K66.露場風速の解析ー深浦御仮屋


著者:近藤 純正・菅原 広史・西崎 正二
青森県日本海沿岸の史跡公園「御仮屋」に設置されている深浦観測所の露場フェンス外側で 風速を観測した。御仮屋では北~北東は開けているが、東~南~西には松が多く、 露場通風率は小さめで、全方位平均値は42.5%となり、林内開放空間で得た実験式と ほぼ一致する。露場通風率が小さめとなるのは、開けた方向から風が吹くときでも 背後の松の影響があり、さらに丘の斜面を吹き上げる風の”はく離”による地形的な影響に よると考えられる。 (完成:2012年12月3日予定)

本ホームページに掲載の内容は著作物であるので、 引用・利用に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを 明記のこと。

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更新の記録
2012年12月1日:素案の作成
2012年12月5日:「はしがき」に参考1、2を加筆


  目次
        66.1 はしがき
        66.2 2台の超音波式風速計の比較観測
        66.3 露場風速計の設置
        66.4 露場空間の広さの測量
        66.5 風速比と風向差
        66.6 露場通風率
        66.7 まとめ
        参考文献


66.1 はしがき

重要な気候観測所近傍の環境を維持・管理する方法として2つがある。その1は、 露場から周辺地物の仰角を方位5度間隔で全方位について測量すること。これにより 露場の周辺、概略30~400mの範囲の環境変化がわかる。環境変化が樹木の成長による ものであれば周辺住民の理解と協力を得て伐採や剪定を行う。その2は、露場内の高度 1.5~2mで風速(露場風速)を長期間にわたり観測すること。露場内および露場フェン スの外側に雑草・灌木が生えれば、風速比(=露場風速/測風塔風速)が変化し、露場内 から近傍50m程度までの環境変化が分かる。

露場内および露場フェンスの外側に雑草・灌木が生えたような場合、仰角の変化に 現れないことが多いので、これら2つは、環境の維持・管理にいずれも必要である。

参考1: 現実の観測所の周辺環境は様々であり、統一的な距離範囲は示し難く、 ここでは概略的な範囲を示した。

参考2: 例えば、草丈 h=2mの雑草が露場風速計からの距離 X=50mに生えた 場合、露場面から見る仰角=2.3°(X/h=25)となり、風速比に変化が現れはじめる。 より近傍に雑草が生えれば、風速比は顕著に変化する。この場合と同じではないが、 似た観測例が「K64.観測露場周辺の地物の仰角測量」の 図64.23に示されている。

仰角αの変化、すなわち1/tanα=X/h(X:露場空間の広さ、h:地物の高さ)の 30%の変化と、風速比の10%の変化が注意すべき環境変化であり、これ以上の変化 が生じないよう管理しなければならない。

仰角の測量は各地気象台が開始しているが、まだ試験期間中であり、問題点を見つけ ながら具体的な測量手順書を完成していくことになる。去る9月の段階では、仰角は 方位角10度の間隔で測るとしてあったが、これでは粗く、十分ではない。

日本各地の観測所は平坦地のほか、多くは丘陵地や斜面など複雑な地形、しかも 周辺地物も様々な場所に設置されている。そのため露場風速は方位角依存性など 複雑な振舞いを示すことが予想される。

気象庁が重要な気候観測所で露場風速の本観測を始める前に、試験的な 観測によって問題点を見出し、将来の参考にしていただきたいと考えている。 その目的のために、地形などを考慮した代表的な気候観測所として、まず、深浦 (青森県)、宮古(岩手県)、津山(岡山県)、室戸岬(高知県)、奥日光(栃木県)、 石廊崎(静岡県)において露場風速の観測を計画した。すでに、2012年10月から深浦 と宮古で観測を開始しており、12月~1月から津山と室戸岬・・・・と順番に観測して いく予定である。

解析に用いる観測資料
大気安定度の影響を除くために、測風塔における10分間平均風速が3m/s 以下の資料は 除外する。解析に利用した資料と条件は次の通りである。

露場風速計の設置場所:深浦観測所の露場フェンス外(フェンスから西に7mの位置)
測風塔風速>3m/s(この条件のデータを全資料とよぶ)
測風塔風速計の高度:ZA=21.9m
ゼロ面変位:d=0
露場風速計の高度:Zr=1.85m
(露場フェンスの外で測った場合も、測風塔風速に対して「露場風速」と呼ぶ)

これまでに検討してきた他所における結果は、 「K57.森林内の開放空間の風速」「K59.露場の風速と周辺環境の管理―指針」および 「K61. 露場風速の解析―静岡」「K62. 露場風速の解析―館野」「K63.露場風速の解析ー北の丸と大手町」「K64.観測露場周辺の地物の仰角測量」 に説明されている。

なお、露場の無次元広さは、以下では略して「露場広さ」と呼ぶ。

66.2 2台の超音波式風速計の比較観測

露場風速は2台の超音波式風速計(ウインドソニック、PGWS-100-1、乾電池式)を 2か所の観測所に設置し、約1~3か月間観測、データ解析する。観測は1秒間隔で 風速・風向をデータロガーに収録する。このデータから10分間平均の風速・風向 および風速変動と風向変動の標準偏差を求める。測風塔の10分間平均風速・風向資料 と比較し、風速比(=露場風速/測風塔風速)と風向差(=露場風向-露場風向)、 露場通風率の方位角依存性などを求める。

各地で観測する前に、2台の超音波式風速計の相対的な違いを調べるために、横須賀の 丘陵地の上にある防衛大学校の高さ50mの給水塔の手すり(地上高度43m)に風速計 を左右に並べて約1m離して設置した。取り付け場所の僅かな違いによる風速の違いも 予想されたので、途中で取り付け場所を相互に取り換えた。

給水塔の直接的な影響がないと考えられる風向=190~240°のときのみ比較する。 ただし、風向は給水塔上端に設置されている風車型風向風速計(エアロベーン)による 風向である。

風速計相互の比較
図66.1 超音波式風速計BとKの比較、ただし風向=190~240°の条件。左:2012年 7月13日~21日、右:7月23日~31日。

図66.1は風速計B(横軸)と風速計K(縦軸)の比較である。取り付け場所を相互に 変えてもわずかな差しか見られなかった。

左図:K=1.0146B+0.008、標準偏差=0.06
右図:K=1.0028B+0.026、標準偏差=0.04

ただし、記号KとBはそれぞれ風速計Kと風速計Bの風速指示値(単位:m/s)である。 プロットのばらつきから判断し、両者の違いは無視できる。すなわち、風速計Kと 風速計Bは相対的に1%程度またはそれ以下の違いである。それゆえ、今後2か所 ごとで行う観測では風速計による違いは無視して解析する。

66.3 露場風速計の設置

深浦観測所は史跡公園「御仮屋」の敷地内の東北寄りの場所に設置され、フェンスで囲ま れている。露場内での観測に先立ち、露場のフェンスの外側で約1か月間の観測を行う こととした。

御仮屋は海岸段丘の地形にあり、北側はよく開けており遠方に日本海が見える。東側は 一旦低くなり道路を隔てて標高がしだいに高くなり森林に続く。南~南西側には主に松 が生え崖となり、深浦港を見下ろすことができる。南側の松の根元付近には笹竹が群生 していたが、2011年中にかなりの範囲が刈り取られた。桜など33本の伐採、松15本の 剪定が2011年2月までに行われ、それ以前に比べて風通しと日当たりが良くなっている。

御仮屋地図
図66.2 御仮屋のほぼ平らな範囲の模式図、東北寄り(右上)に気象観測露場がある。 超音波式風速計の設置場所は、露場フェンスから北西(左側)7mの位置(小丸印)で あり、露場内の小丸印は露場内で2012年11月16日から12月にかけて観測するときの 位置である(別章を参照)。

展望台から塔を見る
図66.3 御仮屋の北西寄りの展望台から東北東方向を撮影。鉄塔は測風塔、その右手 に白色の局舎が見える。写真では見えないが超音波式風速計は、トイレ(手前の小屋) と鉄塔の間の鉄塔寄りに設置されている。

風速計設置状態
図66.4 超音波式風速計の設置状態、センサー部の地上高=1.85m。
左:西北西方向から見た風速計(手前)と露場(遠方)、
右:南南東方向から見た風速計の設置状態、遠方に日本海の水平線が見える。

66.4 露場空間の広さの測量

風速計の設置場所の近くから周辺樹木の仰角 α を方位5°間隔で測量した。仰角の方位 角分布と露場風速(超音波式風速計による風速、露場フェンスの外)との関係を調 べるためである。

定義:方位別の露場広さ=X/h=1/tanα

森林など樹木群の場合、仰角 α を測る樹木などの高さ h は各方位の視界内に見える もっとも高い樹高の仰角とし、その樹木までの水平距離が X である。
方位は0°が真北、90°が東、・・・
X は水平距離(m)
h は樹高・建物などの高さ(m)
α は h を見たときの仰角(°)

ただし、α は400m以内の範囲に存在する樹木等の仰角であり、それより遠方のものは 無視する。

注1:はるか遠方に障害物があっても、X/h>30~40の距離つまり α<1.4°~1.9°の角度のとき、露場通風率は1となるので(あるいはα=0のとき X/h=∞となり発散するので)、X/h の計算を行う場合に限りα<1.8°はα=1.8°と 置き換えてX/h=1/tanαを計算する。したがって、α<1.8°のときのX/h=1/tanα= 31.8(最大値)となる。ただし、α の全方位の平均値は測量値の α を用いる。 丘などでは α<0となる場合もある。

注2:測量時の仰角αは瞬間値ではなく、視界内の方位2°範囲の平均値を読み 取る。なお、測量に用いている簡易セオドライト(牛方式ポケットコンパス=レベルト ラコンLS-25、望遠鏡倍率=12倍)の視界は2°40’であり、気象台が使用している レーザー距離計(トゥルーパルス360、望遠鏡倍率=7倍)の視界=6.5°である。

注3:露場通風率と X/h の関係を表す場合、X/h は方位±20°範囲の平均値を 用いる(方位5°ごとに測った仰角9点の移動平均値)。その理由は、風向は10分間 程度の短時間でも左右に変動し、その方位にある障害物の影響を受けるからである。

露場広さ方位角分布
図66.5 露場広さの方位角分布、赤線は50°範囲(±20°範囲、5°間隔で測った 9方位)の移動平均値

図66.5は露場広さの方位角分布である。北~北東の方位は開けており、無次元の露場 広さは30以上であるが、北東~南~西北西(45°~293°)にはおもに背丈の高い松 の存在により露場広さは5以下である。測量値の青色プロットが方位0~30°の範囲 で X/h=31.8(最大値)となっているのは、前記の注1で説明した。

測量結果のまとめ:深浦御仮屋露場フェンス外側
 仰角の平均:<α>=17.0±9.5°
 露場広さ1:1/<tanα>=3.14
 露場広さ2:<1/tanα>=6.78±9.16
 パラメータ比:露場広さ2 / 露場広さ1=2.16

ただし、<>は全方位の平均値を表し、パラメータ比が大きいほど方位による空間広さ が一様でないことを意味している。

66.5 風速比と風向差

10分間平均の露場風速・風向と測風塔風速・風向を比較する。図66.6(上)は風速比 (=露場風速/測風塔風速)、図66.6(下)は風向差(=測風塔風向-露場風向)の 風向依存性である。

風速比の平均値(赤四角印)は0.2~0.5の範囲に分布し、他所に比べてどの風向 (方位)についても小さい傾向である。その理由として、

(理由1)北東~南~西北西には樹高の高い樹木があり露場広さが狭いこと (図66.5)。
(理由2)北~北東はよく開けているが、観測点風下側の樹木の影響が大きいこと (図66.9)。
(理由3)丘の斜面を吹き上げる風が剥離し、丘の上で風速が弱化すること (図66.13)。

"剥離(はくり)”とは、地面など壁面に沿う流れが壁面の急激な形状変化により、 はがれることをいう。剥離がおきると、流れが渦巻くようになり、風速は弱くなる。

風速比と風向差
図66.6 風速比(上)と風向差(下)の測風塔風向依存性。小プロットは10分間値、 赤四角印は平均値である。

図66.6(下)によれば、風向差が大きいのは測風塔風向が東北東(67.5°)、南東と 南南西(135°と202.5°)、北西と北北西(315°と337.5°)の5方位である。 これを図66.7に模式的に表した。測風塔の風向(実線)と露場風向が大きく違う場合 を破線で、ほとんど風向差がない場合はそのまま長い実線で表した。

東北東の風向を例外とすれば、他の風向では風が観測地点まで吹いてくるとき平坦な 地面距離が長い方向にずれている。すなわち、南東と南南西の風は地面付近では平坦な 地面のフェッチ(吹走距離)が長い南南東の風向(御仮屋への入り口の方向からの風) となり、北西と北北西の風は地面付近では平坦地のフェッチが長い西寄りの風向 (展望台の方向からの風)となる。

  風向ずれ摸式図
図66.7 風向のズレの模式図、赤丸印は露場風速の観測地点、矢印付実線は測風塔 風向。露場風向が殆んどずれない場合は実線で、露場風向がずれた場合は破線で露場 風向を示す。

風向差が大きい風向のときの露場風の性質が次の図66.8に赤塗り四角印で示されている。 すなわち風向がずれる場合、地面付近では風向変動の標準偏差 σ が大きくなり (σ=50~70°)、渦を巻くように変動が激しい。

いっぽう、緑塗り四角印は風向差が小さい風向であり(図66.6下)、風向変動の 標準偏差はσ=30°程度で小さい。ただし、東風では風向差は平均値では小さいが 風向差のばらつきが非常に大きいので、このグループには含めていない。

風向変動偏差
図66.8 風向変動の大きさ(標準偏差)の測風塔風向依存性、小プロットは10分間 平均値、赤四角は各風向における平均値。
赤塗り印:測風塔風向との風向差が大きい風向(図66.6下図を参照)
緑塗り印:測風塔風向との風向差が小さい風向(図66.6下図を参照)

以上のように、測風塔と地面付近で風向の差が大きいときは地面付近で風向変動が 激しくなる。これは丘地形独特の特徴であるのかも知れない。今後の他所における 観測にも注意しよう。

次に、風速比が小さい「理由2」、すなわち北~北東はよく開けているが、 風下に存在する樹木の影響が大きいことについて考察する。図66.9は北寄りの風のとき の地形断面の模式図である。背後に高い樹木が無ければ、北~北東の風向に対する 露場広さは20~30と大きく、風速比は大きくなる(露場通風率は80%以上となる) はずだが、観測値では小さい。

風上風下模式図
図66.9 御仮屋の北(左)~南(右)の断面模式図、北寄りの風向のとき。

図66.9によれば、赤丸印で示す観測点は背後に存在する樹高hの風上側(-2h~-3h)に位置しており、樹高hにより風速が弱められている。 風速比は風速計の設置高度により少し変わるので、次節の露場 通風率によって調べてみよう。

66.6 露場通風率

これまで他の章でも説明したように、Zr を露場風速計の高さ、ZAを測風塔 風速計の高さ、Ur とUAをそれぞれ露場風速と測風塔風速、zo=0.003mを 理想露場の粗度、d をゼロ面変位とすれば(御仮屋ではd=0を仮定)、露場通風率は 次のように定義される。

風速比=露場風速 / 測風塔風速
 風速比理想値=Ur/UA=ln(Zr/zo) / [ln(ZA-d)/zo], zo=0.003m
露場通風率(%)=風速比 / 風速比理想値

各方位の露場通風率と露場広さの関係を図66.10にプロットした。X/h>5 の範囲の 5プロットは、これまでの防風林や林内開放空間で得られた実験式(緑の破線)から 小さいほうへ大きくずれている。これら5プロットは測風塔風向が315°、337.5°、 0°、22.5°、45°(北西~北東)の場合、すなわち開けた方向から吹く風のときで ある。しかし、これら5方向の風下側には背丈の高い樹木(松)があり、観測点は それら樹木に近い風上側(X/h=-2~-3)である。

  露場通風率
図66.10 露場通風率と露場広さの関係、緑破線は林内開放空間における実験式。

露場通風率対数目盛
図66.11 図66.10と同じ、ただし横軸は対数目盛である。水平の破線の左端のプロット は背後の樹高 h から見た露場空間の広さ(値はマイナス)である。

図66.11は図66.10と同じだが、横軸を対数目盛で表してある。水平破線の右端の プロットは従来と同じ風下側の露場通風率である。水平破線の左端のプロットは、 横軸に風上側の露場広さの絶対値(マイナスを付けていない値)である。

理解を容易にするために、これら5プロットを図66.12に再プロットした。縦軸は 障害物の影響のないときの風速 U で割り算してある。障害物の風上側の風速は近似的 に非圧縮非粘性流体のポテンシャル流で近似されるので(Kondo and Naito, 1972)、 これを実線で表してある。

注4:角柱や円柱周りのポテンシャル流
高さ h の松並木など障害物が存在するとき、その風上側の流れをポテンシャル流で 近似する場合、一辺の長さが 2h の角柱の中心軸をy軸に置き、断面の x 軸を風向、 z 軸を鉛直方向にとる。風が x のマイナス側からプラスの方向に吹くとき、 ポテンシャル流は角柱断面に対して上下が対称な形となる。z=0の面が地面に相当 する。それゆえ、樹高 h の風上側の風速は一辺が 2h の角柱に対する計算値 で近似した。

風上側露場通風率
図66.12 一辺が2hの角柱の風上側(X/h はマイナス、X/h=0 は角柱の風上端)での 風速比(=U/U0 )と風上距離との関係、ただしU0は障害物に 影響されない遠方の風速。
実線:非圧縮非粘性流体に対するポテンシャル流のとき。
プロット:御仮屋での観測値、測風塔風向が北西~北~北東(開けた方向)のとき。

Kondo and Naito(1972)によれば、障害物の特に地面に近い高度における風上側では、 ポテンシャル流による予測値よりも5~10%程度弱めとなる。したがって、図のプロット が実線より小さくなる割合の一部分が説明できる。

しかし、それだけでは大きくずれていることの説明がつかない。 もう一つ考慮すべきことがある。図66.13は丘を越える流れの模式図であり、 Kondo and Naito(1972)の実測と計算を参考にして描いたものである。丘の上の 平坦地の地面付近(露場風速の観測点)では風速は弱くなるが、少し高度が高く なれば強風域ができる。風速比(=露場風速/測風塔風速)は測風塔風速に対する比 であるので、測風塔風速計の高度が強風域に入っていれば、露場通風率はいっそう小さく なる。

丘まわりの風
図66.13 丘を越える流れの模式図。

詳細は他所における今後の観測からも明らかにされるだろうが、現段階における結論 として、次のようにまとめることができる。

『丘地形の御仮屋では開けた方位(北西~北~北東)からの風は背後の樹木の影響 (X/h=-2~-3)により10~20%程度弱められ、さらに丘を吹く上げる風の”はく離” による風速の弱化が重なり、結果として観測点(丘上の平坦地)では風速は 相対的に50%程度弱められている。』

表66.1 風速比と露場通風率のまとめ、2012年10月4日~11月15日
  X/h=1/tanα:各方位の露場の広さ(±20°範囲の平均)、
   ただし全資料の平均値の X/h は「露場の広さ1」(=1/<tanα>)
  風向:測風塔風向(ZA=21.9m)
 資料数:10分間平均値の資料数、ただし測風塔風速>3m/sのみの数
 右の2列:風下障害物の影響が大きいとして、その風上側の露場広さ X/h にマイナス
      を付け、風向は逆風向としてある

    X/h  風向  風速比 露場通風率 資料数  風上側   逆風向
        (°)       (%)              X/h     (°)
御仮屋(露場フェンスの外側)
   18.8      0      0.362       50.1      87      -1.8     180
   27.9     22.5    0.489       67.8      52      -2.0     202.5
   14.3     45      0.472       65.4      26      -2.6     225
    4.3     67.5    0.418       57.8      41
    3.9     90      0.184       25.4     113
    3.4    112.5    0.209       29.0     297
    3.0    135      0.274       38.0      64
    2.5    157.5    0.318       44.0     139
    1.8    180      0.289       40.1     428
    2.0    202.5    0.235       32.6     261
    2.6    225      0.249       34.5     172
    3.4    247.5    0.339       47.0     472
    2.8    270      0.396       54.8     609
    4.3    292.5    0.349       48.4     334
    7.1    315      0.242       33.5     204      -3.0     135
    7.3    337.5    0.211       29.3     156      -2.5     157.5

    3.14 全平均     0.307       42.5    3455        ―     ―


66.7 まとめ

丘の上の平坦地「御仮屋」において露場風速を観測し、方位別の露場通風率 (風通しの良し悪しを表すパラメータ)を求めた。

(1)露場通風率の全方位平均値は42.5%であり(図66.10と66.11の赤四角印)、 防風林風下や林内開放空間で得た実験式とほぼ一致する。

(2)御仮屋では北~北東の方向がよく開け、北西~北がやや開けているが、 他の方向には背丈の高い樹木(おもに松)がある。そのため、開けた方向からの風の ときでも背後の影響があり、さらに丘の斜面を吹き上げる風のはく離による影響も 重なり、露場通風率は小さめとなる。

すなわち、よく開けた方向から吹く風(北西~北)は、背後の影響と丘地形の影響が なければ、露場通風率は80~90%と予想されるが、観測値は50~70%となっている。

(3)測風塔と露場における風向差は、フェッチの長い西寄りの風(西南西~西北西) のときは小さく風向変動の標準偏差も小さいが、他の方向からの風のときはフェッチ が比較的長い方向(南東および西)に曲げられるように吹き、風向変動も激しくなる。

参考文献

Kondo, J. and G. Naito, 1972: Disturbed wind fields around the obstacle in sheared flow near the ground surface. J. Meteor. Soc. Jpn., 50, 346-354.

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