胃がないと、どうなるの?

 以下の現象は、主に術後から5年〜10年の間のことです。それを過ぎると個人差がありますが、かなり元に近づきます。
完全に元に戻ることはもちろんありません。しかしかなり戻ります。よく言われるのは、前より健康になる人も多い、ということ。
脂肪がつきにくく、スリムになり、健康に気を使うようになって、結局常人より健康、みたいな。心掛け次第ですが、もちろん。
 とにかく、以下の事項は、半分は一過性と思って下さい。

少食になる

 もちろん時間とともに胃のような構造ができてくるのですが、100%もとには戻りません。結局ものがあまり入らなくなります。手術後すぐの時は、その他の意味も含めて、1日6回程度に分けて食事を取ります。
 僕は術後6年経過していますが、お昼のランチを全部平らげることはまれです。ほとんどが半分弱程度残してしまう状態です。満腹になるのです。(僕とランチに行くと得です。1.5人前食べられます。ね、Hさん)
 (追記 2003年、手術から11年、かなり食べられるようになりました。普通盛りなら完食します。)
 とはいえ、体が納得しません。消化していくとすぐに空腹感が襲って来ますし、エネルギーが足りないので、すぐにへなへなっとなってしまいます。車のガソリンタンクがものすごく小さい、と考えれば大体あっていますね。しょっちゅうガソリンスタンドに寄らなければいけない、ということです。ですから、携帯必需品のひとつとして、お菓子やその他の軽食が挙げられます。以前は、外出先で「ガス欠」になり、動くこともままならず、他人にヘルプを請う、ということが何度もありました。「カロリーメイト」のようなものが良いでしょう。
 また、後で述べるように、低血糖の症状を起こす人もおりますので、そのような人は適度な糖分の補給が必要です。飴、キャンディー等をいつも持ち歩きましょう。ノンシュガーとか、低カロリーはだめですよ。これもあとで説明します。

食べられないものが増える

 嗜好が変わったり、味覚や嗅覚が敏感になったりして、好き嫌いが出てくる人もいるようです。僕が最初に嫌いになったのは「水道水」でした。
もともと都会の水はまずいのですが、どういうわけか異常なほどその臭さが分かるようになり、とても飲めなくなってしまいました。
 それから、辛いもの。以前は結構辛いもの好きだったのですが、もう口に入れた段階で受け付けなくなりました。痛いのです。何故だろう?
 そして、もっとも重要なことは、消化・吸収が困難なもの、またはほぼ不可能なものが出てくる、ということです。物理的に困難というのがメインですが、化学的というのでしょうか、消化酵素や、必要な物質がなくなったために吸収できないものも出てきます。 → 食べ物についてを参照して下さい。

吐く

 ほぼ1年、とにかく嘔吐との戦いでした。肉体的にはもちろんですが、精神的にもかなり打撃を受けます。外で吐いたりするとなおさらです。
しかし、「嘔吐は僕らにとっては、"くしゃみみたいなもの"である」と、考えるようにしましょう。
 嘔吐する弾きがねにはいくつかあります。
食べ過ぎたとき
ガソリンタンクがめちゃ小さいのだから、入れ過ぎたら逆流するのは当然。しかし、これが結構難しい。ついつい食べ過ぎます。とにかく少しずつ食べましょう。
急いで食べたとき
僕はこれがいちばん多かったような…。今でも時々吐きますが、その犯人はたいてい「素麺」のような麺類です。ツルツルやり過ぎ、です。
詰まったとき
食べ過ぎ以外でも詰まることがあります。たとえば繊維質のものを摂りすぎたとき、水分が少ないとき、固く大きな固まりを飲み込んでしまったとき、エトセトラ。
脂っこいものを摂りすぎたとき
「脂っこい」ものの定義をちゃんと読んで下さいね。ギトギトしてなくても実体は脂肪の固まりだった、という食べ物がいっぱいありますから。
食べた後すぐに横になったとき
溜める場所がないので、真横に寝ると出てきます。いずれ書きますが、術後半年くらいは、頭の方を高くして寝なければいけません。リクライニングする座椅子や、ベッド(通販の安いもので十分です)は、必需品です。

下痢をする。便秘もする

 これは嘔吐よりずっと続きます。「いつも下痢している」と言っても過言ではないくらい。でもそれでもいいです。また食べれば。少々の下痢は気にしないこと。
 下痢よりつらいのは、たまに便秘気味になるときです。みなさんが想像する以上に苦しいですよ。食べ物がまったく入らなくなり、簡単に嘔吐します。
入院時によく目撃したのが、「腸閉塞」で危険な状態になった患者です。亡くなる方もいます。開腹すると、乾いた腸はすぐにくっつきたくなるようです。
 術後まもないときに詰まって苦しくなったら、すぐに病院に行くこと。救急車も臆せずに呼びましょう。
 つまり、下痢は友達、便秘は敵です。ちょっと恥ずかしいですが、下着の替えは持ち歩いたほうが安心かも。ああこっぱずかしー。
 「食べられない」のと「身にならない」「嘔吐」「下痢」という四重パンチで、結局、次のような状況が起きてきます。

痩せる--太れない

 手術をしたあと、体重は劇的に落ちます。僕の場合、身長は174cmで手術前の体重は69kg。2カ月後の退院時で59kgでした。
 毎週日曜日に体重を量っていたので、ちょっと見て下さい。

手術まで 69kg
23日目 62kg
30日目 60kg
37日目 60kg
44日目 59kg
退院後、風邪で発熱したとき  50kg!!
それ以後、安定状態 55kg±1kg

 上のように、一時重い風邪をひいた時などは50kgまで落ち込みました。20kg近く体重が減った計算になります。
 このときは辛かった。肉がほとんどついていないので、普通の人なら信じられない場合に、痛いめに会うのです。ちょっとぶつけたら、眉をしかめるほどの痛さ。背中の肉もないので、駅の硬いベンチには長時間座れない。尻の肉もないので、風呂場の椅子は拷問。
 今は55kgでずっと安定しています。これ、限界ですね。もうおいそれとは太れないでしょう。
 ちなみに、手術前いちばん太っていた頃の写真がこれ。そして手術後、いちばん痩せていた頃の写真がこれ。(ちょっとエグイ写真です。ふたつとも別窓で開きます)
肉をつけるためには、高蛋白の食品をモリモリ食べること。

体力が落ちる

 当然ですね。慢性のガス欠ですから。また、退院直後は筋肉もへなっています。僕は退院して間もなく、自宅で一人の際、ちょいと散歩という魅惑に狩られ、軽装で外に出ました。50m歩いたところで、立ち止まってしまいました。電柱に凭れています。
 「やばい。もう動けないぞ」「少し休めば大丈夫か?」「寒い。11月だもんな」「ここにじっとしてたら、変なおじさんと思われる」「でも動けんもんは動けん」「どうしよう」
 ってな具合でした。このくらい体力は落ちます。もう二度と走ることなどできないのでは、と真剣に信じ込み、ちょっと涙が出そうになりました。決してんなことありません!今では2回戦まで行けます(何のこっちゃ)

 では、具体的な後遺症を見ていきましょうか。