Road to FRANCE PART1 【ワールドカップ・アジア最終予選篇】
韓国対日本

1997年11月1日 ソウル・チャムシルオリンピックスタジアム

NBA開幕

例によって師匠がやってきた。ビールのロング缶4本。BSでは、NBAのユタ・ジャズ対ロサンゼルス・レイカーズをやっている。最初はジャズ優勢。一時は14点差をつけていたが、レイカーズはなんとスリーポイントを3回連続で決めて同点に。勢いの差で逆転する。さすがに素晴らしいパス、シュートに2人で感嘆する。

青の一群

韓国対日本の中継が始まった。真っ赤なスタジアムの中に青い部分がある。日本から渡った8000人といわれる応援団だ。韓国のレッド・デビルズは、日本のブルー・ヘブンに対し、「日本は国立で我々にいい席(電光掲示板を見る方のゴール裏)を譲ってくれた。だから、今度は日本にいい席を確保してあげたい」と語っていた通り、電光掲示板を見ることのできる左サイドに青が陣取っている。ワールドカップ出場が決まった韓国に対し、日本は負ければあとがない戦い。

キックオフ

韓国はチームの大黒柱ホン・ミョンボがイエローの累積で出場停止。欠場が噂されたエースのチェ・ヨンスは出場。ベストメンバーで臨む韓国から温情は期待できない。最初からフリーキックのチャンス。カズがキック、井原のヘッドに合わない。わずかにゴール右にはずれる。前半、日本が狙うゴールの裏には日本からの大応援団がいる。大歓声の中から、「ニッポン! ニッポン!」の声が響く。

先制!

日本が攻める。名波から左サイドをオーバーラップした相馬にパスが渡る。名波はパスアンドゴー。センタリングをニアにいた呂比須がディフェンダーとゴールキーパーをひきつけてスルー気味に名波へ。名波がインサイドで正確にゴール右に流し込む。ゴール! ゴールだ! 「入ったよ! 入ったよ、おい!」師匠が、叫ぶ。抱き合って喜ぶ。あたりをわきまえず、大声をあげる。涙でにじんでテレビが見えない。

なおも攻める

北澤の動きがいい。豊富な運動量で守備に攻撃によく動く。もう一人、目立つのは秋田。韓国のロングボールをことごとくヘッドでクリアする。いいストッパーになった。ボールは中田からカズへ、ここで韓国がファウル、フリーキックは名波、韓国がクリア。さらにコーナーキックからディフェンダーのクリアこぼれたところを山口シュート、さらにこぼれたところをカズ、しかしキーパー押さえる。ここはオフサイド。

今日はいい審判

ジャッジはニュートラル。アメリカのセットだが、ようやく審判に恵まれたか。安心してゲームが見られる。あと名波と呂比須のディフェンスが効いている。

危ない時間帯

左サイドから相馬。「打て!」聞こえたのかミドルを狙うがはずれる。しかし、それでいい。シュートで終われ。井原が倒してフリーキック。日本、クリアする。ちょっとどきどきする。逆に日本のフリーキック。カズが横に小さく出して名波が止めるかと思いきや、ゴール前に浮き球のパス。北澤がまったくフリーだったが空振り。最終ラインはよく押し上げてオフサイドを取っている。

華麗なシュート

名良橋の右からのセンタリングをなんと呂比須がオーバーヘッドキックをボレーで打つ。しかもゴールの枠に飛ぶがキーパーに押さえられる。一瞬口があんぐりと空く。お見事!

地球を蹴る

中田から相馬、ここで、相馬は地面を蹴ってしまう。サッカー用語では「地球を蹴る」。地球は重すぎて蹴れないんですよ、相馬君。しばらく痛む。

シュートの雨

インターセプトからボールを回し、最後は呂比須から北澤へ、シュート! 右にはずれる。つづいて山口のロングシュート、上にはずれる。今度は韓国に攻められる。コ・ジョンウンのシュートは川口ががっちり。ゴール前にきたボールを川口がペナルティエリアの外に出て処理。ちょっと冷や汗。次は日本の番、呂比須とのワンツーから中田が左足、ゴール左へと回転してわずかにそれる。ものすごく惜しい! 呂比須に韓国がファウル、倒される。「ロペス!」コールが聞こえる。フリーキックは呂比須のシュート。壁に跳ね返される。

2点目

中田のスローインをカズが中田に戻し、相馬へ。相馬がうまいトラップで1人かわし、倒れながら左足で正確にニアポストの呂比須の足元へ。呂比須が確実に決める。きれいな、絵に描いたようなゴール。呂比須が日本の青い集団に高らかに手を挙げてこたえる。呂比須、君はいま誰よりも輝いている日本人だ。

チェ・ヨンス倒れる

クロスボールの競り合いで秋田とチェ・ヨンスが激突。チェは鼻を押さえている。日本はカウンターで攻めるが、落ちついた時点で井原がボールを外に出す。チェは鼻血。いったん外へ。韓国はスローインを日本に返す。紳士的プレーに拍手が起きる。前半最後のチャンスは北澤から呂比須のヘディング。大きくはずれるが、意図は通じている。韓国は結局チェに代えてキム・ドフンを投入。前半終了。

呂比須いきいき

1点目は中田→名波→相馬とつながる流れ。相馬はダイレクトでディフェンダーの股の間を抜いてセンタリング、呂比須のラストパスに名波フリー。シュート! キーパー反応できず。呂比須がディフェンスをつる動きが効果的。何度見ても気持ちいい。

後半開始

さっそく呂比須がキーパーと1対1。シュートをキーパーが足ではじいて止める。ここはキーパーをほめるべきか。中田→呂比須からカズにパスが通らない。山口のナイスカットから右に開いた呂比須へ、センタリングにカズはもつれてコーナーキック。このコーナーはクリアされる。

イエローの嵐

カズとチェ・ヨンイルが激しくやりあう。チェのしつこいマークにカズがきれたか。ファウルの判定のあともなお言い募る2人に双方ともイエローカード。カズはこれで次節のカザフスタン戦は出場停止。さらに、呂比須にまでイエローが出る。これで呂比須もカザフ戦に出れない。

韓国、攻勢に出る

韓国、右からのクロスにヘッドが合う。危ない! しかし川口がキャッチ。また、シュートを浴びる。韓国の時間帯に。韓国選手交代。まだ韓国は攻め続ける。ミドルシュートのあと、早いクロスボールに韓国は2人飛びだし、川口が前に出て止めにかかる。ヘディングシュートはゴール右にそれていくのを相馬が見届ける。川口がシュートコースを消した形。それにしても心臓に悪い。

跳ね返すぞ!

中田が持ち込むがファーサイドにパスが通らない。またも韓国。左から切り返し、シュート。ディフェンダーのクリアでコーナーキックに。日本は平野を入れる模様。しかし、交代のタイミングを測っている。コーナーキックはいったんはじき返すが、またクロスを上げられ、川口大忙し。韓国の波状攻撃がつづく。また韓国のコーナーキックになって、ようやく平野イン。北澤アウト。井原のクリア。

時間よ進め

名波が転んでフリーキック。壁にあたる。今度は中田が左サイド深く切れ込んでマイナスのセンタリング、しかし、マイナスすぎて合わない。3人ぐらい飛び込んでいたのに。さらに平野、得意の左で1人抜いてミドルシュート! キーパーがキャッチ。ユ・サンチョルが倒れている。しかし、韓国にもう交代枠はない。ついで井原が顔を蹴られる。ここは時間を使いたい。もう少し痛がるんだ、井原。

韓国、10人に

チェ・ヨンイルが中田を倒してイエローカード。今日2枚目でなんと退場処分。しかし、次のUAE戦は韓国に頑張ってもらわなければならない。あまりイエローを出さないでほしい。

いよいよ45分

中田から左のカズへ。シュートはキーパーがはじく。日本はゆっくりボールを回す。韓国は動きが鈍い。平野が倒されてフリーキック。またイエローが出る。平野、シュート! 時計は進む。あと30秒。もうロスタイム。

勝った! 勝った!

タイムアップの瞬間、師匠と私は両手を突き上げた。韓国にソウルで勝った。歴史的な勝利だ。しかし、この勝利は奇跡の3連勝の序章にすぎない。カザフスタン戦に勝ち、サウジかイランかクウェートか中国との3位決定戦に勝ってワールドカップ出場を決めるのだ。しかし、今はこの勝利を素直に喜ぼう。師匠と私は夜の街に繰り出した。

ありがとう

いく先々で「おめでとう。よかったね」と声をかけられた。嬉しかった。みんな、心配してくれていたのだ。その時、ようやく私は気がついた。私が日本代表を支えているのではなく、私を支えてくれる多くの人がいることを。ありがとう、みんな。本当にありがとう。感謝の気持ちを胸に、私はもう少し酔っていたいと思った。

UAE引き分け

3日午前0:00から、UAE対ウズベキスタンのテレビ中継があった。私は恐くて見なかった。UAEがあとふたつ勝てば日本の成績に関係なくUAEの2位が決まる。しかも2戦ともUAEのホームなのだ。あの酷暑のなか、ウズベキは、韓国はモチベーションのない戦いをきちんとやってくれるだろうか。おそるおそる新聞を開いた私の目に飛び込んできたのは「引き分け」という文字だった。「やった! やった!」小踊りしてステップを踏む。これで日本の自力2位が復活した。

フランスへ行こう

そして師匠からの電話。「8日のカザフスタン戦、行けるよ。というより、行くよ」さあ、決戦だ。奇跡への一押し。涙のウィニングロードを今、走り抜けるのだ。

あと、2勝。

text by Takashi Kaneyama 1997

backmenuhomenext