K72.露場風速の解析ー津山2


著者:近藤 純正・廣幡泰治
岡山県内陸の津山観測所で露場風速を観測した。ここは丘地形にあり西側は傾斜角 27°の崖である。北側隣地は小公園であり、その西~北東方向には樹木や竹林がある。 南東~南西側は開けている。露場風の顕著な特徴は、(1)測風塔風向が北西のとき、 露場の風は曲げられ平均的には北寄りとなり、風向・風速変動は大きく、測風塔風速 に対する露場風速の割合(風速比)は0.3程度と小さい。風速比が小さいのは、西側が 崖によるもので、丘地形の特徴と考えられる。(2)開けた南寄りの風のとき、 公園の北側の樹林が風止めとして働き、南が開けている割に露場通風率(風通しの 度合い)は大きくない。これら特徴は青森県深浦に似ており、風通しは風の吹いて くる方向と抜け去る方向が共に開けていることが重要である。

これまでに得た各地の結果をまとめると、露場通風率は露場広さの関数で表され、 平坦地と丘地形に大別され、後者は前者に比べて約70%の大きさである。 (完成:2013年3月25日)

本ホームページに掲載の内容は著作物であるので、 引用・利用に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを 明記のこと。

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更新の記録
2013年3月19日:素案の作成
2013年3月24日:表72.1と図72.5に加筆


  目次
        72.1 はしがき
        72.2 露場風速計の設置
        72.3 仰角の測量
        72.4 風速比と風向差
        72.5 露場広さと露場通風率
        72.6  各地の露場通風率
        72.7 まとめ
	参考文献


72.1 はしがき

環境の維持・管理の原則
重要な気候観測所の環境を維持・管理するのに次の3つが必要である。
①露場から周辺地物の仰角α・高さ h・水平距離 X を方位5°間隔で測量すること。
②露場内の高度 1.5~2mで風速(露場風速)を長期間にわたり観測すること。
③露場周辺の樹木等が観測の障害にならないか将来環境を予想すること。

①により、露場の周辺、概略30~400mの範囲の環境変化がわかる。仰角αを示す地物の 高さ h とそこまでの水平距離 X を測る意味は、仰角の測定値がどの位置にある地物に よるものか、周辺環境の詳しい情報を得るためである。

②により、露場内および露場フェンスの外側に雑草・低木が成長すれば、風速比 (=露場風速/測風塔風速)が変化し、露場内から近傍50m程度までの環境変化が 分かる。露場フェンスの外側に成長する低木は、①の測量値には反映されないので、 ①と②を総合して環境変化を評価する。

③は観察力と想像力によるものであり、低木のうちに早めに除去し、先送りしない こと。いずれも記録に残し、長期資料の解析に役立てる。

仰角αの変化、すなわち1/tanα=X/h(X:露場空間の広さ、h:地物の高さ)の 30%の変化と、風速比(露場通風率)の10%の変化が注意すべき環境変化であり、 これ以上の変化が生じないように管理しなければならない。具体的には、例えば 樹高10mが13mになると大きな環境変化であり、その前に伐採・剪定など行う。

風速比、露場通風率の特徴
環境管理に必要な基礎知識として、各地で実施してきた露場風速の観測から分かって きたことは次の通りである。

(a) 平坦地の観測所
風速比(=露場風速/測風塔風速)および露場通風率(広い理想的な露場を100%とした ときの風通しの割合)は、露場広さの関数で表される。

(b) 傾斜地の観測所
露場から概略100m範囲の平均的な傾斜角をもつ斜面を基準にした仰角で定義される 露場広さを用いれば、平坦地で成り立つ関係式がほぼ成り立つ(例:宮古観測所)。

(c) 丘地形上の観測所
崖を吹き上げてくる風は、丘の地面に近い高さ(露場風速計の高さ)付近では、 流れの剥離(はくり)により風向・風速変動が大きく、平均風速は弱くなる。その結果、 風速比(=露場風速/測風塔風速)は平坦地 (a) よりも70%程度小さくなる (例:深浦観測所)。

(d) 風下側の障害物の影響
風上側が開けていても、風の通り抜け去る風下側の樹木等の障害物は風止めとして 働き、風速比および露場通風率は大きくなれない。風向と正反対方向でなくても、 風の通り抜ける「風みち」があれば、露場の風通しはよくなる。

これら(a)~(d)の特徴をより明確にするために、今回は、重要な気候観測所の一つで ある津山観測所(津山特別地域気象観測所)の露場内で2013年1月21日から3月15日まで の54日間、露場風速の観測を行った。

なお、この観測の直前には北側の公園で36日間の観測を行っている。これと今回の 違う点は、今回(54日間)の観測場所の「露場広さ」(後述の72.3節で定義)は広い こと、特に北側に公園が存在していることである。

今回の観測で注目すべきは、

注目点1: 津山は青森県深浦と同様に丘地形であり、崖の方から吹く西寄りの 風のとき、測風塔風速に比べて地面に近い露場風速が弱くなるか? つまり風速比 (=露場風速/測風塔風速)や露場通風率(風通しの良し悪しの程度)が小さめに なるか?

(結果は図72.6~72.9に示されるように、西北西~北西の風のとき、露場の風向・風速 変動は大きく風速比と露場通風率は小さくなる。)

     丘まわりの風
図72.1 丘上の風の模式図。実線は流線、間隔の狭い所は強風、広い所は弱風となる (「K66. 露場風速の解析―深浦御仮屋」の図66.13に同じ)。

注目点2: この観測地点は南東と南西が開けており、また北側には公園が ある。前観測に比べて北側が広くなった北寄りの風のとき露場通風率が大きくなるか?

(結果は図72.6や表72.1で示されるように、風速比は1.45倍ほど、露場通風率は24% ほど大きくなる。)

解析に用いる資料
津山全域は内陸盆地で風が弱いので、前回の解析と同様に、他所で用いてきた基準 3m/sを変更し、2.5m/s以下の資料は除外することにした。解析に利用した資料と条件 は次の通り。

露場風速計の設置場所:津山観測所の露場内
測風塔風速>2.5m/s(この条件のデータを全資料とよぶ)
測風塔風速計の高度:ZA=11.7m
ゼロ面変位:d=0
露場風速計の高度:Zr=1.64m
風速比理想値=Ur/UA=ln(Zr/zo) / [ln(ZA-d)/zo], zo=0.003m
      =6.29/8.27=0.761

「全方位平均」の風速比と露場通風率
他の章で取り上げてきた地点と大きく異なる点は、津山での今回の観測期間中の風向 は82%がW~NWの風である(測風塔風速>2.5m/sの条件)。そのため、全資料平均の 風速比と露場通風率は実質的にW~NWの風向に対する値となるので、津山に限り、 「全資料平均」に代わり観測回数の少ない風向も含む「全方位平均」(各方位に同じ 重みづけ)の風速比と露場通風率を求めることにした。

72.2 露場風速計の設置

これまでと同様に、露場風速は超音波式風速計(ウインドソニック、PGWS-100-1、 乾電池式)で観測する。観測は1秒間隔で風速・風向をデータロガーに収録する。 このデータから10分間平均の風速・風向および風速変動と風向変動の標準偏差を 求める。測風塔の10分間平均の風速・風向と比較し、風速比(=露場風速/測風塔風速) と風向差(=測風塔風向-露場風向)、露場通風率の方位角依存性などを求める。

周辺地図
図72.2 津山観測所の周辺地図、模式図(「K71.露場風速の解析ー 津山1」の図71.3に同じ)。
赤丸印は風速計設置場所、公園内は前回の設置場所、この公園は丹後山のもっとも高い 標高(146.6m)にある。それより3mほど低い周りには約3m幅の市道がある。 露場は公園よりも標高が1m程度低い位置にある。市道の西側は崖となっており、 標高差40m、傾斜角は約27°である(電子国土地図による)。

露場内の写真は図72.3と72.4に示した。

露場
図72.3 露場風速計(中央の左寄り:受感部の地上高度=1.64m)、南東側から 北西方向を撮影(2013年1月21日)。北西側の崖下(標高差40m)の遠方には津山市内 が見える。露場面の手前右側に見える白色四角板は仰角測量の位置を示す標識である。

露場風速計
図72.4 露場風速計、南側から北方向を撮影(2013年1月21日)。 車とフェンスの北側は公園(アスファルトで舗装)、その遠方は竹やぶである。 風速計ポールの右前方、露場面に見える白色四角板は仰角測量の位置を示す標識である。

72.3 仰角の測量

仰角の測量は、風速計を設置したポールの北北東の位置(露場の標識:図72.3、72.4に 見える白色四角板)で行った。真北は磁石の方位に偏角7.5°西を補正して決め、 周辺樹木の仰角αを方位5°間隔で測量した。

仰角の測量値の結果
 仰角の平均:<α>=3.7±4.3°
 露場広さ1:1/<tanα>=1/<h/X>=12.06
 露場広さ2:<1/tanα>=<X/h>=18.36±10.96
 パラメータ比:露場広さ2 / 露場広さ1=1.52

ただし、<>は全方位の平均値を表し、パラメータ比が大きいほど方位による空間 広さが一様でないことを意味している。前回の公園での値<α>=6.0±6.4に比べて 仰角は小さく、「露場広さ1」と「露場広さ2」はそれぞれ8.12、16.68に対して12.06、 18.36に広くなっている。

これまでと同じ定義によって露場広さの方位角分布を求める。

定義:方位別の露場広さ=X/h=1/tanα

森林など樹木群の場合、仰角αを示す高さ h は各方位の視界内に見えるもっとも 高い樹高の仰角とし、その樹木までの水平距離がXである。
方位は0°が真北、90°が東、・・・である
X は水平距離(m)
hは樹高・建物などの高さ(m)
αはhを見たときの仰角(°)

仰角の測量およびその利用上の注意:
(1)仰角α<1.8°のときの取扱い
(2)樹木等の場合、仰角の平均値を読む
(3)露場通風率と露場広さの関係を調べるときの、仰角の移動平均値
(4) 遠くの電柱、露場内の機器などの取り扱い
については、次をクリックして参照のこと。

クリックして次の 「仰角の測量およびその利用上の注意」を参照し、プラウザの「戻る」を 押してもどってください。
仰角の測量およびその利用上の注意


仰角の測量値に基づいて計算した、露場広さ(=X/h=1/tanα)の方位角分布を 図72.5に示した。赤実線は露場通風率の解析(後述)で使用する露場広さである。

露場広さ方位角分布
図72.5 露場広さの方位角分布。プロットは測量値、赤実線は方位角50°範囲 の平均値(すなわち±20°範囲の平均値、例えば方位90°の値は70°、75°、 80°、85°、90°、95°、100°、105°、110°の9方位の平均値)。

図72.5によれば、南東側と南西側は開けており、しかも緩い斜面で仰角がマイナスに なる方位がある(南東~南~西北西、方位5°間隔の33方位のうち11方位で α=-0.4°~-6.5°)。

反対に、北側には公園があるがその遠方の樹木・竹林により風止めとなり、南寄りの 風に対して通り抜けが悪くなる。北西~北東(方位305°~360~40°)の露場広さは 殆んど10以下(仰角=5~10°)である。これらの特徴が、次節で示す風速比と風向差 などに現れることになる。

注意1:
前述の注意の(1)によれば、α<1.8°はα=1.8°と置き換えてX/h=1/tanαを 計算することにより、α<1.8°のときのX/h=1/tanα=31.8(最大値)となっている (図72.5)。

72.4 風速比と風向差

10分間平均の露場風と測風塔風を比較する。図72.6(上)は風速比(=露場風速/測風 塔風速)の風向依存性である。風速比の平均値(赤四角印と赤実線)は 0.24~0.60 の 範囲に分布している。仰角との関係は後述する。

風速比
図72.6 風速比(上)と風向差(下)の測風塔風向依存性。小プロットは10分間値、 赤四角印付き実線は平均値である。

「はしがき」の注目点2「北寄りの風のときの風速比は大きくなるか?」に ついて、前章の「K71.露場風速の解析ー津山1」の図71.7 と比べると、測風塔風向が北北西~北東の場合、風速比 は 0.34~0.42 から 0.50~0.60 に 1.43~1.47 倍も大きくなり、後で示すように 露場通風率は 42~55%から 66~79%に 24%も大きくなっている。前回の風速計 を公園に設置した位置から30mほど南に移設しただけで、露場風速は飛躍的に大きく なったわけだ。

図72.6(下)によれば、風向差は測風塔風向がWNW~NW(292.5°~315°)でマイナス に大きくずれているが、他の風向では小さい。これを図72.7に模式的に示した。 測風塔の風向(実線)と露場風向が大きく違う場合を破線で表した。

風向が大きくずれるWNW~NWの風のとき風速比は小さくなっている(0.24~0.28)。

風向のずれ模式図
図72.7 風向のズレの模式図。小赤丸印は露場風速の観測地点、実線は測風塔風向、 破線は露場風向が大きくずれた場合の露場風向を示す。

図72.7の破線は露場風向の平均値であり、個々の風向は大きくばらつき、測風塔風向が WNW~NW のとき、その変動幅はプラス・マイナス60°以上もあり、風は渦を巻いて いることになる(図72.8の上図)。

測風塔風向が WNW~NW のとき、風は西側の崖(傾斜角約27°標高差40m)を吹き 上げてくるため、測風塔の風速が強くても、地面近くの露場風速は弱くなる。 この現象は、青森県深浦での北寄りの風の場合に似ている(模式図72.1を参照)。 詳細は次節で説明する。

図72.8は風向変動の標準偏差(上図)と乱流強度(=風速変動/平均風速)(下図)の 風向依存性である。開けた方向、つまり露場広さが広い方向から吹く SSE~SE と SW ~SSW(112.5°~135°と225°~247.5°)のときの風向変動はσ=22~24°で小さい ことがわかる。

風向変動
図72.8 風向変動の標準偏差(上図)と乱流強度(=風速変動/平均風速)(下図)の 風向依存性。

風速比は露場風速計と測風塔風速計の高度(Zr, ZA)によって変わるので、次節では 露場通風率について調べる。

72.5 露場広さと露場通風率

Zrを露場風速計の高さ、ZAを測風塔風速計の高さ、UrとUAを それぞれ露場風速と測風塔風速、zo=0.003mを理想露場の粗度、dをゼロ面変位と すれば(津山ではd=0 を仮定)、露場通風率は次のように定義される。

風速比=露場風速 / 測風塔風速・・・・・・観測値
風速比理想値=Ur/UA=ln(Zr/zo) / [ln(ZA-d)/zo], zo=0.003m
露場通風率(%)=風速比 / 風速比理想値

各方位の露場通風率と露場広さの関係を図72.9にプロットした。前述のように今回の 観測期間54日間中、測風塔風向は82%の頻度で W~NW である。そのため、他章のように 観測回数の少ない風向をプロットから外すと全体像が見えにくくなる。それゆえ、 多少の誤差があっても、10分間の観測回数が5回以上(観測時間>50分)の露場通風率 をプロットしてある。

図中にW, WNW, NW,NNWを付記した大きい白抜き丸印(観測時間>1000分)は測風塔 風向がW, WNW, NW,NNW(270°、292.5°、315°、337.5°)の場合である。これらの プロットの内、特にWNW, NWは露場風速が弱めに観測されている。この方位には崖が あり、露場風向が大きく曲げられ平均的に北寄りの風となる(図72.7)。 この津山の露場内の観測でも、深浦と同様に丘を吹き上げる風の特徴が確認された。

露場通風率
図72.9 露場通風率と露場広さとの関係。上図は横軸を直線目盛、下図は対数目盛で 表してある。緑破線は林内開放空間における実験式、下図に示す水平の黒破線の左端の プロットは風下側の樹木群から測った風上側の露場広さで表した露場通風率である (横軸の露場広さX/hはマイナスであるが、その絶対値で示してある)。

下図は横軸を対数目盛で表したものである。水平の黒破線で示す右端の横座標は、 通常の表し方で示した露場広さであり、ESE, SE, SSE, S,SSW, SWの風向のときである。 これらの風向に対して、露場通風率が実験式(緑破線)より小さい方へ大きくずれて いる理由は、その風向と180°逆方向(風が吹き抜け去る方向)には樹木・竹林があり、 風止めの働きをしている。そのため、南東と南西の風のときは露場広さが大きい割に、 露場通風率は大きくなれない。

水平破線の左端のプロットに対する横軸は、風上側の露場広さの絶対値(マイナスは 付けていない)を表している。

この関係は青森県深浦で見出された風止めの関係と同じである。そこで、樹木などの 風上側(露場広さがマイナス)において観測される露場通風率の関係を見てみよう。

風上側の風速
図72.10 風上側での風速比(=U/U0)と風上距離との関係、ただし U0 は障害物に影響されない遠方の風速。
破線:一辺が 2h の角柱の風上側(X/h はマイナス、X/h=0 は角柱の風上端)での 風速比(=U/U0)と風上距離との関係、ただし 非圧縮非粘性流体に対する ポテンシャル流、
プロット:観測値、深浦と津山、いずれも開けた方向からの風で反対側に風止めがある 場合。

すでに、図72.1で説明したように、深浦観測所では北寄りの風、津山では西寄りの風 は斜面を吹き上げてくるため、平坦地(露場付近)では剥離(はくり)の現象もあり、 露場風速が測風塔風速に比べて著しく弱められる。

図72.10のプロットと黒破線の比較から、露場風速は平坦地に比べて70%程度に 弱められている。70%程度は、後掲の図72.11の下図でも見ることができる。

表72.1は方位別の風速比と露場通風率の一覧である。

「はしがき」でも述べたように、 今回の観測期間では、82%が西~北西の風(測風塔風向)であるため、他の観測所と 異なり、全資料平均の代わりに、風速比と露場通風率の平均値は 全方位平均値(各方位に同じ重みづけをした平均)を示した。

表72.1 風速比と露場通風率のまとめ、2013年1月21日~3月15日(津山、露場内)
  X/h=1/tanα:各方位の露場の広さ(±20°範囲の平均)
   ただし全方位の平均値のX/hは「露場の広さ1」(=1/<tanα>)
  風向:測風塔風向(ZA=11.7m)
  資料数:10分間平均値の資料数、ただし測風塔風速>2.5m/sのとき
 資料数が10未満の場合、露場通風率は示していない。

        風向  風速比 露場通風率 資料数
    X/h  (°)       (%)

    6.8      0      0.568       74.6      27
    8.6     22.5    0.554       72.8     26
   15.0     45      0.601       79.0      12
   15.7     67.5    0.540       71.0      15
   17.7     90      0.485       ----      5
   22.7    112.5    0.493       64.8      23
   26.0    135      0.524       68.8      31
   26.9    157.5    0.440       57.2      69
   23.5    180      0.392       51.6      40
   27.5    202.5    0.542       71.2      15
   30.9    225      0.562       73.9      30
   22.2    247.5    0.563       73.9      51
   16.7    270      0.452       59.4     288
   16.8    292.5    0.241       31.6    1006
    9.2    315      0.282       37.1     764
    6.4    337.5    0.504       66.3     107

   12.06 全方位平均 0.484       63.6    2509


72.6 各地の露場通風率

図72.11は、これまでの一連の研究によって各地観測所で得られた全資料平均の露場 通風率と露場広さの関係である(ただし、津山は全方位平均値)。横軸は、上図では 「露場広さ1」(=1/<tanα>=1/<h/X>)を、下図では「露場広さ2」 (=<1/tanα>=<X/h>)で表してある。

「露場広さ2」は、仰角αの平均値が大きくても開けた方位があれば(風の通り抜け 易い方位があれば)、大きくなるパラメータである(例:大手町露場)。そのため、 全体的な傾向をみる際に用いる。

図中の緑塗りつぶし四角印は、露場通風率が小さめの観測点(北の丸露場)を示し、 露場広さを定義する面積の範囲内に低木の樹木が密に存在することで通風が悪くなって いる。

注意2:露場広さの定義
露場広さは、露場から周辺を見たとき各方位の仰角の最大値を読みとり、それより近い 範囲を露場広さと定義している。理想に近い露場は、露場広さの範囲内に樹木等が無い 露場であり、北の丸露場は理想からもっとも遠い環境にある。

各地の露場通風率
図72.11 各地における露場広さと露場通風率の関係、全資料平均(ただし津山は 全方位平均)の関係。上:横軸は「露場広さ1」で、下:横軸は「露場広さ2」で 表してある。記号の(外)は露場外の公園での観測値を意味する。

全体的な風通しを表す場合に用いる「露場広さ2」で示した下図において、赤塗つぶし 四角印は丘地形(深浦、津山)を表し、平坦地で得た実験式(緑破線)の約70%の 露場通風率となっている。丘地形で露場通風率が小さくなるのは、(1)斜面・崖を 吹き上げる風の特徴と、(2)風下側の風止め作用が重なったこと、さらに (3)測風塔風速が強めになることによる。

丘上に設置されている観測所の測風塔風速が強いことは、すでに 「K59.露場の風速と周辺環境の管理―指針」の表59.3の一覧表に示したように、 大気境界層トップの風速と測風塔風速の関係(ロスビー数相似則)から検討した結果、 丘では測風塔風速が平坦地に比べて20~60%程度強い。表59.3では粗度の大きさで 示したが、これを風速の強さに換算してみると、たとえば、室蘭では140%、深浦では 160%、横浜では130%、浜田では120%、津山では105%の強めである。その他の丘でも 同様である。

他所に比べて津山の測風塔風速(105%)が平均的に小さいのは、一帯が内陸盆地で 上空の風が弱いことが影響している。

72.7 まとめ

津山観測所の露場において露場風速を観測し、方位別の露場通風率(風通しの良し 悪しを表すパラメータ)を求めた。

(1)露場風速に及ぼす露場広さ
前回の公園での観測に比べて、露場風速計は南に約30mの位置に設置した。つまり、 観測所の北側は公園であり、北側が約30m広い場所に設置したことにより、北寄りの 風のときの風速比は1.45倍ほど、露場通風率は 24%大きくなった。津山の北寄りの 風に対する約30mの距離の増加は「露場広さ」に換算すると、4.3~5.3から6.4~15.0 に(1.5倍~2.8倍に)増加した。

(2)丘地形の特徴
観測点の西側は崖(標高差40mに対して傾斜角は約27°)になっており、測風塔風向 が西北西~北西のとき、露場での風向・風速変動は非常に大きく平均風向は大きく 曲げられ平均的には北~北北西となる。風速比と露場通風率は小さくなる。この関係は 深浦で見出されたことと同じで、丘地形の特徴である。

(3)風の通り抜けの悪さについて
南側(南東と南西)は傾斜の緩い斜面であり、南寄りの風に対して風下側(西北西~ 北東)の樹木・竹林の風止め作用によって、露場通風率は南側が開けている割に 小さい。

(4)露場通風率の全方位平均値について
今回の観測期間(2013年1月21日~3月15日、54日間)では、82%の頻度で西~北西 風であり、卓越風向が偏ったデータである。そのため、他観測所で求めた「全資料平均」 の代わりに「全方位平均」(各方位に同じ重みをつけた平均)の風速比と露場通風率を 求めると、全方位平均の風速比=0.484、全方位平均の露場通風率=63.6%となった。 露場広さが大きい割にこれら風速比と露場通風率が小さいのは、上記(1)(2) の地形・地物の特殊性が現れたものである。

(5)他所を含む露場通風率のまとめ
各地の結果をまとめると、露場通風率は露場広さの関数で表され、「平坦地」と 「丘地形」に大別され、後者は前者に比べて約70%の大きさである。

参考文献

Kondo, J. and G. Naito, 1972: Disturbed wind fields around the obstacle in sheared flow near the ground surface. J. Meteor. Soc. Jpn., 50, 346-354.

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