4地点を例として示す。

その1:飯田(長野県南部)
内陸の数少ない気候観測所の一つである。1897年1月1日に気象観測が開始され、 100年以上にわたる観測データの蓄積があるが、2002年5月27日にやや市街地 の高羽町の合同庁舎に移転している。しかしながら、2006年には無人化された。

筆者は、無人化するならば移転は無駄だったと思う。旧地点は茂った樹木など 枝切りの手入れをすれば、現在地よりはるかに好環境の場所であった (「写真の記録」の「80.長野県の 旧飯田測候所」を参照)。

その後の状況について飯田市に問合せすると、旧測候所の敷地 5,200mは1億1千万円で飯田市が購入し、公園として利用することになった という。現在残っている旧測候所の建物は大正時代の建築であり、保存して 利用するという。

2008年初夏に飯田市で市民講座(連続の集中講座)を開催し、その際に 移転後の現在無人の新観測所の環境(街路樹、露場内の雑草の状況)に注意 していただくよう依頼しておいた。

その2:宮古(岩手県三陸)
2006年7月12日に訪問してみると、露場の南東側にクルミの木が茂っていた。 筆者の訪問について、測候所所長が非番の職員も含め全員に声をかけて あったところ、全職員が集まり、セミナーを開かせてもらった。 露場周辺10m程度の範囲における環境変化が気温データに敏感に影響する 実例をあげて説明した。

宮古のクルミ
図44.7 宮古測候所の露場、2006年7月12日撮影(「写真の記録」の 「58.宮古測候所と周辺アメダス」の 写真7;「身近な気象」の「M42.正しく知ろう地球温暖化(講演)」の図42.29 に同じ)。

測候所長はこのことをよく理解し、ずっと気にし、仙台管区気象台とも 相談されて、年度末の2007年3月26日にクルミの木は伐採された。 この木は測候所の敷地の外に生えていたものだが、持ち主は気象観測の 重要性を理解されて、伐採の許しを出してくれたのである。

その3:津山(岡山県内陸)
図44.8は津山における年平均風速の経年変化である。図では示さないが、 平均風速の弱化と同時に、風速10m/s以上の強風日数は、1961~65年には 平均51日もあったが、2002~06年には平均2日に激減している。これは 防災上からも問題である。

津山の風速
図44.8 岡山県内陸の旧津山測候所における年平均風速の経年変化。4杯式 風速計は回り過ぎ特性により風速が強く観測され、発電式風速計は微風で回転 し難い特性により弱く観測されることを考慮して、風速の真値は赤線で 滑らかに描いてある(「写真の記録」の 「66.岡山県の津山測候所(現・特別地域気象観測所)」の図66.1; 「身近な気象」の「M42.正しく知ろう地球温暖化(講演)」の図42.9に同じ)。

図44.9は旧津山測候所(現在無人)から西方向を撮影した写真である。 津山市役所を訪ね調べてもらったところ、桜並木は市民によって1963~65年 に植えられたもので、現在は樹齢が40年余であることがわかった。

津山西方向
図44.9 津山観測所露場の北側から撮影した西方向の写真、 写真2枚を横に合成したため多少の歪みがある。左端に新測風塔(風速計の 設置高度=11.7m)が写っている。 正面に写っている桜(樹高の露場面からの高さ=10m)の10本余りが従来の 卓越風(西~北西の風)を弱めている。 新測風塔になった2006年以後も西と北北西の風を弱める方向に 桜があるが、北西風の狭い範囲の風向に対しては桜の隙間を吹いてくること になる。左に見えるフェンスの中に気温観測用の露場がある。フェンスの右 側の舗装された広場は、撮影日には敷地売り出用の看板はなかったが、 やがて売りに出される。ここにアパートかマンションが建つと 観測に影響を及ぼすことになる (「写真の記録」の「66.岡山県の 津山測候所」の図66.3、「身近な気象」の 「日本のバックグラウンド温暖化量と都市昇温」の図41.4;「M42.正しく知ろう 地球温暖化(講演)」の図42.10に同じ)。

植樹したのは津山市城東地区の有志によるものである。2007年5月16日 現場において、市役所危機管理課長立会いのもと、連合町内会長に気象観測の 重要性を説明し、特に気象観測の邪魔になっている桜の伐採について理解を 求めた。その後の2007年5月30日には連合町内会長から伐採についての了解を 得た。


注:桜並木の問題はすでに公表済み
桜の伐採についての了解の件は、すでに各地の講演・セミナー、及び新聞や インターネットを通じて公表済みである。「写真の記録」の「66.岡山県 の津山測候所(現・特別地域気象観測所)」の最後の(4)節、「所感」 の「11.気象観測と住民の協力」や、 同じく「所感」の「12.温暖化の監視が 危うい」を参照。


桜は他の樹木と異なり日本人にとって愛でるものであり、津山の城東地区の 有志が毎年のように手入れをしてきている。そのため、筆者は広い市民からの 理解をうるために、講演会開催の打ち合わせのために2009年1月20~22日に 2回目の津山を訪問した。このとき、連合町内会長は新しい方に交代していた。 残念ながら、前の会長からの引継ぎがうまくできていないのか、「桜の話は 初耳だ」というのである。

2009年2月15日に津山市の作州城東屋敷において講演「丹後山の桜並木と気象観測、 地球温暖化の話」を行い、桜の剪定・伐採についての理解を求めた。

図44.9(桜並木の写真)に写った手前の舗装された広場はもと庁舎と宿舎が あった場所であり、面積1,780m2 は現在売りに出されている。 最低価格556万円にて一般入札により売却予定の第一種低層住宅用地である。 2009年6月に再度の入札が行われる。

植樹した桜200本余のうち、気象観測に邪魔になっている桜10本余を地面から 1~2mのところで伐採・剪定すれば数年後に新しい枝が出てくる。そして 樹高が5mを超えないように管理すれば花見もできるし気象観測の邪魔にも ならないことを説明した。なお、写真にも写っている送電線を 保守管理する中国電力の協力を得て、伐採・剪定に必要な経費は筆者が負担 して行うという内諾も得てあるが、住民(連合町内会長)の許可が出ない限り 作業は実行できない。

桜の樹齢は50年近くもあり、伐採・剪定すると枯死する可能性もある。 そこで、売りに出されている敷地を筆者が購入し、津山市に寄付して公園 用地あるいは緊急時の避難所として利用してもらいたい。その敷地の 北の方(右手)の気象観測に影響がない所に新しい桜の苗木を植樹しては どうかということも提案した。 筆者が敷地を購入する条件は、①市役所が筆者からの寄付を受け取るという 確約と、②桜の伐採・剪定について城東地区住民(代表者:連合町内会長 本多正志氏)の承諾が必要である。

津山は日本の数少ない内陸の気候観測所の一つであり、桜10本余さえ無ければ 日本一の好環境である。このことは各地気象観測所を歩いて調べた筆者には わかる。 私財を出してでも津山の環境を守りたい。筆者は資産家ではない。ごく普通の 年金生活者である。

こうした私の活動についてよく理解してくれる方も多いが、 「桜」であることが問題解決を難しくしている。

測候所が設立された1943(昭和18)年からしばらく経った後に、善意では あったが、地域住民によって植樹され、それが気象観測の邪魔になるまでに 成長してしまった。環境問題の難しい点である。 地球温暖化の監視という公共性と、桜を愛でるという個人的な欲望の対立 がある。地域住民になんとか温暖化の監視の重要性について理解してほしい と願うのである。

この解決を難しくしている最大の問題は、津山 観測所を管轄している 岡山地方気象台の理解が進まないことにある。筆者は2007年5月以来、津山へ 行くたびに気象台に何度となく立ち寄り、桜並木の成長が気象観測値 (風速、気温)に影響しているグラフを示し説明するのだが、この関係が どうしても理解できないらしい。このことは、前にも述べたように、 現場の気象台職員の多くが同様で、樹木の背丈が風速計高度より低くても 風を弱める理由がわからないらしい。

気象台から住民に対して桜10本余の伐採・剪定をお願いしてくれれば、 問題は解決できるのだが、気象台は動こうとしない。

表7 岡山県の旧津山測候所の環境悪化、まとめ
岡山県の旧津山測候所の環境悪化

(1)植樹後の昭和50(1975)年ころから年平均風速が弱くなった。
 → →1970年以前:2.3m/s
 → →2000年代:1.65m/s
・・・・・平均風速は33%も弱くなった

(2)植樹前の時代の強風は、最近ほとんどなくなった。
10m/s以上の強風日数は、
 → →1961~65年:51日(32~71日)
 → →2002~06年:2日(0~4日)

(3)日だまり効果により、年平均気温が周辺観測所に比べて0.4℃上昇し、 正しい気候変化が観測できなくなった。

注:植樹した桜200本余のうち、10本余が観測の邪魔になっている。

岡山地方気象台は、桜並木の成長が気象観測値に影響していることをどうして も認めないので、「こうした回答を公表すると気象庁の無知を世間に知らせる ことになり恥ではないか!」として再回答をもとめ、上部機関とも相談するよ うにお願いしておいた。大阪管区気象台業務課と気象庁本庁観測部とも相談 して作成されたという回答でも、桜並木の気象への影響は無い、というので ある。

こうした現状を世間に訴えることによって、世論を起こし気象観測の環境を よくしていきたい。

筆者の今後の予定は、5月23日(土)津山市内で再度の講演会を開催する。 また、岡山地方気象台でも再度のセミナーを行い、特に地表面の状態と 地上風速の関係について理解を深めていただくよう努力したい。

重ねて岡山地方気象台に頼みたいことは、台長が上記の内容を理解された のち、津山に行かれて城東地区連合町内会長にお会いし、 「桜200本余のうちの10本余が気象観測の邪魔になっているので、観測環境 の保全のためにご理解ご協力をたまわりたい」(桜を伐採・剪定させていた だきたい)とお願いしていただきたい。

気象台の台長が、筆者が示したデータ及び新たに追加した説明図(図44.5) などから、桜並木が気象観測値に影響を及ぼしていることが理解できたならば、 私たち一般国民の感覚からすると、 当然なすべき行動だと思うのである。なぜなら、気象台は正常な気象データが 取れるようにすることが仕事(義務)となっているからである。 この際、前記のように、気象台は桜の伐採・剪定にかかる費用は払わなくて よいのである。それは筆者の負担と中国電力のご支援で行うことの内諾を 得ているからである。

その4:深浦(青森県日本海側)
2007年3月28日に青森県の旧深浦測候所(現在無人)の周辺環境を観察した。 深浦は気候変動監視に適した観測所であるが、年平均風速が1970年ころから 減少し当時に比べて現在約35%も弱化している。筆者が現地を訪問する前に、 風速減少の経年変化のグラフを青森地方気象台に送り、風速の減少傾向の 原因を尋ねたが、「原因は不明」との回答であった。

筆者が深浦へ行ってみると、南~南西側に松の木があり、風速計高度(13.3m)を 超える18mまで成長しており、風速減少の原因は一見して理解できた (「写真の記録」の 「64.青森県の旧深浦測候所」を参照)。

ここは深浦町の公園であり、この松は由緒あるもので江戸時代には奉行所が あったという。現在の松のうち2~3本が由緒ある松なのでそれは 伐採はできない。

また、松の根本付近には笹が繁茂しており、さらに無人となった旧測候所の 敷地内の入り口付近には生垣が約3mの高さまで生い茂っていた。 これらが露場の風通りを悪化させ気温が局所的に高くなってしまう (実際には笹と松による日陰が時代とともに広くなり、平均気温を低下させる 逆効果もある)。

近くにお住みの金沢兼作さんに会い、調べて確認していただいたところ、 測候所創設の1939年当時は、笹はあったが現在のように繁茂していなく、 南~南西方向の海岸風景を望むことができたという。

筆者は、この観測所における観測データが気候 変動の監視上重要であることを説明するために、2007年7月20日に再度、 深浦を訪問し、町長はじめ副町長、総務課長、教育委員会社会教育課長など に環境整備の重要性を説明した。

深浦測候所玄関前
図44.10 旧深浦測候所の南側、露場の南側から南西方向を写した写真 (2007年3月28日撮影)

ここは町が管理する公園であり、測候所に続く西側の敷地の範囲は地元の 人々のボランテアにより毎年きれいに整備されている。その奥(東側)の 気象観測所敷地外の南側に茂った笹の刈り取りと乱雑に伸びた松の枝を 切り落とすなどすれば、測候所が開設された当時のような良い環境 になることを説明した。これは公園の美化になるとともに気候観測上からも 望ましい環境となる。

以上のことは、もちろん青森地方気象台で開催したセミナーにおいても 説明した。その後、環境整備方法の具体的資料を青森地方気象台へ 送付しておいた。

2009年3月になってから、その後の状況を深浦町に問い合わせると、旧測候所 の庁舎と宿舎は解体されているが、公園の美化は行っていないという。 測候所用地は1938(昭和13)年に無償で測候所に提供した経緯から、2008年に 無償で深浦町に返還され公園として利用の予定であるが、返還された更地は そのままで手入れはしてないという。

そこで深浦町に対して、「笹の刈り取りと乱雑に伸びた松の枝切りなどの 費用は筆者が出すので、作業をさせてもらえないか」と連絡し、検討を お願いしておいた(2009年3月10日)。

その後、3月24日に町役場の関係者に検討していただいた。

表8 深浦観測所の環境整備
深浦観測所の環境整備

公園と周辺
1.南側の一帯:笹の刈り取り(毎年)
2.公園内の桜の大部分は移植、残す桜は大木にならぬよう剪定(3年ごと)
3.間引き桜の移転先:坂下の道路脇へ
4.乱雑に伸びた松の枝の剪定(3年ごと)
5.露場周辺に植樹するとしても密植せず、樹高は1m以下に管理

44.2 地球の気候、温暖化とは?

地球の気候や温暖化についてのまとめは以下の表9~11、図44.11に示した。

表9 地球の気候、温暖化とは?
地球の気候、温暖化とは?

(1)二酸化炭素COなどの増加による地球温暖化
 → →今日の温暖化問題

(2)地球が受ける太陽放射量の変化による気候変動
*太陽放射量の変化(10年周期、10万年周期、・・・・・)
*地球の反射能の変化(海洋汚染や地表面の改変など)

(3)エネルギー使用量の増加による直接的温暖化(都市の熱汚染が地球規模 に広がる状態)
*広大な太陽光パネル群は地表の人為的改変
 → →”第2の地球温暖化問題(近藤純正による命名)・・・50年ほど 先に問題化?

表10 地球の気候は?
地球の気候は?

地球(大気と地表面)の平均温度は、-19℃(地上の気温は15℃、上空の 気温はマイナス50℃程度)である。

○問題:地球の温度は何によって決まるか?

○回答:①太陽放射、②地球の反射

地球の平均温度の模式図
図44.11 黒い地球(反射がゼロ)を想定したときの地球の平均温度の決まり 方を示す模式図

表11 地球の平均温度の表
地球の平均温度の表

現実の大気による温室効果の正確な計算は複雑になるので、単純な モデルについて計算した結果を次の図44.12に示した。このモデルでは、 大気は太陽エネルギーを完全に透過し、目に見えない長波放射を90%吸収、 残りの10%を透過するとした場合である。この例では地表面温度は22℃、 大気の温度は-25℃で平衡となる。

10%透過の場合の温室効果
図44.12 大気が長波放射を10%透過する場合の温室効果の説明、地表面温度= 22℃、大気の温度=-25℃となる。(「身近な気象」の「7.地球温暖化 の話(講演)」の図7.5に同じ)

図に示すように、 地球に入る太陽エネルギーは面積平均値で238ワット。いっぽう長波放射 として宇宙へ出ていくエネルギーも238ワット(=195+43)である。 ちょうど収支量が等しくなっており平衡状態が保たれることになる。

大気成分
図44.13 大気成分と現在の気候

44.3 日本のバックグラウンド温暖化量

表12 日本のバックグラウンド温暖化量
日本のバックグラウンド温暖化量

(正しい温暖化量はどうやってわかったか?→下記の要素を補正して得られる)

気温に影響する3つの要素
(1)観測方法の変更
観測時刻、器械、1日の区切り(日界)の変更
(2)都市化の影響
緑地の減少、人工排熱の増加、・・・・・・
(3)日だまり効果(新しい造語)
周辺に家が建てられたり、樹木が成長して風通りが悪くなり、平均気温や 地温が上がる

図44.14は観測露場に設置された百葉箱と通風筒の写真である。 百葉箱は1970年代まで使用されてきたが、晴天微風時の日中の最高気温は 1℃程度高めに観測される。 最近は通通筒が用いられ気温センサーの周りに外気を循環するようして いる。

したがって、現在の通風筒を用いた観測に比べ、百葉箱時代の気温は高めに 観測されており補正しなければならない。
寿都観測露場
図44.14 北海道の寿都測候所の観測露場。ほぼ中央に使用しなくなった 百葉箱(白色塗装)、その右方に気温・湿度測定用の通風筒がある。 露場内には手入れされた芝生が生えている(「身近な気象」の 「M21.温暖化と都市緑化(Q&A)」の図21.5、 「M41.日本のバックグラウンド温暖化量と都市昇温量」 の図41.3(a);「M42.正しく知ろう地球温暖化(講演)の図42.3に同じ)。

次に、1日の区切り(日界)が時代によってさまざまに変更されたことで 生じる最低気温の違いを図44.15によって説明しよう。

日界による最低気温
図44.15 1日の区切り(日界)によって最低気温が変わる説明図 (「身近な気象」の「M42.正しく知ろう地球温暖化(講演)」の図42.5に 同じ)

図の青印は日界が9時の場合の最低気温である。日界が24時(1964年以後に 使用中)に変更された場合の最低気温を赤丸印で示した。第2日目の最低気 温は日界によって変わることがわかる。


注意:気候統計表は複数種類あり
気温を例にとると、現在は毎時24回の観測値の平均値が日平均値とされて いるが、時代によっては1日に3回、4回(主に海上保安庁、灯台)、6回、 8回がある。気象庁webサイト(気象庁年報CD、中央気象台年報)には、3回 観測の時代あるいは3回観測の気象観測所のデータは3回の平均値が日平均値 として掲載されている。

一方、気象官署によっては、自記記録紙(バイメタル式温度計)から読み とった気温も統計に入れて1日6回の平均値を日平均気温(月・年平均気温) とした統計表もある。この場合、3回平均の統計値と6回平均の統計値は 0.1~0.3℃違うことがあるので注意のこと。

さらに、気象観測所によるが、最高気温と最低気温の平均値を「平均 気温」と記載したものや「最高・最低の平均」と明記した数値もある。

本ホームページに用いた統計値(特に明記してあるデータ以外)は webサイト (気象庁年報、中央気象台年報)に記載された値を使用してある。特に 3回観測の時代のデータには注意が必要で、筆者は現地気象台・測候所の 原簿(3回平均値と6回平均値が並列に記載)を調べ、webサイト(気象庁年 報CD、中央気象台年報)の数値がどの値かを確認して使用している。

2008年7月14日付け読売新聞夕刊に掲載された筆者の記事への対処について 気象庁内部の全国に流された解説<応答要領>によれば(この解説者は対外的 な仕事に携わる部署の方で、必ずしも専門家ではない)、過去の文書に 記載された内容を述べたもので、実際の数値を確認したものではないことに 注意のこと。


以上のように、観測法の変更やその他の補正を行なうことで、今回はじめて より正しい地球温暖化量(バックグラウンド温暖化量)を求めることができた。 図44.16がその結果である。

日本のバックグラウンド温暖化量
図44.16 日本におけるバックグラウンド温暖化量の長期変化

その他、太陽黒点数、火山噴火、海洋変動との関係についての詳細は 「M42.正しく知ろう地球温暖化(講演)」 の42.2節を参照のこと。

表13 バックグラウンド温暖化量のまとめ
バックグラウンド温暖化量のまとめ

(温暖化→農林水産物に影響)

(1)気温は100年間あたり0.67℃の割合で上昇している
(2)気温は単調に上昇しているわけではない
(3)数十年のサイクルの変動も混ざっている
(4)気温の変動幅は高緯度(北海道)ほど大きい(下記の注)
(5)1988(昭和63)年以降の気温上昇が大きい

○今後も気温の急上昇が続くか、下降をともなう変動なのか?・・・・・ 気候監視が重要

注:表13の(4)気温の変動幅は高緯度ほど大きい、についての詳細は 「K42.基準34地点による日本の温暖化量 の図40.7(黒点数との関係)、図40.9(ジャンプの気温上昇)を参照のこと。

44.4 都市化による気温上昇(熱汚染)

詳細は「M42.正しく知ろう地球温暖化(講演)」 の42.3節を参照のこと。

表14 都市化による昇温(熱汚染)のまとめ
都市化による昇温(熱汚染)のまとめ

(都市設計上の問題点)

(1)戦後復興により1950年頃から都市昇温が顕著になる
ただし、東京と横浜は大震災(1923年)の復興から
(2)経済の高度成長期(1960~80年)に上昇率が大きい
(3)2000年代も、各都市で上昇傾向が続いている
(4)過半数の都市で、熱汚染量は地球温暖化量を超えている
(5)広い面積の舗装化は昇温量を大きくする

都市の熱汚染の緩和策 → 大規模よりも小緑地を多数つくること(下記の注)

注:都市の熱汚染の緩和策として、「大規模よりも小緑地を多数つくること」 の原理は、「身近な気象」の 「M19.温暖化と都市緑化(講演)」の図19.16、または「研究の指針」の 「基礎3:地表面の熱収支と気象」 の3.1節の「予備知識」と図3.1を参照のこと。

要約

表15 要約
要約

1.温暖化の監視が危うい!:
観測所の周辺環境が悪化している。住民の理解と協力により、気象観測の 環境を守っていこう。

2.地球の気候、温暖化とは?:
太陽がエネルギー源であり、地表面付近は温室効果によって適温に保たれて いる。温室効果が急激に強まり気候が急変することが危惧されている。 これが地球温暖化問題である。

3.日本のバックグラウンド温暖化量:
気温変化は、100年間当たり0.67℃の割合で上昇しているが、最近の30年間 の上昇がとくに大きい。今後の監視が重要となる。

4.都市化による気温の上昇:
二酸化炭素の増加による地球温暖化と異なる原因で生じる熱汚染である。 過半数の都市の熱汚染量は、100年間当たりの地球温暖化量よりも大きく、 生活環境を良くする都市設計が必要である。

あとがき

(1)アースデイでも訴える
筆者が現在行っている「気象観測所の環境を守る活動」について理解して くださった知人から、”地球のことを考えて行動する日”=「アースデイ東京 2009」でも広く人々に知らせたらよいとして、展示スペースを確保して くれた。

アースデイ2009年のテーマは ”世界はみんなで変えられる” であり、 CO2削減問題に限らず、現代社会の格差・貧困問題などについても解決し、 みんなが幸せな社会を築いていこう。そのために ”こうすべきだ!” を 強くアピールすることだと聴き、筆者の行動がこの主旨に沿ったもの であると理解できた。

ここでは、広範囲の人々に現状をよりよく理解してもらう必要から、筆者が 見てきた観測所の環境と、さらに筆者が感じた気象庁職員の対処について 正直に書いておかねばならないと思った。もちろん、気象庁には 優秀な人々もいるのだが、これまで筆者が想像してきたのと違い、観測に ついての基本的な知識が欠如している者が多いことは驚きであった。

こうした実情から、温暖化などの気候監視には、どうしても住民の理解と 協力が必要であることがわかった。残念ながら、今日の社会では医療・福祉 の問題でも役所任せにはでなくなってきており、一人ひとりの行動と発言が 必要となってきた。

気象庁でも筆者の活動を知り、改善の動きはあろうが、何年かかるか何十年 かかるのかわからない。その間に観測所の環境悪化は急速に進んでいる。

この数年間、筆者は気象庁(気象研究所、各地の気象台・測候所)の多くの 方と議論し対話してきた。気象庁内部にも現状を改革すべきと思っている 者も多いが、組織が大きくて外部からの圧力がなければ改革はできないと いう。筆者の発言が多少なりともその圧力になればと思っている。

例えば、旧津山測候所の環境整備の問題について気象台の対処の仕方 (桜並木が観測の影響していることを認めないこと)について 各地で話題にしてきた。データを示しても現実を理解できないということ、 つまり基礎的知識の欠如を公表すると、気象庁の恥じになると筆者が 気象台でのセミナーで話すと、「そうした基礎知識の欠如、対処のしかたが 公表されて気象庁が恥じをかけば、改革が進みやすくなり、良質の気候データ が観測されるようになる・・・・・・」と考えている者もいる。

こうしたことから、これまで見てきた真実の姿をこの章に記載した。

(2)不正確な報道もある
新聞等を通じて流れてくる官庁・役所からの情報がいいかげんな 内容のこともあるので、一般の方々は注意しなければならない。関西の ある都市に設置されていたアメダスが移転したことについて、関西の Y 社の 新聞記者から筆者のところに問合せがあった。都市化が年々急速に進んで いるような場合、移転するとその時点で、それまでの長期データは切断される ことになるので、移転はやむを得ない場合に限るべきだ。旧地点アメダスの 周辺に雑草が生えるなど、刈り取れば環境が保たれるなら、移転しないほうが よかった、と筆者は伝えておいた。

ところがその記者は気象台から「移転しても補正できるので移転OK・・・」 ということを聞き、気象台からの情報のみが新聞に掲載された。その新聞の 読者の多くは、新聞記者と同様に気象台の言葉をそのまま鵜呑みにしてしまう。 前述のように、新聞記者など外部と対応する気象台の担当者は必ずしも 専門家ではなく、正しい情報は発信できないことがある。

これは、正しくは統計切断の例である。都市では移転すると補正しても意味がないの で、そうした補正はしないほうがよい。本ホームページの「研究の指針」の 「K41.都市の温暖化量、全国91都市」 の表41.2では、都市内気象台が移転した際は都市化による気温上昇量 (熱汚染量)は不連続として表示してある(例:千葉、神戸、宇和島、岡山、 広島、下関、宮崎)。

補正できるのは、その都市全域の熱汚染量が一定に落ち着いた定常状態に なった場合、あるいは都市化が生じる前の時代のみ可能である。

参考書

近藤純正、1987:身近な気象の科学.東京大学出版会、189pp.

近藤純正、1987:夢氷山ー氷山を日本に運ぶプロジェクトー.東北大学 生活共同組合、146pp.

近藤純正、2000:地表面に近い大気の科学.東京大学出版会、324pp.



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