M70.室戸海岸の気温、晩春~梅雨期

著者:近藤純正
室戸岬漁港「とろむ」と国立室戸青少年自然の家の駐車場において2014年の晩春~梅雨期(5月13日~ 7月16日、65日間)に気温観測を行ない、室戸岬観測所(旧測候所)、高知、および高知県西部内陸 の江川崎の気温と比較した。室戸は黒潮の影響を受けて気温の日変化・季節変化が小さく、晴天日の 気温日較差(最高気温と最低気温の差)を比較すると、「とろむ」では4.9℃、高知では9.1℃、 江川崎では12.1℃、内陸・江川崎の40%である。
青少年自然の家の駐車場(標高270m)における晩春~梅雨期の気温は室戸岬観測所(標高185m) に比べて0.32℃(標準偏差:0.39℃)低温である。海岸を代表する「とろむ」の気温は室戸岬 観測所より1.3℃高温で、この1.3℃の違いは年間を通じてほぼ一定である。
「とろむ」の日平均気温は高知に比べて2.38℃の高温(厳冬期:1月23日~2月4日)、0.45℃の高温 (春41日間:4月1日~5月11日)であったが、今回観測した晩春~梅雨期には逆転し0.26℃低温と なり、盛夏にはより涼しくなると予想される。室戸海岸の朝・冬は暖か、昼・夏は涼しい気候 である。(完成:2014年7月25日)

本ホームページに掲載の内容は著作物である。 内容(結果や方法、アイデアなど)の参考・利用に際し ては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを明記のこと。


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更新記録
2014年7月24日: 概要の作成


   目次
         70.1 はしがき
         70.2 観測の方法
         70.3 観測結果
           室戸3地点と高知の比較
           気温日較差の内陸との比較
         70.3 まとめ


        観測協力者(敬称略)
              島田信雄(室戸市観光協会)              
              石川昇、松田公治(国立室戸青少年自然の家)
              室戸ドルフィンプロジェクト(理事長:升井俊六)


70.1 はしがき

高知県東部の室戸の気温は、テレビなどで報道される気温より高いことを確かめるために 海岸の代表地点として室戸岬漁港「とろむ」において2014年1月23日から気温の連続観測を 行なっている。

本章は、晩春~梅雨期(5月13日~7月16日、65日間)の観測のまとめである。

注目点:
(1)海岸「とろむ」の気温は室戸岬観測所(略称:岬観測所)に比べていくら高温か
(2)室戸岬観測所に比べて標高が85m高い青少年自然の家の気温はいくら低いか
(3)「とろむ」と高知の気温差
(4)気温に及ぼす海(黒潮)の影響として、気温の日変化幅の内陸との違い

晴天日の定義:
室戸岬観測所、高知、江川崎(高知県西部内陸)の3地点における同じ日の日照時間が いずれも8.8時間以上の日を晴天日と定義する。晩春~梅雨期(5月13日~7月16日、65日間) の晴天日は14日間である。


70.2 観測の方法

海岸の代表地点「とろむ」の「ドルフィンセンター」の駐車場と、国立室戸青少年自然の家の 駐車場(略称:自然の家)に通風式気温計を設置し、10分間隔で記録した。

「とろむ」に設置した通風式気温計は、ヤング社製の通風装置(MODEL43502)が日射によって 0.2℃高く観測されるので、これを改造し4重の通風筒に直径2.3mmのPt1000オームのセンサー を取り付け、高精度観測を可能にしたものである(「研究の指針」の 「K81.市販品を改造した高精度の通風式温度計」)。

自然の家に設置した通風式気温計は、上記ヤング社製の通風装置を大改造した「省電力通風筒」 を用いた(「研究の指針」の「K92.省電力通風筒」 の「その1: ヤング社製品の改造型」)。

「とろむ」の気温計の写真は「身近な気象」の 「M68.冬の室戸海岸は高知市内より平均2℃ほど暖かい」の図68.1に、自然の家の気温計 の写真は「研究の指針」の「K92.省電力通風筒」の 図92.5の示してある。


70.3 観測結果

室戸3地点と高知の比較
図70.1は「とろむ」と岬観測所と高知における日平均気温の65日間の変化、図70.2は自然の家 と岬観測所における日平均気温の65日間の変化である。

とろむ、観測所、高知の気温
図70.1 晩春~梅雨期(5月13日~7月16日、65日間)の日平均気温の変化、「とろむ」と 岬観測所と高知。

観測所、自然の家の気温
図70.2 晩春~梅雨期(5月13日~7月16日、65日間)の日平均気温の変化、自然の家と岬観測所。

平均気温は65日間に8℃ほど上昇している。その他の主な特徴は、
(1)「とろむ」の気温は岬観測所に比べていつも高温で、気温差の平均値は1.30℃ (気温の高度減率=0.72℃/100m)。
(2)冬から夏に向かうこの季節、「とろむ」の気温は高知に比べて低くなりはじめ、 平均気温は高知より0.26℃低温となった。
(3)標高差が85m高い自然の家の平均気温は岬観測所に比べて0.32℃低温である (標準偏差=0.39℃、気温の高度減率平均値=0.38℃/100m)。

上記(1)について、これまでの観測を表70.1にまとめた。

表70.1 海岸の「とろむ」と岬観測所の気温差の平均値
 気温差:「とろむ」の気温-岬観測所の気温
 1行目の気温差:「とろむ」の代わりに岬の先端にある「岬展望台」での気温を用いた

  期間        日数   気温差
2013年
 10月29日~30日    1日間   1.33℃
2014年
 1月23日~3月31日  68日間   1.32℃
 4月01日~5月11日  41日間   1.29℃
 5月13日~7月16日  65日間   1.30℃



図70.3は気温の日変化である。「とろむ」と岬観測所と自然の家の3か所では、ほとんど同じ パターンの日変化をしており、日較差(最高気温と最低気温の差)は3℃ほどで小さい。 日較差が小さいのは海(黒潮)の影響である。次項では高知や内陸の江川崎との比較を示す。

室戸3地点の気温日変化
図70.3 気温の日変化(5月13日~7月16日、65日間の平均)、「とろむ」と岬観測所と自然の 家の比較。

気温日較差の内陸との比較
図70.4は気温の日変化について、「とろむ」と高知と江川崎(高知県西部内陸、四万十川河口 から直線距離で33km、アメダスの標高=72m)を比較した図である。

高知や内陸の江川崎に対して「とろむ」では気温の日変化幅は1/2以下で小さい。これは海 (黒潮)の影響であり、海水温度の日変化・季節変化が小さいことがその要因である。

とろむ、高知、江川崎の気温日変化
図70.4 気温の日変化(5月13日~7月16日、65日間の平均)、「とろむ」と高知と江川崎の比較。

晴天日のとろむ、高知、江川崎の気温日変化
図70.5 晴天日における気温の日変化(晴天日14日間の平均)、「とろむ」と高知と江川崎の 比較。

図70.5は同期間中の晴天日(14日間)についての比較であり、日変化の特徴をより明確に表して いる。表70.2に示すように、「とろむ」の気温日較差4.9℃は、内陸の江川崎の40%で小さい。

表70.2 気温日較差の比較
  昼の気温:最高気温の生じるころの日中の気温
  朝の気温:最低気温の生じるころの朝の気温
  気温日較差:昼の気温(最高気温)-朝の気温(最低気温)

  地点     65日間の平均(℃)         晴天14日間の平均(℃)
      昼の気温 朝の気温 気温日較差   昼の気温 朝の気温 気温日較差
 とろむ   24.0   21.1    2.9      24.1   19.2   4.9
 高知    25.7   19.6    6.1      26.4   17.3   9.1
 江川崎   26.3   18.3    8.0      28.0   15.9   12.1



70.4 まとめ

室戸は暖流「黒潮」の影響を受けやすく、やや内陸にある高知や内陸の江川崎に比べて朝・冬は 暖か、昼・夏は涼しい温和な気候である。本章では、晩春~梅雨期として2014年5月13日~ 7月16日の65日間の観測結果を示した。

表70.3に示すように、内陸の江川崎と比較すると、厳冬期の「とろむ」は江川崎に比べて 約5℃(=12.27℃-7.48℃)も暖かいが、晩春~梅雨期には0.8℃(=22.63℃-21.83℃)の 差となる。

表70.3 平均気温のまとめの表
  厳冬期:1月23~2月4日(14日間)
  春:4月1日~5月11日(41日間)
  晩春~梅雨期:5月13日~7月16日(65日間)、江川崎のみ5月14日~7月17日
   同晴天日:同上期間中の日照時間>=8.8時間、室戸岬観測所と高知と江川崎とも

         とろむ  岬観測所  高知   江川崎
 厳冬期     12.27   11.12   9.89    7.48
  春          16.44   15.15  15.99   14.46
 晩春~梅雨期    22.63   21.33  22.89   21.83
  同 晴天日   21.92   20.92  22.46   21.42



(1)海岸「とろむ」の気温は室戸岬観測所(略称:岬観測所)に比べて1.30℃高温であり、 季節によらずほぼ一定である。

(2)標高が85m高い青少年自然の家の気温は室戸岬観測所に比べて0.32℃低温である (標準偏差=0.39℃)。

(3)「とろむ」の平均気温は高知と比べると厳冬期は2.38℃高温であるが、春は減少して 0.45℃の高温となり、晩春~梅雨期は逆転し0.26℃低温となり、盛夏にはより涼しくなると 予想される。

(4)「とろむ」の気温に及ぼす海(黒潮)の影響として、気温の日変化幅(気温日較差) の内陸との違いを調べると、65日間平均では江川崎の8.0℃に比べて2.9℃(36%)、晴天日 14日間平均では12.1℃に対し4.9℃(40%)と小さい。



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