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 ことばをめぐるひとりごと  その8

その都度

 日本語の半分は、中国語である。
 と大袈裟に言う必要もありませんが、もちろん、これは「漢語」のことを言っているのです。「はるかぜ」といえば日本語(和語)ですが、「シュンプウ(春風)」といえば中国語(漢語)。「さくらのはな」は和語で、「オウカ(桜花)」は漢語です。つまり、「音読み」されることばは、まあ漢語だと考えていいでしょう。
 もちろん、「演説」「哲学」など日本で作られて逆に中国に輸出されたとされる漢語も多いです。でも、「漢語」というくらいですから、もともとは古い時代に中国から入ってきたものです。
 ところが中には、漢字で書いて音読みで発音するのに、純然たる和語、つまり古来の日本語であることばが、けっこうあります。
 たとえば「堪能する」というときの「堪能」。これは「足んぬ」が語源だそうですから、漢語ではありません。いわば当て字なんですね。「気配」も、「け(感じ)+延ひ」ということで、もともとは和語。「可愛い」の「可愛」もそうで、本当は「かはゆし」という和語が変化したものです。
 また、「その都度(つど)」というときの「都度」も怪しい、と僕は思っています。

さて、ご指摘のございました○○様のメッセージにつきましては、会員規約違反として削除などの対応措置を講じております。尚、従来よりこの種の会員規約違反のメッセージにつきましては、その都度、削除等の対応措置を講じており、今後も引き続き充分留意し対応して参る所存ですのでご了解の程お願い申し上げます。(パソコン通信「ニフティサーブ」からのメール)

 このような硬い文章の中でも「都度」は使われます。「都度」の「都」は「すべて」、「度」は「たび」と解釈すれば、「そのたびごとに」の意味だと思われます。上記の例では、規約違反のメッセージがあったたびごとに削除する、ということでしょう。

 それはともかく、この「都度」は、中国で用いられたことばではないようです。日本での例も、明治時代初め、ヘボンの作った『和英語林集成』に載っているあたりが早い例だと思います。
 一方、遅くとも江戸時代の初めごろには用いられていたことばに「つどつどに」というのがあります。「ひとつひとつ」「こまかに」という意味らしいです。

「君をかりそめに見ること願ひ、宵の憂き思ひ思し召しやられよ」と初めよりのことどもをつどつどに語りければ、(井原西鶴「好色五人女」)

 この例では、吉三郎が八百屋お七に「一目あなたに会いたかった」と、初めからのできごとを「ひとつひとつ」語った、というのです。
 辞書を見ると、この「つどつどに」は、「都度」から転じたとあります。でも、この時代に「都度」があったのでしょうか。逆に、「つどつどに」が「ひとつひとつ」という意味であるところから、「つどに」ということばが作られ、それに「都度」という、意味のよく似た漢字を当てたということも考えられます。もっとよく調べてみる価値がありそうです。

(1997年記)

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