Road to FRANCE PART1 【ワールドカップ・アジア最終予選篇】
カザフスタン対日本

1997年10月4日 アルマトイ・セントラルスタジアム

前日

「あした、家で見るの?」
私と会うと、みんなが声をかけてくる。駅前で徹夜で行列して以来、私のサッカー熱は知れ渡ってしまったようだ。
「そう、テレビに念力を送るんだ」
本気である。魂を込めて、「勝て!」と念じる。アルマトイの空は、フランスへとつづいているだろうか? いよいよ、明日である。

そして翌朝

あいにく、東京は雨になった。カザフスタンは札幌と同じくらいの緯度だが、大陸性気候のため、一日のうちの寒暖差が激しい。果たして天気はどうだろうか。

電話

サッカーの師匠から電話があった。オフィスからだった。
「きょう、そっちでテレビ見てもいいかな?」
もちろん、OK。ビールも備蓄がある。今日は大勝するはずだ。してもらわないと困る。

快晴

やがて師匠がやってきた。カザフスタンでは10月に初雪が降るらしい。しかも、グラウンドがでこぼこだという。速いボール回しを得意とする日本にとっては不利である。

5時50分、日本テレビの方が放送が5分早い。天気はいいようである。観客はすごく少ない。まばら、というより、ところどころに観客のかたまりが散在している感じ。

3-5-2

カザフは、194センチの長身フォワード、ズバレフのワントップ。日本は、3-5-2、カズと呂比須のツートップ。ウズベキスタン戦、UAE戦と同じ布陣で、城の代わりに呂比須。テレビをBSに変える。

国家斉唱。そして試合開始。様子見の感じ。カザフは予想通り、中盤を省略してロングボールをズバレフめがけて放り込んでくる。これに対して、日本はバックが引きすぎて中盤が大きくあく。山口一人が球をつないでいる。このままだと、中盤の開いたスペースが危ないし、中盤が下がってボールをもらわなければいけないので、疲れが心配だ。

シュート!

奪ったボールを呂比須に当ててポストプレーから名波が走り込んでシュート! 枠をはずれる。もっと打てばいいのだ。バックが下がっているので、左右の名良橋、相馬の上がりが遅い。中田がキープしてためをつくって上がりを待つのだが、いかにももどかしい。

惜しい!

久しぶりに相馬が上がって、名波へ、名波はファーサイドへクロスを上げ、呂比須がヘッドで逆サイドへ押し込むが、そこにフォローがいない。まだ、コンビネーションの息が合わないのか。

ゴール!

中田から右の名良橋へいいパスが渡り、クロスを上げるが、カザフはコーナーに逃れる。名波のコーナーはファーへ、しかしキーパーがキャッチ。「このキーパーは必ず前へ出て、ボールを取りにくる。これは、ニアに早いボールを上げるとチャンスだ」と師匠がのたまう。

師匠がトイレに行っているあいだに、もう一度コーナー、名波はニアへ、そこに秋田がいて、頭を一閃、シュートがゴールに突き刺さる。ゴール! 1-0。

呂比須

呂比須が入って、日本の攻め手が増えたことで意見が一致。なにより、ポストプレーができるので、第2線の上がりでシュートチャンスが生まれる。それに、シュートの時にキーパーの位置を頭に入れて蹴るので、決定率が高い。この試合で代表初得点は確実、とゴールラッシュの予感にほくそ笑む。

はずむグラウンド

それにしても、乾燥しているようだ。ドリブルでもボールがよくはずむため、基本ができていないと、キープしにくい。つまり、つねに両足の内側にボールを置いておかなければいけない。ロングボールがワンバウンドすると、高くはずんで、コントロールしにくそうだ。

5バック

カザフはボランチの二人も下がっているので、5バックのようにも見える。右サイドの7番コトフは要注意。ボール捌きがうまい。しかし、最後のシュートが枠に飛ばないので、さほど脅威を感じない。ズバレフには秋田が密着マーク。身長差はあるものの、フリーにさせなければ、抑えられそう。しかしこのズバレフは高いだけでなく足技もあり、ヘッドだけでなくケアしなければいけない。

危ない!

前半終了直前、コーナーキックに対して川口が飛び出すが味方とぶつかって、ボールがゴール前に転がる。ヒヤッとしたが、ディフェンダーがクリアして事なきを得る。

ハーフタイム

この間を利用して餃子を焼くが、話に熱中して焦がしてしまう。ビールはすべて空いて、ウィスキーに移行。とにかく、もっと点を取らなければいけない。引き分けは負けに等しい。少なくとも2位にはいらなければならない。勝ち続ければ、1位も射程内における。カザフ、ウズベキに引き分けでは話にならない。

一進一退

後半開始。カザフが左サイドからクロス、ズバレフがフリー、危ない局面だったが、シュートははずれる。今度は日本、中盤で名波がディフェンダーを抜いてがら空きのスペースをゴールまで一直線、キーパーはペナルティエリアの外まで出てきてクリア。惜しいチャンス、どうして1対1で球を浮かすとか、サイドにトラップしてキーパーを抜くとかできないのか。師匠は「キーパーを見てないね。グラウンドが悪いから球をキープするので精一杯」とのコメント。それにしても。

チャンスなのに

さらに呂比須がオーバーヘッドボレー、左にはずれる。名波のクロスを呂比須がシュート、バーの上。カザフの10番リトビニエンコが担架。どうもダメの模様。代わりにフォワードのロギノフを投入。イラク戦で活躍した選手だ。

またも日本、コーナーキックのチャンス。名波。クリア、小さい。名波にボールが渡って、左足インフロントでカーブをかけてゴールに入るかにみえたが、キーパーがフィスティングで逃れる。

どうして点がとれない

クロスから呂比須の打点の高いヘッドも、ファウルを取られる。さらにキーパーが飛び出したあとのチャンスに中田のループはバーの上。カザフに攻め込まれていたところでインターセプトから逆襲、左サイドでタッチを割るかに見えたボールに中田が追いつく。カズも呂比須もフリーなのに、なぜか山口にボールを戻してしまう。

イエローカード

秋田がつっかけてイエローをもらってしまう。カザフはフリーキックから9番のヘッド、川口の正面。日本、名波→中田のワンツーでカザフのゴール前まで迫るが、名波はシュートせず、クロスを上げる。そこは打っていいぞ、名波! スルーパスからカズのシュート、惜しくもはずれる。まだまだチャンスはある。フリーキックから呂比須がヘッドで折り返し、カズの足元にいくがコーナーに逃げられる。中田のコーナーキックを小村ヘッド、バーの上。中田から呂比須へ、シュート、これも惜しい!

突然、画面では小村にイエロー。理由不明。これで、小村は累積2枚になり、次のウズベキスタン戦に出られない。

いったい、どうしたんだ!

今度はズバレフの左足のグラウンダーのシュート、はずれてラッキー。日本はとにかくシュートが少ない。たまに打っても枠に飛ばない。そうこうするうちに、ペナルティエリア内で秋田がハンド! しかし、その前にカザフの方のファウルで事なきを得る。ふう〜。ここで、名波アウト、本田がイン。名波は後半に運動量が落ちるのがテレビからでもわかる。

カズがパスと見せてドリブルで持ち込み、シュート! キーパーがはじいたボールは中田の目の前、狙いすましたシュート! しかしポストにあててしまう。決定的なところだったのに。

運命のロスタイム

時計は回る。あとはキープだ。無理するな。ところが、カザフにボールを取られ、左サイドにドリブルで攻め込まれる。センタリングを一度はクリアするものの、拾われたボールはズバレフに縦パス。ノートラップでシュート、ゴール右隅に決まってしまう。1-1。

川口が怒っている。すでに46分を過ぎている。悪夢は現実になってしまった。

敗因

ここでの引き分けは負けに等しい。勝ち点3を取れない。先制しながら、リードを守りきれないのは、精神的にひ弱なのか? どうしてもう1点が取れないんだ? これでグループBの自力1位は絶望。2位狙いしかない。そうすると、韓国対UAEの結果が気になる。

強い韓国

BSで引きつづいて「韓国対UAE」の後半を観る。前半1-0で韓国リード。韓国は攻守の切り替えが速い。ボールを奪うと、選手が全速力でサイドを駆け上がる。ディフェンスもしっかりしている。UAEのフォワードに仕事をさせない。何よりもあきらめない。ルーズボールを追いかけ、パスミスをしたら、自分で取り返しに行く。テクニックや中盤のつなぎは日本の方が上かもしれないが、勝利への執念は韓国が上回る。日本が後半にへばるのに、韓国は後半に勝負をかけてくる。

チェ・ヨンスがPKをもらう。2-0。さらに左サイドをドリブルで上がって正確なセンタリングがニアでどんぴしゃに合ってヘッドを左隅にたたき込む。3-0。完勝。

希望の灯

韓国が3-0でUAEを下したことで、UAEとの勝ち点の差は2、得失点差は同じく+2となった。自力で2位を狙える。しかし、日本が11月8日に最終戦なのに対し、韓国は翌9日にUAEとのアウェイを戦う。日本の結果を頭に入れて韓国とUAEは戦えるのである。1位確実の韓国がUAEと密約して日本締め出しを図ったらどうなる? もはや、勝つしかない。アウェイとかホームとか言ってられない。

あ〜、それにしても

師匠は「もう、ダメだね。シュートは入らないわ、リードは守れないわ、メンタルに弱い。あとは2位狙いしかない」と言い置いて帰途に。私は、韓国戦でも泣かなかったのに、今度はぼろぼろと涙がこぼれて、何回も顔を洗った。もう、テレビのニュースも見ない。私は日本代表のユニフォームレプリカを脱いだ。

激震

翌日、朝刊には「加茂監督更迭」の見出しが躍っていた。

text by Takashi Kaneyama 1997

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