M28.河川改修と全滅した養殖魚
	著者:近藤純正

		要旨
		備考(熱エネルギーと温度変化、日射と長波放射)
		Q&A(夏期都市河川の冷却効果)
		参考書
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2008年3~4月開催の市民講座「緑の家学校」連続講座の第2回 後半の要旨と質問・回答である。

宮城県蔵王町の渓流・秋山沢川の水を利用した養魚場で1994年夏に稚魚が 全滅する事件があった。この渓流は1989年8月の台風による豪雨で氾濫 し災害復興のために改修され、川幅の拡幅、河床の平坦化、さらに付近の 樹木の伐採により日当たりと風通しがよくなり、河川水温の異常上昇となり、 稚魚の大量死がもたらされた。 (要旨の完成:2007年12月25日)


要旨

宮城県の南蔵王山麓の蔵王町に秋山沢川がある。この小川は1989年8月 の台風による豪雨で氾濫し、災害復興として、川の幅を広げるなどの工事が 行われた。

その後の1994年の夏に晴天の異常高温が続き、秋山沢川の水を利用した 3つの養魚場で快晴日の7月15日にギンザケの稚魚約15万匹づつが死亡した。 また8月7日の快晴日には残っていたニジマスが死亡全滅した。

河川の拡幅により、(1)水深が浅くなり、(2)流速が小さくなったこと、 (3)樹林の伐採で日当たりと風通りがよくなり、河川水温の異常上昇 が生じた。

改修工事では、河床は広げられ、コンクリートで平らに固められた。 河川改修は洪水をすみやかに排水することだけでよいだろうか? 渇水時にも、 深い水流部が河床の一部に、流れに沿って造られていたならば、極端に高い 異常水温は生じなかったはずである。

自然の河川は蛇行し、所々に渕があり浅瀬もある。水中には多くの動植物 が生息し、湖岸には草木が生い茂る。

これまでの多くの土木工事は、こうした自然を考慮に入れて行われてきたか!

魚の大量死事件が新聞で報道されたことから、直ちに上記の研究を開始し、 3ヶ月後に河川改修のありかたについて提言を行ったところ、 その年の秋、11月24日の新聞には、「宮城県河川課は、渇水時にも水深が 保てるように、環境に配慮した形で秋山沢川の再改修の 方針を固めた」と報じられた。

備考

(1)熱エネルギーと温度変化
温度上昇=(熱エネルギー)÷(全熱容量)

熱エネルギー=(単位時間単位面積当たりの熱エネルギー)×時間×面積
全熱容量=比熱×密度×体積

1mの立方体の体積を想定し、与えられた熱エネルギーが 100 W m-2 (=100 J s-1 m-2)で、その体積内の温度 が一様になった場合、1時間当たりの温度上昇は、次のようになる (水と空気以外は目安)。ただし、全ての熱が逸散せず完全に吸収された とした場合である。
     水                 0.086℃/時
     乾燥砂地・粘土     0.28℃/時
     木材(杉)         0.72℃/時
     空気             300   ℃/時
これらの温度上昇は厚さが1mの場合であるが、厚さが0.1mならこの10倍の 温度上昇になる。

温度上昇の式と種々の物質の体積熱容量(=比熱×密度)についての詳細は、 「M35.エネルギーと温度変化(要点)」の式 (1)とその例、及び表35.2を参照のこと。

同じ体積であれば、水は体積熱容量が大きいので、熱し難く冷え難い。
空気は熱しやすいが冷えやすい。したがって、冬の部屋に多数の人がいて 空気が汚れたとき、短時間窓を開けて空気を入れ替えても、短時間のうちに 室温は、ほとんどもとの温度に戻る。室温がもとの温度に戻るのは、壁に 蓄えられていた熱が室内空気を温めることになるからである。

Q&A

Q28.1 夏の昼間、東京の荒川による大気の冷却量は?
南風が吹く夏の昼間、都内の市街地は高温であったが、水面幅が200mの荒川 に架かる千住新橋の上では少し低温になった。
(1) これは荒川の水で空気が冷やされたためか?
(2) 河川水の冷却によって風下大気はどれだけ気温が下がるか?
ただし、千住新橋は南北方向に架かり、荒川は東西方向、風は荒川をほぼ 横切るように吹き、橋上の中央付近で気温=30℃、南の風4m/s 前後、 水温=23℃、橋の中央付近の水面からの高さは約15mであった。(YK)

注:この観測では、川の南岸から南方1,000mの場所~橋の中央~北岸から 1,000mまでの範囲の国道4号線上で自動車によって路面上の気温を移動観測 し、同時に、橋上の中央付近で気温、風速、水温を自記記録した。

A28.1 河川水による大気冷却量は小さい。
(1) 橋は水面上約15mの高い位置を通っている。それゆえ荒川の水で 冷やされて低温になったのではなく、地上から高い位置で気温を測った からである。

(2) 風下側(橋の北側の河川敷)で気温低下があるとしても小さく、 0.1~0.3℃程度と見積もることができる。この値は風下側の陸面上(河川敷と 堤防)を移動する間に、高温の地表面から水面上で失った熱の概略1桁も 大きな顕熱が供給されて短距離の間に昇温する。

なお、千住新橋の周辺は水面、河川敷、堤防、ビルなど地形が複雑である。 千住新橋付近についての詳細計算の方法と、これと違う条件の地形を風が吹き 渡る場合の説明は次をクリックして見ることができる。

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河川による風下の冷却量

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千住新橋付近の写真


参考書

近藤純正ホームページ:「身近な気象」の 「23.河川改修と魚の大量死事件」

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