M26.気候変動と暮らし (2)火山噴火・海洋変動と気候
	著者:近藤純正

		要旨
		備考(噴煙と日射量と気温低下、コンドラチェフの長波と戦争)
		参考書
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2008年3~4月開催の市民講座「緑の家学校」連続講座の第1回 後半の要旨と質問・回答である。

世界的な大規模噴火と東北地方の冷夏・凶作の関係を調べてみると、噴火 2年後までに大冷夏となる確率が90~95%あることがわかった。 しかし、昭和初期に頻発した冷夏凶作の時代には大規模噴火は発生して いないが、三陸沖の海水温度が低温の「寒冷時代」であった。 数十年のサイクルの大気や海洋変動、魚の大漁・不漁の時代、また社会変動も ある。(要旨の完成:2007年12月24日)


要旨

異常気象の原因の1つとして、火山噴火によるという説が昔からあった。 噴煙が太陽光を遮るので気温が下がるというものである。 しかし世界的にみると、噴火後、気温が上がるところもある。 火山噴火と気温の関係を調べてみると、噴火2年以内に、東北地方 で夏の平均気温が1~2℃下がる確率が90~95%あり、大冷害に見舞 われている。

世界的な大規模噴火が起きていない昭和初期に東北地方では冷夏凶作が 頻発している。この時代三陸沖の海水温度は低温の「寒冷 時代」であった。寒流の「親潮」と暖流の「黒潮」の潮境が数十年のサイクルで 南北に移動していることを意味する。海水温度の「高温時代」と「寒冷時代」 にともなって、海水温度はダウン、ジャンプの変動をしており、この 影響は潮境のある宮城県~福島県の沖で顕著である。

海における漁獲量にも長期的な変動があり、漁村にも栄枯盛衰がある。 民謡ソーラン節は、ニシン漁の際、網に集まったニシンを船にすくい 上げるときの歌で、北海道小樽の西方の海岸で安政時代(1854~59年)から 歌い継がれてきたという。にしん御殿とはニシン漁で儲けた網元の家が御殿 のように豪壮だったことから、そう呼ばれていた。

世界的にみたとき、マイワシとニシンの大漁と不漁期間が50~60年程度の サイクルで起きている。ニシンについて見ると、スエーデンでの豊漁時代は 隣国ノルエーでは不漁の時代であり、両者は数十年のサイクルでシーソーの ように変動している。

私たちの先祖は、凶作・飢饉を克服するために、何をしてきたか? 江戸の 幕藩体制下において、各藩は自国の安定と発展のために河川の改修、灌漑、 森林保護を行い、大規模な干ばつと洪水は時代とともに克服されてきた。

江戸時代以前には、干ばつによる凶作・飢饉が70%ほど、洪水が20%、 冷夏が10%ほどであった。これは、今日のアフリカなど途上国の姿に似て いる。

現代の大凶作の大部分は冷夏によるもので、干ばつや洪水によるものは ほとんどなくなった。つまり、日本が途上国から先進国になるまでに 300年を要したのである。

備考

(1)大規模噴火による日射量の減少と、気温低下
大規模噴火によって地上における直達日射量はおおよそ30%減少する。しかし、 散乱光が増えることで、地上の全天日射量(直達光と散乱光)は3%ほど しか減少しない。一方、宇宙から見た地球のアルベド (反射率)は1.5%増加、つまり、地球が正味吸収する太陽エネルギー は1.5%減少する。これらは雲のない晴天域での数値である。

地球はおよそ50%が雲に覆われているので、大規模噴火によって地球の 受け取る太陽エネルギーは1.5/2≒0.8%ほど減少する。0.8%の減少による 地球の平均温度(地球表面、大気のすべてを含む有効な温度)は、理論的に -0.5℃低下することになる。

大気・地球系では複雑な過程が働くので、地域によっては気温が下がるところ と上がるところが、まだら模様にできる。世界中で日本、特に東北地方では 大規模噴火後の2年以内に大冷夏が起き、夏3ヶ月平均気温は1~2℃低下 する。

日射など放射についての直達光、散乱光、吸収に関する詳細は 「M34.放射(要点)に掲載してある。

(2)コンドラチェフの長波と戦争
ロシアの経済学者コンドラチェフが1920年代に、欧米の経済指数を分析して、 約50年の周期の景気循環の存在を指摘した(猪口邦子、1989)。

産業革命の後、技術革新→市場の拡大→経済の過剰が政治不安や戦争など大きな 社会変動を引き起こしやすく、その結果、資本は枯渇し、循環は下降に 転じる。こうした循環が1780年代から見られるというのである。

大気・海洋、漁獲量の長期変動の周期が、このコンドラチェフの政治経済 の周期はとほぼ同じであることから、気候変動も政治経済に影響している のだろう。

日露戦争(1904~05)は明治後期の大凶作頻発時代(1902~1913)に、 太平洋戦争(1941~45)は昭和初期の大凶作頻発時代(1931~1945)と 重なっている(「身近な気象の科学」の表18.1参照)。

参考書

猪口邦子、1989:戦争と平和、現代政治学叢書17.東京大学出版会、304pp.

近藤純正、1987:身近な気象の科学(東京大学出版会):
9章「火山爆発と東北の冷夏」、13章「漁業と海洋変動」、18章「気候と産業」

近藤純正、2000:地表面に近い大気の科学(東京大学出版会):
9章「気候変動と人々の暮らし」

近藤純正ホームページの「身近な気象」:
「3.気候変動と人々の暮らし」

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