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98.08.06

流行語の消長

 尾崎一雄「退職の願い」(1964)に、「ながら族」ということばが出ています。

 ラジオを聞きながら新聞を読み、傍ら妻や子供の話に応答する、というようなことをよくやって、子供から、
「お父さんだってながら族だ」と云われたものだ。ラジオを聞きながら勉強する癖をたしなめられた末娘の反撃であった。
「うんそうか。この頃そんな言葉があったな」(『暢気眼鏡』新潮文庫(1994.3.40刷) p.193)

 この小説は東京オリンピックの年に発表されました。ここでは一種の流行語、という感じで書かれています。小林信彦『現代〈死語〉ノート』によれば、「ながら族」は1958年の流行語で、テレビやラジオの音楽をききながら勉強をするのが習慣になった若者たちをさすことば。日本医大の木田文夫教授が〈ながら神経症〉と命名したのが広まったといいます。
 『日本国語大辞典』(第15巻、1975年)にも出ています。このころにはすでに定着していると考えられたのでしょう(ただし用例なし)。『広辞苑』には出ていない。漏らしたのか、一時の流行語だとして入れていないのか。
 「ながら族」は、僕が小・中学生だったころ(1970〜80年代)にも学校などでよく耳にし、僕自身は特に流行語という感じは持っていませんでした。発生が50年代の終わりだとすると、少なくとも十何年はふつうに使われたと思います。しかし、現在も使われているかどうかは不安です。小中学校の先生は使っているのでしょうか?
 ことばの寿命というのは分からないもので、流行語だと思っていると、いつの間にか定着したり、定着したと思っていたら、知らぬ間に「死語」になっていたりします。先を予測するのは難しいことです。
 「ぶりっこ」ということばも、一時の流行語に終わらず、かなり息が長かった。これは、松田聖子の登場とともに使われだしたことばです。僕自身、1982年初めに書いた文章の中で「今、流行語である」と記していますが、その後、長く使われ、一時の流行という感じではなくなりました。しかし、今はどうだろう。週刊誌でこの前見たのが1995年3月のこと。テレビでもあまり聞かず、たまたまこの間、NHKドラマ「天うらら」朝子のせりふで、

あんたの前でもうららの前でも〔老母が〕ぶりっこして。(1998.05.07 12:45)

と言っていた。ただし年代設定が1982年ごろなので、せりふもそれを踏まえているのかもしれません。
 こういうとき、インターネットは便利です。検索サービス「goo」によって、以上のことばを調べてみると、「ながら族」を含むウェブページは89件。また、「ぶりっこ」は719件(ぶりっこ287・ブリッコ205・ぶりっ子146・ブリッ子58・ブリっ子23)というような結果になりました(8月6日現在)。
 なんだ、けっこう使われているじゃないかと思われるかもしれませんが、これをたとえば「イケてる」の7704件(イケてる5432・いけてる2272)と比べてみると、さすがに昔日の面影はありません(「イケてる」のほうがいろいろな場で使いやすいという事情はあるにしても)。
 ちなみに、「ナウい」は247件です。これは間違いなく死語だな。


追記 文意が伝わりにくい部分があったので、一部書き直しました。
 ついでに、2年ぶりに上記のことばを「goo」で検索し直しました。「ながら族」292件、「ぶりっこ」2899件(ぶりっこ1050・ブリッコ699・ぶりっ子684・ブリッ子373・ブリっ子93)、「イケてる」18166件(イケてる10102・いけてる8064)、「ナウい」743件という結果。
 全体に増えたのはインターネットが普及した結果でもありましょうが、「ながら族」が約3倍、「ぶりっこ」が約4倍、「イケてる」が約2倍、「ナウい」が約3倍という、この差をどう見るべきか。(2000.11.12)

追記2 金田一春彦著『ことばの歳時記』(新潮文庫)p.97に、薪を担って書を読むということばは「いま流行の「ながら族」の祖というべきで」とあります。この本は昭和40年(1965年)の1月から12月まで「東京新聞」「中部日本新聞」に掲載されたものをまとめたもの。文庫化は1973年。(2001.08.12)


関連文章=「生き残る「ナウい」

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