K59.露場の風速と周辺環境の管理ー指針


著者:近藤 純正
気候観測所の露場の条件は、風通しと日当たりがよいことである。風通しが悪化する と「日だまり効果」によって平均気温が高く観測されるようになる。風通しの悪化は、 露場の風速の観測からわかる。また、露場から見た周囲の樹木・地物の高度角の測量 から得られる露場の実効的な広さの経年変化を知ることが重要である。 (完成:2012年10月 日予定)

本ホームページに掲載の内容は著作物であるので、 引用・利用に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを 明記のこと。

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更新の記録
2012年3月27日:筋書きの完成
2012年3月31日:表59.5と図59.5を追加
2012年4月3日:表59.2へ筑波山頂の測量値を追加


  目次
        59.1 はしがき
          (a)林内の最高気温が高くなること
          (b)露場周辺の風速が気温に影響すること
        59.2 露場の実効的な広さを表すパラメータ
        59.3 風速鉛直分布のパラメータ(ゼロ面変位)の推定
        59.4 露場の風速比と露場通風率
          (a)風速比から露場環境の変化がわかる
          (b)露場通風率が風通しの良し悪しを表す
        59.5 まとめ
        参考文献


59.1 はしがき

(a)林内の最高気温が高くなること
2011年8月から東京の北の丸公園に新露場が開設されて試験的に運用されている。 新露場は森林内に開かれた空間にあり、晴天日の最高気温は大手町の現露場より高温 となり、その温度差は日射量に比例する。年間については、最高気温の差は日照率に 比例する。その内容は「研究の指針」の「K54.日だまり効果と 気温:東京新露場」に掲載してある。

最高気温の差が大きく観測された6日間を代表例として表59.1に示した。夏の日中の 風向は南東~南南東、風速は4~5m/sのことが多い。この風速は、北の丸公園内の 科学技術館屋上の高度35mでの観測値である。


表59.1 北の丸露場と大手町露場の最高気温の差が大きかった日(2011年8~9月)。
    風速と風向は12時~15時、日射量と日照率は1日の平均値である。
月/日  最高気温 最高気温      12~15時(科学技術館屋上) 北の丸  大手町   差   風速  風向  日射量  日照率      ℃    ℃     ℃   m/s W/m2 8/14 34.5 33.6 0.9 4.3 SSE 760 0.48 8/15 34.0 33.2 0.8 4.8 SSE 755 0.70 8/16 34.3 33.6 0.7 5.2 SSE 566 0.56 8/17 34.7 33.8 0.9 5.0 SSE 760  0.65 9/10 33.0 32.3 0.7 5.6 SSE 650 0.79 9/11 32.1 30.9 1.2 3.3 SE 660 0.49 平均  33.8   32.9    0.9   4.7  SSE 692 0.61


北の丸露場は森林内の開放空間にあるにもかかわらず、最高気温がビル街にある大手町 露場より高いのはなぜか?

北の丸露場の最高気温が高くなる原因として「日だまり効果」が考えられる。 大手町露場では、南の方向に広い道路とお堀、その遠方に皇居の森が見え、北の丸 公園に比べれば風通しがよく、周辺一帯は鉛直混合によって地表面付近の熱が上空 へ運ばれやすい。

いっぽう、森林内の北の丸露場の周辺は風通しが悪く、地表面付近に高温気塊が溜まり やすいと考えられる。通常、森林は気温が低いと考えられているが、森林内の開放空間 では晴天日の気温は、日中高く、夜間は低くなる。

筆者が平塚の湘南海岸公園の南側にある防風林内で風速を観測していたときのこと、 林内の遊歩道を時々歩くという人が通りかかった。会話しているうちに、筆者が 実施中の風速観測の目的を理解したようで、その方の言うのには「林内が林外より 暑いと感じることがある」という経験則を話してくれた。ちなみに、防風林内の 風速は海岸公園の広場中央部の風速に比べて約1/6 である。ただし、人間の体感温度 は気温のほかに風速にも依存するので、よけいに林内に居るほうが暑く感じることも あるわけだ。

林内の気温が高いという問題のほかに、気象観測所周辺環境を管理する際の指針の 作成、さらに都市昇温の緩和策にとっても、「日だまり効果」による気温上昇を 定量的に評価しておかねばならない。

(b)露場周辺の風速が気温に影響すること
露場で観測される気温に影響する「周辺の地表面温度」や「樹木の枝葉の温度」など は地表面付近の風速に大きく依存する。

森林内の開放空間では日射が林内の下層まで届き、下層の葉温は気温に 比べて DTs=2~10℃も昇温する。蒸散があっても葉温は昇温し、その昇温量は葉面 の熱交換速度つまり風速に依存する。その昇温した葉面間を通ってきた風下の気温は 上昇する。気温上昇量は風速が弱いほど大きくなる。その関係は図59.1(気温下降量 を表す図)とは逆だが、類推から理解されよう。

図59.1は、風が左方の戸外から右側の室内に向かって吹くとき、緑のカーテンの 気温下降量 DTを示したものである。日射を受けた第1列目の葉温は気温より2~10℃も 昇温するのに対し、その日陰の木漏れ日を受けた第2~3列目の葉温は気温より 低温となり温度差は DTs=-3~-6℃となる。これらを通り抜けてきた風下空気の 気温下降量DTは、風速が弱いほど大きくなる。

開放空間ではなく、森林内では樹冠上部で日射量の大部分が吸収され、その下層の 林床付近では低温(いわゆる森林内は涼しい)となる。

函
図59.1 緑のカーテンの効果を示す模式図。日除けの役目の葉面(オレンジ)の右 方に、葉面(ミドリ)が重ねられたときの風下側の気温下降量 DT 、ただしβは 個葉の蒸発効率である。「身近な気象」の 「M61. 都市昇温の緩和策」の図61.6(緑のカーテンの効果)に同じ。 林内の開放空間の気温は、この図に示された風向と逆に吹き、林内より高温となる。

要約すると、開放空間では周辺の枝葉による昇温効果と、日射が差し込む林床地表面 による昇温効果が重なって気温が高くなる。

風速は地物・地表面温度を決めるときの重要な因子であることに注目し、本シリーズ 研究は、まず、簡単な直線状防風林の風下風速を調べることから始めた。この場合、 防風林風下の風速低減率は、無次元風下距離(X/h)の関数として表すことができた。 ここに、 X は風下距離、h は平均的な樹高である。

次に選んだ試験地として、森林内の円形状空間について調べた。この場合の高度 2m付近の風速低減率も、防風林の場合と同様なパラメータ「空間の広さ」 (X/h=1/<tanα>)の関数として近似的に表すことができた。また、風速比 (=露場風速 / 測風塔風速)から、露場とすぐ近傍の環境変化を知ることができた。

以上は、「K56.風の解析ー防風林などの風速低減域」 および「K57.森林内の開放空間の風速」に掲載した内容 である。

現実の観測露場の周辺環境は複雑であり、特に、東京など大都市に存在する観測所 周辺には高層ビル群がある。例えば大手町露場から見上げた高度角の平均値 (<α>=25°)は、森林内の北の丸露場(<α>=18°)と比べて大きいにもかかわ らず、広い道路やビル群落の隙間などを通り抜けてくる風・出て行く風もある。 そのため、露場の風速低減率は「露場の広さ1」(X/h=1/<tanα>)だけでは表現 しきれない。それゆえ、新しいパラメータが必要となる。

主な用語と記号
風速比=露場風速 / 測風塔風速
露場通風率=風速比 / 理想露場の風速比
理想露場の風速比=0.74±0.06(測風塔高度=10~25mに依存)
風速比は、中立安定度の時の値であり、風が弱い時は大気安定度の影響があるので、 解析に含めない。

X:開放空間の平均的な半径
h:周辺の樹木や建築物の平均的な高さ
α:露場の地表面から h を見上げたときの高度角
<>:全方位についての平均値を表す
<tanα>:半径 X の円形空間の場合、樹木・建築物等の高さの平均値(無次元)
露場の広さ1:1/<tanα>・・・・無次元
露場の広さ2:<1/tanα>・・・・無次元

本研究は、気象庁・各地気象台によるαの測量値、その他資料のご提供を受けて行う ものである。

59.2 露場の実効的な広さを表すパラメータ

露場周辺を含む「露場の広さ」は空間の開け具合「開放度」、あるいは天空の見える 割合「天空率」と、ほぼ一対一の関係にあるパラメータである。

表59.2は、試験地や露場の広さを表す諸パラメータの比較である。ただし、 高度角αの測量だけから得られるパラメータである。ここに、αは全方位を10°間隔 (5°間隔の場合もある)で36方位(72方位)を測量し、その平均値を<>で表した。 ばらつきの標準偏差は±で表した。この偏差が大きいほど複雑なことを意味し、 その度合いも周辺環境を表すもう一つのパラメータとなる。

東京の大手町露場は西側に竹橋合同ビル(KKR竹橋)があり、露場から見上げた 高度角は50°を超え、8階建ての気象庁の庁舎も40°前後、平均値<α>は約25°も あり、北の丸露場の<α>=18°よりも大きい。しかし、大手町露場では、南南西 方向には皇居の森が低い高度に見え、全方位の平均値<α>=25°の割には、風の 通り抜けもある。そのため、<α>から得られる「露場の広さ1」 (X/<h>=1/<tanα>)よりも、方位ごとのαを使って計算した「露場の広さ2」 ( <X/h>=<1/tanα> )がより適切なパラメータとなる。後者は各方位ごとの 1/tanα を全方位について平均した値である。


表59.2 露場の広さを表すパラメータ(未完成)
   α:試験地の中央付近または露場面から測った周辺地物の高度角(度)
   <α>:高度角αの全方位平均値(度)
   1/<tanα>=X/<h>:露場の広さ1(無次元)
    <1/tanα>=<X/h>:露場の広さ2(無次元)
   右端列の(%):標準偏差の平均値に対する比、大きいほど高度角分布が複雑である
  αの1桁の表示値は写真測量等による概略値

 試験地や露場名   <α>  1/<tanα>     <1/tanα>
 
 大久保公園    21.3±7.4   2.5     3.0±1.5(50%)
 平塚総合公園   12.8±3.1   4.4     4.7±1.2(26%)
 農環研露場         7.4±3.3   7.7     9.0±3.3(37%)
 筑波大学圃場    7.2±1.6   7.9     8.3±1.9(23%)
  筑波山頂          22 ±18        2           5 ± 5   (100%) 
  大手町      25.5±17.2   1.8     4.0±4.1(103%)
  北の丸
  館野(sonic)        9.7±2.9      5.8         6.7±3.6(54%)

 札幌
 網走
 室蘭
  青森
 盛岡
 秋田
 仙台
 宇都宮
 熊谷
  横浜
  静岡
  名古屋
  彦根
 岡山
 高知

 寿都
 浦河
 深浦
 宮古
 石巻
 相川
 伏木
 奥日光
  石廊崎
  御前崎
  飯田
  津山
  多度津
  境
  浜田
  平戸
 室戸岬
 土佐清水
 屋久島
 与那国島


注1: X/<h>=1/<tanα>は円形状の空間(周りが森林で囲まれた開放空間)では、 周囲の平均的な樹高の平均値を表す。他方の<X/h>は、少し意味が異なる。つまり、 ある方位角のX/hが大きければ(見通しがよければ)、風が通りやすくなる。全方位の 平均値<X/h>=<1/tanα>が大きい露場ほど、風の入りやすい方位が多いことを意味 する。
備考: 筑波山頂の観測所については、筑波大学の林陽生教授の案内で測量 した値である。

東京の大手町露場などの周辺環境は、これまでの「K56.風の 解析ー防風林などの風速低減域」「K57.森林内の開放 空間の風速」で調べてきた環境よりも一層複雑多様である。

59.3 風速鉛直分布のパラメータ(ゼロ面変位)の推定

露場の風通しの良し悪しを表す「露場通風率」は、理想的な広大な露場を想定した ときの露場風速に対する現実の露場風速の割合(%)で定義した。これは前節の 「K57.森林内の開放空間の風速」で定義したものと同じで ある。

この定義式に含まれる「風速比理想値」=露場風速 / 測風塔風速の観測値 =Ur/U=ln(zr/zo) / [ln(zA-d)/zo],( zo=0.003m)の 計算にはゼロ面変位 d が必要となる。この式の分子は理想的露場の高度 zr (=2m程度) における風速 Ur、分母は現実の測風塔における風速の観測値 U である。 現実の測風塔は森林や都市ビル群落にあり、d はゼロではない。

本章では、d を次のようにして推定した。ロスビー数相似則は、大気境界層トップと 接地境界層内の風速・気温・水蒸気量の関係を結びつける関係である (「水環境の気象学」、5.7節)。大気境界層トップの風速として900hPa面の風速 を用い(1981~2010年の気候値、仙台と那覇は2005年と2006年の2年間の平均値)、 接地境界層内の風速として測風塔における平均風速を用いる(原則として最近数年間 の平均値)。ここでは、d の概略値の推定でよいので、近似的に中立の安定度とみな される気候値を用いた。

通常、ゼロ面変位 d は大気安定度が中立に近い強風時に接地境界層内の4高度で 観測された風速の鉛直分布から、粗度 zo と d を同時に求めるのだが、不規則的な 建築物が配置された都市では、気象要素が局所局所で大きく変化し、水平面内での 空間平均の操作を行わねばならないなど、観測が非常に難しい。その代わりに、 ここではロスビー数相似則を利用して、接地境界層内の1高度の風速(測風塔風速) だけから決めたいが、この方法では zo と d は同時には決めることはできない。

それゆえ、一方を仮定したとき他方がもっともらしい値として得られるかどうかの 手法によってゼロ面変位 d を推定する。この場合、zoを仮定して d を決める方法 では誤差が大きくなるので、その逆の d を仮定して zo を決める方法をとる (zoは対数で表した場合の精度で十分である)。

近藤・山澤(1983)及び Kondo and Yamazawa(1986)が提案した、土地利用の数値 情報を利用する方式に基づいて、1980年代の全国気象観測所周辺の粗度 zo (1980年代値) は方位別に求められているので(近藤・桑形・中園、1991)、 その全方位平均値と比較して、zo がもっともらしい値かどうかが判断できる。

この手法によれば、以下の解析からわかるように、測風塔風速に関する新しい情報 (地形パラメータ)も得られる。

図59.2は緯度=20~60°を対象にして描いた風速の鉛直分布である。パラメータは 地表面の粗度 zo である。縦軸は対数目盛で表した z-d 、横軸は地衡風速 Vg に対 する接地境界層内の風速 U の比である。

風速鉛直分布
図59.2 緯度38°、中立安定度の条件のときの接地境界層内の風速の鉛直分布、 パラメータは地表面粗度 zo である。横軸は U/Vg, ただし U は風速、Vg は地衡 風速である(「地表面に近い大気の科学」、図3.7の横軸を加工してある)。

手法の順序
測風塔の風速計高度を zA 、その風速を UA、地衡風速を Vg とする。
(1)セロ面変位 d を仮定すれば、(2)zA-d が決まり、(3)図59.2 を利用して UA/Vg から粗度 zo を読み取ることができる。

表59.3はその結果である。1980年代の粗度 zo(1980年代値)と矛盾しない新しい 粗度が得られた。

zo(1985年代値)に比べて桁違いに小さい地点がある。それらは 観測所が丘や尾根や岬に存在する地点、および八丈島、那覇、石垣島、与那国島 である。つまり桁違いの粗度が得られたことは、理想的な境界層として想定した 広い平野ではなく、特殊な地形であることを意味している。


表59.3 ロスビー数相似則を利用して得られた観測所周辺の地表面粗度 zo の推定値。
    農環研の測風塔風速は2006年~2011年の平均値
  筑波大学の測風塔風速は1982年~2011年の平均値
  自然教育園の測風塔風速は2009年12月~2011年11月の平均値
  その他観測所の測風塔風速は最近の数年間の平均値
  900hPa面風速のVg(小数点以下2桁の表示)は1981年~2010年の気候値、
        仙台と那覇は2005年~2006年の2年間の平均値、
        下1桁の表示の Vgは周辺からの推定値
  1980年代粗度:土地利用の数値情報を利用する方式に基づいてもとめた粗度

露場   風速計	測風塔	900hPa		1980	
	高度m	年風速	年風速		年代	d     ZA-d    Zo    備考
	ZA	UA	Vg	UA/Vg	Zo    仮定	     推定
	m	m/s	m/s		m    m      m
								
農環研	25.0 	2.67	7.25 	0.368 	―	5     20.0    0.6 
筑波大	29.5 	2.75	7.25 	0.379 	―	5     24.5    0.7 
教育園  20.0 	2.02  8.0 	0.253 	―     10     10.0    1.0   森林
大手町	35.1 	2.9	8.0 	0.363 	1.0   ―      ―   ―	
北の丸  35.1 	2.9	8.0 	0.363 	1.0    10   25.1    1.0   森林
館野	20.4 	2.3	7.25 	0.317 	0.9 	5     15.4    0.9 	
									
稚内	23.4 	4.4	9.70 	0.454 	0.05 	5     18.4    0.2 	
札幌	59.5 	3.4	8.05 	0.422 	0.9    10     49.5    1.2 	
網走	15.6 	3.2	9.6 	0.333 	0.3 	0     15.6    0.7 	
根室	29.0 	5.2	9.45	0.550 	0.7 	5     24.0    0.1   丘
室蘭	18.2 	4.6	9.2	0.500 	0.4    10      8.2    0.02  丘
函館	25.6 	3.5	8.8 	0.398 	0.4 	5     20.6    0.4 	
青森	30.4 	3.6	8.8 	0.409 	0.6 	5     25.4    0.5 	
盛岡	15.2 	2.9	8.5 	0.341 	0.9 	5     10.2    0.3 	
秋田	39.9 	4.3	8.80 	0.489 	0.6 	5     34.9    0.2	
仙台	52.0 	3.1	8.10 	0.383 	1.1    10     42.0    1.5	
輪島	28.3 	3.7	8.40 	0.440 	0.7 	5     23.3    0.3 	
宇都宮	49.2 	2.9	7.3 	0.397 	0.6    10     39.2    1.2 	
熊谷    16.8    2.4     7.6     0.316   0.8     5     11.8    0.6  
横浜	19.5 	3.4	8.0 	0.425 	0.6    10      9.50   0.1   丘
静岡	16.3 	2.2	8.2 	0.268 	0.8    10      6.3    0.5	
八丈島	18.1 	4.8    10.45	0.459 	0.7 	0     18.1    0.15  島
名古屋  17.9    2.9     8.5     0.341   1.0    10      7.9    0.25  丘
彦根	17.4 	2.7	7.2 	0.375 	0.2 	5     12.4    0.3 	
米子	18.1 	2.8	8.20 	0.341 	0.6 	5     13.1    0.5	
潮岬	15.1 	4.2	8.65	0.486 	0.11 	0     15.1    0.06	
岡山	70.8 	3.0 	7.5 	0.400 	0.8    10     60.8    2.0 	
高知	15.3 	1.7	8.4 	0.202 	0.8    10      5.3    0.8	
福岡	34.6 	2.9	7.60 	0.382 	0.8    10     24.6    0.7	
鹿児島	44.8 	3.3	8.20 	0.402 	0.9    10     34.8    1.0 	
名瀬	20.7 	2.6	9.00 	0.289 	0.6 	5     15.7    1.0 	
那覇	47.8 	5.3	8.70 	0.609 	0.3    10     37.8    0.03  島
石垣島	28.9 	5.3	8.10 	0.654 	0.06 	5     23.9    0.003 島
南大東	21.9 	4.6	8.00 	0.575 	0.04 	0     21.9    0.02  島、盆地
									
寿都	17.4 	4.0 	8.3 	0.482 	0.02 	0     17.4    0.1	
浦河	17.9 	4.3	8.8 	0.489 	0.09 	0     17.9    0.08  尾根
深浦	21.9 	4.0	8.5 	0.471 	0.5 	0     21.9    0.15 丘
宮古	20.1 	2.3	7.5 	0.307 	0.7 	0     20.1    1.5	
石巻	28.5 	4.2	8.1 	0.519 	0.9 	0     28.5    0.1  丘
相川	33.6 	4.9	8.6 	0.570 	0.3 	0     33.6    0.05  海岸
伏木	15.1 	2.6	8.2 	0.317 	0.6 	5     10.1    0.5 
勝浦	12.3 	3.3	8.5 	0.388 	0.6 	5      7.3    0.1 
奥日光	11.1 	3.2	6.5 	0.492 	0.8 	0     11.1    0.1 
石廊崎	12.3 	4.3	8.7 	0.494 	0.04   10      2.3    0.002  岬
御前崎	16.3 	4.8	8.7 	0.552 	0.30 	0     16.3    0.02   台地
飯田	36.0 	2.3	6.5 	0.354 	0.7 	5     31.0    1.5
津山	11.7 	2.1	6.5 	0.323 	0.7 	0     11.7    0.5 丘(内陸盆地) 
多度津	12.1 	2.4	7.5 	0.320 	0.1 	0     12.1    0.6 
境	11.6 	2.2	8.2 	0.268 	0.6 	0     11.6    1.0
浜田	14.8 	3.7	7.9 	0.468 	0.4 	0     14.8    0.1     丘
平戸	12.4 	3.4	7.6 	0.447 	0.5 	0     12.4    0.1     台地
室戸岬	21.8 	6.8	8.7 	0.782 	0.02   10     11.8    1.0E-06 岬
清水	14.7 	3.5	8.4 	0.417 	0.07 	0     14.7    0.2	
宇和島	33.2 	2.8	8.2 	0.341 	0.40 	5     28.2    1.5
屋久島	 7.0 	5.1	8.6 	0.593 	0.40 	0      7.0    0.001   島
与那国	14.3	6.8	8.1 	0.845 	0.2 	0     14.3    1.0E-07 島


今回の地表面粗度の推定結果(表59.3)から、次のことがわかる。

(1)突起状地形
岬や丘や台地状の地形では、見かけの粗度が非常に小さく推定された。これは地形が 突起状で、風当たりのよい地形を表すものである。

これら地点における UA/Vg は大部分が0.5以上である(一部に0.45前後も 含む)。 これは以前に調べてあった「地形突起度」(=山頂の標高-半径1km円内の平均 標高)とUA/Vg の関係で得た結果と同じである(「身近な気象の科学」、 図15.2;桑形・萩野谷・近藤、1986)。すなわち、地形突起度>0ではUA /Vgは0.5以上の値をもち地形突起度に比例して大きくなる。富士山頂では最大となり 地形突起度=300m、UA/Vg=1である。

(2)島の地形
島の観測所についても見かけ上の小さな粗度が得られた。これは、ロスビー数相似則 が適用できるほど大気境界層の厚さが水平方向に一様化されてない所、つまり海洋上 の境界層と島の上にできた新しい内部境界層が上下に重なって存在していることを 意味する。

いずれにしろ、これら(1)と(2)の両者は地衡風速に比べて測風塔風速が強めに 観測される観測所である。もし、これら観測所の露場通風率が大きければ、良い 観測所となる。

(3)深浦
深浦(青森県)は日本海沿岸を代表する重要な気候観測所である。海岸段丘上の 公園内に設置されており、もともとは周辺を見渡せることができ、風当たりのよい 地形であるにもかかわらず、今回の粗度の推定値は zo=0.15mとなり、zo(1985年代値) =0.5mに比べて大差がない(対数値での比較)。地形の割に、風速が弱いことは何を 意味しているか?

深浦観測所敷地の周辺には江戸時代から存在した数本の松のほか、近年、若い松が 成長し、さらに桜などが密に植樹された。そのため風通しが悪化したので、筆者が 伐採・剪定をお願いし、2回の環境整備によって、桜など33本の伐採、松15本の乱雑 な枝を切り取っていただき、さらに伸び放題であった笹竹のかなりの範囲も刈り 取っていただいた。

この環境整備によって、見違えるようにきれいになった。しかし、松の枝切りに際して 松自体の風圧を減らし観測所への通風もよくするという一石二鳥の作業が十分では なかった。つまり、南西風(南~西の強風)に対して両手を広げるように横に伸びて 風に抵抗するような枝は切り落とされていない。これらの枝を切り落とせば、 由緒ある松の保護にもつながる。数年前の強風では高樹齢の由緒ある松の数本 (4~5本)のうちの1本が倒木している。

次回の環境整備では、このことに注意して作業していただければ、たいへん有難い。 露場の風止めになっている笹竹も、一部は江戸時代から生えていたヤダケとして残し、 もう少し広い範囲まで刈り取って露場の通風を良くしていただきたい。

この公園は江戸時代に奉行所があった由緒ある公園、松も南西の強風に耐えるよう 北東に傾いている。自然の風の吹き方が枝ぶりにも現れるように剪定すれば、観光にも 生かせる。測候所が開設された昭和初期には、この場所から眼下に港がよく見えたと いう。

本節のまとめ
ゼロ面変位 d として、妥当な値は次の通りである。
森林・・・・樹高×0.7
都市・・・・10m
小都市・・・5m
その他・・・0m

参考1:近藤・山澤(1983)が東北地方南部3県(宮城、山形、福島)の アメダス地点について1981~1982年の連続強風日の風速から推定してあったゼロ面 変位は、次の通り。
仙台:d=7m
山形:d=5m
福島:d=5m

研究課題のヒント:都市における地表面の粗度 zo とゼロ面変位 d の評価
本章の目的では、ゼロ面変位は概算値でよいのだが、複雑な都市大気の境界層の 詳細構造を知るのに、あるいは暴風時のより正確な風速の予知にも、粗度とゼロ面 変位のより正確な値が必要となる。その場合は、地衡風速と測風塔風速をロスビー数 相似則に適応してゼロ面変位と粗度を同時に求める。

ゼロ面変位と粗度の統計的な相関関係を用いれば、両者は同時に求められる。 例として、都市のゼロ面変位と粗度がどのように経年変化しているかを知る研究は よいテーマとなる(博士の学位をもつ者と同等以上の実力者向けのテーマ)。

この場合、大気安定度が中立と見なせる強風時の風速データを用いるが、一般に 強風時は温度風の影響が無視できないことがある。温度風の補正方法として、 900hPa~700hPa高度面の風ベクトルの高度変化を利用して地上の地衡風速が推定 できる。注意すべきは、例えば強風時に大気安定度と傾圧性の効果を受けて、 地上~概略700hPa面付近までの風ベクトルが、いわゆるエクマン・スパイラルでない 特殊な分布をすることがある(Kondo、1977)。

59.4 露場の風速比と露場通風率

日だまり効果による平均気温の上昇量は、露場とその周辺の地表面及び地物の表面 温度に依存する。これを量的に評価するには露場とその周辺一帯の風速を知らねば ならないが、以下では便宜的に露場で測った風速(高度2m程度)を代表値として 利用する。

参考2:ちなみに、東京の大手町露場外側のすぐ北・東・南側で測った 2011年12月20日午後の平均風速=0.5m/s に対し、露場の南の気象科学館西側広場 (西風が竹橋合同ビルの南側を回ってきやすい場所)とお堀端での平均風速=1.2m/s で約2倍の違いがあった(延べ観測時間=70分間)。

前節で推定されたゼロ面変位 d を用いて、各地の気象観測露場における 「風速比」(=露場風速 / 測風塔風速)と、露場の風通しを表すパラメータ 「露場通風率」(=風速比 / 風速比理想値)を求める。

一般に風が弱い時は大気安定度の影響があり解析が複雑になるので、微風時のデータ (測風塔風速<3m/sの弱風データ)は原則として解析に含めない。

(a)風速比から露場環境の変化がわかる
図59.3(a)は筑波大学陸域研究センター圃場(筑波大圃場)における風速比の 方位角依存性である。全体的な傾向は、圃場中心付近の地面から見た周辺の障害物 までの無次元距離 1/tanα(=X/h) の方位角分布とよく対応している (「K57.森林内の開放空間の風速」の57.4節「森林内の 開放空間の風速」の(2)筑波大学陸域研究センター圃場(筑波大圃場)を参照の こと)。

注目すべきは、西~北西の風向(270~315度)の範囲で風速比が急変し、約0.3から 約0.5に急上昇していることである。この原因は何によるのか?

筑波大風向別風速比
図59.3 筑波大学陸域研究センター圃場の高度1.6mの風速の高度29.5mの風速に対 する比(風速比)の風向依存性、2009年毎時データのうち、強風時(U1.6≧2m/s)の 関係、風向は高度29.5mの値である。見やすくするために北~東方向を360~450度 に繰り返してプロットしてある。(「K57. 森林内の開放空間 の風速」の図57.5に同じ。)

現地に行って見ると、観測塔(29.5m高度の風速計、1.6m高度の風速計設置)の 南西~西側に生態系調査のため長年刈取されない草地が存在していた。1.6m高度の 風速計からその草地までの最短距離は西側で18mある。距離は最短の西から反時計 回りに南西に向かって遠くなっている。

図59.4は1.6m高度の風速計の近くから西向きに撮影した写真である。ひと(筆者) が両手を上げて立っている位置が草地の端(距離の短いほうの端)である。風向が この端から北寄り(写真で右方向)になると、図59.3に示すように風速比が急上昇 している。

草地の写真
図59.4 筑波大学陸域研究センター圃場の高度1.6mの風速計付近から西側を撮影した 写真(2012年2月28日)。

刈り取りされない草地の範囲、すなわち方位角=250~290度(西側)について測量した 無次元距離(X/h=1/tanα)は5.4~7であり、これは圃場半径75m以遠の樹木の高度 角によるものであり、草地上端の高度角はそれより低い。

以上のことは、露場環境の管理には高度角の測量のほかに露場風速も継続して必要な ことを教えている。

距離18mは、一般の特別地域気象観測所の観測露場のフェンスまでの距離に相当する。 この例のように、露場のすぐ外側に雑草が成長すると、風速比に敏感に現れる。 気候観測所など重要観測所では、今後、露場風速を継続して、断続的でもよいので 観測することが望ましい。

表59.4は各地の露場における風速比と露場通風率の一覧である。風速を熱線風速計で 観測した場合は補正してある。補正方法は「K58. 熱線風速計 の検定と指向性」を参照のこと。


表59.4 各地の露場における風速比の観測値と露場通風率(未完成)
 風速比=露場風速 / 測風塔風速
     熱線風速計で測った風速比は指向性などを補正した露場風速を用いた
    露場風速>3m/s を解析(3m/s以下は備考を付す)
 風速比理想値=Ur/UA=ln(zr/zo) / [ln(zA-d)/zo], zo=0.003m
  露場通風率(%)=風速比 / 風速比理想値
  d:ゼロ面変位(森林は樹高×0.7、都市は10m、小都市は5mとした)

 露場名  測風塔高度  有効高度 露場風高度 風速比  風速比 露場通風率
        zA(m)    zA-d(m)  zr(m)           理想値
        
 農環研    25.0   同左    1.85   0.58   0.71    81%
 筑波大学   29.5   24.5    1.6    0.46  0.70    66
  筑波山頂      15.0      同左      2.0              0.76
 館野     20.4   15.4      1.5              0.73

  大手町    35.1      23.9       2         0.72
  北の丸        35.1      23.9       2               0.72

 札幌     59.5      49.5       2               0.67
  網走          15.6      15.6       2               0.76
  室蘭          18.2       8.2       2               0.82
  青森     30.4      25.4       2               0.72
 盛岡     15.2      10.2       2               0.80
 秋田     39.9      34.9       2               0.69
 仙台     52.0      42.0       2               0.68
  宇都宮    49.2      39.2       2               0.69
  熊谷          16.8      11.8       2               0.79
  横浜     19.5       9.5       2               0.81
  静岡     16.3       6.3       2               0.85
 彦根          17.4      12.4       2               0.78
  岡山     70.8      60.8       2               0.66
 高知     15.3       5.3       2               0.87
 石垣島       28.9      23.9       2               0.72

 寿都        17.4      17.4       2               0.75
 浦河        17.9      17.9       2               0.75
 深浦        21.9      21.9       2               0.73
 宮古        20.1      20.1       2               0.74
 石巻          28.5      28.5       2               0.71
 相川          33.6      33.6       2               0.70
 伏木          15.1      10.1       2               0.80
 勝浦          12.3       7.3       2               0.83
  奥日光       11.1      11.1       2               0.79
  石廊崎       12.3       5.3       2               0.87 
  御前崎        16.3      16.3       2               0.76
  飯田        36.0      31.0       2               0.70
  津山        11.7      11.7       2               0.79
 多度津        12.1      12.1       2               0.78
 境            11.6      11.6       2               0.79
 浜田          14.8      14.8       2               0.76
  平戸          12.4      12.4       2               0.78
  室戸岬       21.8      11.3       2               0.79
  清水          14.7      14.7       2               0.76
 屋久島         7.0       7.0       2               0.84
  与那国島   14.3      14.3       2               0.77


(b)露場通風率が風通しの良し悪しを表す
露場の風速が理想的な露場の風速に比べて何%かを表す露場通風率は表59.4の右端列 に示した。露場通風率が概略60%以上は、比較的よい環境といえる。この値が変化 しないよう、今後の管理に注意しなければならない。

一方、50%以下でも変化しなければよいわけだが、特に樹木の場合は成長にしたがって 露場通風率が緩慢に変化するので、長期にわたり見て行かねばならない。

表59.5 各地露場における長時間観測による風向別の風速比と露場通風率(未完成)
 広さ( X/h=1/tanα ):1/tanα について風向を中心とする方位角の±20度範囲の平均値
      α:露場風速計の地面から測った周辺の樹木などの高度角(°)
      h:周辺の樹木などの高さ(m)
      X:周辺の樹木までの距離(m)
 風速比=露場風速 / 測風塔風速
 風速比理想値=Ur/UA=ln(zr/zo) / [ln(zA-d)/zo], zo=0.003m
  露場通風率(%)=風速比 / 風速比理想値
  d:ゼロ面変位(森林は樹高×0.7、都市は10m、小都市は5mとした)

 露場名  測風塔高度  有効高度 露場風高度  広さ   風速比  風速比 露場通風率
  風向    zA(m)     zA-d(m)    zr(m)                 理想値     %
        
 筑波大学   29.5   24.5    1.6                  0.70
    NE                                      11.3     0.54              77
    ENE                                     10.7     0.51              73
    E                                        9.7     0.47              67
    SSW                                      7.7     0.42              60
    NW                                       8.4     0.51              73
  自然教育園    20.0      10.2       2                       0.74
    sonic2                                   1.3     0.233             31

 館野     20.4   15.4      1.5                      0.73

備考
筑波大学 :2009年の1年間の毎時データのうち強風時(U1.6≧ 2m/s)で、観測頻度の多かった卓越風の条件のみを採用(図59.3でプロットの多い 風向時)。
自然教育園 :旧事務棟跡の開放空間において2012年3月6日~26日の期間、 タワー風速>3m/s の条件における超音波風速計による観測値( 「K57. 森林内の開放空間の風速」の表57.1を参照)。
館野 :館野高層気象台露場において、2011年7月1日~2012年3月31日の 9ヶ月間、気象庁気象測器検定試験センターによる超音波風速計(地上高度=1.5m) の観測値、ただし測風塔風速(地上高度=20.4m)>3m/s を採用。観測場所は、 ルーチン観測のAO95型測器(気温・湿度計など)からNNE方向へ約16mの距離。


図59.5は各地気象観測所の露場内(または露場周辺)で観測した風速比から求めた露場 通通率と風向別の露場の広さの関係である。風向は測風塔における観測値である。 露場の風向は必ずしも測風塔の風向と同じとは限らず、周辺が複雑な場合は渦を巻き 反対の風向が起きることもある。

図の横軸に表した風向別の露場の広さは、測風塔風向を中心とする方位角±20度の範囲 の 1/tanα(=X/h) の平均値である。

露場の広さと露場通風率の関係
図59.5 風向別の露場の広さ(X/h=1/tanα)と露場通風率の関係(未完成:2012年3月現在)。
測風塔における風向は時間的に変動するので、露場の広さは、1/tanα について風向 を中心とする方位角の±20度範囲の平均値で表してある。
大きい記号:長時間観測値(表59.5)
小さい記号:10分~50分間の短時間観測値(各地気象観測所の露場)
破線:実験式(「K57.森林内の開放空間の風速 」 の図57.10の破線)

大きい記号のプロットは長時間観測値、小さい記号のプロットは各地の観測所において 熱線風速計による臨時観測値である。参考のために示した破線は、これまでの観測から 得た実験式である(「K57. 森林内の開放空間の風速」の 図57.10の破線)。

これまでの観測は、直線状の防風林の風下や円形状の開放空間の内部など、観測地点の 周辺が比較的単純な場合であったが、現実の気象観測所はより複雑な場合が多い。

(未完成)

59.5 まとめ

1.重要な気候観測所について露場と周辺環境を管理するために、
(1)露場風速を継続して断片的でもよいので観測すること、
(2)露場から見た周辺の樹木・建物などの高度角αを数年ごとに測量すること、
(3)目視によって機器では測れない状況を観察することである。

2.高度角αの測量から、
<α>:全方位の平均値
1/<tanα>:「露場の広さ1」
<1/tanα>:「露場の広さ2」

を計算する。露場風速の観測から風速比(=露場風速/測風塔風速)をもとめ、
露場通風率(=風速比/理想露場の風速比)に変化がないか監視する。

高度角が方位角によって大きく異なる場合は、露場空間の広さを表すパラメータと して、「露場の広さ2」が「露場の広さ1」よりもよい。

3.露場の広さX / h=<1 / tanα>が概略10以上であれば、風速比は概略0.45以上、 露場通風率は概略60%以上が目安となる。ここに、X: 露場周辺を含む空間の半径、 h:周辺の樹木等の高である。ただし、測定するのはαだけでよい。

この条件(X/h>10)を満たす高度角は α<6°である。α<6°のときtanα<0.1、 つまり X=50mの距離に対しh<5mの比率である。この比率は前々から筆者が 「目安」として伝えてきた(「K55.日だまり効果の試験地と 観測方法」「K45.気温観測の補正と正しい地球温暖化 量」、近藤、2009;2012)。

注2:風速比(=露場風速/測風塔風速)が大きいだけ、つまり見かけ上計算 された露場通風率が大きいだけで、「露場の観測環境がよい」と判断してはならない。 その理由は、風速比の分母である測風塔風速を観測する測風塔が十分に高く、 すぐ近傍の樹木・建物に邪魔されてなく、風速がやや広域(水平スケール数km以上) を代表する値として観測されており、ロスビー相似則が適用できる条件でなければ ならないからである。つまり、測風塔風速がごく近傍の樹木の枝などの影響で弱く 観測されていれば、見かけ上の風速比は大きく計算される。

注3:広域の気候変化を監視する気候観測所と異なり、多くの人々が暮らす 生活環境としての都市気象・気候を観測する都市の観測所は、周辺に広い道路・高層 ビルが増加することで生じる都市気候の変化を観測している。そのため、観測所の 周辺にビルが増えても観測は続けるべきである。しかし、ビルの谷間の日陰となり、 その都市をほとんど代表できなくなれば、移転はやむをえない。移転にともない、 観測値が不連続になることはこれまで各地で生じてきた。しかし、不連続資料は 利用者の工夫により生かして利用することができる。

参考文献

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Kondo, J. and H. Yamazawa, 1986: Aerodynamic roughness over an inhomogeneous ground surface. Boundary-Layer Meteor., 35, 331-348.

桑形恒男・萩野谷成徳・近藤純正、1986:地域気象予知のための山頂風速の利用. 天気、33,207―215.

近藤純正、1987:身近な気象の科学.東京大学出版会、pp.189.

近藤純正(編著)、1994:水環境の気象学ー地表面の水収支・熱収支ー.朝倉書店、 pp.359.

近藤純正、2009:気温観測の補正と正しい地球温暖化量.アリーナ(中部大学)、 第7号、144-161.

近藤純正、2012:日本の都市における熱汚染量の経年変化.気象研究ノート、 第224号、25-56.

近藤純正・桑形恒男・中園信、1991:地域代表風速の推定法,自然災害科学、10、 171-185.

近藤純正・山澤弘実、1983:局地風速と現実複雑地表面の粗度.天気、30、 553-561.



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