哀愁のヨーロッパ オーストリア・ドイツ篇 第3話
奇妙な建築家
「ウィーンのガウディ」と異名をとる建築家がいる。マルチ・アーティストといってもいい。その名をフンダートヴァッサー(Hundert-wasser、雅号は「百水」)。絵画だけでなく、集合住宅やゴミ焼却場、教会などの建築でも有名だ。とにかく直線をほとんど使わない。床が平らではなくて、不便だと思うのだけれど、その豊かな色使いといい、ふくよかなデザインといい、あのガウディに勝るとも劣らない異色さだ。
本人はオットー・ヴァーグナー作の「アンカーハウス」の最上階のグラスハウスに住んでいる。かなりスタイリッシュな人らしい。雅号をもっているところからも、日本趣味もあるようだ。では、実際に彼の建築を訪ねてみよう。
直線がない!
フンダートヴァッサー・ハウス。路面電車Nに乗り、Hetzgasseで降りる。少し南に下ると、左手に見える。
フンダートヴァッサー・ハウス
外壁はオフホワイト、青、赤、黄色に塗り分けられている。線がとにかく真っ直ぐでない。床もうねっている。見ていて楽しくなるような建物だ。ここに、実際に市営住宅として人が住んでいるというのだから、愉快だ。周囲に樹木が多く植えられているのも、フンダートヴァッサーの意図らしい。住宅なので、中には入れないが、向かい側にはフンダートヴァッサー関係のみやげもの屋が出ている。確かに、観光客が大勢見上げている。
うねる床
ガイドブックによれば、「フンダートヴァッサーツアー」という観光コースがあり、彼の建築を見て回るというほど、人気があるらしい。なんと1日4回も出発時間が組まれている。このコースでは、ドナウ川の船旅を楽しみながら、フンダートヴァッサーやオットー・ヴァーグナーの作品を堪能するということで、ちょっと魅力を感じたけれど、いやいや安逸に流れてはいけない、と踏みとどまった。
自然に帰れ
さらに北西に5分ほど歩くと、クンストハウス・ヴィーン(ウィーン芸術館)がある。ここはフンダートヴァッサーの芸術作品を展示している。もちろん、建物も彼が改装したものだ。
クンストハウス・ヴィーン
1階がカフェとミュージアムショップ、2、3階がフンダートヴァッサーの展示、4階は企画展スペースで、私が行ったときには、マン・レイだった。入場料がふたつ併せて140シリング(約1627円)とちょっと高い。その分、入場券の形が変わっていて、真四角でなく、それも一枚一枚違うらしい。
不定形のチケット
やはり、床が波打ち、階段も平らじゃないので、転びそうになった。彼の言葉によれば「Straight Line is Godless(直線には神が宿らない)」ということらしい。トイレに入ると、かすかに水音がする。どうも日本的な庭園の小川のような音だ。樹木もふんだんに植えられている。自然回帰ということだろうか。しかし、机上のプランでなく、実際の建築として実現しているところが凄い。ウィーンという街の懐の深さを見るような気がした。
哀愁のヨーロッパ オーストリア・ドイツ篇 第3話 【ウィーンのガウディ】 完
text & photography by Takashi Kaneyama 1997