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 ことばをめぐるひとりごと  その5

「チョー」の誕生

 「超すごい」「超釣れた」という言い方を最近耳にする……と書くと、たちまち「最近ではない、前からだ!」としかられそうです。実際は、もう辞書の中でも認めているものがあり、市民権を得つつあるようです。おそらく今の中学生にはあまり違和感がないでしょう(追記1参照)
 では、この「超〜」という言い方はいつごろから出てきたのでしょうか。試みに、『現代用語の基礎知識』(自由国民社)をひもといてみました。
 最近のでは「ちょこみ・ちょださ・ちょむかっ・ちょすご・ちょーかっこいい・ちょーかわいい・ちょーうれしい・ちょらく」など、多くの用例が出てきます。これは1992年版以来の傾向です。1991年版にはなぜか載っていませんが、同年版の『imidas』(集英社)を見ると

超(ちょ) 「ちょう」とはいわない。「ものすごい」の最大級、「超おなかが空いた」と使う。

とあり、「ちょ」の形が主流であることが伺えます。
 再び『現代用語〜』にもどって、さかのぼって行くと、1990年には「超混んでた・ちょねむ・ちょ楽・ちょ安・ちょグッド」と出ていて、

「ちょ(超)」は早稲田、明治、「げろ」は慶応、「激」はその他の私大というように、大学別の傾向があったが、「ちょ」が今では一般化している。

と説明されています。「超〜」が大学生の間から発生したことを推測させます。
 1989年には「超ださ・超すご・激まぶ/超まぶ」とあって、「激」などと伯仲している様子が読みとれます。ちなみに「激〜」は、「激辛」が1986年の「日本新語・流行語大賞」新語部門の銀賞になるなど、その前後数年あたりはよく使われたものでした。
 1988年の版では「超(ちょー、ちょう) ものすごく。」と説明され、「ちょ」の形では出ていません。「ちょうかわ・ちょうすご・ちょう安・ちょうださ・ちょうむか・ちょうまぶ・ちょうやば」などの語が出ています。
 1987年版は「超ぶたる/巨ぶたる/どぶたる」(ひどく太る)の例があるだけです。そして、1986年以前の版には今のような「超〜」の使い方は出ていません。1987年版がその前年の言語状況を反映していると考えるなら、「超〜」の誕生は1986年ごろであったとみても、あながち見当違いではないでしょう(追記2参照)
 『現代用語〜』に出ているかどうかだけで、「超〜」の誕生年を推測するのはやや不安ではあります。でも、語形の推移が、この説の補強材料になるでしょう。
 新しいことばは、まず従来の語形を遠慮がちに崩すかたちで行われ、それから、変種がたくさん生み出されて大ブームになります。「超〜」の場合、今は「ちょこみ」「ちょださ」などの短縮形、「チョベリバ」(1996)などの発展形が出て、大勢力を誇っています。でも、『現代用語〜』の1986〜89年版によれば、当時「超〜」はまだ「ちょう」もしくは「ちょー」と発音し、比較的整っていたと考える根拠があります。これは、「超〜」の使われ初めだったからではないか。
 ちなみに、1988年6月に初版の出た『現代若者コトバ辞典』(日本経済評論社) では、「チョー」の項で「とても、VERYの意味。超が進むとゴー(豪)になる。」のように、「チョー」の形で出ています。一方、「ちょダサ・ちょマブ・ちょムカ」の項目もあり、このころには併行していたものと思われます。

(1997年記)

追記1 現時点で短大生には“まったく”違和感がないように見受けられる。(1999.11.16)

追記2 後に出版された井上史雄『日本語ウォッチング』(岩波新書 1998)には〈静岡県で発生して神奈川を経て東京に入った可能性がある〉とあります。また、井上史雄・鑓水兼貴『辞典〈新しい日本語〉』(東洋書林 2002)には〈NHK(週刊こどもニュース)スタッフの富士市での街頭取材(1998.11)によると、30歳代前半の数人が小中学生のときに使っていたと答えた。つまり〔静岡県では〕1970年代に使われていたことになる〉とあります。文献初出は1984年で『アングル』4月号に〈「超〜 日本女子大の流行語、ものすごいという意味、たとえば「超むずかしい」〉とあるとのこと。私の文章で〈「超〜」の誕生は1986年ごろ〉としたのは性急すぎたと言うべきです。(2020.04.26)


関連文章=「「チョー」の先輩」「夏目漱石の「大変」

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