A05.宮古観測所見学、2011年5月27日

編者:近藤純正・石田祐宣
2011年5月27日に開催した宮古特別地域気象観測所の見学会についての報告である(「気候観測を 応援する会」の情報第5号)。 (完成:2011年6月2日)

本ホームページに掲載の内容は著作物であるので、 引用・利用に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを 明記のこと。

トップページへ 応援会情報の目次

更新記録
2011年6月1日:概要の作成
2011年6月2日:完成

	目次
	5.1 はじめに
	   当初の予定
	   露場の南側斜面の管理
	5.2 宮古観測所の見学会
	   気候観測を応援する会:新メンバー
	   5月27日の参加者(19名)
	   観測所の説明
	5.3 露場周辺の写真
	5.4 浄土が浜
	5.5 川井アメダスと区界アメダス


5.1 はじめに

今回の宮古観測所の見学会に至るまでの経緯を記しておきたい。

近年、気象観測所の周辺環境が悪化し、特に高い観測精度を必要とする地球温暖化など長期の 気候変動が正しく観測できる「気候観測所」は少数箇所になってきている。観測環境を維持して いくには地域住民の理解と協力がなければ、不可能となった。

日本海沿岸の深浦町の史跡公園「御仮屋」に設置されている「深浦特別地域 気象観測所(旧深浦測候所)」では、周辺に成長した松や桜などの影響によって年平均風速が34% 減少し(1970~2005年)、日最大風速が10m/s以上の強風日数が年間100日から13日に減少している (1960年代~2000年前後)。これら成長した樹木を剪定・間引きするなど環境整備を行えば、 この観測所は昔からの良好な環境が維持できる。

このことを深浦町民に訴えるために2009年11月14日(土)に役場に併設された「文化ホール」で市民 講座「気象と歴史ー過去500年に学び未来へ生かそう」を行うことになっていた。

ところが、その直前になって市民講座は深浦町の都合で中止させられてしまった。これは住民の自主的 な組織「歴史を学ぶ会」が主催する市民講座であったにもかかわらずである。中止させられた大きな 理由は、深浦観測所を管理する青森地方気象台(当時の台長・堤之智氏)が環境整備に否定的であった ことによる。

岡山県津山でも同様であったが、津山市では市民講座が開催できて、住民に観測所の周辺環境の重要性 が理解され環境整備が進むことになったのとは大きな違いである。

2010年度になってから、こうした状況を気象庁長官・櫻井邦雄氏ほか気象庁幹部に訴え(5月13日)、 さらに仙台管区気象台長・藤村弘志氏に訴えたところ(6月9日)、藤村台長はその日のうちに青森地方 気象台の新台長・大島広美氏に連絡された。後日、大島台長が深浦町を訪問されて町長・吉田満氏と 相談していただいた結果、中止になっていた市民講座を9月18日(土)に開催することができ、 2011年2月下旬には観測所の環境整備作が行われた。

当初の予定
仙台管区気象の藤村台長は上記の青森地方気象台のほか、宮古観測所を管理する盛岡地方気象台とも 連絡し、宮古市でも市民講座を開催していただくようお願いしてくださった。その結果、 2011年5月26日に宮古市中央公民館(館長・坂下一美氏)主催の市民講座が開催されることが 決まった。その翌日の5月27日に宮古観測所の見学会を予定した。

この見学会には盛岡地方気象台から担当者が宮古観測所まで出張し、見学者に現在の観測状況を説明 される予定になっていた。

不運にも、3月11日に東北地方東方沖のM9の巨大地震により、東日本大震災大津波が発生し、 青森県から千葉県の沿岸地域は大津波に見舞われた。宮古湾一帯も大災害となり市役所1階も浸水 した。そのため当初予定していた5月26日の「市民講座」は中止となり、観測所の見学会のみの 開催となった。

露場の南側斜面の管理
近藤純正が2006年6月12~13日に宮古測候所を訪問したとき、観測露場の南東側にクルミの大木が 成長していた。観測値に影響することと暴風時に折れた枝が観測機器を破損さえる恐れがあることを 指摘したところ、当時の測候所長・豊間根正志氏がクルミの所有者(宮古市日立浜町の小田善一郎 氏)の許可を得て、測候所の無人化前の2007年3月にクルミの大木は伐採してあった。

そのときから4年が経過した今回(2011年5月27日)、クルミの跡地に多くの雑木が生えて いた。そので、近藤純正は所有者の小田善一郎氏と相談し、 「雑木が成長すると観測に邪魔するので、伐採してもよい」 という許可を得た。なお、小田氏宅を訪問した際に、今回の見学者に配布する 「気候観測応援会」の「A54.宮古特別地域気象観測所」、 および「A53. 宮古観測所の観測機器」を手渡しておいた。

盛岡地方気象台にお願いしておきたいことは、雑木が大木に成長すると専門業者がチェーンソーで 伐採しなければならなくなるので、小木のうちに時々ノコギリ等で伐採してほしい。宮古観測所は 日本で良好な観測環境に恵まれた数少ない観測所の1つである。

5.2 宮古観測所の見学会

気候観測を応援する会:新メンバー(敬称略)
柳瀬唯生(宮古市中里団地 梅翁寺住職)
大久保孝雄(宮古市中里団地 町内会長)
佐々木キノ(宮古市中里団地)
岩渕恵子(東北農業研究センター)
佐々木華織(同上、4月から農業環境技術研究所に転勤)
伊藤重幹(宮古市)
伊藤悦子(宮古市)
伊藤栄利子(宮古市)
薄衣利幸(宮古農業改良普及センター)
小田島 裕(岩手県農林水産部)
齋藤久昭(盛岡市 気象予報士)
内田幸志(盛岡市 気象予報士)

5月27日の参加者(19名)(敬称略)
上記の新メンバーの大久保孝雄、佐々木キノ、岩渕恵子、伊藤重幹、伊藤悦子、薄衣利幸、小田島裕、 齋藤久昭のほかに、石田祐宣、近藤純正、岩手県庁職員(1名)と弘前大学学生(6名)と院生 (2名)の合計19名が参加した。

5月27日見学会の参加者は13:30に現地に集合し、宮古観測所(宮古特別地域気象観測所)を 見学した。

去る3月11日の東日本大震災津波により、宮古港湾合同庁舎内にあった宮古海上保安署 (署長・菅野寛之氏)は被災し、旧宮古測候所(現在の宮古特別地域気象観測所)の庁舎2階に移転して ていた。1階は検疫所と植物検疫所が使用していた。

今回の見学会開催について、盛岡地方気象台を通じて海上保安署に 連絡が届いており、海上保安署次長・吉田昌行氏に庁舎屋上のカギも開けていただいた。

大震災前の打ち合わせでは、盛岡地方気象台から担当者がこの見学会のために宮古まで来ていただく ことになっていたが、大震災後に岩手県内の観測所、特に沿岸部の観測所が被災するなどで多忙 となり、参加していただけなくなった。

観測所の説明
資料「宮古特別地域気象観測所ー地球温暖化監視の重要な観測所ー」(2ページ)を配布した。
宮古観測所は130年の歴史をもち、日本有数の重要な観測所であることを説明した。続いて、現在の 観測で使用されている観測測器について、実物を見学しながら観測原理などを説明した。

それらの詳細は「気候観測応援会」の「A54.宮古特別地域気象観測所」、 および「A53. 宮古観測所の観測機器」(参加者に配布)に掲載されて いる。

参加者集合写真
写真5.1 宮古観測所の見学会参加者、全員の集合写真。後方のドーム内にウインドプロファイラ

5.3 露場周辺の写真

以下は今回の見学会で撮影した宮古観測所(宮古特別地域気象観測所)の写真である。

駐車場からの露場
写真5.2 観測所入口の駐車場から右方に見える露場。露場の後方の電柱左側に生えていたクルミの 大木は 2007年3月に伐採されて無くなった。観測所敷地外のこの付近に今後成長する「雑木は伐採 してよい」との許可は敷地所有者・小田善一郎氏から得てある。

西からの合成
写真5.3 露場の西側から撮影(2枚を合成したため多少のひずみがある)。

東からの合成
写真5.4 露場の東側から撮影(2枚を合成したため多少のひずみがある)。

視程計
写真5.5 視程計。

雨量計と気温・湿度の通風筒
写真5.6 雨量計(右方)と気温・湿度計の通風筒(左方)

積雪計と測風塔
写真5.7 左:超音波式積雪計、右:庁舎屋上から見上げた測風塔

露場の見学風景
写真5.8 露場の見学風景、遠方の宮古湾にあった防波堤の大部分は3月11日の大津波で破壊された。

庁舎屋上から見下ろし
写真5.9 庁舎屋上から見下ろした露場、左方の白いドーム内にウインドプロファイラがある。

5.4 浄土ヶ浜

宮古観測所の見学後、浄土ヶ浜に立ち寄った(写真5.10)。ここにも3月11日の大津波が押し寄せたはず であるが、その痕跡はあまり見られなかった。時間が無かったので、ほんの少ししか見られなかった が、名勝の一端でも十分見応えがあった。

浄土ヶ浜
写真5.10 浄土ヶ浜

5.5 川井アメダスと区界アメダス

宮古観測所の見学会からの帰途、川井アメダスを見学した。このアメダスは川井小学校のグラウンドの 野球のバックネットの裏に設置されている。以前(2006年7月13日)に見学した際には、アメダス後方 のフェンスにつる性の植物が密集して絡み、アメダス敷地内はバックネットとの間の風通りが悪い 状態になっていた。「写真の記録」の「58.宮古測候所と周辺アメダス」 の写真20と21を参照。

今回見学時(2011年5月27日)には、つる性植物は根本から刈り取られていた。

遊んでいた小学生たちに聞くと、明後日(5月29日)に運動会があるとのこと。そのために、アメダス 周辺を含む校庭一帯の草刈が行われたらしい。

川井アメダス
写真5.11 川井アメダス(標高=192m)、雨量計(フェンス内右方)は新しいもので助炭(風除けの 円筒)が取り付けられていた。

区界のアメダスは国道106号の道の駅に隣接して設置されている。南方以外は畑地で開けているため、 比較的良い観測環境といえるが、フェンス内は雑草が生えないようにするために緑色のシートで地面が 覆われている。

このシートがあるからとして安心はできない。それは、各地のアメダスで生じたように、 シートの隙間、あるいはフェンス外側からつる性植物が延びてきて通風筒に絡んで高めの気温を 観測したり(例:2010年9月京都府の京田辺アメダス)、雨量計に被さり間違った雨量の観測 をしたことがある(例:2006年7月岩手県藪川アメダス、2009年6月埼玉県鳩山アメダス)。

区界アメダス
写真5.12 区界(クザカイ)アメダス(標高=760m)、四要素(風向風速、日照時間、気温、雨量計) に加え積雪計も設置されている。積雪計(右側の塔の真ん中あたり)は宮古観測所で見学した超音波式 でなく、新型のレーザー光で測る光電式積雪計であった。

トップページへ 応援会情報の目次