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孫子の部屋】SuntzuWorld
第2章】戦争の遂行

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              【第2章】戦争の遂行

1.孫子は言う;戦争の遂行のために,戦場に一千台の(馬車式)快速戦車,同数の重戦車,そして十万人の(鎖かたびら装の)兵士を配置させる。
 それらは一千里[1里は約600m]を移動するのに必要な装備である。
 接客費用,のりやペンキなどの細かい費目を含め,自陣や前線での出費,そして戦車や武具類の費用は,合計で1日につき銀で1千オンスに達する。これらが十万の兵士を動かす(兵を調達する)ための費用である。
【原注】“快速戦車”は攻撃用である。“重戦車”は重装備で,防御用に建造されている。快速戦車1台につき75名の歩兵が,重戦車1台には歩兵25名がつき,そして全軍は一千の大隊に分けられ,それぞれは軽重2台の戦車と100名の兵士より成る。

2.実際の戦闘に従事しているとき,勝利がなかなかやってこないときは,兵士の武具は汚損してくるし士気も衰えてくるだろう。町を攻囲していると,戦力も消耗するだろう。

3.再言すると,戦争が長引けば,国家の資源(経済力)は大きな負担に耐えられなくなる。

4.こうして,武具は汚損し,士気も衰え,軍の力は消耗し,資産も食いつぶしてくると,他の国の首領たちはその窮境につけ込もうとし始めるだろう。そうなると,誰もが,たとえ賢い人であったとしても,起こってしまった事態を元に取り戻すことはできない。

5.このようであるから,戦争には拙速というのはよく聞くが,長期に長引くことでの賢明さということは聞いたためしはないのだ。
【原注】この短く難解な文章を,注釈者の誰もうまく説明していない[ここで,武帝・曹操以下の見解が列挙される]。

6.長引いた戦争で利益を得た国があったためしはない。

7.戦争の悪を徹底的に熟知する者だけが,戦争を遂行するのに適切な方法を十分に理解することができるのだ。
【原注】適切な方法とは迅速さである。長引いた戦争がもたらす悲惨な影響を知る者のみが,迅速に終結をもたらすことが最高に重要である,と認めることができるのだ。

8.熟練した将軍は,人集めの徴用は二回はしないし,輜重用の車は二度を超えて積載することはない。
【原注】戦争開始が宣告されると,練達の将軍は,増援隊を待つために貴重な時間を空費したり,新しい補給のために軍を引き返させたりしないで,遅滞なく敵の前線部隊と交戦させる。これは勧めるには無謀なやり方に思われるかも知れないが,ジュリアス・シーザーからナポレオン・ボナパルトに至る偉大な戦略家たちがそうであったように,時の価値は(わずかにしろ敵方に先んじている場合のことだが),人数の上で勝っていることや兵站に関してきわめて好条件にあるということよりも,有利であった。

9.軍需品は自国からもっていくが,糧秣は敵方から調達する。だから軍隊は必要なだけの食料が得られるのだ。
【原注】ここに“軍需品”と訳した中国語‘用’は,字義通りには“用いられるもの・こと”で,広い範囲にまたがる。糧食は別として,軍事上の輜重のすべてを含む。

10.国の財力が窮乏するのは,軍隊を維持するために遠くから物資を運ぶからである。遠くに いる軍隊維持のために物資を供給することで,民衆は窮乏する。

11.一方では,軍隊がやってくると,物価が上昇する。物価の上昇は民衆の資産を消耗させる。

12.彼らの資産が消耗してくると,農民(小作民)は過酷な取り立てで困窮することになる。

13,14.資産がなくなり国力が疲弊してくると,民衆の家々はむしり取られて,彼らの収入の10分の3は霧散する。
 一方では,壊れた戦車,敗れた家々,胸当てや兜,弓矢,槍や盾,防御の鎧,荷牛や重馬車などへの政府の出費は,国家歳入の10分の4に達する。

15.このようであるから,知将は敵方から徴発することに全力をあげる。荷馬車1台分の敵方の糧食は,味方の20台分に匹敵する。同様に,敵方の1ピクルのかいばは味方の貯蔵分での20倍に等しい。
【原注】なぜなら,前線に荷馬車1台分を運ぶ過程で,20台分消費されるからである。1ピクルは重さの単位で,133.3ポンド (65.5キログラム>)に等しい。

16.今や敵を殺戮するために,兵士に怒りの声をあげさせねばならない。そうして兵士は敵を討ち破ることで利益を得る,すなわち報酬を確保するのだ。

17.そこで,戦車戦で,10台かそれ以上を捕獲すれば,最初に捕獲した者に報償が与えられる。自分の部隊の幟が敵のそれととって替えられ,それらの戦車は自軍の戦車に合流させられる。捕虜の兵士は大切に遇されて,自軍に留めおかれる。

18.このことは──征服した敵で自軍の力を増大──と称される。

19.そこで,戦争での肝要な目的は勝利することであって,戦いを長引かせることにはない。
【原注】Ho Shihが「戦争はふざけて対処べきことではない」と言うように,孫子は,本章で強調することを意図した主題を,ここに繰り返している。

20.こうして,軍の指導者は人民の運命を握る人であって,一国が平和に存続するか破滅する かが,その肩にかかっているのである。



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