果汁やキットを使ってワインを仕込む(Making Wines)

ワイン作りについては、1996年の夏にNifty Serveの自家醸造仲間が集まり、各種の酒作りについて本を作りました。
その本の中でワイン作りの部分は私が書きましたので、それを引用します。
(以下原文のまま)
第3章 ワインづくり
EMO(えも)
MHC02675
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3.1 酒つくりの3つのジャンル
自家醸造のジャンルの一つとして、果実(ブドウに限らず果実一般)を材料にしたワイン作りがあります。
ワイン作りは、どぶろくやビール作りとあわせて、日本の自家醸造家の3大ジャンルと言って良いと思います。
しかし、この3種類の酒を作り始める際に自家醸造家自身が持っている基礎知識や、自家醸造をしていない方達の受け止め方にはかなり大きな差があると思います。
まずどぶろくは、コメ文化圏の日本古来からの酒として広く一般の家庭で醸造されてきました。建前では酒税法の問題があり、個人での醸造はおこなわれていないことになっておりますが、実際にはかなり多くの家庭で密かに作られていると私は感じております。
もともと大昔からやっているわけですから、どぶろくを作るにはおおよそ何と何が必要で、大体どうやったら出来るのかといったことも一般的な知識として受け入れられているように思います。
一方ビールは、どぶろくとは正反対の状況だと思います。そもそも明治維新以前にはほとんど日本国内に存在しなかった飲み物である上に、1994年の規制緩和で地ビール事業が解禁になるまでの約100年間は財閥系の大メーカーによる独占的な製造が続いてきたため、ビールを作ることに関する知識や技術はほとんど一般化しなかったというのが実状だと思います。
私は自家醸造を初めて6年程になり、どぶろく・ワイン・ビールそれぞれについて作ったことがあり、友人等を家に呼んでそれらの酒を飲ませたことが何度かあります。
どぶろくを飲ませたときの反応は:
ああ、どぶろくネ! 結構内緒でやっている人もいるみたいね。
ところで旨いやつ出来た・・・・?
といったものです。
一方、ビールを飲ませたときの反応は:
エェーッ ビールって自分で作れるの !!!
飲めるようなやつ出来た・・・? ところで泡はちゃんと出るの???
といった反応です。
では、ワインを飲ませたときの反応はどうでしょうか?
ワイン作ってるんですか。いいですねェ・・・。
ところでブドウはどのくらいの量使うんですか?
結構お金かかるでしょう・・・・?
といったところが一般的です。
ワインはブドウ果汁から作ることが出来るのは知っているけれど、実際に身近なところで作っている人は少ないので具体的なことはよくわからない。
それに、ブドウや果物は結構高い。文化的な面からもどぶろくほど国民全体に広く飲まれた飲み物ではない。こういった背景から来る反応だと思います。
どぶろくほど身近ではないが、ビールほどはるか彼方の存在でもないといったところでしょう
(自分で作るという観点で)。
それではワイン作りに関する私の友人の疑問に順次答えていくことにしましょう。
3.2 果汁がワインになる仕組み
ここで云うワイン作りは、一般に果実酒と云われているお酒の作り方とは違います。梅酒のような果実酒は、ホワイトリカーといわれる焼酎に果実と砂糖などを加えて作ります。
これはこれでおいしいお酒が出来るのですが、基本的に酒を造っているとはいえません。
というのは、梅酒の中に含まれるアルコール分のすべてはもともとホワートリカーに含まれていたもので、梅酒作りの作業の中で生じたものでないからです。
その意味から云えば’梅酒作り’は正確な表現ではなく、あくまで’梅酒混ぜ’をやっているに過ぎないといえます。
本来の酒作りとはアルコールの存在しないところからアルコールを作り出すことによって、初めて’酒作り’といえるのです。
それでは、果汁からアルコール飲料であるワインを作り出すには何をどうしたらよいのでしょうか?
これは実はとても簡単です。充分な糖度を持った果汁に酵母を加えて適当な温度を維持しさえすれば、あとは自然に果汁はアルコール飲料に変わっていきます。
ブドウを材料にすればブドウ酒に、イチゴを材料にすればイチゴ酒になるのです。
アルコール発酵は糖類がとけ込んでいる水溶液に、酵母を加えれば簡単に起こってしまう生化学反応なのです。
実はブドウなどの果実にはもともと微量の自然酵母が付着しており、果実には充分な糖分が含まれていますので、ブドウの果汁を絞って置いておくと自然とアルコール発酵の条件を満たしてしまい、アルコールが出来てしまうのです。
私の祖母も昔、ブドウジュースを作ろうとしてブドウを絞り、砂糖を加えてしばらく置いておいたら甘みが無くなってしまい、ジュースじゃなくなってしまったことがあるといっておりました。
祖母は期せずしてブドウ酒を作ってしまったわけです。
一般にブドウなどは果汁を絞ってジュースのままずっと保存しておく方が難しいといっても良いくらいで、果汁はとてもアルコール発酵しやすい状態のものなのです。
3.3 ワインの作り方
果実を材料にしたワイン作りに必要なものは、果汁をアルコール発酵をさせればよいわけですから、極論すると、
・充分な糖度を持った果汁溶液
・酵母
・容器(発酵用と保存熟成用の2つ)
の3つだけと云うことになってしまいます。
材料としてはあまりにシンプルなものです。しかし、ボルドーやブルゴーニュの銘醸ワインでも、私たちが
家庭で作る自家醸造ワインでも基本的に必要な材料は同じです。
この3つの材料の中で、よい材料を入手するのが一番難しいのはなんと云っても果汁です。
ブドウ酒を例に取ると、日本国内でワイン用に栽培を実施しているブドウ園は非常に少なく、基本的に一般の人が醸造用のブドウを購入することはほとんど不可能です。
果物屋さんで売られているブドウのほとんどは生食専用で、ほとんどの品種はワイン作りには適していません。
それに非常に高価です。
次に入手が難しいのは、酵母でしょう。でもこれはある程度のものは手に入れることが出来ます。
容器は簡単です。飲み物を買って飲んだあとの容器を捨てないで再利用すればよいだけです。
これらの材料のバリエーションに応じて、ワインの自家醸造のタイプは以下の3つくらいになると思います。
タイプ1:
果汁については市販の濃縮果汁還元の100%ジュースを使用する。
酵母も一番入手が簡単なパン酵母(スーパーの食品売場にあります)を使う。
タイプ2:
海外からワインの自家醸造用の果汁缶或いはワインキットを個人輸入する。
酵母についてもワイン用の専用の酵母を個人輸入して用いる。
タイプ3:
あくまで果汁は果実から絞ることにこだわる。
よい果実が入手できない、或いは高価である場合は自分で栽培する。
酵母は対応タイプ2と同様にワイン専用のものを使用する。
タイプ1はひとまず始めてみようと云った方におすすめです。とにかくワインを自分自身で作ることが出来ます。
材料は確かに市販のジュースですが、ジュースにも材料の良いものもありますので一概に出来が悪いとは言い切れません。
ただし、昨今大メーカーのワインの価格が著しく下がってきており、以前は最低1本1,000円はしていたワインが、500円程度で買えるものも出てきています。
味と費用と手間といった観点で現実的に考えると、買った方が安くて旨いといったことにもなりかねず、以前ほどのインパクトは無くなってきているかもしれません。
タイプ2は比較的おいしいワインを(市販の低価格帯ワインよりはおいしいものが出来ます)、手軽に自分で作ることが出来ます。
英国やアメリカの自家醸造家の間でもこの方法は良くとられているようで、自家醸造関連の材料販売のお店には色々なタイプのワインキットや果汁缶が売られています。
私も現在はこのタイプです。
タイプ3は趣味としては間違いなく本格派といえるでしょう。園芸の趣味ともオーバーラップさせることが出来、とても良い趣味になると思います。
私もいつかはこのタイプに移行したいと思っておりますが、何せ庭がほとんどありませんので、当分お預けです。
それでは、各タイプ毎のレシピを1つづつ紹介します。
それぞれのレシピでは、果汁に何らかの形で糖分を追加しています。これは補糖と呼ばれており、もともとの果汁自体の糖度を意図的に高くするものです。一般に果汁に含まれる糖分だけではワインに必要な10%以上のアルコールを作り出すことは出来ません。
ワインとして飲むときにも一定以上のアルコール度数は必要ですし、市販のワインにおいても銘醸ワインなどを除いてかなり広くおこなわれているようです。
3.4 市販の濃縮果汁還元ジュースで作るレシピ(タイプ1)
材料:
ブドウの100%濃縮果汁還元ジュース 1L
レモン 半個
砂糖 200g
パン酵母 2g
空のPETボトル2Lサイズ
(においの付いていないもの) 2本
作り方:
ブドウジュースの砂糖を溶かす。
ブドウジュースにレモンを絞る(香りと風味付け)。
ブドウジュースを空のPETボトルに入れ、パン酵母をふりかける。
PETボトルの口はラップをかけ、輪ゴムでゆるく止める。
室温20度〜24・25度位の直射日光の当たらない場所におく。
1日以内に発酵が始まる。
1週間くらいは発酵が続くが、途中で1〜2回澱引きをする。
澱引きは空のPETボトルにそっと上澄み液を移し替えることです。
1ヶ月くらい置いてから飲めるようになります。
注意事項:
容器は清潔に。家庭用の塩素系漂白剤などで消毒しておくとなお良い。
3.5 ワイン醸造用の果汁缶と酵母を個人輸入して作るレシピ(タイプ2)
総容量4.6Lの辛口白ワイン(シャブリ)作る
材料:
シャブリの濃縮果汁缶(1kg缶) 1個
砂糖 145g
ワイン用酵母 1袋
Gervin Wine Yeast Varietal C
ワイン発酵容器 1個
発酵栓を使用すると品質が向上する
ワインの空き瓶 5〜6本
コルク栓 同上
作り方:
すべての器材を消毒する。
砂糖全量を500〜600ccのお湯で溶かす
果汁缶を発酵容器にあける。
缶の内側に果汁が残るので水で洗って残らず発酵容器にあける
砂糖を溶かしたお湯を発酵容器にあける
発酵容器内の液量を総容量(4.6L)まで増やす。
予備発酵したイーストを発酵容器に入れる
予備発酵とはイーストを50cc位のぬるま湯(40度以下)に
砂糖茶さじ1/2程度入れ30分ほど置いておき、
酵母を活性化させる作業です
発酵栓をし室温22度〜25度位の直射日光の当たらない場所におく。
1日以内に発酵が始まる。
2週間くらいは発酵が続くが、途中で1〜2回澱引きをする。
発酵の完了は比重計でおこなう(1.000以下になるのを確認)
ワインの瓶に瓶詰めし、コルク栓をする
コルク栓はぬるま湯に漬けておくと柔らかくなる
最低2ヶ月くらいは置いて熟成させる、半年くらい置くと旨い
アドバイス:
このレシピの決め手はなんと言っても果汁缶の善し悪しです。
いくつかのタイプを仕込んでみましたが、Glen Brewという会社の
Wine Craftというシリーズの缶が
濃縮度が低く香りも良いと思いました。
3.6 あくまで果汁は果実から絞ることにこだわるレシピ(タイプ3)
なお、このレシピは酵母の部分を除いて、基本的にはなずな売りさんが考えられたものです。
このワインはなずな売りさん・大窪さんと私の3人で作りました。
その際の情景については6/13日付け関西版朝日新聞の夕刊に掲載されましたので、
ご興味のある方は見てみて下さい。ただし、漫画です。
キウイワイン3Lをキウイを絞って作る
材料:
キウイ 85個
蜂蜜 500g
ワイン用酵母 1袋
Gervin Wine Yeast Varietal E
(Suitable For Fruit Wines)
ワイン発酵容器 1個
発酵栓を使用すると品質が向上する
ワインの容器 適宜
コルク栓 同上
作り方:
キウイの皮をむき小さく切る
一晩おく
キウイをオタマに2杯くらい取り小袋5個に分けて入れる
果実プレッシャー(圧縮機)に小袋を重ねていれ絞る
すべての果汁が絞れたら、比重をはかり度数最終のアルコール度数が
12度になるように蜂蜜で補糖する
果汁と予備発酵させた酵母を発酵容器に入れ発酵栓をする
2〜3週間にわたって発酵するので、途中で2・3度澱引きする
発酵完了を比重計で調べ、瓶詰めする
3.7 ワイン作りにあると便利な薬剤
ワイン作りは、果汁・酵母・容器があれば出来るのですが、色々なタイプのワイン作りをやっていくときにはいくつかの薬剤を使った方がやりやすいケースがあります。
自家醸造のワインですから市販ワインのように色々な添加剤を入れるというのは、あまり感心しませんが下記の薬剤程度は使っても差し支えないのではと思いますので、参考までに掲載します。
Yeast Nutrients
イーストの食べ物です。
イーストは糖を食べてアルコールとCO2を吐き出す微生物ですが、
糖以外の微量要素が必要なようです。
この薬剤はこれにあたるものです。
いくつかの商品がありますので、適当に選んで使っています。
糖度の高い果汁を使って、度数の高いワインを作る際などには必要なようです。
各種の酸
香り付け・防腐剤などの目的でクエン酸・リンゴ酸・酒石酸等の酸を添加します。
レモンやリンゴを搾って入れることでも代用できます。
タンニン
赤ワインの渋みのもとになります。
市販のジュースには渋みがほとんどありませんので、
本格的な赤ワインの味を求めるときには添加します。
赤ワインのキットにはほとんど付属しています。
Campden Tablets
硫酸塩の錠剤です。強い硫黄のにおいがします。
ワインの酸化防止剤としたり、初期発酵段階のバクテリアや
野生酵母の発生を抑止するのに使います。
市販のワインを飲んだときに鼻にツーンと来る刺激臭がありますが、
あのもとがこれです。
ワイン醸造にはかなり昔から使われているようです。
私はあの刺激臭が嫌いなのでほとんど使いませんが、
発酵がうまくいかなくなったときなどの
ワインの病気治療などにも使いますので持っています。
参考文献:秘密のワイン造り 青海 遥著 雄鶏社

Morio Murakami Presents 27/May/2001
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