Kitten  ◆ 可愛い, というシグナルと環境保護 ◆


子供って可愛いですよね。
「可愛い」という感情の意味するものは、 「これを守らなくてはならない」 ということです。子供は常にそういうシグナルを振りまいています。

何かの実験によると「小さくて・丸くて・眼が大きくて・頭の大きいもの」 に対して、人は「可愛い」という印象を持つそうです。

その感情は、もともとは、人間が、同種 ( 人間 ) の、自分の、子供を 選択的に生き延びさせるために発達、進化してきた感情です。 自分の子供を守ることによって、子供を可愛いと思う自分の遺伝子を 守ることになるからです。 そう感じて子供を守り育てた者の子孫が、より生存率が高かったのです。
長い長い年月を経て、それは本能に、遺伝子に、すでに組み込まれています。 現代の人間はそのようにできています。

自分の子供を生き延びさせる方法は他にもいろいろありますが、 人間は、小さくて丸くて眼が大きくて頭の大きい(つまり可愛い)ものを 認識し、それを守りたい感情(と行動)を起こさせる、というやり方を 取ったのです。


しかし、その特徴を通して人間は子供を認識するため、小さくて、丸くて、 頭の大きいものであれば、人間の子供でなくても、( たとえばコアラを ) 可愛いと思ってしまいます。
で、その可愛いものを守らなければならないような気がするので、 「コアラを絶滅から救え」とかいう話になります。 可愛くないもの(たとえばアナコンダ)は、話題にもなりません。

対象が人間の子供であることよりも、可愛い、という感情の方を次第に 重要視するようになりがちです。それは人間自身が生きることが楽になり、 余裕ができたから可能になったことですが、ある意味では、人間の子供に 似ていることで知覚を利用されているともいえます。

大多数の人間は、子供もコアラも可愛いと感じるので、コアラを守ることを もっともなことだと同意します。可愛い、が通じればもう理由は要りません。 そして、実際にコアラを守ることは、とても気持ちが良く、充実感がある。 (充実感、というのも人間側の感情です、注意。)
そこで「何でコアラだけ特別に守ろうとするのか? アナコンダの方が ずっと絶滅に近いのに」なんて反論すると、 「あなたには人間らしい心がないの?」なんて言われちゃう。


自然を守る、生態系を守る、という時に本当に大事なことは、 環境が安定して続いて行くことです。 もっともわかりやすい実現方法は、安定して回っている状態で 全てに手をつけないことだと思っています。
可愛いものを守ることは、とても気持ちの良い行為ではあるけれども、 可愛いものだけを守ってもしょうがない。生き物に優劣・上下はありません。 選択の基準は人間が決めるべきではないし、おそらく決められない。

感情は、厳しい原始世界で人間という種が生き延びる過程で進化したものです。 その感情を、人間が生きることが易しくなった今の時代、余裕があるからと いって別の生物に安易に適用することは、自然の流れ(自然淘汰によって 築かれた生態系のバランス)から外れた影響をもたらします。

そういう意味で、人間の感じ方に重点を置いた環境保護活動(と呼ばれるもの) の中には、ホントにそれでいいのかな、と感じるものも少なくありません。
(もちろん何も考えない、何もしない、よりはずっと良いですが。)


子供は何歳の時に一番可愛いか、という話を人はよくしますが、 「可愛い」は「守って」というシグナルで、親と子で共進化して来た ものだと考えるならば、

 ・もっとも可愛い時期は、もっとも危ない(死ぬ確率の高い) 時期である。

と言えるはずです。それは産まれた直後か、初めて笑う頃か、 ハイハイを始めて動き回る頃か… どう思いますか?


1996/04/15 T.Minewaki
2000/02/13 last modified T.Minewaki
そんなに増えてどうするの?
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