Road to FRANCE PART1 【ワールドカップ・アジア最終予選篇】
ウズベキスタン対日本

1997年10月11日 タシケント・パフタコールスタジアム

師匠と今回も一緒に

午後2時に電話がかかってきた。師匠からだ。
「今晩、いいかな。ロング缶を3、4本もっていくよ」。
もちろんOKだ。
「今日こそは勝ってもらわないと」。
そうだ、今日こそは。

準備万端

午後6時、シチューを煮込み始める。やがて師匠がやってきた。少し早いが酒宴を始める。BSでは、大リーグのプレーオフをやっている。意外にフロリダ・マーリンズが強い。今日も勝って、ナショナル・リーグ・チャンピオンに王手。

日本代表ユニフォームレプリカに着替える。

8時50分

いよいよ、始まる。選手入場。予想通り、呂比須に代えて城、中田に代えて森島、警告累積の小村に代わって斉藤が先発。システムは3-5-2。私は4-4-2で行ってほしかった。

ウズベキスタンでは、要注意は20番シャツキフ、中盤の8番レベデフ、4番カシモフあたりか。9時、現地では午後5時。キックオフ。

攻める気迫

勝たなければならない日本。シュクビリンが右でボールキープしているところに、井原がつっかけてイエローをもらってしまう。これで、次のUAE戦は井原は出場停止。フリーキックは川口が押さえる。

中盤でカットしたロングボールを追いかけた森島が、キーパーと1対1。シュートはキーパーに近づきすぎてはじかれる。こぼれて、カズが拾い、相馬がオーバーラップしてクロスを上げるがキーパー、これもはじく。ブガロ大忙し。

シュートで終われ

またもロングボールからカズ、少しボールが長い。キーパーに取られる。中盤でパスカットされてレベデフにミドルシュートを打たれる。なんと、バーをはじく。危ない。不用意なパスミスはいかん。

チャンスはあるぞ!

フリーキックのチャンスはオフサイド。相馬から名波へいいパス、コーナーキックになる。中田がいないので、右からはカズ。ファーサイド、キーパーがパンチング。山口が拾って放り込み斉藤がヘッド。

対してウズベキスタンも攻める。ロングスローからレベデフに渡るが、日本のディフェンダーが上がってオフサイドを取る。

カザフスタンと違い、スタンドは満員。その中でも日本の応援の声が聞き取れる。遠く中央アジアにも、サポーターは出陣している。テレビの前のサポーターも魂を込めて念力を送っている。

シュート、シュート、シュート!

名波のロングシュートはキーパー正面。シュクビリンがディフェンダーを抜いた。危ないところを井原がナイスカバー。今度は山口が中盤の大きいスペースをドリブル、カズに渡るがオフサイド。レベデフに秋田がファウル、ウズベキスタンのフリーキックは壁に当たる。日本、左サイドを攻め上がって森島がラインディフェンスの裏を取る。ゴール目前で森島にボールが。そこでキーパーの頭上を越すループシュート、惜しくもバーの上。このプレーでブガロが痛む。

井原のクリアボールを拾われてピンチも、ゴールラインを割る。

幻のゴール

秋田のロングシュートをキーパーがはじいてコーナーキック。カズの右足、クリア、山口が拾ってシュート! キーパーが前にこぼしたところに城が詰めてゴール! しかし、不可解なことにオフサイドの判定。山口のシュートがパスに見えるのか? 百歩譲ってパスでも、城はディフェンスラインより後ろから飛び出したんだぞ。

この試合はバーレーンのレフェリー。露骨なホームタウンアドヴァンテージで、オフサイドトラップを日本がかけても、ほとんど取ってくれない。

それでも、打つんだ、城!

名波がゴール前に放り込む。城の左足、ヒットしない。さらに、森島、惜しくもキーパーに押さえられる。森島の動きがいい。ウズベキスタンはマークできずにいる。しかも、中盤に大きなスペースがあるので、チャンスにつながる。同じことはウズベキスタンにもいえて、カシモフが中盤でフリーになるケースが多い。カシモフはディフェンスに参加せず、中盤前寄りに張っているので、スペースを使われてしまう。とくに山口が上がると、危ない局面になる。しかし、日本は攻めなければならない。

シャツキフのシュートを川口がナイスセーブで逃れる。今度は、城、フリーもフリーだったが、はずす。

カシモフをマークせよ

またもカシモフがフリー、マークがいない。名波がようやくカットしたが、カズに渡ったところで、倒される。ノーファウル。カシモフからシュクビリン、シュート! 川口またもナイスセーブ。しかしコーナーキック。カシモフの左足、いたんクリア。拾われてシュートされるがディフェンダーに当たる。もう一枚後ろにいてミドルシュートを打たれる。ゴール左隅に決まってしまう。日本、初めて先制を許す。0-1。カンバラリエフのゴール。

攻撃に次ぐ攻撃

カシモフには相馬がつく。ナイスディフェンスを見せる。名波から名良橋、センタリングはコーナーキックに。カズが蹴る。クリアを拾った山口がミドルシュート。対してカシモフもミドルシュート、はずれる。カズが倒されてペナルティエリア左からフリーキック。カズ右足、キーパー正面。またカシモフがフリー、右サイドバックからのセンタリングはクリアする。カズ、森島が持ち込むもコーナーキックに。カズのキックだが、だめ。今度はウズベキスタンのコーナーキック。ファーに上がるがクリア、タッチに逃れる。

山口がパスをカットして名波へ。ラインを押し上げる。相馬に渡るがオフサイドを取られる。今度はセンタリングのクリアからカウンターを食うが、オフサイドに引っかける。右から名良橋が上がる。コーナーキック。名波の左足。クリアを城が取ってカズへ。カズの左足シュートはキーパーはじく。さらにもう一回カズのシュートはコーナーキックに。井原がパスをつないでいくが、だめ。ロスタイム、城から相馬へ、スライディングタックルでタッチへ。ボールが出る。ここで前半終了。

攻撃的布陣の賭け

ナイターで芝がきれいに映える。日本は2点取らなければいけない。後半、カシモフを下げてバザロフが入る。カシモフは病み上がりでスタミナが不安らしい。そのバザロフが、右からのクロスに合わせて危ない場面。オフサイドを取ってくれた。日本は、中田と呂比須をセットで投入する模様。交代は誰か? ショートコーナーをクリアするも拾われる。ファウルで止める。また右サイドを破られる。クロスをカットするもコーナーキック。ここで交代。森島と斉藤がアウト。なんとフォワードを3人にした4-3-3。岡田新監督、勝負に出てきた。後半9分。山口シュート、キーパー押さえる。逆襲からシャツキフのシュート、はずれる。ウズベキスタンはもう一人交代。

中田、君の出番だ

中田からのスルーパス、2本あったが通らない。中田の意図が通じないのか? 意志の疎通がない。しかし中田のキープには安定感があり、貫禄すらある。

レベデフにイエロー。名波のフリーキックのチャンスも流れてゴールキックに変わる。今度は中田のフリーキック、キーパーがクリア。呂比須のナイスカットも中田に渡らない。中田から名波、シュート! 惜しい! ほんの少しはずれた。名波からカズ、そして名良橋と渡るがシュートにつながらない。

中田はミドルを打つ。キーパー前にこぼす。中田から呂比須、キーパーがクリアして名良橋のシュートにはオフサイドの判定。中田から相馬、コーナーキック。クリアで再びコーナーキック。しかしシュートにならない。相馬のオーバーラップからクロスを上げて呂比須、かわしてセンタリングもクリアされる。こぼれ球を拾ってコーナーキックに持ち込む。キックがこぼれて名波、シュート! ディフェンダーに当たる。中田、中盤で持ちすぎてボールを取られる。いくらキープ力があっても限度がある、速いパス回しが日本の持ち味だ。

時計は進む

山口にイエロー。呂比須がファウルで倒された! と思ったら判定は逆で呂比須のファウル。シュクビリンからバザロフのシュートははずれる。しかし、逆サイドはフリーだった。

師匠が怒り始めた。「なにをやっているんだ! そんなサッカーやってるから負けるんだ。もう、ここでワールドカップへの道は潰えるのか!」。

ドーハの時でも冷静だった師匠が。情けないほど、日本のプレーはだらしない。しかりしろ、日本!

中田が一人抜いてクロスを上げる。カズのヘッドはキーパー正面。シャツキフのシュートは川口がキャッチ。なにか、ボクシングでいえば、ノーガードの打ち合いの様相を呈してきた。城がディフェンスに下がってボールを奪取。気迫が感じられるプレーだ。こういうプレーがイレブンを鼓舞する。

さらに攻撃的に

疲れのみえてきた名波を下げて、ディフェンダーの中西が入った。そして、ストッパーの秋田をトップに上げた。ヘッドに強い呂比須と秋田でツインタワー。フォワードに4人。4-2-4の変則的なパターンだ。もう、時間がない。中盤を省略して、ゴール前にボールを放り込み、ヘッドでせる。いちかばちか。日本はここまで追い込まれたのか。

中田がクロス。逆にカウンター、シュクビリンには川口が前へ。このフォーメーションでは、キーパーがスイーパー役になって前に出なければならない。

ウズベキスタンも最後の交代。シャツキフを下げる。日本はとにかくゴール前に密集してボールをせるのみ。こぼれたところを城の右足、バーの上。

最後の最後に

井原が自陣から大きくロビングを入れる。呂比須のヘッドに合う。こぼれたところにカズが詰めたのに幻惑されたキーパー、ブガロが後ろにボールをそらしてしまう。あっけないゴール。1-1。入る時はこんなものか。43分。

あと1点。フリーキックから名良橋のヘディングはキーパーがフィスティング。攻めるしかない。中田が、城が、カズが、呂比須が、秋田が、怒涛のようにゴールに攻め上がる。

中田が左からフリーの呂比須の頭に合わせる。シュート! はずれた! まったくフリーだったのに。

そしてタイムアップ。引き分けで勝ち点1をプラス。1勝1敗3引き分けで勝ち点の合計は6。依然3位。UAEは勝ち点7だが、残り試合は4。これで、自力2位もなくなった。

日本は残り3試合を全部勝っても勝ち点は15。それも、カザフ、ウズベクに引き分けているようなチーム状態で、韓国、UAEに勝てるのか? フランスはまた遠のいた。

夢は終わらない

だが、韓国もカザフと引き分けたという。サッカーは何が起こるかわからない。夢は、まだ捨てない。可能性がある限り。もう、涙も流れない。乾いた頬を冷たい夜風にさらして、私は街へ出た。酔っぱらわなければ、眠れやしない。このメモリアルを書き始めたときには、こんなに悲痛なドキュメントになるとは思わなかった。

奇跡は信じる者に、強く願う者に訪れる。

それでも、私は国立に行く。たとえ、道なかばにして倒れようと、私は前を向いて倒れる。最後まで戦うことが、私なりの礼儀だ。戦う気持ちを、もっと! サッカーの神様は、またも日本に試練を与えた。

text by Takashi Kaneyama 1997

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