著者:近藤純正 23.1 事件の経緯 23.2 河川水温の成り立ち 23.3 河川水温の予測原理 23.4 水温の計算と観測の比較 23.5 河川改修の各項目と水温上昇 23.6 事件から学んだこと 付録: 降水・流出・貯留を考慮した水温予測法 参考文献
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(注1) 水温と気温の差 やや専門的になるので、ここでは注1として説明しておく。 日平均水温が日平均気温より高くなるか、低くなるかは、放射や風速などの 条件による。このことを熱収支式の解から説明しておこう(ただし解は水温気温差 があまり大きくならないときに得られる近似式である)。 「水環境の気象学」のp.135の式(6.33)、または「地表面に近い大気の科学」 のp.145の式(5.17)によれば、地表面温度 Ts と気温 T の差は、次式で 表される。 Ts-T≒[(有効入力放射量)-(大気の可能潜熱要求量)]÷(大気・地表面間の熱交換率) Ts-T>0になる条件は上式分子が正となる時、つまり、 [(有効入力放射量)-(大気の可能潜熱要求量)]>0 ここに、 (有効入力放射量)=R↓-σT4 (大気の可能潜熱要求量)=lρβChU[qSAT(1ーrh)] R↓=[(1-ref)×下向きの水平面日射量+下向きの大気放射量] ただし、l は水の気化の潜熱、ρ は空気密度、β は蒸発効率(水面でβ≒1)、ChU は 水面大気間の交換速度、qSATは気温 T における飽和比湿、rh は 大気の相対湿度(0<rh≦1)、σT4 は気温 T に対する黒体放射量 である。 簡単な場合として、仮に大気が飽和湿度のとき、Ts-T>0になるのは、 (有効入力放射量)=R↓-σT4>0 の条件の時である。 |
表23.1 種々の物質の体積熱容量(=比熱×密度)の概略値 水環境の気象学、表6.9参照 物体・地表面 体積熱容量 ×106J m-3K-1 乾燥砂地・粘土 1.3 湿り砂地・粘土 3.0 新しい軽い雪 0.2 古い雪 0.8 コンクリート 2.1 アスファルト 1.4 紙 1.1 木材(杉) 0.5 水 4.2 空気(静止) 0.0012
(注2) 有限水面の交換速度 やや専門的になるので、ここでは注2として説明しておく。 ある湿った面を想定する。そこへ風上側から乾燥した空気が流れてきたとき、 風上側で多くの水蒸気が供給され、大気中の水蒸気量は風下にいくにした がって増加していく。この変質されて湿った空気層(内部境界層)の厚さは 風下距離(吹走距離)とともに大きくなる。 したがって、湿った面からの蒸発量は風上側で最大で、風下距離とともに 小さくなっていく。それゆえ、小さい面積からの平均蒸発量は大きい面積 からの平均蒸発量よりも大きくなる。このことから、対象とする面積が 小さいほど、バルク輸送係数(または交換速度)が大きくなる。 顕熱輸送についても同様に、バルク輸送係数は小面積ほど大きい (「M19.温暖化と都市昇温」の図19.16; または「研究の指針」の「基礎3:地表面の 熱収支と気象」の図3.1;を参照)。 バルク輸送係数(CE、CH)は風速や気温などを観測 する高度が高いほど小さくなる。いっぽう風速や、地面温度と気温の差、 などは高度が高くなるほど大きくなる。このことから、観測高度があいまいな 場合、バルク輸送係数を用いるよりは交換速度(=バルク輸送係数×風速 =CEU、CHU)を用いれば高度依存性が弱くなるので、 誤差は小さくなる(「地表面に近い大気の科学」のp.142~p.143を参照)。 以下では交換速度(単位はm/s)について説明する。 海面など広い水面のバルク輸送係数(CE、CH)は、 通常、風速などの観測高度が10mの場合について図示されている (「水環境の気象学」の図7.6、式7.25 ~7.31など)。これを10m以外の高度に変換する式もある(同書のp.110)。 湖沼の大きさや河川幅が概略1km以下の場合は、広い水面の交換速度 を用いると過小評価になるので、有限水面の交換速度を用いる。「水環境の 気象学」のp.172を参照すると、交換速度(CEU≒CHU) は次式で表すことができる(厳密にはp.172を参照し、水蒸気の分子拡散 係数 D と空気の分子温度拡散係数 a の違いを考慮すること)。 ○ 大気安定度が中立に近いとき: CHU(中立時)=(CHU)U=0+0.00566(U0.8/ X0.2)・・・(1) (CHU)U=0=0.001 m/s X:水面を風が吹く距離(m) この式は、風上側から鉛直方向に一様な気温分布と一様な風が吹いてきて、 その先端から内部境界層が発達する場合を想定して得たものである。 ○ 不安定時: 水温が気温に比べて(大まかな目安として3℃以上)高くなった ときは、自然対流を考慮して次式で与える(同書のp.171)。 CHU=0.0012{(Ts-T)+0.11[eSAT(Ts)-e]}1/3・・・・・・(2) 単位は、e:水蒸気圧(hPa)、eSAT(Ts):水温Tsに対する飽和 水蒸気圧(hPa)である。式(2)は不安定度が大きくなると式(1)より 大きくなる関数であるので、具体的には式(1)と(2)を比べて大きい ほうをその時刻のCHU として用いる。 なお、上式(1)(2)に用いる風速 U や気温 T などの観測高度 (レファレンス高度)は1~5mである。 ○ 安定時: 気温が水温に比べて(大まかな目安として3℃以上)高いときは、 安定度の効果を式(1)に補正して CHU は小さくする。すなわち、 CHU=f × CHU(中立時)・・・・・・・・・・・・・・・・(3) 補正係数 f の目安を求めるには、「水環境の気象学」の図7.6と図7.7が参考 になる。 図7.7によれば、水面を風が吹く距離(風上距離)X が100m以下なら、 水蒸気量の変化が生じるのは概略1m以下の層、つまり内部境界層の 厚さ h≒1m程度であり、安定度の効果はあまり効かないので、 f≒1、ただし X<100m・・・・・・・・・・・・・・・・(4) X が 1000m以上なら、高度 10m 以下の層で水蒸気量の変化が生じる。すなわち 内部境界層の厚さ h≒10m程度となり、レファレンス高度 10m の図7.6の 関係が使える(レファレンス高度 10m に対しては無限に広い水面に相当する)。 それゆえ、同図の安定時のCHの値と中立時のCH の比から(原論文:Kondo, 1975, Appenxix 参照)、 f=0.1+0.03S+0.9exo(4.8S)(-3.3<S<0)、ただし X>1000m・・(5) f=0(S≦-3.3)、ただし X>1000m・・・・・(5) ここに、 S=[S0×|S0|]÷[|S0|+0.01] S0=(Ts-T)/ U2 |S0|は S0 の絶対値、Ts は水温(℃)、T は高度10mの気温(℃)、U は 高度10mの風速(m/s)である。 上記2つ以外の範囲内、100m≦ X ≦1000mに対して、 1≧f≧式(5)・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6) 以上の(4)(5)(6)によって、安定な場合の補正係数 f (≦1)の目安を得る。 実際には風上側が大きな地表面粗度だったり、障害物があったりすると、 水面上の乱流状態と大きく異なるので、この f はあくまでも目安である。 風が川を横切って吹くような場合、X は川の水面幅よりも大きくなる。 風向は絶えず左右に振れているので、通常は水面幅の2~5倍の値を 用いるが、現況で判断する。秋山沢川の日中の場合、風は川筋にほぼ 沿って吹く頻度が高いことから、X は川の水面幅の3倍とした。 |
表23.2 河川改修と水温(℃)、ただし気象条件は1994年7月15日、 源流点からの距離=2kmの地点 (近藤・菅原・高橋(1995)、表4を参照) 天気 快晴日 曇天日 水温 最低 最高 最低 最高 (1)改修前 18.1 22.3 18.3 20.4 (2)樹林伐採 18.1 23.1 18.3 20.5 (3)河床の平坦化 17.0 21.4 17.3 18.3 (4)河道の拡幅 17.4 28.2 18.0 20.5 観測値 17.4 28.1
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