さ迷い歩き 「電磁波の海」 (4)-1 = ファインマン物理学V 電磁気学 = |
0.はじめに
「電磁波の海」は、書籍「ファインマン物理学V:電磁気学」および「ファインマン物理学W:電磁波と物性」の私自身の学習内容に沿った個人的な話です。定年後の当初は、大学で学んだことのある(しかし、よく理解できなかった)”電磁気学”を勉強しようと思ってブルーバックスの本を読んでいたのですが、本の参考文献に「ファインマン物理学」が掲載されていました。恥ずかしながら、私はこのときまでファインマンの名前を知りませんでしたし、そのような物理学の本があることも知りませんでした。ちょっと興味を覚えたので、とりあえず書店に行って「ファインマン物理学V:電磁気学」と「ファインマン物理学W:電磁波と物性」を購入して学習を始めました。
ところがどっこい。「ファインマン物理学」はカルテク(カリフォルニア工科大学:California
Institute of Technology)における物理学専攻の学生に対する講義をベースに編纂されており、日本の物理学などの教科書とは違ってとても読みやすく、わかりやすい?ように思えました。それで、ついでに?学生時代に理解し損ねた「量子力学」も勉強してみようかと思い立ち、「ファインマン物理学X:量子力学」も購入し、勉強を始めました。どうもこれにはまったようで、電磁気学や量子力学を理解するには、「T:力学」や「U:光・熱・波動」も読まなければと思い、それも購入し勉強をしました(1冊3,000円から4,000円もするので、大変辛かったのですが)。もう大変なことになってしまいました。ちょっと翼を広げすぎたような形ですが、乗りかかった船ではないですが、現在も頑張っています。「X:量子力学」について、「さ迷い歩き「量子の森」」としてまとめ、掲載済みですが、ここでは、V巻、W巻の電磁気学および電磁波について学んで分かったこと、分からなかったこと、不思議に思ったことなど、気ままに書きなぐってみようと思います。
なお、V巻、W巻の内容をすべて均等に述べることは量的にも能力的にも難しいので、静電磁気学や電気回路などは節単位で簡単に内容を記述するだけにし、私が主に興味のある電磁波を中心に述べようと考えています。ご興味のある方は是非お付き合いください。
2013年8月5日
目 次
内 容 (V巻:電磁気学) | 内 容 | |||||
00 | ファインマンと「ファインマン物理学」 | |||||
01 | 電磁気学 1st page | 13.08.05 | 11 | 誘電体の内部 | 13.09.09 | |
02 | ベクトル場の微分 | 13.08.14 | 12 | 静電アナログ | 13.09.09 | |
03 | ベクトルの積分 | 13.08.14 | 13 | 静磁場 3rd page | 13.10.16 | |
04 | 静電気 2nd page | 13.08.22 | 14 | 色々な条件下の磁場 | 13.10.16 | |
05 | ガウスの法則の応用 | 13.08.26 | 15 | ベクトルポテンシャル | 13.10.17 | |
06 | 色々の場合の電場 | 13.08.26 | 16 | 誘導電流 | 13.10.22 | |
07 | 色々の場合の電場(続き) | 13.08.26 | 17 | 誘導法則 | 13.10.23 | |
08 | 静電エネルギー | 13.08.28 | 18 | マクスウェル方程式 | 13.10.25 | |
09 | 空中電気 | 13.08.28 | 19 | 真空中のマクスウェル方程式の解 | 13.10.26 | |
10 | 誘電体 | 13.08.29 | 20 | 電流と電荷のある場合の マクスウェル方程式の解 |
13.12.17 | |
00.ファインマンと「ファインマン物理学」 2012年04月23日
この章の文章は、「さ迷い歩き「量子の森」」で掲げた内容と同一です。
「ファインマン物理学」の著者ファインマンは、1965年に朝永振一郎、シュウィンガーとともに、量子電磁力学に関する画期的な研究(私には具体的にはわかりません)によってノーベル賞を受賞しています。もちろん、その人物像は私にはわかりませんが、彼の人柄は、一般人が想像する学者や研究者という言葉から連想されるものとはまったく違っており、何ものにもとらわれない自由で型破りな人物であったそうです。ちなみに、本著の序には、ファインマンがアフリカのボンゴをたたいている写真が掲載されています。彼はブラジルでボンゴを習い、リオの祭りでパレードにも参加したとのことです。ファインマンの以下の著書(岩波現代文庫)にはたいへん愉快な話が満載されていますので、一読をお勧めします。
「ご冗談でしょうファインマンさん(上)、(下)」
「困ります、ファインマンさん」
「聞かせてよ、ファインマンさん」
「ファインマンさん 最後の冒険」・・ラルフ・レイトン著
「ファインマンさんは超天才」・・C.サイクス著
ファインマンは、この講義をした当時はカルテク(カリフォルニア工科大学:California
Institute of Technology)の教授で、大学の大講義室において2年間物理学序論の過程として物理学(力学から量子力学まで)の講義をしたとのことです(講義はこの1回だけだったようです)。対象は物理学専攻の1、2年生であったようです。この講義の内容を教科書としてまとめたものが「ファインマン物理学T〜X」(日本語版)です。内容的には幅広いですが、その上の学生に対する専門的な内容は当然のことながら言及されていません。しかし、物理学の真髄について、ファインマン流の解説が散りばめられています。訳者の紹介文がありますので、以下に掲載します。
「本書の内容であるが、彼の人柄におとらずまことに個性的である。昔から今に至るまで、名著といわれる教科書は、整然とした物理学の体系を静かに展開するといった型のものが多い。しかし本書を手にする人は、それと大分様子がちがうことに気付かれるであろう。そこには絶えず読者に対する話かけがある。講義を録音した後で編集したという事情も、ある程度反映しているのはたしかだろうが、ここにはこの種の本に見られないリズムと流れとがある。ときには意外とも思われる題材を含めて、ボンゴのリズムのような躍動する大きな流れをつくっていく。彼の話は力学とか電気とかの既成の枠にとらわれない。それによって読者も絶えず新しい考え方の刺激をうけ、歩一歩とこの内容をたどる間に、いつのまにか非常な高みに持ちあげられてしまう。」
イメージがお分かりでしょうか?無味乾燥な?日本の教科書(あるいは講義)とはまったく違っており、引き込まれるような思いで読むことができました。しかし、浅学な私にとってはちょっと難しい内容が多くて、とても”いつのまにか非常な高みに持ちあげられてしまう”ということはありえませんでした。それでも、今までに4回ほど繰り返して読み、理解するように努めました。訳者の言うように、とにかくあるリズムの流れに乗って物理学を学んでいるような気持ちにさせられたことは、実感できます。
次に、ファインマンの序における彼のこの講義に対する考え方を、少し長いのですが掲載しておきます。彼の思いがよく分かるかと思います。
「本書は、昨年と一昨年、私がカルテクで1年生と2年生に対して行った物理の講義である。もちろん、講義のときと一言一句同じではない−−すっかり書きなおしたところもあるし、またそれほど手を加えなかったところもある。(中略)」
「この講義で私が特に意を用いたのは、高校を出てカルテックに入ってきた非常に熱心で頭のよい学生たちの興味を失わさせないには、どうすればよいかということである。カルテクに入る前に、彼らはすでに物理学というものがどんなに面白く、またどんなにすばらしいものであるかということをたっぷりと聞かされてきている−−相対性理論、量子力学、その他近代的な考え方など。ところがこれまでの講義のやり方だと、これらの素晴らしい新しい近代的な考え方などはほとんど出てこないので、2年たつうちに、すっかり失望してしまうという学生が多かったのである。斜面、静電気などを勉強させられて、2年たつと、全くばかばかしいことになってしまうという有様であった。そこで、よくできて心をはずませている学生の熱意を失わせることなく、こういう人たちを救済するような講義はできるものか、できないものか、これが問題であった。」
「これから述べる講義は決してただの概論ではない。それ自身として非常に真剣なものである。私はクラスの中でいちばんよくできる学生を相手にして話すつもりで講義した。そして、講義の本筋以外のいろいろな方面に物理的の考え方や概念を応用するというようなことにふれてみたりして、いちばんできる学生といえども、講義に出てくることをすべて完全に把むことはたしかにできないというような程度にした。こういうつもりだったので、私は大いに努力して話をできるだけ正確なものにし、かつどの場合でも、どこで方程式というものと考え方というものとがうまくいっしょになって物理学の枠にはまるのか、また−−学生がもっと先を勉強した後には−−話はどのように変わるかというようなことをていねいに説明したつもりである。そして、そのような学生に対しては、前に述べたことからの演繹によって理解すべき−−学生がよくできるなら−−点は何か、また新たに導入された点は何かということをはっきり指摘することが大切であると思った。新しい考え方が出てくると、私は、それが演繹できるものなら演繹した。あるいはまたこれは新しい考えであって、これまで覚えたことから出発して出てくるものではないこと、証明することはできないこと、−−したがってここにはじめて出てきたものであることを説明するように努めた。中略」
「さていうまでもなく、このこころみがどのくらい成功であったかということが問題である。学生の面倒をみた人達の大多数は私に賛成してくれそうにもないが、私自身の意見は悲観的である。私は学生のために大いに役立ったとは思わない。試験のときに大半の学生が問題を取り扱う様子から察すると、このやり方は失敗だったと思う。もちろん私の友人達によれば、十数人ないし二十数人の学生は、講義の全部にわたって驚くべきほどよい理解を示しているという。そして内容についてよく勉強し、いろいろの点について心はずませ夢中になって考えているという。そういう学生は、物理学の最上級の基礎を身につけたのだと思う−−そしてそういう人達をこそ私は育てたかったのである。しかし、”教育というものは、教育などしないでもいいという幸福な事態でない限り、大した効果のないものである”(ギボンス)。」
「そうはいうものの、私は学生を一人でも完全におき去りにしようとは思わなかった−−ことによると実際はおき去りにしたかも知れないが、学生のためになるのは、一つには、もっと努力して、講義に出てくる考えの真髄がよくわかるような問題をたくさんつくることだと思う。演習問題というものは、講義の内容を補って、話に出た考えをより現実的に、より完全に、よりちゃんと頭に入れるのによい機会を与えるものである。」
「しかし、この教育上の問題については、私はこう考えている。最善の教育というものは、いい学生といい教師との間に、直接の特別のつながりがある場合−−学生が考え方を論じ、ものごとについて考え、ものごとについて語る−−そういう場合にのみ可能だということを認識するよりほかはないと考えている。講義に出たり、また出された問題をやったりするだけでは大した勉強はできはしない。しかし、現代は教えるべき学生の数があまりにも多く、この理想に代るものを求めなければならない。その意味で、この講義も若干の貢献をするところがあるかもしれない。どこか、目立たないところに独特な個性的な教師と学生がいて、この講義から若干の刺激や考え方などを吸収しているのかもしれない。彼らはそれを考え考え−−さらにそれを発展させることに夢中になるのではあるまいか」
ちょっと長かったですが、ファインマンのこの講義に対する考え方、姿勢がよくわかったかと思います。私も、若いときにこのような講義を聴きたかったと思いましたが、恐らくできの悪い学生で、理解できなかった学生の中に入ってしまうでしょう。それでも、私はこの「ファインマン物理学」に出会うことができ、とてもよかったなと思っています。この後何を書くのかまったく決めておりません。ファインマン物理学の紹介をするつもりはありませんし、能力的にも不可能です。何か思いついたことを書いてみようと思っているだけです。
なお、ファインマン物理学関連の書籍として以下のものを紹介しておきます。
「物理法則はいかにして発見されたか」(岩波現代文庫)
「光と物質のふしぎな理論」(岩波現代文庫)
「科学は不確かだ」(岩波現代文庫)
「ファインマン物理学を読む1、2、3」 竹内薫著(講談社)
2012年4月23日
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01.電磁気学 2013年08月05日
(1-1) 電気の力
まず初めに、正の陽子と負の電子との間に働く力を、具体例をもって説明します。「重力と同じに大体距離の2乗に逆比例するが、強さはその10億の10億の10億の10億倍以上もある。」 「人体の中の電子が陽子より1パーセント多いとすると、あなたがある人から腕の長さの所に立つとき、信じられない位強い力で反発する筈である。どのくらいの強さだろう。エンパイア・ステート・ビルを持ち上げる位だろうか。とんでもない。エベレストを持ち上げる位だろうか。それどころではない。反発力は地球全体の”重さ”を持ち上げられるくらい強い。」 最初からFeynman流語りがばんばんと飛び出してきます。
次に、一つの電荷が受ける電磁力(ローレンツ力)を表わす式が出てきます。
F = q(E + v x B) (1.1) F:速度vをもつ電荷qが受ける力 E:電荷の場所の電場、 B:電荷の場所の磁場 |
次に、重要な場の重ね合わせの原理(E = E1 + E2)の説明があります。
重ね合わせの原理: E = E1 + E2 (1.3) |
「勝手に運動する一つの電荷がつくる電磁場の法則が分かれば、電磁気の法則が完成されることは重ね合わせの原理から分かる。」そうです。
そして、次のような考えが述べられています。 「このように、電磁気の法則を一番簡単に表わす形式は予期したものとちがうことがわかった。電荷の間の力の公式を示すのは一番簡単な方法ではない。電荷が静止しているならば、クーロンの法則が簡単であるが、電荷が動きまわると、ことに時間のおくれや加速度のために複雑になってくる。こういう事情のために、電荷の間の力だけにたよって電磁気を述べようとは思わない。それより、別の見方を考えたほうが便利である。それは電磁気の法則が一番扱いやすくなる見方である。」 ということで、次節に進みましょう。
(1-2) 電場と磁場
まず場についての考え方が説明されます。 「電荷に”働きかける”力があるからには、電荷がなくても”何か”があるということである。一つの電荷が時刻tに点(x,y,z)に存在するとき式(1.1)の力Fを感じるとする。そのとき空間の”一点”(x,y,z)にベクトルEとBとがくっついていると考える。場をつくっているすべての電荷の位置や運動をみださないという条件の下で、時刻t、場所(x,y,z)に電荷を置いたら受ける力をきめるのがE(x,y,z,t)やB(x,y,z,t)と考えればよい。この考えに従って、空間のすべての点に二つのベクトルE、Bを併せて考える。EやBは時とともに変化してもよい。このようにして、電場、磁場はx,y,zとtとのベクトル関数とみなされる。」
そして、Feynmanは、次のように電場Eと磁場Bの考えを導入する利点をまとめています。「電荷が電磁場をつくる関係を表わす公式は複雑であるが、次にのべる重要な特長をもつ。ある点の場と、その近くの点の場との関係は非常に簡単である。微分方程式の形で表現された数個のこのような関係で場を完全に記述できる。電磁気の法則が一番簡単に書けるのはこのような方程式を使った時である。」
ところで、Feynman電磁気学では、電気工学の教科書で通常使われる”磁界H"は使われません。また、Bは”磁束密度”と表現されますが、Feynman電磁気学では”磁場”と言います。実は、学生時代に磁界Hと磁束密度B(それに電界Eと電束密度D)の定義がよくわからず、いろいろな公式も混乱してなかなか覚えることが出来ませんでした。このFeynman流の定義と話の進め方は、電気工学にとってどうかは別として、一貫して取り扱われているので、私にとってはおおいに助かりました。
(1-3) ベクトル場の特性
ここでは、場と数学のベクトルを結びつけたベクトル場の重要な概念が導入されます。電磁場を勉強するための第一関門のようなものです。Feynmanは次のように述べています。 「電磁気の法則を場の見方から述べる際に使う、ベクトル場についての数学的に重要な二つの性質がある。一つの閉曲面を考え、その内部から”何か”が失われるかどうかを問題としてみる。つまり場は”流出”する性質をもつかどうか。」 「ベクトル場のもう一つの性質は、面でなく線に関係する。・・・ベクトル場に循環”を定義する。」
ということで、次のように流束(電束)と循環が定義されます。
流束 = (速度の法線成分の平均値)・(表面積) (1.4) *面の要素を通る流量は、面に垂直な速度成分に面積を かけたものに丁度等しい 循環 = (ベクトルの接線成分の平均値)・(周の長さ) (1.5) *任意のベクトル場に対してベクトルの接線成分の平均値 に曲線の長さをかけた料を仮想的な閉曲線のまわりの 循環と定める |
電場の場合、流体のような物質の流れとは異なりますが、流れ出す流体に似た何かを数学的に定義して、それを”電束”ということにします。
Feynmanは流束と循環の考え方の重要性を次のように述べています。 「流束と循環という二つの考え方を使うと、電気と磁気の法則を一度に表現できる。法則の意味をすぐに理解することはむずかしいかも知れないが、電磁気学という物理学の最後にねらっている記述の仕方についてかなり理解できるようになるにちがいない。」 全くその通りでございます。しかし、学生時代は、ベクトル場の考えがよく理解できず、ましてや数学的表現や公式がほとんどチンプンカンプンであったことをあらためて思い出し、冷や汗タラタラです。
(1-4) 電磁気の法則
いきなり電磁気の法則を4つ掲げます。
電磁気の第1法則: 任意の閉曲面をつらぬくEの流束 = 内部にある総電荷/ε0 (1.6) 電磁気の第2法則: CのまわりのEの循環 = -d/dt(Sを通るBの流束) (1.7) |
Eに対応したBに関する法則は次のようになります。
電磁気の第3法則: 任意の閉曲面に対するBの流束 = 0 (1.8) 電磁気の第4法則: c2乗(CのまわりのBの循環) = -d/dt(Sを通るEの流束) + Sを通る電流の流束/ε0 (1.9) |
あとで出てきますが、第1および第3の法則の左辺は、数学的に言えばベクトルの発散(Divergence)であり、第2および第4の法則の左辺は、ベクトル場の回転(Curl)に対応します。数学的能力の乏しいものにとって、本当に理解するのに時間がかかってしまいます。Feynmanは次のように語っています。 「式(1.6)から(1.9)までと、(1.1)とを合わせると、電磁気学の法則のすべてがつくされる。よく知られているように、ニュートンの法則を書き下ろすのは簡単であるが、それから出てくる結果は複雑を極めていて、すべてを学びつくすには長い時間がいる。電磁気の法則は書き下ろすにもそれほど簡単ではなく、従って結果はもっと複雑であり、それらを見極めるには非常に時間がかかる。」 これもまた完全に同意できます。
この後、電場と磁場の絡み合いに関する重要な実験が定性的に説明されます。このようなわかりやすい?物理現象の説明が随所にあるのが「ファインマン物理学」の特徴ですが、ここでは省略します。
(1-5) 場とは何か
この節でも、Feynmanはいろいろな事例を用いて、場の考え方の導入が必然であることを説明しています。特に、磁場と相対論の関係についての話が目を引きますので、ここに掲げてみます。 「磁場について次の点を指摘したい。場の線とか、空間をみたしてまわる歯車とかを使って磁場を描写することに成功したとしてみる。そのとき、二つの電荷が同じ速さで同じ向きに空間を動いていくとき起こる現象をどう説明するだろうか。動いているからには、電流と同じで、磁場を伴っている。しかし電荷と一緒に動く人がみると、電荷は静止してみえるから、磁場がないというに違いない。物と一緒にうごくと、”歯車”とか”線”とかは消失する。われわれが精出してやってきたことは新しい疑問をつくることであった。歯車はどうして消失するのかという疑問である。線をひく人も同様の疑問に出会う。線が電荷にくっついて動くのか動かないか言えないばかりではなく−ある座標系では完全に消滅することもある。」
「このように、私の言いたいのは磁場が相対論の効果だということである。上に考察した平行にうごく二つの電荷のばあい、その運動にv2乗/c2乗の大きさ程度の相対論的補正をしなければならないと思われる。この補正が磁気力に対応する筈である。しかしまえにのべた2本の電線の間の力の実験はどう考えるのか。そのとき磁気の力だけが力の全部であった。”相対論的補正”のようにはみえなかった。また、電線中の電子の速度を評価してみると、電線にそった平均速度は大体0.01cm/secである。従ってv2乗/c2乗は(10)-25乗くらいになる。たしかに無視できる”補正”である。しかしとんでもない!このばあい、磁気力はうごく電子間の”普通”の電気力に比べると(10)-25乗倍であるが、電線には同数の電子と陽子があるためほとんど完全に打消しあって、”普通”の電気力は消滅していることを忘れてはならない。打消しは(10)-25乗分の1よりも精密で、そのため磁場と呼ぶ小さな補正だけが残る。それが主要項になる。」
「物理学者が実際は相対論的効果であることを知らなくても、相対論的効果(磁場)が研究できv2乗/c2乗の程度まで正しい方程式が発見できたのは電気力の打消しがこうも完全であったためである。そして同じ理由で、相対性理論が発見されたときにも、電磁気の法則は変更する必要がなかった。力学とちがって、電磁気の法則はv2乗/c2乗の精度で正しい。」
ふーん、そうだったのか。学生時代にはこんな節を聞いたこともありませんでした。もちろん、電気系では相対性理論の講義はありませんからしょうがないのかもしれませんが、電磁気学を専攻するからには、磁気に関する起源?についてのコメントくらいはほしいですね(実際はそのような話があったのかもしれませんが、少なくとも教科書に記述はなかったと思います)。
*実は、東京工大教授の後藤尚久という人が、著書「電磁波とは何か」(ブルーバックス)で電磁波の電界と磁界が空間をどのように伝わっていくかを、電磁力線の伝播のイメージ図で説明していました。そこでは、確か、物理学者が電磁波の説明において、磁界が電界を生じ、電界が磁界を生じて空間を伝播していくという説明(および図)はナンセンスであると述べていたように記憶しています。このあたりの電気工学者と物理学者との間の物理的認識の違いが面白いですね。
(1-6) 科学と技術における電磁気学
Feynmanの一節だけ引用しておきます。 「人類の歴史という長い眼から、たとえば今から1万年後の世界から眺めたら、19世紀の一番顕著な事件がマクスウェルによる電磁気法則の発見であったと判断されることはほとんど間違いない。アメリカの南北戦争も同じ頃のこの科学上の事件に比べたら色あせて一地方の取るに足らない事件になってしまうだろう。」 ふーん、学生時代に学んだにもかかわらず、こんな重大な電磁気学の法則をほとんど理解していなかったとは・・・、一体何をしていたのでしょう??
2013年8月14日
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02.ベクトル場の微分 2013年08月14日
本章はベクトル場の数学的扱いが中心なので、公式を掲げる以外は基本的に省略します。ただし、第1節のFeynmanの説明は、物理学をこれから学んで行く上でたいへん重要と思われますので、長文ですが掲載します。
(2-1) 物理学を理解するとは
「物理学者が問題をいくつかの見方からみるために手段を必要とする。現実の物理現象の正確な解析はたいへん複雑なのが普通であって、物理的状態のどれをとっても複雑すぎて、微分方程式を解いて直接に解析できないほどである。しかし条件の違う場合に対する解の性格についてある感覚をもっていれば、体系の振る舞いについて適切な理解をもつことは可能である。場の線、容量、抵抗、インダクタンスなどの概念はこの目的に極めて役に立つ。従ってこれらの分析に今後かなりの時間を使うことになる。こうして、電磁気の事情がちがうときに何がおこるかについてある感覚をもつようになる。しかしながら、場の線のような発見的な模型で、すべての場合に適切で正確なものは一つもない。法則を表わす正確な方法は唯一つしかなく、それは微分方程式を使う方法である。これは基礎的であり、我々の知る限り正確という利点をもつ。諸君がもし微分方程式を知っていれば、いつでも微分方程式に立ちもどればよい。習い残したことなど決してないのだから。」
「事情がちがうとき、何が起こるかを知るまでには少し時間がかかる。そのためには方程式を解かねばならない。方程式を解くたびに、解の性質について少し覚えることになる。解を覚えておくためには、場の線とかその他の概念を使って勉強するのは役に立つ。このようにして実際に方程式を”理解”できるようになる。数学と物理学のちがいはここにある。数学者や非常に数学的な心を持つ人は物理を”勉強”するときに迷ってしまうが、それは物理学を見失うからである。 中略 彼らが失敗するのは、現実の世界の物理的状態は非常に複雑であるので、方程式のもっと広い理解が必要となるからである。」 中略
「普通、このような講義は漸近的に物理概念を発展させる−簡単な場合から出発して次第に複雑な場合に進むようになされる。このとき諸君は以前に学んだことを忘れなくてはいけない。つまりある場合には成り立つが、一般的には正しくない事がらは忘れる必要がある。たとえば、電気力が距離の2乗に関係するという”法則”は必ずしも正しくない。我々は別の進め方をする。まず完全な法則を与え、それからもどって簡単な場合に適用する。そしてこのようにしながら物理の概念を発展させる。これからしようとするのはこういうことである。」
「われわれの進み方は知識を得るための実験をして問題を発展させていくという歴史的な進み方とは正反対である。しかしわれわれの取扱う物理の問題は何人かの非常に独創的な人が200年以上もかかって造り上げて来たものであり、われわれの知識を得るために使える時間は限られているから、彼等のやったことをすべてやるわけにはいかない。この講義でやり損なうかも知れないことが、歴史的実験的発展であるのは残念である。実験室でこの欠陥をいくらか補えるであろう。また読者諸君はEncyclopedia Britanicaをよんで、講義で不足するものを補うこともできる。そこには電気やその他の物理についてすぐれた歴史的記述がある。多くの電磁気の教科書にも歴史的な話がのっている。」
(2-2) スカラー場とベクトル場; T と h
ベクトル代数の公式: A・B = スカラー = AxBx + AyBy + AzBz (2.1) AxB = ベクトル、 (2.2) (AxB)z = AxBy - AyBx (AxB)x = AyBz - AzBy (AxB)y = AzBx - AxBz AxA = 0 (2.3) A・(AxB) = 0 (2.4) A・(BxC) = (AxB)・C) (2.5) Ax(BxC) = B(A・C) - C(A・B) (2.6) |
微分等式: 凾(x,y,z) = (∂f/∂x)凾 + (∂f/∂y)凾 + (∂f/∂z)凾噤@ (2.7) ∂2 f/∂x∂y = ∂2 f/∂y∂x (2.8) |
スカラー場: 空間の各点に一つの数(スカラー)が決まっている場 ベクトル場: 空間の各点に一つのベクトルが決まっている場 |
(2-3) 場の微分: grad
勾配(gradient): gradT = ∇T = (∂T/∂x,∂T/∂y,∂T/∂z) (2.14) *gradT = ∇Tはベクトル *記号”∇”は”ナブラ”とよむ |
(2-4) 演算子∇
ベクトル演算子(オペレーター): ∇ = (∂/∂x,∂/∂y,∂/∂z) (2.28) ∇x = ∂/∂x, ∇y = ∂/∂y, ∇z = ∂/∂z (2.29) |
(2-5) ∇を使う演算
発散(divergence): divh = ∇・h = ∇xhx + ∇yhy + ∇zhz (2.32) ∇・h = ∂hx/∂x + ∂hy/∂y + ∂hz/∂z (2.33) *divh = ∇・h はスカラー |
回転(curl): curl h = ∇xh = ベクトル (2.37) (∇xh)z = ∇xhy - ∇yhx = ∂hy/∂x - ∂hx/∂y (2.38) (∇xh)x = ∇yhz - ∇zhy = ∂hz/∂y - ∂hy/∂z (2.39) (∇xh)y = ∇zhx - ∇xhz = ∂hx/∂z - ∂hz/∂x (2.40) |
(2-6) 熱伝導の微分方程式
(2-7) ベクトル場の2階微分
ベクトル場の2階微分公式: (a) ∇・(∇T) = ∇2乗T = スカラー場 (2.59) (b) ∇x(∇T) = 0 (c) ∇(∇・h) = ベクトル場 (d) ∇・(∇xh) = 0 (e) ∇x(∇xh) = ∇(∇・h) - ∇2乗h (f) (∇・∇)h = ∇2乗h = ベクトル場 *ラプラシアン(Laplacian): ∇2乗 = ∂2/∂x2乗 + ∂2/∂y2乗 + ∂2/∂z2乗 |
定理: もし ∇xA = 0 なら、 A = ∇ψ になるようなψがある (2.50) |
定理: もし ∇・D = 0 なら、 D = ∇xC になるようなCが必ず存在する (2.51) |
2013年08月14日
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03.ベクトルの積分 2013年08月14日
本章もベクトル場の数学的扱いが中心なので、公式を掲げる以外は基本的に省略します。
(3-1) ベクトルの積分; ∇ψの線積分
定理1: ψ(2) - ψ(1) = ∫(∇ψ)・ds (3.1) (1)から(2)への任意の曲線 *右辺は、一つのベクトル∇ψと、曲線Γの微小な線素ds((1)から(2) へ向かう方向の)とのスカラー積を曲線Γにそって(1)から(2)へとった 線積分という |
(3-2) ベクトル場の流束
Sを通って外向きに流れる熱量 = ∫sh・nda (3.11) あるいは 面Sを通るEの流束 = ∫s E・nda (3.12) |
熱量の保存方程式(積分形): ∫s h・nda = -dQ/dt (3.13) *Sを通り流れ出る熱の流束は、Sの内部の全熱量の時間に関する 変化率のマイナスに等しい |
(3-3) 立方体からの流束; ガウスの定理
ガウスの定理: ∫s C・nda = ∫v∇・CdV (3.18) *任意の閉曲面にわたるベクトルの法線成分の積分は、その面で 囲まれた体積にわたるベクトルのdivの積分としても書かれる |
(3-4) 熱伝導; 拡散方程式
熱量の保存方程式(微分形): -dq/dt = ∇・h (3.21) |
熱の拡散方程式: dT/dt = D∇2乗T (3.29) |
(3-5) ベクトル場の循環
ベクトル場の循環: ΓCt ds = ΓC・ds (3.30) |
(3-6) 正方形のまわりの循環; ストークスの定理
ストークスの定理: ΓC・ds = ∫(∇xC)n da (3.38) *ループを縁とする任意の面Sをとり、この面上にある一連の無限 小の正方形のまわりの循環を加え合わせ、この和を積分の形で 書き表わせる |
(3-7) 渦なしの場とわき口なしの場
∫(∇xC)n da = 0 (3.39) 任意の閉曲面 ∫∇・(∇xC)dV = 0 (3.40) 任意の体積 |
(3-8) まとめ
2.2点のスカラー場の差は第1の点から第2の点まで任意の曲線にそ ってとったスカラーの勾配の接線成分の線積分に等しい(定理1) ψ(2) - ψ(1) = ∫∇ψ・ds (3.42) (1)から(2)への任意の曲線 |
3.任意の閉局面上の任意のベクトルの法線成分の面積分は面の内部 の体積にわたるベクトルの発散の積分に等しい(ガウスの定理) ∫ C・nda = ∫∇・CdV (3.43) 閉局面 内部 |
4.任意の閉曲面にそう任意のベクトルの接線成分の線積分は、その閉 曲面を縁とする任意の曲面上でとったそのベクトルのcurl の法線成分 の面積分に等しい(ストークスの定理) C・ds = ∫(∇xC)・n da (3.44) 境界 面 |
2013年08月14日
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