平成12年度指定

有形文化財・建造物

九州大学西新外国人教師宿舎第3号棟 1棟

 福岡市早良区西新二丁目16番 九州大学

 大正11年(1922)、福岡市大坪町(現中央区六本松)に福岡高等学校が設置され、日本人教職員及び外国人教師のための宿舎が必要となりました。早良郡西新町の樋井川沿い西岸の土地(大正12年頃宅地化した)をこれに宛て、大正13年に平屋建て和風家屋3棟、2階建て洋風家屋2棟が建設されました。更に昭和2年(1927)に敷地南西部に平屋建て洋風家屋1棟(外国人教師宿舎3号棟。指定対象物件)が建て増されました。
 
構造形式等:桁行18.182m、梁間11.846m、木造平屋建て、切妻造り桟瓦葺、下見板張り。
      建築面積151.32平方メートル。写真(pdfファイル 924K)

 南北に主棟、東・北・西の各面に支棟を張り出したつくりです。主棟、支棟ともに和風桟瓦葺で、南西隅にスレート葺屋根の玄関ポーチががあります。外壁は各面とも下見板張りであるが、隅や角部に柱型は用いず、下見板を突き付けで納めています。北西隅に勝手口、南面には応接室から直接庭に出る出入口が設けられています。平面は建物西側に南から順に応接室、居間、食堂、厨房、東側に主寝室、洗面・浴室・便所、子供部屋、書斎、使用人室、物置があり、これら東西の各室の間には中廊下が通っています。これら各室は、使用人室が畳敷和風、物置が土間床であるほかは、すべて洋風仕様で板床、漆喰大壁、腰竪羽目、枠組み天井となっています。出入口や窓額縁、幅木、腰見切り縁などには繰形が施されています。玄関ポーチにはそれぞれ居間と応接室に通ずる二つの出入口があります。居間は西側に腰掛付き出窓が設けられ、食堂との境は型板ガラス入りのしおり戸で仕切られています。食堂と厨房境には分離派風意匠のハッチ(給仕口)付きの飾り戸棚があります。窓障子は居間・食堂・厨房、使用人室、物置、浴室などは引き違いガラス障子、それ以外はすべて分銅式の上げ下げ窓となっています。小屋組みは和小屋で、南北棟直下に丑梁を通し、そこからほぼ一間おきに東西に小屋梁を架け渡しています。

 西新の宿舎は、戦後旧制福岡高等学校が九州大学教養部に移行するのに伴い、福岡高校から九州大学教養部第一分校へ、さらに九州大学へと移管されるが、引き続き九州大学の教職員宿舎として使用され、洋風家屋3棟は従来どおり外国人教師宿舎に充てられていました。昭和29年には先年に火災で焼失していた和風家屋(日本人宿舎2号棟)が建て替えられ、九州大学総長宿舎となった他は、そのまま変更なく使用し続けられていました。しかし施設は老朽化が進み、平成11年には使用停止となり、宿舎の敷地を九州大学国際交流プラザ(仮称)の建設用地として使用することが決定されました。西新の宿舎は、特に樋井川沿いの洋風家屋2棟(外国人教師宿舎1号、2号棟)の景観や大学教職員宿舎としての風格が近隣の人々から親しまれ、保存の要望も出されていましたが、老朽化が甚だしく、保存が困難と判断されたため、比較的老朽化が少ない外国人教師宿舎3号棟のみを保存して新しい施設の一部に転用し、保存することとなりました。この建物は内部仕上げや浴室・便所などが若干改造されていますが、規模には変更はなく、建具もよく遺り、全体としてはほぼ当初の姿を保っています。
 設計者・施工者は不明ですが、九州大学箱崎地区に現存する同時期の建設の幾つかの木造建物と共通する意匠を持つことなどから、設計には当時九州大学建築課長であった倉田謙が関与した可能性があります。倉田謙は明治39年東京帝国大学建築学科第25回卒業生で、明治44年、文部省技師として福岡に赴任して以来、昭和5年まで九州大学の施設の建設に従事するかたわら、九州北部各都市の公共建築の設計も行い、九州における建築近代化事業の中心的存在でした。しかしその詳しい事跡は不明の点も多く、特に住宅作品はほとんど知られていません。もしこれが倉田の設計であるとすれば、きわめて珍しい遺構ということができます。

 明治以後の中・高等教育施設には教員宿舎が付設されることが多かったですが、その現存例は少なく、また詳しい調査・研究がなされた例はほとんどありません。一方昭和初期における地方都市の中小住宅の洋風化・近代化の実態についても、それを具体的に例証する遺構は少ないです。特にこの建物における特異な平面計画手法や、洋風手法と和風構造との混在などは、明治・大正期のいわゆる西洋館から昭和の平均的な近代都市中流住宅へと移行してゆく過程の過渡的な現象として興味深いものです。本建築は、設計者が倉田謙である可能性を考えるなら九州大学の歴史にとっても重要な記念物としての位置を占めますが、それ以上に広く本市にとって現存する稀少な木造洋風建築であり、文化財としての貴重な価値を有するものです。



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