◆ セアカゴケグモとエコロジー ◆


このあいだ、関西で毒グモ「セアカゴケグモ」が発見されて、危険だ、 駆除しろ、というたいへんな騒ぎになっていましたが、結局どうなった のでしょうね。
こういうのを見ると、環境保護って、自然保護ってなに?  ということについて考えさせられます。

一方では「パンダを、トキを絶滅させるな」「多様性を守れ」といい、 また一方では「毒グモを完全駆除しろ」という、その主張の違いは どこから来るのでしょうか?

考えればすぐわかりますが、その主張の違いは 「人間にとっての主観的利害」の違いによっています。
トキは数が少なく貴重らしいとか、幸せを運ぶらしいとかいう伝説があり、 トキは守られています。(それでも日本では老齢のミドリさん一匹となり もう繁殖できないらしいが。)

一方、新参者のセアカコケグモが毒虫らしい、という未確認情報が 流れたとたん、あわてふためいた駆除が始まりました。まだ誰ひとり クモから噛まれていないうちにです。
そのうえ、毒があるとはいっても、普段は噛みはしないし、ワクチンも あるし、アシナガバチ程度の害らしいではないですか。

彼らは新しいフロンティアを求めて海を渡り、逆境に立ち向かう チャレンジ精神に満ちたものたちなのに、その行動はこの土地では 称賛されることはないようです。
涙で別れを惜しまれつつ、妻子を置いてふるさとを船出してきた、 なんてことはないかもしれないにしても。

外来生物が新しい土地に上陸して、環境が合えばそこで繁殖する、 それは不思議のないことです。今まで世界じゅうのあちこちで何度も 繰り返されてきた自然史です。
おそらく、人間がそれを止めることはできません。自然は次の平衡点を 求めて、種は広がり、種は絶滅し、常に変わり続けています。
何千の生物種が絡み合う、自然のバランスを人間がコントロールするなんて できないでしょう。生態学 Ecology は、まだまだ無力です。 どこがバランスしている点であるのか、それを把握することさえ できていません。

「数が少ないから貴重だ、価値が高い」「絶滅して居なくなってしまうのは 哀しい」というのは 人間の本能的な感じ方 です。それ以上理由を分解できない気がします。 でもそれは「正しい」のでしょうか? それが正しいと説明できな ければ、自然保護が正しいかどうかは怪しい事になります。


1996/06/22 T.Minewaki
2000/02/13 last modified T.Minewaki
遺伝子の操作、プライバシー、保険
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