1999年7月17日午前

16日午後←◆→ 17日午後


バルジェッロ宮 フレンツェの観光名所は、閉館となる曜日がまちまちで、開館時間もばらばら。
だから、田舎の観光地とは違って、一斉に閉館にならない反面、短期間で全部を観ようとすると、それなりの計画をたてないといけない。というわけで、私は、WindowsCEのPocketExelに休館日や開館時間を入力しておいた。
何ともせせこましい旅行である。ゆっくり時間がとれないことを嘆きつつ、PocketExelを覗いてその日の予定を確認する。この日は土曜日。土日になると、開館時間が短くなる箇所も多いため、要注意だ。次の日は日曜日だし、土曜のうちに観ておかないといけない場所もある。何とも頭が痛い。

で、その日はまずバルジェッロ美術館に向かった。この建物は、かつて司法関係の役所となっていたところで、マキャベッリが投獄されていたのがこの場所。今は彫刻コレクションを中心とした美術館となっている。あのギベルティとブルネレッスキがコンクールで競作した「イサクの犠牲」などが観られる。
ただし、マキャベッリが放り込まれていた地下部分は公開されていない。地下トイレには入れるけれど。

さて、この地下トイレで、どういうわけか、私は軽いやけどを負った。
洗面所の暑いお湯が出しっぱなしになっていて、トイレの中が蒸し風呂状態になっていた。誰もいる気配がないため、入るなり蛇口をひねってお湯を止めておいた。その後、トイレを出るときに手を洗おうと蛇口をひねったところ、差し出していた手に痛みが走った。当然、冷水の方をひねったのだが、水道管に熱水が残っていたらしく、それを思いっきり手に浴びてしまったのだった。すぐに冷水で冷やしたものの、手のヒリヒリした痛みが止まらない。かくして、しばらく冷水で冷やし続ける羽目になり、その場に釘付けとなる。
何しろ、大勢の人が拷問を受けて死んだと思われる地下牢の跡での出来事である。これも怨霊の仕業ではないか、なんて考えが脳裏をよぎり、寒気がする。

シニョーリア宮 そんなわけで、早々にバルジェッロ宮を脱出し、お次はシニョーリア宮に移動。マキャベッリの書記官時代の職場だったところである。
3階の「百合の間」あたりに、昔の書記局が置かれていたと言われている。ここには、マキャベッリの胸像が飾ってあると聞いていたのだが、どこを探してもそれらしいものは見つからなかった。百合の間の一部が修復工事中になっていたから、そのためかもしれない。
マキャベッリ・ツアーとしては残念な結果であった。でも、これでまた来る口実ができたか。
シニョーリア宮 この日は、何組かの結婚式があったようだ。この建物は、今も現役の役所として機能しているのである。その何組かのうちで、ウェディングドレスの似合う美しい花嫁を見かけた。
ちなみに、ウェディングドレスが似合う人を見たのは、これが初めてである。ウェディングドレスとは、容姿の欠点をことさらに強調するための衣類ではないのか、と常々思っていたが、少し考えを改める。容姿の長所と欠点の両方を強調する衣類である、と。

ひととおり観光を済ませた後で、おみやげを買いに行く。”ウッフィツィーナ・プロフーモ・ファルマチュウティカ・ディ・サンタ・マリア・ノヴェッラ”という長い名前の店を目指す。直訳すると”新聖母マリア教会の香水、薬局取り扱い事務所”といった意味だろうか。
女房から、ここで化粧品などを買って来いと頼まれていたのだった。
入り口から入ると、まず薄暗く長い廊下がある。廊下を抜けると、やけに大きな部屋があった。とにかく広くて天井が高い。壁に、まるで本棚のような扉付きの商品棚が並べられ、奥には横長のテーブルが置いてあり、その向こう側で店員が客の応対をしている。それ以外はモノが置かれていないし、人もまばら。古めかしい内装とその空間の贅沢さに、妙に圧倒されてしまった。広いフロアーの中央に立つと、途方もない高級店に迷い込んだ気がする。
中世時代の塔 商品棚には、値段が全く表示されていなかった。ますます、緊張。おそるおそるフロアーの奥にあるテーブルの上を覗いてみたら、値段表があった。そこで、その値段表を見ながら、中身がよくわからぬままに適当に注文することに。女房からは「何でもいい」と言われていたことだし…。
まず、バルジェッロ宮で軽いやけどを負った箇所に、お店の人から正体不明の液体を塗ってもらい、気持ちがよかったのでそれを購入(ただし、やけどへの効能は本来ない)。続いて、誰が見ても正体のわかる石鹸を注文し、そのほか、”アルメニアの紙”、”サンタ・マリア・ノヴェッラの水”といった得体の知れないものも買い込む。後に判明したところによると、前者は香りの付いた紙でタンスなどに入れるもの。後者は水で薄めて飲む薬酒のようなもので、大昔の修道士が調合したものだそうだ。
買い物を終えて外に出るとき、職員の人が私のためにドアを開けてくださり、お見送りを受ける。これで、ますます高価な買い物をした気分に陥る。

さて、ホテルに戻って冷静になってみると、手頃な値段で化粧品が買える店であったことが判明。
手元のレシートと買った品物を見比べてみると、意外にどれも安かったのである。高いとか高級とか感じていたのは錯覚であった。
もらった紙袋によると、ローマなどイタリア国内の都市だけでなく、パリやロンドンにも支店があるようだ。私としては、ヨーロッパ旅行の際のショッピングとしてお奨めしたい店である。空港の免税店で買うよりも、こちらの方が安いのではなかろうか。


16日午後←  →17日午後