書 名:ライオンは寝ている
著 者:大貫 妙子
発行所:新潮社
価 格:1,700 円
発 行:1996/6/25
ISBN4-10-412301-3 C0026
私は、旅に目覚める。 音楽家は、長い休暇をとって旅に出た。
ガラパゴス諸島、南極大陸、アフリカ……。
生きることの根源にあるものを見つめる、長い長い旅へ。(帯より)
大貫妙子といえば、 僕の大好きなミュージシャンです。
大自然に惹かれて、アフリカに何度も行ったことは数年くらい前から 知っていて、この旅行記が出た時も、気になってそのうち読もう、とは 思っていました。そのまま数ヵ月が過ぎていたのですが、先日、大貫妙子のコンサート Pure Acoustic Concert [1996/12] を聴きに行った際に会場で販売していて、残り少ないですよーと 大貫さん本人も宣伝していたので、ファン心理で買ってしまいました。
夏に出して結構評判が良かったらしく、読売新聞のオンライン書評でも 取り上げられていました。その時は「音楽でもっとがんばって欲しい」 とか書かれて、それについて大貫さんは少し不機嫌になっていました (そりゃそうだ)。本を読み始めると、大貫さんの自然に対する決意のようなものが すぐに伝わって来ます。都会での暮らしが自然の営みから離れて しまっていることに幻滅し、純粋で、単純な自然の営みを誰にも 干渉されず心ゆくまで見ていたい。 そういう欲求がどうしようもなく心にあって、それを見たいから行くだけ。 本を書くためでも、曲を作るためでもない。 そこはとても厳しくてひどい目にあったりもするけれど、それでも 私は行く、という決意がある。
この本には読者に対するサービス、甘えといったものが感じられません。 これは彼女の感じたままの辛さや喜びを綴った文章であって、それに 甘えが無いということは彼女自身が自らに厳しい人だということを 感じさせます。 孤独で、わがままで、自分に厳しい。優れたアーティストの信条とは そういうものかもしれない。ガラパゴス島、南極大陸、アフリカ・ンゴロンゴロクレーター、 と3ヶ所を訪問していますが、やはり最後のアフリカでの記述に 熱いものが感じられます。
岩合光昭 (南極大陸、ンゴロンゴロ・クレーター)、佐藤秀明 (ガラパゴス諸島)の野生動物写真も良いです。 イグアナやペンギンやライオンが出てきます。僕も本当の自然を見にいつかアフリカに行こう、とここ数年強く思っている のだけれど、逆に本当の野生には足を踏み入れてはいけないなぁという 気持ちもあって、この本を読んでいるうちに、いけない方の気持ちが 強くなった。
なんだか観光地化されてしまって、昼寝するライオンを取り囲むように 数十台のオフロード車が集まってくる、そんな観光客の一員には なりたくない、と思う。
大貫さんの文章にもその葛藤は表われているのだが、はっきりとは 決心できずに迷っているようだ。
最後の野生動物、未踏の秘境、という飾り文句は人の心をくすぐり、 そこを目指して人が集い、踏み荒される、というのは何だかおかしい。 悪循環だ。その気になれば秘境に行けるからこそ、行きたくなる人間の 心理そのものを抑える、なにか強い信念を身につけなくては、と思う。